ルート:第1話
sideほむら
―――目が醒めると、妙に見覚えのある天井。
………ここって確か、マミの部屋、よね。
不思議と痛む節々を軋ませながら上体を起こすと、雑魚寝している部屋の主を始めとした4人+1匹の姿が視界に入る。
……? なんで皆、ここに集まっ、て―――――
「………そうだわ。 クト!」
いない。
咄嗟に時間を確認すると、あれは昨夜の出来事になっていた。
まさか、失敗したんじゃ―――
「ソウルジェムの反応は、
………?」
微風が頬を撫でる。
窓を確認すると、一箇所だけ、カーテンがたなびいている。
そっと近付いて、窓を開けると、
「………クト?」
「…………………………」
未だ日が昇らない、明け方の空を眺める少女の姿があった。
ベランダの柵に寄りかかる彼女の隣に立ち、同じように地平線を眺める。
……日が昇りきるまで、後5分ってとこかしら。
「…………………なんで、今回なんだよ」
しばらくして、ボソリと、口が開く。
「………鍵は前回の時点で揃っていた。 戦力も前回の方が潤沢で、準備も万全だった。
なんで、なんで、彼奴らは死んだんだろうな」
――言葉と共に、眥から涙が溢れる。
「………何が足りなかった? 何が違った?
一騎当千の人外集団と、魔法少女4人に一般人1人、地球外生命体が1匹。
なんで私は助かってしまった?
なんで彼奴らが失敗した?!」
「クト………」
鼻を啜り、涙を手で拭ってから、再度、口が開く。
「……ほむらたちに言うのが間違っていることは分かってる。
彼奴らは失敗して、ほむらたちは成功した。 結果は、変わらないし、問答したところで、死者は帰ってこない。 ならすべきなのは、その結果を喜ぶことだ。 分かってる。
分かっ、てる……………ッ」
ベランダの手すりが悲鳴をあげ、小さな破砕音が鳴る。
隙間からは赤い液体が滲み、溝を伝って、手すりの無事な部分に赤い線を引く。
「………でも、考えてしまうんだ。
あの時、何をすべきだったのか?
何と言うべきだったか?
……………
自身の死を、素直に受け入れるべきだったんじゃないか?」
「――そんなことは無いわ」
外見年齢相応に顔をくしゃくしゃにした少女が、振り返る。
「あなたがいたから、救われた人はいたはず。
あなたがいたから、助けられた命があったはず。
絶望した記憶しか遺っていなかった『記録』のなかでさえ、笑いあっていた記憶は、確かにあったのだから」
「でも私は、その全てを自分で壊した。
私が!! この手でっ!!!」
「………はぁ」
指輪として小さな手にあった、半分程濁っていた無色透明のソウルジェムをグリーフシードで浄化してあげながら、
おそらく彼女がなんども聞いて、
そして、忘れてしまっただろう、その言葉を口にする。
「クト。
――ありがとう。 助けてくれて」
「……………なんで、そんなに優しいんだよ」
「あなたの気持ちが、少し分かった気がしたから、かしら。
私も、幾たびものやり直しの中で、だんだんとまどかとの心のすれ違いが広がっていった。 言葉がずれていって、微笑んでくれることが減っていった。
だから、あなたが嫌われるために動いた時の、心の悲鳴は、想像出来る」
『――本当はこんなこと、したくない』
『――全てを話して、楽になりたい』
『――なんで、上手くいかないの。
私はあなたを、助けたいだけなのに』
マミと敵対し、さやかに嫌われ、まどかには信用されなくなってしまった、
そんなループに迷い込んでしまった、私の想い。
「……………」
「………そういえば。
私は、暁美ほむらよ」
「? ………なんのつもりだ?」
穢れを吸ったグリーフシードをしまうと、右手を少女に差し出す。
「始めにあった時、あなたがさっさと私の名前を言ったから、自己紹介し忘れてたことを思い出したのよ。
――
勇気を振り絞って、その2文字を言う。
………まぁ、自己紹介云々は最初の頃のループ時にまどかとさやかから言われていたことだけど。
少し顔が赤くなってる自覚があるから、少女の顔を見れずに目をそらせていて、反応が分からない。
ほむぅ、スベったかしら………?
「………ふふ。
クククックククク………
――あっはっはははははは!!」
「……?」
笑い声が、響く。
心の底から可笑しいと思っている、明るい声色の笑い声が。
「最狂の殺戮種を、友達、か。
なんのジョークだよ、どっかの成金でももうちょっとギャグとして成り立ってるシャレを言うぞ! ぶっはははははははははは!!!」
一頻り笑うと、ガッチリと手を取る。
「―――クトだ。
――昇った朝日が、私たちを照らし、透明なソウルジェムが反射で輝く。
もう、闇は晴れたのだと、伝えるように。
もう、夜は明けたのだと、証明するように。
「――それじゃあ、私はそろそろ部屋に戻るわ」
「ほいよー、私はコレ如何にかしてからにするわ。
……ったく、いろんな意味で後悔先に立たずだなこりゃ、どすっかなー」
ひしゃげ、乾いた血がこびりついた手すりにため息を吐くクトを置いて、窓ガラスをスライドし――
「ちょ、早くどいてよ!」
「無茶いうな! 上が重いんだよ!」
「煩いわよ! これでも体重は減ってるんでsあぅっ!」
「ぐべらっ!?
「キュビャァァァ! お、おお落ち――グフッ!!」
「……………はっ??」
下から、まどか、杏子、マミ、さやか、キュゥべえが覗いていて、慌てて逃げようとして軽くカオスだった。
「……あ、あなたたち、なんで、いつから、」
「な、なにも見てないよ?!
ほむらがお礼言ったとことか、友達って言った瞬間に顔が赤くなってたとことか、ホンット見てないから!!」
「さやかぁぁぁぁぁ?!?!」
パニクってまるっと全部喋ったさやかを、杏子がガンガン揺らす。
………ふふ。 つまり、私の恥ずかしい場面は全部見られたってことよね……………?
「――そんなの、
皆サクッとやっちゃうしかないじゃない!!」
「オイマテほむら!! その『や』の部分の字は何だ?! 今スゲーやな予感がしたんだけど?!?
つか目のハイライト戻せぇ!!」
「うふふ……
どうしたのかしらまどか。 大丈夫よ?」
「どうしよう、ほむらちゃんの言ってること、本当だって、思えない」
「ここで原作名台詞無駄打ちしちゃう?! 普通もっとシリアスな場面で使うセリフだよね?! 今思いっきりギャグパートだよね?!」
「―――るせェェェェェ!! しかも色々とメタすぎるわァァァァァァァ!!!」
「「「「「ぎゃーーす!!」」」」」
結局、下の部屋から床ドンされるまで、馬鹿騒ぎは続いた。
――その間、異形の少女から笑顔が絶えることは、無かった。