では、どうぞ。
麻知が高校へ再び馴染みはじめたと同時に私たちは事実上恋人同士に戻った。しかし、麻知と一緒に登校して、昼食を情報処理室で食べ、放課後は私の家で勉強をしたり、たまにどこか寄り道をしたりと...これまでと変わらない日常が続くだけであった。しかし、
「おはようございます。『先輩』」
「おはよう...麻知」
朝、いつものように麻知が家に来るとそんな挨拶をしてきた。目は笑っていない状態で。
「滉一、あんた麻知ちゃんに何かしたの?」
「何もしてねぇよ」
「麻知ちゃん?困ったことがあったら遠慮なくおばさんに相談していいからね..」
「何もしてないっての」
「おばさま、ありがとうございます。でもなんでもないですから..行きましょ『先輩』」
「だから、その『先輩』ってなんだよ..」
「いってきますね。おばさま」
「いってらっしゃい二人とも...まぁさしあたり滉一がなにかしたのね」
母は呆れながら二人を見送った。
「ねぇ、コウくん」
「なんだ、からかっただけか。何かと思ったよ急に..ヘンな冗談は」
「昨日話してた女は誰?年下の娘だよね?先輩って呼ばれてうれしかった?ねぇ?」
世継早に質問攻めをされ、狼狽してしまう。
「ハトが豆鉄砲をくらったみたいな顔をしてさ...」
「いや、その今度カラオケに行きませんかって誘われて......ちゃんと断ったよ。」
「ふぅん。別に遠慮しなくてもいいんだよ?コウくん。もし、それが許されると思ってるならね」
「...好きだよ」
「急に何」
「麻知のこと好きだから。昨日の女の子とは何もないから」
「...コウくんは何も分かってない。私はコウくんが他の女と仲良くしてたり、他の女に優しくしてるのが嫌なの!....でも今回は許してあげる。コウくんの口から好きって聞けたし。でも、それだけ?口だけなんて猿でもできるよ...私が言ってることわかるよね?」
「道端だし、これで許してくれ」
山城は麻知を抱きしめた。山城は嫉妬深い麻知がこんな程度では許してはくれないと思ったが、麻知はそれだけでも満足だった。抱きしめられるのは自分だけだ、という自負と優越感に浸っていた。そして山城に聞こえない声でこう囁いた。
「私のモノなんだから..コウくん♥」
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あれからもう十数年、日本は失われた十年を脱却し、堀江貴文率いるライブドアや三木谷浩史の楽天などIT企業によりITバブルという愉悦とリーマンショックという辛酸という酸いも甘いも知ることになる。00年台のIT革命は情報技術の急進的な発達をもたらした。電話・メールしかできなかった携帯電話も今や現代人には必要不可欠な万能機械と化している。今や人類のほとんどが情報技術の恩恵を受けている世の中となった。
「はい。」
「行ってくるよ。」
「....」
「どうした?」
「...てくれないの」
「え?」
「なんでもない..いってらっしゃい」
「?ああ、行ってくるよ」
家に静寂が訪れる。
昔は行ってきますのチューをしてくれたのに...確かに私がある日冷たい態度を取り始めたのが滉一の態度にも出ているところはあるんだと思う。でも、滉一も社会に出て私から離れることが多くなって私に関心が無くなってあっちも冷たくなっているのもあるはずだ。。滉一が私のことを嫌いにならなければどう思われようがいいと思っている。でも、他の女に好意を持ったり、懇意にしているのは絶対に赦さない。これからも先、滉一は私のモノなのだから...
普段の麻知の日常はいつものように山城の寝室に入りにおいを嗅ぐことから始まる。それから掃除をして、食器の片づけ、洗濯など家のことを午前中にし、簡単に昼食を済ませる。山城と食事をするときは精一杯料理をする(山城にもっと楽していいのにとは言われるが)が自分のことになると無頓着である。流石にレトルトの類は口にしないが、お茶漬けや漬物とご飯だけなど質素なものが多い。理由は簡単で「滉一と一緒じゃなきゃ何を食べても美味しくない」からだ。山城といれば例え世界一不味い料理でも食べられるだろう。午後は買い物に行く。お義母さまの月命日ならお寺へお参りに行くが、普段は透ちゃんと一緒に買い物をする。
「今日晩御飯何にしよう...」
今日の晩御飯は主婦の永遠の課題である。そして主婦たちは色々な命題(テーゼ)を導き出していく。
「麻知ちゃんちはどうするの?」
「カレー」
「カレー!?今の時期大丈夫?まだ夏までカレーは怖いかなーって思ってたんだけど」
「鍋でいっぺんに作って冷凍保存すればだいぶ持つし、カビも生えないよ。あと、小分けすれば連日カレーっていう悪夢もない」
「その手があったか!流石麻知ちゃん!うちは肉じゃがにするかなぁ。その後カレーにリメイクすればその次を考えなくて済むし」
二人は野菜なり、カレールーなりを買って買い物を済ませる。その後、麻知は荷物を家に置き野口家にお邪魔する。
「麻知ちゃん、新しい茶葉を買ってみたんだ~」
「いつものところのケーキを買ってきた...」
普段話をするときはお茶は透がお菓子は麻知が用意している。
「今日はなんとかお弁当渡すことができたよ!麻知ちゃんみたいな大人しめのにしたらすんなり渡せた.....このお茶イマイチね。もう買わないでおこ」
「そうなんだ...透ちゃんのかわいいお弁当も好きだけどな。クマさんのハンバーグとか..あれは酷かったね。」
「クマさんのハンバーグのことは忘れてよ!><」
「だってあまりにもかわいかったから覚えてて...主人にも作ってみたけど『いきなりどうした?』って言われた..」
「麻知ちゃんやったの!意外~なんていうか守りってイメージだったから...あ、いい意味でだよ」
「私もなんか可愛げのあるお弁当作りたくて...//」
「かわいいねー麻知ちゃん」
「そういう透ちゃんもかわいいよ」
「「あはははは」」
お昼、会社では
「野口、珍しく弁当なんだな」
「珍しく家内が作ってくれてな。いやぁ毎日作ってもらいたいけどんなワガママ聞いてくれるわけないだろうなぁ」
「社食もいいもんだろ」
「いや、お前食べたことないから言えるけどマンネリ化するぞ..だいたい同じもののループだからな。」
「...毎日違うものが出るのと同じものが何度か出るなら、野口はどっちが嬉しい?」
「急だな...うーんどうだろうなー毎日違うのは外れがあるかもしれないし..ある種究極の選択だな..」
「うちは新婚当時は毎日違うものが出たな。全部美味しかったけど...でも、その中でこれが好きっているのがでるわけで「これが食べたい」と言ったらその日からそればっかりが出始めたんだけど嫌がらせだったんだろうか..」
「いや、別にそれは嫌がらせというか...あ、もう午後の業務か。じゃあまたな。」
「ああ」
「(.....山城、それは間違いなく好意の裏返しだと思うぞ。)」
麻知は夕方になり、野口宅を後にする。そして家に帰り、夕食を作る。カレーを作るため、にんじん、馬鈴薯、タマネギを切っていく。にんじんは乱切り、玉ねぎはみじん切りとくし切りの二つに分ける。肉は山城家では牛のブロック肉を使う。実家である北方家では豚小間切れを使うが、山城母に教わった作り方でカレーは作っている。ちなみにとろみを出すために馬鈴薯は擦っていれる。感覚的に二日目の煮込まれたカレーのようになるからだ。切った具材と肉を鍋で炒めていく。みじん切りにしたタマネギが飴色になったら水を入れ沸騰させ、灰汁をとっていく。沸騰したらカレールーを入れていく。ルーが解けきれず残らないように事前に細かく切ったものを投入していく。それから中火にかけ、一息つく。麻知はスマートホンに目を移す。
「この速度は電車に乗ってる..ちゃんと帰ってるみたいね」
地図上に出ている赤い点がカクカクと最寄り駅の方向に灰色の線に沿って移動している。
「滉一は携帯触らないから。内部カメラは真っ暗か」
遠隔操作でカメラを起動させるが案の定ポケットに入れているようで真っ暗であった。15分ほど経ち、火を止め蓋をする。リビングにはカレーのいい匂いが充満する。他人の家に行くとカレーの匂いがするのもこういうことが関係するのだろう。麻知は家の近くを山城が歩いていることが分かると玄関の近くまで移動する。玄関の前までいくことはなかなかない。そういう時は限って山城が何かをしたときである。
「ただいまー今日はカレーか」
麻知は無言でカバンを預かる。帰宅後は大抵これといった会話はない。会社の話は麻知には関心がないことを知っているからだ。夕食の間も会話など生まれない。話題が何もないからだ。麻知も近所の奥様方とのコミュニケーションなど持ち合わせていないので他人についての話題もない。あっても二人の時間にそんな下世話な話はしたくない。夕食が終わると、山城は風呂に入る。麻知は下着とバスタオルを用意しておく。そして、山城は書斎に入り読書に耽る。麻知は邪魔はしない。ただ、コーヒーを淹れ書斎へ運ぶ。麻知はその間食器の片づけやお風呂兼風呂掃除をする。同じ屋根の下で暮らしているとはいえ何も起きない。静かな日常である。
麻知は不満ではなかった。例え夫婦の時間がどうであれ山城が自分のモノであることに違いないからだ。身は遠くても心は近くにある。図らずもあの女から学んだ言葉である。でも...寂しかった。麻知はそれでも人肌が恋しかった。そんな気持ちが揺れ動いたのだろう。いつもと違う行動に出た。コーヒーカップを下げにいった。
「あなた....一緒に寝ていい?」
今や別々の寝室で眠りについていた。前は一緒に寝ていたのだが、いつからだろうか。別々に寝るようになったのは
「いいよ。」
山城は意に介さないといったように快諾する。麻知はベッドに入ると、山城とキスをする。プラトニックなそれではない。舌を絡め、津液が混ざり合い舌の感覚が溶けていくようなキスだった。山城もその気だったのか舌を入れていた。麻知はやっぱり滉一も男なのだと黒い笑みを浮かべた。
閲覧ありがとうございました。
一人暮らしも変わらぬ一日ですが、夫婦でもそんなものですよね(たぶん)