摂氏0℃   作:四月朔日澪

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すいません。今回も病化までたどり着けませんでした...!!


≪番外≫文加の憂鬱 中編

「お仕事なんだもんね..仕方ないよね..仕方...」

 

文加は自分に言い聞かせるように手を動かしながら「仕方ない」がリフレインされる。時計を見れば夜の八時であった。文加はいつ帰ってくるかもわからない健一がいつ帰ってきてもいいように鍋を温め直して冷めたらまた温めを繰り返していた。文加は焦燥感に駆られてかその間隔は短くなり対して冷めていなくても火をつけて鍋をかき回している。わかっているのだ仕事なのではないことなど...

 

「ただいま」

 

玄関から健一の声が聞こえ文加はまるでエサを待っているひな鳥のように喜び玄関に向かう。

 

「おかえりなさい。あっ、びしょ濡れじゃないですか。今タオル持ってきますね」

 

天気予報では雨は降らないといっていたがこの時代の気象予報技術は乏しさを考えれば仕方ないことだろう。文加は急いでタオルを持って来て健一に手渡し健一は頭を乾かす。

 

「お風呂は沸いてますから温まってくださいね..ごはんもそのうちに」

 

「今日はごはんはいい。風呂に入ってそのまま寝る。」

 

「...はい。」

 

健一は風呂場へと消えていった。文加はそれまで温め続けてきた鍋の取っ手を持ちシンクへ中身を流し込む。台所にはボコッというシンクの悲鳴と定期的に滴る水の音だけが木霊するだけであった。

 脱衣所で健一の着替えを用意した。シャツには仕事では間違いなく付かない香りがしていた。

 

「楽しかったですか?キャバレーは」

 

文加は優しい口調でしかしその場が凍えるような声で健一に聞いた。風呂場からは音一つしなかった。あきらめたように文加は着替えを置いて脱衣所を後にした。

 文加は何の根拠もなく言ったわけではない。動かぬ証拠をつかんでいた。それは数か月前のことであった。新入社員歓迎会に健一が出てから帰りが遅くなることが多くなった。文加は健一に問いただすと新入りとの親睦のために飲みに行くことが多くなったからといった。健一は優しいからと文加もそれからは何も言わず健一の帰りを静かに待っていた。だが今日のような雨の日、文加は傘を持って健一を待っていた。その日も健一の帰りは遅かった。曇り空はより暗くなっても健一が来ることはなかった。忠犬ハチ公のように待つこと数時間後、健一が改札口にやってきた。

 

「....!」

 

「またね~」

 

「また明日ね。京子ちゃん」

 

健一が女と挨拶をして別れた....いったい誰?あいつ。娼婦のようなはだけた格好をして。私の旦那様がいかがわしいお店に行くなんて有り得ない...目の前にある光景を一切認めたくはなかったがまがいもない現実なのだ。健一は文加を目で捉え狼狽する。

 

「あなた...今の女...誰?」

 

「あ.......う....」

 

「ねぇ誰ですか?教えて下さい。」

 

「だ、誰だっていいだろ。」

 

「あっ」

 

健一は明瞭な答えを出さず、づかづかと歩いて行った。文加も追いかけるが家に着いても健一から納得のいく答えを聞くことはできなかった。

 

「のーぱんしゃぶしゃぶ....?」

 

「あぁ、接待で行くこともあるがその...店員が下着を履いていなくて電球を替える姿を見たりとかな...」

 

「最低です」

 

「す、すまない。」

 

「はぁ...大蔵省がそんなことでいいんですか。」

 

「そこを突かれると痛いな...」

 

霞が関-日本の行政中央機関が密集する街である。文加は元上司である大蔵省主計局長と面会をしていた。大蔵省主計局といえば国の予算を決める部署で大蔵省の核の部分といっても過言ではない。

 

「ふふっとんでもないネタを掴んでしまいました。これで貸しができましたね。」

 

「なんで君のような有能な人材が離職をしてしまったのか不可解だよ」

 

「愛....ですかね。」

 

「そうかい....それで私に何をしろというんだ?」

 

「あらまぁ人聞きが悪い。ただ紹介してもらいたいだけですよ。先生を」

 

「そんなことであれば幾らでも紹介しよう。」

 

「20人くらい紹介していただけませんか?できれば若手の方を」

 

「20!?君は何をしようというんだ?もしかして議員になろうとしているのかね。」

 

「まぁ後々分かりますよ。」

 

「木崎くん!」

 

文加は喫茶店を出ようと伝票を持ち立ち上がると、局長に呼び止められた。

 

「今は山城ですよ。局長」

 

「その…大蔵省に戻ってくるつもりはないのかね...君なら女性初の次官も狙えるかもしれないぞ」

 

「ふっ申し訳ありませんがお断りしますね.....だって.....私は山城の妻ですから。」




閲覧ありがとうございました。
後編のシナリオは出来ているので早めに投稿できるかと...(保証はできませんが)
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