とある少女の救済神話 【完結】   作:カリーシュ

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だからヒトよ、『邪神』を憎め

だからヒトよ、『邪神』を呪え



『破滅』は、その掌に

『終焉』は、その掌に


『邪神』は、止まらぬ







共通ルート:第8話

sideまどか

 

 

……

 

 

…………? ここは、どこ………?

 

 

たしか、私は――

 

 

 

 

 

右も左も、上も下も無くなって、フワフワとした場所を漂う。

ひとりぼっちで、何も見えないくらい真っ暗な所なのに、自然と安心する。

 

「……ここは、どこなんだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【――キュゥべえごと取り込んだと思ったんだがな。 所詮、模造品だったということか】

 

「!! クトちゃん――

――っっ?!?」

 

じんわりと、小さな女の子が暗闇から浮き出てくる。

その体を、何本もの、白い、腕の骨が掴んで離さない。

 

「く、クト、ちゃん。 そ、それって、」

 

【? ああ。 概念的なものだから、本物じゃないよ。

………最も、いっそ本物だったらどれだけよかったか、て代物だがな】

 

クククと、片頬だけ釣り上がげて嗤う。

 

 

【それで、ここが何処かだっけか?

ファンタジーな答えとSFチックな答え、どっちがいい?】

 

「えっと、じゃあ、ファンタジーな方で」

 

【私の心を『世界』として映し出した場所だな】

 

「………ここが、心?」

 

さらりと、なんでもない様に告げられた内容に驚く。

この、何もない場所が?

そんな、そんなの、寂しすぎるよ!

 

【これでもだいぶ落ち着いたんだぞ? なにせ、私の願いが漸く叶うんだ。

―――これでやっと、死ねるんだ】

 

「そんなこと言わないでよ!!」

 

【……………はぁ】

 

ため息を吐いて、肩を竦める。

骨がたてる軽い音が鳴り止むのを待ってから、ゆっくりと、喋り出す。

 

 

【……私はもう、疲れたんだ。

自分の力に。 自分の狂気に。

存在してはいけないモノが消える、たったそれだけのことで、何人もの報われない連中の怨みを晴らせるんだ。

………もう、いいだろう】

 

疲れ切った、いつも元気で何処か皮肉げなクトちゃんとは思えない表情の女の子が、そう零す。

 

 

【……だからさ。 戻すから、ほむらたちに伝えてくれ。 早く、結界から出るんだって】

 

「………分かった」

 

【そうか。 よかった、安心し――】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぜっったいに、いや」

 

【……は?

………状況、分かって言ってんのか??】

 

いきなり、叩きつけるような重荷が、私の全身にぶら下がるような感じがする。

 

【いますぐ全員半殺しでつまみ出してもいいんだぞ??】

 

「っ――大丈夫、だよ。

クトちゃんは、そんなこと、しないもん」

 

【………】

 

 

息も絶え絶えに、そう言うと、無言で私の喉元に槍が突きつけられる。

 

 

 

【……何度だって、言ってやる。

私は、『クトゥルフ』。 時代人種問わず、問答無用で、人類の敵だ。

絶対的な悪だ。

………分かったならもう、帰ってくれ】

 

 

――槍が引っ込められると、重荷が取れる。

それに、どこかに引っ張られるような感じがする。

 

 

「……ねえ、クトちゃん。

そんなにいうなら、ひとつ、きかせて」

 

【………】

 

 

引き寄せられる感じが消える。 いいってことなのかな……?

 

クトちゃんの顔を真っ直ぐに見つめて、

ずっと気になって、聞きたかった『それ』を、言った。

 

 

「……クトちゃん。 そんなにいうなら、なんで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――泣いてる(・・・・)の??」

 

 

 

【……………は? 泣いてる?

この、私が??】

 

 

心外だとでも言いたげな反応で、目元を触るクトちゃん。

そこには、暗いなかでも輝く、澄んだ粒が。

 

 

【あれ? 変だな。 なんで止まらないんだ? なんで、なんで、――】

 

 

拭っても拭っても、涙は止まらなくて。

むしろ、どんどん溢れてくる。

涙だけだったのが、だんだん嗚咽もまざってくる。

 

 

【そっ、そうだ! やっと死ねるんだっ! だからこれは、そう!

嬉し涙だ! そうじゃなきゃ、

そうじゃなきゃいけない!!】

 

「………クトちゃん」

 

 

ビクッと揺れて、ゆっくりと、海の色をした瞳が、私を見据える。

その動きには、余裕さとか、大胆不敵さのない、

迷子の、怯えて、それでいて縋るような雰囲気だった。

 

 

「………みんな、待ってる」

 

【もう何も言わないで!! 何も分かってないのに!!

あの時の私の絶望をッ!!

私がどれだけ後悔したのかを知らないのにッ!!!】

 

「………そうだね。 私は、なんにも知らない。 魔法少女の秘密だって、ついさっき知ったばっかりだよ」

 

【ッ――なら尚更!! 私のことなんて、放っておいてよっ!!

私はいちゃいけないの!!

私は、なにかを壊すことしか出来ないの!!!】

 

「そんなことないよ」

 

【――――ぇ??】

 

 

驚いた様子の、なにを言われたのか分かってないような、少しまぬけっぽい顔が映る。

 

 

「だってクトちゃんは、私たちを助けてくれた。

さやかちゃんを魔女から戻して、

マミさんの命を救った」

 

【それは、私じゃなくても出来たことだし………】

 

「そうかもしれない。

でも、やってくれたのは、他の誰でもない、クトちゃんだよ」

 

【………それでも、このまま放っておいたら、私は『クトゥルフ(狂気)』に呑まれる。

そうなったら、全部、無かったことになるより酷いことになる】

 

「だったら私たちを頼ってよ!

全部1人で抱え込まないで!!」

 

【そんなこと出来ない!! 私は、強過ぎるんだから。 望んじゃいなかったこの力は、世界そのものすら片手間で砕いちゃう。

それなのに、それを誰かに受け止めてなんて、言えるわけないよ!!!】

 

「それでもだよ!!!」

 

【まどかが言わないでよ!!!

宝具も魔法も、能力も天使も無いのに!! 気軽にそんなこと言わないでよっ!!!

―――っ?!? ご、ごめ、】

 

「……よく分からないけど、そうだね。 私には、クトちゃんを止める力はない」

 

【ぅ、ぁ、あ、】

 

「……だから、私に出来ることは、これだけ」

 

【っ?!?!】

 

 

犬歯を剥き出しにして怒ったのは驚いたけど、すぐに悲しそうな顔になったクトちゃんを抱き締める。

ゴツゴツした骨があたって少し痛いけど、はっきりと、クトちゃんの、少し冷たい温もりを感じられる。

 

 

【い、一体、なにを、】

 

「今の私に出来ること。

なにも知らない私じゃ、クトちゃんの悲しみを分かってあげることは出来ない。

なんの力もない私じゃ、クトちゃんの力を受け止めてあげることは出来ない。

だから、こうさせて?

私に出来るのは、クトちゃんを受け入れて、包み込んで、信じることだけだから。

それにね。 さっき人類の敵って言ってたけど、それは間違ってるよ」

 

【………?】

 

 

小さな私の腕にもすっぽりと収まってしまう女の子に、

1番伝えたかったことを、伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私も、ほむらちゃんも、

さやかちゃんも、杏子ちゃんも、

マミさんも、キュゥべえも。

みんなみんな、クトちゃんの味方だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【……うそだ。 だって、あれだけ怖がらせた。 あれだけ傷付けた!

恨んでないはずがない!! 怖れていないはずがない!!!

まどかは怖くないの?! 自分を一捻りで殺せる化け物が柵も檻も無しに目の前にいるんだよ?!】

 

「うん」

 

【なんで?!?】

 

「信じてるから」

 

【ッ――……………でも、もう、遅いんだ】

 

 

ズリ、ズリ、と、クトちゃんが離れる。

妙な違和感を感じて見たら、

腕の骨が、何処かへ引き込む様に、クトちゃんを引っ張っていた。

 

 

【……私の能力が暴走した魔女が、本体である私を取り込もうとしている。 今の状況だって、クトゥルフ(能力)にこびりついた人間だったころの魂が、性懲りも無く足掻いた結果なんだ。

長くは持たない】

 

「そんな、そんなのってないよ!

あんまりだよ!!」

 

 

必死に引っ張るも、踏ん張る場所が無くて、上手く引けない。 それどころか、私まで引き込まれる。

 

 

【手を離せ、まどか。

私と来ちゃいけない】

 

「やだ! 絶対離さない!!

それより、どうしたらクトを助けられるの?!」

 

【………………そうだなぁ】

 

 

諦めきった目で、僅かな間、思案する。

 

 

【………今現在展開している、私の魔術と魔法。 何らかの方法で纏めて全部ブッ壊せば、ワンチャンあるかもな】

 

不可能だけどな、と締めくくる。

 

 

「なら大丈夫! きっと、なんとかなる!!」

 

【……無理だって言ってんだろ。

私の知る限り、実現可能なのはたった数人。 そして、その全員を、私は殺したんだ】

 

 

そ、そんな……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………あれ?

 

クトちゃん(・・・・・)が死なせち(・・・・・)ゃった人た(・・・・・)ちの武器って(・・・・・・)結界にある(・・・・・)んだよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もしかして、魔女の結界にある? クトちゃんを救う方法が」

 

【無理だ。 あの武具は全て劣化して使えなくなってる。

……例外としては、本人が握った場合は一部機能が戻r…………………】

 

ピタッとフリーズする。

 

 

 

【……………ぁ―――――いや、でも、まさか、んなご都合主義なんて、今更起こるわけが、】

 

「クトちゃん」

 

笑顔と泣き顔がぐっちゃになったクトちゃんが、こっちをみる。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おかえり」

 

【……………私に、応える権利は、】

 

「あるよ。 だから、

―――行こう、クト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――1発の銃声が、響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ゴゴ ゴ ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

!? な、何?!

この場所が急に揺れ始める。

 

「何が起こってるの?!」

 

【……究極の御都合主義だろ。 ったく、カラクリ仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は私の専売特許だと思ってたんだがな】

 

肩を竦めて、また槍を取り出す。

 

 

【……まどか。 よく聞いてくれ。

今からコイツを持って結界に戻るんだ。 私はここで魔女()を抑える。 この槍を、魔女の乗ってる銀杯の根元に刺すんだ】

 

「えっ?!」

 

足元から光が溢れ出して、クトちゃんの顔が見えなくなる。

 

 

「クトちゃん!? クトちゃんも一緒に、」

 

【私は大丈夫だ。

――なに、結果だろうとはいえ、私を処理しようとしてた奴に後押しされちゃ、私ももう一度くらい、夢を見てみようと思えるさ。

……………それが嘗て憧れた相手なら、尚更、な

 

 

光が私の全身を包んで、―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――気がついたら私は、結界の内側に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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