摂氏0℃   作:四月朔日澪

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珍しく連日での更新。これがずっと続けばいいけど…


時間切れ

「...」

 

頭には先ほどの笹島が浮かぶ。理由はどうであれ女の子を泣かすというのはいけないことだ。しかし、今も続く感情のまま笹島の告白を受けてしまえばすみれにも笹島にも失礼だと考えた...そして、

 

「麻知...」

 

北方家に着いた。一週間も顔を見ていない幼馴染がいるその家に。勘違いかもしれないが麻知もまた俺に好意があるように感じた。原宿でのこと、そして最近になっての接近...それがまだ整理しきれていないというのもあった。

 しかし、今は麻知が心配である。いつも元気な麻知が長いこと休むことは初めてなのだから。インターフォンを押すが反応がない。麻知の家は共働きでおじさんが市議会議員、おばさんは大学教授で普段家にいないので麻知がいつも出迎えてくれる。麻知が出ないということはそれ程体調がよくないのか..それともどこか出かけているのだろうか...あれからメールを送ったりしているが一切返信がない。電話も駄目だった。

 

「帰るか。....え?」

 

出る気配もないので今日は引き上げようとしたところ電話が鳴った。その相手は...『北方 麻知』。麻知からだった

 

「もしもし?」

 

『コウくん!助けて!いやぁぁぁぁ殺される!助けて助けてぇぇぇ』

電話口から突然麻知の断末魔が聞こえてきた。一体何が起きているのか。すぐに飲み込めなかった。

 

「麻知!?大丈夫か!今どこにいる?」

 

『宏池高校の体育倉庫だよ!コウくん、早く助けに来てぇぇぇぇぇ「テメェ何連絡してんだよ!」パチンッ..「ほら立てよおらぁぁ」いやぁぁぁぁぁ....』

 

電話越しに麻知が乾いた声が聞こえてくる。おそらくビンタを受けたのだろう。麻知の悲鳴が心に突き刺さる。その後も遠めに金属音や打音が聞こえてきた。その度に「コウくん!コウくん!」と麻知は叫んでいた。

 

「麻知?!麻知!....切れた..」

 

宏池高校といえばここでは有名な不良が集まる高校である。なんで麻知が不良に襲われているかはわからないがとにかく助けなければ!山城は何も考えず宏池高校へとひたすら走る。

 

「麻知...待ってろよ...」

 

全速力で走りやっと宏池高校に着く。不良校ということもあって明らかに制服が違う部外者でも簡単に入れた。部活というものもないのか放課後の校舎には人気がなかった。体育館の方向に向かって走ると、

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい許して...あ"あ"あ"あ"ああ"あ"あ"あ"』

 

麻知の悲鳴が聞こえた。そこは小さなプレハブ小屋..きっと言っていた体育倉庫だろう。しかし、勢いで来てしまったが、どう突入しようか..武器も何も持ってはいない。中に不良が何人いるのかも分かっていない状態で突入すれば麻知同様袋叩きにされるのは必至だろう。そう考えていると

 

『助けて!コウくん!「助けなんてこねぇよ!おらぁ」ドスッ....』

 

俺に助けを求める麻知の声と不良の女と思わしき声..そしてそのあと鈍い音が漏れた。その後麻知の声は聞こえはしなかった...

 足が震える。何を怖がってるんだ...幼馴染が..麻知が大変な目にあっているんだ!

 

 

俺が助けなくて誰が助けるっていうんだ!

 

 

山城は体育倉庫の扉を勢いよく開けた

 

「麻知!」

 

「なんだてめぇ」

 

そこには宏池高校の制服を着た茶髪の女とその取り巻きと思われる女不良達がいた。そして床には腹を抑えて横に倒れている麻知がいた。ぱっと見でもあざが散見できる。

 

「麻知!麻知、しっかりしろ」

 

「コウ...くん?」

 

麻知はか細い声で応答する。

 

「ごめん。遅くなって..もう大丈夫だ。........お前ら何があって麻知にこんなことしやがった!!」

先程までの恐怖は消え、滉一は不良相手に啖呵を切った。

 

「別にこの女のことは知らねぇけど頼まれたんだよ。ムカつく女がいるからシメてくれって。だからやっただけだ」

真ん中にいたリーダーと思しき不良が言った。

 

「誰がそんなことを..」

 

「誰とは言えないけど、その女が依頼主の恋路を邪魔したとかなんとか...チッ..余計なことをしゃべりすぎちまった。まぁ任務はすでに終わったからあとは勝手にしな。こっちもサツに面倒になるのはごめんだからな。

ったくムカつく女だぜ。フンッ」

 

そういうととどめと言わんばかりに麻知の下腹部を蹴り連中は体育倉庫から去った。麻知は蹴りを受け強く咳き込んだ。

 

「ゴフッ...ゴホッゴホッゴホッ..」

 

「大丈夫か!?ごめん..何もできなかった...」

 

「コウくん....コウくん...」

 

俺は弱々しく抱きついてきた麻知を優しく抱きしめ返した。男として何もできなかったことが本当に情けなかった。

 

「もう大丈夫...大丈夫だから」

 

山城は子どもをあやすように麻知の頭を撫でた。

 

「...コウくんが助けに来てくれて本当にうれしかった。きっと..コウくんなら助けに来てくれるって..」

 

「...ああ。それじゃ帰るか。麻知、立てるか?...無理なようなら負ぶっていくけど」

 

「うん...ちょっと無理かな。お願いしていいかな?」

 

「おう」

 

俺は麻知を背負い宏池高校を出た。

 

「なんで麻知はずっと学校を休んでいたんだ?今ボロボロだからわからないけど風邪とかそういう感じではないようだけど」

 

「...それは」

 

「今の出来事と繋がるんじゃないか?」

 

「....」

麻知は口を固く結んだままだった。

 

「麻知が言いたくないなら無理にとは言わない..けど、俺は麻知を傷つけた奴を絶対に許せないんだ。あんな陰湿な真似…だから教えてくれないか...?」

 

背中に水滴が落ちた。後ろを振り返ると麻知が涙をボロボロ流していた。

 

「ごめんねコウくん.....私嘘ついてた..笹島さんが一週間前からコウくんを迎えに来たりお弁当を作って来たりしてるでしょ...それって私が頼んだわけでも部活で忙しいからじゃないの..その前に笹島さんに言われたの..コウくんが好きだからしゃしゃり出るなって...それで私もコウくんのことが好きだから嫌って言ったら..仲間を使ってコウくんと私を引き離したり、弁当が捨てられたり放課後呼び出されてリンチにあったり..クラスで私をいじめ始めたの...でもコウくんには言えなかった...次何をされるかって思うと....怖くなって...それで学校を休んだの。でも、今日家に不良が来て『てめぇのせいでみのりがふられた』って『お前さえいなければ良かったんだ』って..体育倉庫に連れていかれてビンタされたり、髪をつかまれてひきずられたり、角材で滅多打ちにされて...」

 

「笹島が....」

 

俺は怒りがこみあがってきた。今日あんなに穢れのない告白をした彼女が麻知に対してひどい仕打ちをしていたことに。

 

「すまない、辛いことを言わせて...でもありがとう。教えてくれて」

 

「うん。じゃあここでいいよ」

 

気づけば麻知の家の前だった。

 

「ここまでで大丈夫か?なんなら部屋まで…」

 

「ううん。コウくんにこれ以上迷惑はかけられないよ」

 

「そうか。学校はどうする?」

 

「まだ少し怖いかな…でもコウくんが居てくれるなら…」

 

「わかった。明日は俺が麻知を迎えに行くよ。」

 

「え?でも、コウくん早起き苦手だし…」

 

「怪我の功名とも言うべきかな。この1週間で誰にも起こされることなく起きれるようにはなったよ」

 

「そうなんだ…じゃあ明日待ってるね」

 

「あぁ、それじゃあまた明日」

 

「バイバイコウくん………………………

 

 

山城の後ろ姿が見えなくなるまで麻知は小さく手を振った。

 

 

ふふっこれであの女も終わりだね。ここまで計画通りだよ♡」

 

**************

家まで帰ってきた。窓を見ると母はまだ帰ってきていないようだ。買い物に行ったのだろうか?

 

「ん、手紙…?」

 

家のポストを見ると「山城くんへ」と書いてある可愛らしい便箋があった。前はポストを見るのがとても楽しかった。すみれからの手紙がないかといつかいつかと心躍らせていた、しかしあれから双方とも一切文通をすることをやめた。未練が残ると感じたからだ。しかし、この丸文字…きっとすみれのものに違いない。山城は少しの疑念と期待を持ち封を切る。

 

手紙には

 

『山城くんへ

 

私と別れてからすぐに幼馴染さんとデートをしたのですね。それも私たちの思い出の場で。私は山城くんとこれからも心は繋がったままだと信じていました。でも、山城くんは私のことなんてとっくに忘れて幼馴染さんを選んだんですね。

 

あなたには幻滅しました。もう二度と私の前に現れないでください。

 

さようなら。 早川すみれ』

 

「なんで…」

 

相思相愛のまま、すみれの家庭の事情で別れた。でもそれは山城にとっては別れたという心地はしなかった。なぜならこれまでのすみれとの仲も水面下のものであったから。

しかし、今は違う。山城はここにきて初めて「失恋」を経験した。




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