sideキュゥべえ
―ジャキィッ!!
マグナム弾を発射可能なリボルバーの銃口が、クトの額を狙う。
「オイオイ、魔法少女を一撃で仕留めるなら、ソウルジェムを狙わなアカンよ」
「………………………貴女、今自分が何を言ったか、分かっているの?!」
「モチのロンで」
「ッッ!!!」
ほむらの表情も変わる。
驚愕から、失望に。
「………………………ソウルジェムを出しなさい。 貴女は、危険過ぎる」
「実力的にも性格的にも、大人しく従うと思うか? ぶっちゃけ今現在ほむらの生殺与奪権は私の手の中なんだけど? あ、ジュースもーらいー」
「……………………クッ」
銃を収めたほむらが、眼光だけでヒトを殺せる程睨みつける。
「……………何が目的よ?」
「都合の良い手駒の入手。 安心しな。 鹿目まどかは魔法少女にさせないし、ワルビアルのヨットもキッチリ潰すから。 それならいいっしょ?」
「……………ワルとヨしか合ってないわよ。 ワルプルギスの夜、よ」
「さいで。 行くよ、キュゥべえ」
いつの間にかポテトを完食していたクトが、席を立つ。
「指示はテレパシーで送る。
………………オマケだ。いい言葉を教えておくよ」
「………何よ」
クトが立ち止まって、それでも振り返らずに言う。
「『常識に囚われてはいけない』。
だが、探るな。理解するな」
そして――
今度こそ、クトはほむらから離れていった。
〜少女(?)移動中〜
―廃アパート クトの部屋
「クト。 一体何のつもりだい?」
「? 何が?」
暁美ほむらとの接触後、道中立ち寄った古本屋で買った小説を読み始める直前のクトに声をかける。
「さっきの暁美ほむらとの会話だよ」
「あぁ、最後の台詞?」
「それに関しては聞かないでおくよ。 探るな、と言っていたしね。
ボクが聞きたいのは、キミの目的さ。
さっきの会話で、キミは暁美ほむらの得になることしか口にしていない。
鹿目まどかの救済についてばかり話すし、キミは、キミ自身のメリットについては一言も口にしないばかりか、むしろ彼女の道しるべに成りきっていた」
具体的には、巴マミの存命と上条恭介の手の治療。
「魔法少女には、魔女と闘うという目的の為、自分だけでなく他者の身体を治す魔法は多かれ少なかれ存在する。 手の治療に関しては、程度にもよるだろうけど、わざわざ奇跡を使うまでも無い。
巴マミは、わざわざ死なせずとも、強引な方法で何処かへ捕えておいて死んだという噂を流せばいい。 その為に『殺す』なんて過激な表現をしたのだろう? 結界の内側で死亡すれば死体が残らないから、確かめようも無いしね。
ワルプルギスの夜に対しては、おそらく、キミ自身が単独撃破するつもりだろう。 方法は想像もつかないけれど」
「………………」
「沈黙は肯定と見なすよ。
更に、キミの目的である、記憶の復活。
これについては、ハッキリ言ってウソなんじゃないかい?
キミの本当の目的は分からないけれど、その話が始まる前に、キミはほむらに憎悪、或いは警戒される相手になった。 嫌う相手の為になる行動を意図的にする人間は少ないからね」
「………………………世の中っつーのは、理不尽だよな」
「? クト?」
ヒビの入ったガラスの外を見る少女。
「本当に、本気で叶えたい夢があるのに、実現する能力の無い奴の横を、能力があっても夢を持たない奴が平然と追い抜き、他人の夢や希望を潰す。
………………………私だって、昔は――」
「……………クト。 今のキミには、全能の神になれる程の才能がある。 ボクらなら、それを叶えr
「ならやってみろよ」
………クト?」
こちらを見ずに、異常なまでの
「気安く『全能』を名乗るな
気安く『奇跡』を口にするな
気安く『命』を扱うな
気安く『理解者ヅラ』するな
―インキュベーター。貴様に一体、何が分かる?
この宇宙の、何を理解している?」
ここまで言って、クトはこちらを横目で見た。
その瞳には、
絶望が
悲嘆が
狂気が
後悔が
負の感情がごちゃ混ぜになり、渦巻き、
「…………キミ自身が呪いを振りまく存在になっている。 なのに、どうしてキミは、」
「魔女になっていないかって?
理由は2つ。
さっきはギャグとして流せれたけど、私は神だ。 元人間やら前に『邪』がつくやら、余計なモンは色々あるけどな。
もう1つは、私は、
赦されるまでは、私は、私でなければならない」
「………赦されてない、から……?」
クトが、また窓の外を見る。
「…………誰に、どんな理由で赦されればいいのか。
ソイツを思い出せないのは本当だ。
先送りの奇跡は、その為の手段の1つでしか無い。
魔法少女の救済は、それまでの『
――結局私は、どうしようも無い『悪者』ってワケよ」
また振り返ったクトは、目こそ何時も通りだったが―
――自虐的な笑みを浮かべていた。
そして、何故か、ボクは、
そんな表情は似合わない、見たく無いと
結局、「やる気失せた。 夜になったら起こしてー」と何時もの調子で言ったクトが、毛布に包まってさっさと寝入ってしまい、その後昼寝が日課となるのであった。
…………いやなんでさ?!
―数日後
いつも通り(?)、クトが昼寝している最中に、ボクの同族――別個体のインキュベーターが部屋を訪ねて来た。それも、複数。
「………何をしに来たんだい?」
「簡単な事さ」
そして、その内の一匹が。
ボクとクトの関係を、永遠に決める言葉を放った。
「――不要となった個体の処分と、膨大なエネルギーの入手さ」
「……………え?」
理解出来ない。
処分? 一体何故?
「君は、精神疾患を患っている」
「僕らの目的は、エントロピーを凌駕する人間の感情エネルギー」
「彼女のソウルジェムは既に限界だ。 放置するだけで、何時決壊してもおかしくない」
「最凶の魔女となる可能性を孕む存在は、さっさと魔女にさせればいい」
「僕らの体内には、宇宙延命とする為のエネルギーに変換する前のグリーフシードがある」
「そして、何も穢れの移行は、ソウルジェムからグリーフシードの一方通行では無い」
「この先、敵対行動をとる可能性を持つ個体の処分と、簡単に手に入るエネルギーの入手」
「これ程までの好機を逃すなんて、狂っているとしか言いようが無いよ」
「……………ボクは、」
彼らの言い分は理解出来る。
確かに、最短で、最小の労力で、ノルマを軽々と上回る程のエネルギーを入手出来る。
だけど、それは正しい事なのか?
呆然と、周りを見る。
何体かは、クトからソウルジェム――既にドス黒く染まった、彼女自身の魂――に、穢れきったグリーフシードを近付け。
残りは、エネルギーを無駄にしない為か、ボクを捕食しようと間合いを取っている。
「…………ボクは、」
効率を考えるだけなら、彼らは圧倒的に正しい。
ワルプルギスの夜を待つまでもなく、同等かそれ以上の魔女が解き放たれれば、近隣の魔法少女は戦って死ぬか、逃げることしか出来なくなる。
この街を、場合によっては惑星を守る為には、鹿目まどかが魔法少女になるしか無く、高確率でそのまま魔女化するだろう。
更に、予測でしかないが、最初期の宇宙に存在していたエネルギーの総量、さらにソレを大幅に上回る程のものが手に入る。
頭では分かっている。
なのに。
それは間違っていると、
「――ダメだ!!」
気がついたら、クト側にいた個体を弾き、ソウルジェムを確保していた。
「………正気かい? 一体何の為に人間を守るのさ?」
「………彼女は、『この宇宙の、何を理解している?』と言った。
ボクらには、まだ知らない事がある。
それを知る前に、彼女を殺すことは出来ない」
「訳が分からないよ。 所詮、それは彼女の妄想でしか無い」
「仮に事実だとしても、余りあるエネルギーを解明に回せば、確実に真実に辿り着ける」
「それすら分からないなら、君は完全に狂っている」
「………ならもう、それでいい。
ボクは、狂った。 それでいい」
ボクは、この数日の事を思い出していた。
―『ところでさーキューべー』
『なんdきゅっぷいぃぃぃ!?』
ゴスッ!!
いきなり頭部に手刀が炸裂する。
『何するのさ!?』
『……なんとなく? アハハハハハハ!』―
………今にして思えば、あれ以来、妙な感覚が時々あった。
それに、最初のフリーフォールごっこ。
あれも、ボクの反応を見ていたような気がする。
付け加えれば、暁美ほむらとの戦闘時、そして会話。
戦闘時は、ただ集中が逸れただけでなく、撃った際の反動に対処している時に襲えばもっと確実だったし、
会話時も、ボク経由で情報が漏れるにも関わらず、ボクを処分することも遠ざけることもなかった。
その時は『グリーフシード回収の為』と言っていたけれど、それならボクに拘る必要は無かったのに。
「………クト。
もしかしたら、キミは本物の神様で、ボクに心を作ってくれたのかい?
ボクに、チャンスをくれたのかい?」
インキュベーターの群れが飛びかかってくる。
アッサリとソウルジェムを奪われてしまう。
「っ―クト!? 起きてくれ!!
まだ、キミの答えを聞いていない!!」
ソウルジェムに、グリーフシードがコツンと当てられ、
「クト!? っ――」
穢れが、ソウルジェムに吸収され、
絶望の使者が、
「――オイオイ、こりゃ一体どーゆー状況ジャン?」
ガシッ!
懐かしい感覚が、ボクの頭を鷲掴む。
「………キュ?」
「!?!? 馬鹿な、どうして―
どうして
そのまま定位置――肩の上に乗せられる。
『「――クト!?!?」』
「………一口に『神』つっても、色々あんだよ。
創る事に特化した『創造神』。
壊す事に特化した『破壊神』。
それとは別に、調和に特化した神、戦いの神、命の神、運命の神―
――そして、私は、」
収納していた骨翼を広げ、宣言する。
「―絶望と狂気を司る『邪神』、『cthulhu』。
ンなモノホンのバケモノが、今更魂が穢れきった
――舐めるなよ、下等種族。
答えは『否』だ」
インキュベーターが確保していたソウルジェムが虚空に消え、クトの一部―右胸部に現れる。
それに続いて、彼女の服装にも変換が現れる。
踝まで届くほど長い裾のワンピースは縮み、ミニスカートになり。
靴は安物のスニーカーから、小洒落た、けれど何故か、寂れた港町を連想させる色のローファーに。
腰には、ベルトのように、髪と同じ深緑色のリボンが巻き付き。
肩からは、足首まで届く、
首元には、水の様なマフラーが巻かれ、その長い両端は羽衣の様に漂う。
「――さて、さて、さて。
こっから先は、
………教えてやるよ。
魔女なんつぅ紛い物じゃねぇ、ホンモノの『バケモノ』ってヤツをなぁっっ!!!」
そういって、飛び出す少女の横顔は―
やはり、何処か自虐的に見えた。