さて、続きをどうぞ。
麻知はうきうきと夕食の準備をしていた。水萌とかいう雌犬に一泡ふかせることが出来て麻知としては気分がよかった。
ジャラジャラ....
「...ちゃんと食べてくれるよね?あなた?」
キッチンにはキィキィと陶器と金属がこすれたような嫌な音が響いていた。とてもキッチンで出るような音ではない。麻知の手は何故か真っ赤になっていたが、麻知は意に介さずその作業に取り組む。その様子は彼女が彼氏に対して愛情込めて料理を作るとは何か違っていた。何か深い闇を抱えた呪詛や黒魔術のようなもの...
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山城は板挟みから解放され、心安らいでいた。忘れ物を届けに会社に来た麻知の態度はともあれ、これで水萌も弁当を作ってくることもないだろう。
嘘がバレたときはどうなることかと思ったがなんとか許してもらうことができ、山城としてはこれで胃痛に苦しむことはなくなったという心境であった。しかし、水萌も自分の大事な部下である。一応、午後に「家内のことは申し訳なかった。悪気はないと思うんだ許してやってくれないか」と水萌に謝った。水萌は「大丈夫です。私もごめんなさい。少し大人げなかったです。」と収めてもらったが麻知からも水萌に謝ってもらいたいと思っていた。それで丸く収まると考えていた。悩みが解決したからか外の風景も昨日よりもきれいに見える。パステルオレンジの夕焼け、少し目線を変えれば群青に染まる空と遠慮がちに佇む月が映る。
「ただいま」
「おかえりなさい」
ドアを開けると、珍しく麻知が出迎えをしていた。瞳は心なしか早くも夜を迎えたかのように暗く濁っていた。
「カバン持つね」
「あ、あぁ...」
「お風呂沸いてるけど、ごはんとどっちを先にする?」
「ごはんにするかな」
「...分かった。用意するから着替えてきて。」
「ん」
山城は自分の部屋に行き、着替えを済まそうとした。
「ふふっ...ちゃんと償ってもらわないとね…」
着替えを終え、リビングに向かった。しかし、そこにあったのは普段の食事とは違う異質な光景であった。
なんで茶碗に「針」が山盛りに入っているんだ...
「...麻知、これはどういうつもりだ?」
「...嘘をついたら針千本。大丈夫。ちゃんと数えたから」
「そんなことを聞いてるんじゃない!何を考えてるんだ」
山城が声を荒げると麻知は驚く訳でもなく、言葉を紡いだ。
「........私は許してない。あなたが嘘をついたことを...今回だけは情に絆されて許すなんてしない。ちゃんと『誠意』を見せてもらう...あなたがしたことはそれくらい重い。」
「今日の昼許してくれるっていったじゃないか!」
「そんなこと言っていない。あの女の弁当を食べていたことは許してあげる...でも、それを隠したってことはあなた...何かやましい気持ちがあったって証拠。ほらちゃんと食べて。そのハンバーグ針を入れて捏ねたから手が傷だらけになったんだ。でも、あなたにされた痛みに比べればどうってこと無かった。...嘘つきは罰を受ける...当たり前だよね?」
麻知は絆創膏でいっぱいの手のひらを見せる。とても痛々しかった。言っていることは本当なのだろう。
確かに指切りげんまんでは「嘘ついたら針千本飲ます」と約束するが、それを本当にするやつなど、この世の中で麻知くらいだろう...狂っている。おかずがずらーっと並んでいるが全て針が入っているのだろうか...もちろん山城はこんなものを食べるわけがなかった。
「ふざけるな!嘘をついたことは謝る。でも、お前頭おかしいよ!
........飯はもういい。風呂に入る。」
リビングにはポツンと麻知だけが取り残された。麻知は薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「..........これで済むと思わないでね」
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麻知に怖れを感じた。山城と麻知は長い付き合いだ山城は麻知のことを少し嫉妬深いくらいだと思っていたが今回は流石に度が過ぎている。まずありえないが、もし浮気や不倫などをしたら何をされることになるのだろうか...山城は麻知の愛憎、嫉妬に命の危機すら感じた。
「今は忘れよう...」
脱衣所から風呂場に入り、湯桶にお湯を汲む。命の洗濯と言われるだけにお風呂を入っている時が一番落ち着く気がする。中にはトイレという人もいるだろうが、やはり風呂独特のモワーとした空気がリラックスできる。
お湯を身体に掛ける。それと同時に焼けるような痛みが全身に走る。
「あ"あ"あ"あ"っつい...なんだこれは...」
体が冷えていたからというわけではない。間違いなく熱湯だった。皮膚は赤くなり、この地獄釜のような風呂に入ることを拒否していた。
「お湯加減はどうですか?あなた」
麻知が一糸纏わぬ姿で風呂に入ってきた。
「麻知...いい加減にしろよ」
「何のこと?私は何もしてないよ?疑うなんて酷いなぁ...ほら、一緒に入ろ?お湯掛けますね」
麻知は湯桶で熱湯を掬い、山城に容赦なくかけ流す。自分の前にいるのは妻ではなく、悪魔だと思った。
「やめ....あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”熱”い”!」
「肩まで浸かろうね」
「許してくれ!悪かったから!う”があ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
麻知は山城を熱湯の入った湯船に入れ、上がらないよう抑えつけていた。山城の身体はやけど跡があちらこちらにあった。しかし、麻知はそれでもやめなかった
「今回はこれで許してあげる。でも、次はこんなものじゃ済まさないからね?」
しかし山城に返事はなく、失神していた。
「あらあら、『事故で』やけどしちゃったみたい。ちゃんと看病しなきゃ」
麻知は山城を湯船から引き上げ、どこかに電話を掛ける。
「救急です!旦那が熱湯に入っちゃって…多分自殺をしようと考えてたんだと…」
閲覧ありがとうございました。
実際、熱湯風呂入ると全身やけどをするらしいです。ん?じゃあ、ダチ○ウ倶楽部は一体..あっry
世の中知ってはいけないものもある。