リボンをかけて...
2月14日といえば、イスラエル人以外はバレンタインデーを想像するだろう。元々は愛の聖人であり、殉教者ウァレンティヌスが処刑された日である。海外では男女がプレゼントで愛を示し、この偉大な殉教者の功績を畏敬する。しかしながら、わが国はかつて戦勝国から物乞いした菓子を女子が男子に渡す日と化している。近年は本命チョコを渡すのは少数派らしく愛の聖人ウァレンティヌスも浮かばれないことだろう。
まぁしかしだ。
「はい。」
古典派の女性は意外と近くにいたようだ。朝食も一通り終わり、コーヒーブレイクといこうとした時商社に務めるただの会社員・山城滉一の妻、麻知(まち)がきれいに包装されたチョコを渡してきた。
「ありがとう。毎年作るのも大変だろうに。」
「そんなことない。私が好きでやっているだけ...コーヒー淹れてくる。食べて。」
「あ...あぁ。バレンタイン...か」
そんなことを思いながらハート型に形作られたチョコレートを食べる。くちどけもよく、甘すぎずややビターで食べやすい。ハート型のチョコは彼女と知り合ってからの長い付き合いだ。今になってもハートというのもなんとも気恥ずかしいものだが、貰えることは正直うれしいものだ。
自室で着替えを済ませ、玄関を出る。
「行ってくるよ」
「はい。」
麻知から手渡された弁当と水筒を受け取り、会社に向かった。
山城が家を出てから麻知はポツリと言った。
「.....他の女の甘さなんて味わさせない...ナニをしてでも...」
*****
「課長、ハッピーバレンタイン!これどうぞ」
「ありがとう。」
山城は甲辰商事という日本で五本の指に入る総合商社の繊維部に所属していた。同じ部署の女性社員からバレンタインの義理チョコを手に抱えられぬほど貰っていた。
「よぉ、山城。モテモテだなぁ奥さん嫉妬しちゃうぞ。」
「からかうなよ野口。お前も部下の子に貰ったろう。」
「まぁな。そろそろ昼だ。食堂にいこうか。」
野口とは入社以来の同僚だ。私と同じ課長で私が2課、奴は3課の課長だ。会社の中で麻知を知る希少な存在でもある。
「いいなぁ山城は、愛妻弁当毎日食べられるんだから。うちなんて『外で食べてきて』だってよ。」
野口は社員食堂のラーメンをすすりそんなことを言う。
「一度たまには休んでいいとは言ったんだが、『私の料理...嫌?』と泣かれてからは言わなくなったな。」
「今年もチョコ奥さんから貰ったんだろ?本当アッツアツだな」
「馬鹿言うなよ。うちも冷めたもんだよ。会話なんてないし、家内も素気ないし」
山城は卵焼きを頬張りながら否定した。卵焼きは今日の日を配慮してか、いつもの甘いものではなく出汁巻きであった。
「そうか?まぁいいけどよ。そうだ、貰ったお菓子でも頂くか。」
部下の子から貰ったお菓子を取り出す。昔家で食べようと持ち帰ったら麻知に「なんでそんなことするの?」「わたしのが美味しくないから、当てつけにしてるの?」と責められてからはこうして食堂で頂いている。包装を開くと有名な洋菓子店のクッキーのようだ。水筒に入った紅茶を一口含みクッキーに手を付けた。
「.........ん?」
山城はクッキーに違和感を覚えた。
「どうかしたか?」
「いや、なんかクッキーにしては甘くないというか。甘さが感じられないというか...」
「どれ...そんなことないぞ?普通ぐらいの甘さじゃないか?」
野口は特別甘いものが好きというわけでもない、ということは私の味覚がおかしいのか?
「おかしいな...味覚異常か?でも、朝家内から貰ったチョコは甘みを感じたが...」
「そういや、今日はコーヒーじゃないんだな」
「え、あぁそういえば」
いつも水筒の中身はホットコーヒー(夏はアイスコーヒー)が入っているが、今日は言われてみれば紅茶だった。別に紅茶も好きだから気にも留めなかったが。
「...」
「どうした?野口」
野口は手を顎に添え、何やら考えていた。
「いや、なんでもねぇよ。まぁ大丈夫じゃないか?もし明日も甘味を感じられなかったら病院へ行ってみるんだな」
「あぁ...そろそろ午後の業務か。それじゃあな。野口」
午後の仕事がある。私は先に食堂を後にした。
「...それにしても麻知さん、ギムネマ茶とはエグいことするなぁ。本当に大変だなあいつは...愛されてるよ。色んな意味で」
シャロ「ギムネマとは砂糖を壊すものの意。それを飲むと一時的に甘味を感じなくなるのよ!」
今日はリゼちゃんの誕生日ですね。おめでとう!