「.......ん」
頭が痛い...どうも飲みすぎたようだ。目が覚め、起き上がるとそこは我が家ではなかった。仄暗い間接照明がある部屋でガラスばりの壁が曇っていた...
ってここはラブホテルじゃないか!なんで私はこんなところに..酔っていて記憶がない。もし女子高校生なんて連れ込んでいたら懲戒免職どころではない...自分の姿を確認する。スーツを着たままだ、過ちはまだ犯していないようだ。透明な浴室を凝視するわけにはいかないが多分女性が入っているのだろう。上がってきたら謝ろう..金をせびられるかも知れないが、その時はその時考えよう。最近の女子高生は親に言うと脅して継続して金をせびると聞いたことがあるもし悪質な女子高生だったらどうしようか...
ああこうと考えていると浴室の方からドアが開く音がした。出てきたのは女性だったが、女子高生でも人妻でもなかった。
「起きたんですね...課長♡」
「水萌君...」
山城はよくわからぬ安堵をした。水萌だろうが誰だろうが麻知という妻がいながら異性をホテルに連れ込むなど言語道断だが、水萌であれば話せばわかってくれると思ったのだ。
「その...先に服を着てくれないか..」
水萌はバスローブだけという姿であった。水萌はなんで、と言いたげな顔をしてそこを動かない。
「課長がこんなところに連れ込んだのでその気があると思ったんですけど..魅力ないですか?私のカラダ」
水萌はバスローブを脱ぎ、あられのない姿になった。そして細い腕を山城の首に回し躯体を密着させる。
「水萌君...違うんだ。今まで意識がなくて...君に何を言ったか分からないけど申し訳ない。そんな気はないんだ..」
しかし、いつも以上に体が火照るような痴情が自分の中で強くなっていく。
「確かに課長は泥酔してましたけど、私とソウイウ関係になりたかったのは本当じゃなかったんですかぁ?だって、そうじゃなかったら私から誘ってもないのにホテルなんかに来ませんよ...私、課長にならヴァージン捧げてもいいですよ...//奥さんには内緒にしますから...」
水萌は山城の背広を脱がし、ネクタイをほどき始める。
「み、水萌君!私と君は上司と部下なんだぞ」
「私はそれ以上の関係になりたいです...」
「なんで...なんで君は妻と対抗するように俺に固執するんだ..何か特別なことをしたわけでもないのに..」
「人を好きになるのに特別なことなんてないですよ..あえていうなら一目惚れですっ♡理由なんてどうだっていいじゃないですか。だって私が課長が好きなことに変わりはないんですから..」
「水萌君...やめ..」
ガチャ...
「「!」」
「.........」
「なんで...鍵をかけていたはずなのに」
「...これくらいの鍵なら造作もない..」
「........あ」
「安心して?悪いのは全部この女だよね?」
「.............
麻知..」
終わった。すべてが終わった。裸の水萌に上半身裸になっている私が押し倒されている決定的瞬間を見られて言い訳など作れるわけがない。一寸先は死...一切の慈悲も与えてくれないだろう。
「なんでここが分かったの...」
「あなたに教える義理はないわ水萌晴絵。人の旦那に手をかけるなんてこの泥棒猫...
早く滉一から離れなさい!」
麻知は山城と水萌の間に割り込み引き離す。山城は身動きが取れない...突然の出来事にホワイトアウトしてしまっていた。
「泥棒猫なんて...現実を見てくださいよ麻知さん。課長から私をここに連れ込んできたんですよ課長は私を選んだんですよ?つまり、課長は麻知さんより私の方が好きってことですよ。」
「フッフフ..
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
「な、何笑ってるんですか。現実逃避ですか」
「滉一が私じゃなくてあなたを選んだ?可笑しくて腹がよじれるわ..そんなわけないでしょ。理由もなく滉一を好きになっった痴女のくせに..」
「誰が痴女ですって!」
「理由がないってことはそういうことでしょ?理由が見当たらないってことはそれくらいにしか思ってないってことよ。私は滉一のことを好きになった理由なんて100以上出せるわ。滉一とは子どもの時から一緒なんだから。」
「でも、この事実を見てもそんなこと言えるんですか?」
「よく言うわ...これ...あなたよね」
麻知は携帯の画面を見せるそこにはホテルに入る山城と水萌が写っていた。写真を見ると山城はグダーとしており、水萌が介抱しているのが分かる。
「動画もあるわよ」
麻知は動画を再生した。間違いなく水萌がホテルへ山城を引きずっていた。水萌は言い逃れができない状況だった。
「滉一が連れ込んだんじゃなくてあなたが連れ込んでいたのね...滉一はあなたに部下以上の感情を持ったことはないわ。分かったらもう滉一のことは諦めなさい。この泥棒猫!!」
「.........私...諦めないから....絶対に課長を私のモノにしますから。今日のところは帰ります。それじゃあまた、麻知さん」
水萌はスーツに着替え、帰っていった。山城を見ると放心状態、心ここにあらずといった感じであった。山城は「麻知....違うんだ..」「水萌君とはなんでも...」と言葉になっていないことを呟いていた。麻知は言っても放心状態の山城に通じないと思ったが、
「大丈夫だよ。コウくんは何も悪くないよね♡だってコウくんの奥さんは私だけなんだから...他に入り込む隙なんてないんだから..」
そう山城の耳元で囁き、肩を抱えてホテルを後にした。
麻知は昨日のことを覚えていないか心配したが、山城が朝起きて「昨日は飲みすぎて何も覚えていないよ...」といっていたのが不幸中の幸いだった。
**************
【エピローグ】
甲辰商事屋上にて幹部が招集されていた。常務、専務、副社長、社長が並ぶ中その前に座っていたのは麻知だった。
「山城さま、今回はどのようなご用件でしょうか...」
「ええ、実は今回の人事とある人の差し金があったのではないか..という噂を聞きまして。それを確認しに参りまして..会社経営に私情を混ぜてはいけませんもの」
誰よりも私情まじりの人事を仕向けてきた人間のセリフではないが誰もそんなことは言えない。言えば首はすぐに吹っ飛ぶだろう。
岡は塩葉専務によることだと分かっていたが証拠もなく、重要参考人である北見人事部長が口を割らない限り主張もできないのでだんまりを決め込んでいた。塩葉もまた最初に口を出せば怪しまれるし、下手に発言すれば誘導尋問に引っかかってしまうのでこれもまた黙りこくっている。
「....はぁ。まぁ誰が仕向けたかは分かっているのですけどね。なぜなら人事部の内部リークで知ったので....北見人事部長が電話で繊維2課に女性社員をいれることを承っていたって」
「や、山城さま。塩葉専務との電話は事後報告でありまして...」
「バカッ...」
「私、塩葉専務なんて一言も言っていませんが...つまり、塩葉専務に仕向けられてやったのですか?」
「山城さま、それは誤解です」
塩葉は割り込んで弁明をする。
「私は北見人事部長に財務部門の人事を確認しただけです。今回の人事一切関わっていません。人事部長の独断です...」
「塩葉専務....!」
「そう...ですか。では、経理部長に片山さんを登用したのも北見人事部長の独断なのですね..あの方を採用するのはどうかと..」
「何!?片山を経理部長だと!北見貴様....」
「ふふっ冗談ですよ。経理部長は前と変わっていません。塩葉専務、なんで財務部門の人事を確認したはずですのに経理部長をしらないのですか...」
「あ....ぐっ...」
「犯人は見つかりましたね....まぁ知っていたのですが。次の総会楽しみにしていてくださいね...塩葉さん」
塩葉は系列銀行に出向となった。理由は銀行の経営悪化のための再建人事とあるが実際は失脚である。岡は留任、北見は課長に降格となった。
そして...山城は突然繊維部長に呼ばれた。
「山城くん、仕事中申し訳ない。まぁ掛けてくれ」
「はぁ....」
「君の活躍は生活資材部の中でも一番で私も上に必死に熱弁をしたのだが...届かなかった申し訳ない...しかし、山城くんならきっと..」
「部長、話がつかめないのですが一体なんの話でしょうか...」
「ああ、すまない。ごほん....
出向辞令
山城滉一殿、
株式会社福鯖織物に出向を命ずる。
....福井県の鯖江というところにある繊維企業に出向だそうだ」
「.......出向...」
遥か北国・福井に向かうことになる。
閲覧ありがとうございました。
福井編?次回は大学編突入です。