摂氏0℃   作:四月朔日澪

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一話はバレンタインデーに始まりました。この小説もその時の妄想で短編で終わらせようと思ったのですが意外な反響から今も続けていたり...


ではどうぞ。


リボンを結んで

バレンタインデーのチョコレートは大きく分けて二つある。本命チョコと義理チョコ...世の男子は誰もが本命チョコをもらいたいと思っているがそれを貰えるのは一握り。多くのモノは義理チョコや親から貰うチョコがせいぜいだ。だが、一番深刻なのは誰にも貰えない者である。夕方になり情けで義理チョコを貰うものもいるだろうが、誰にも貰うこともなく背教者のようにバレンタインという習慣を憎悪する者もいるなどバレンタインとはアガペーもくそもない残酷な日である。

 

「コウくん、ハッピーバレンタインっ」

 

きれいに赤いリボンで包装された箱を受け取る。そういえば今日はバレンタインだと気づいた。センター試験も終え結果が最近来たが、センター利用では落ちてしまった。しかし、自己採点をしたら一般入試であればいけるレベルだったので下旬の法英の受験まで気が抜けない。

 

「甘いものは頭を活性化させるんだって!コウくんなら大丈夫だよ?ずっとコウくんが努力してるの見てたもん」

 

「ありがとう麻知。頑張るよ、夜食に食べるよ」

 

「え、沢山作ったから。それは朝の分だから食べて食べて。昨日徹夜して作ったんだ♪」

 

「そうなのか...じゃあいただきます」

 

箱を開けるときれいに箱詰めされたハート型で一口大のチョコレートが入っていた。口に入れると舌触りもよく口の中で柔らかく溶けていく、チョコ自体は甘さ控えめで中にベリーか何かのジュレが入っていて甘みが後からやってくる。

 

「ん...美味しい!だんだん上手になってきてるな」

 

「え?ほんと!嬉しい!」

 

「それは?」

 

山城は紙袋に目を落とす。

 

「あ、これ?義理チョコだよ」

 

「他の子にも渡すのか...」

 

毎年麻知が朝迎えに来るときにチョコを渡すのが恒例だった。麻知にも友達はいたが、麻知が自分以外に男子や女子にチョコを渡すところは今まで見たことはなかった。

 

「もしかして...嫉妬してる?」

 

「いや..そういうんじゃなくて麻知が他の子に渡すなんてこれまで見たことないなぁって思ってさ」

 

「だって、ほらみんなも受験だしさ。私にできることはこれくらいだなって」

 

「そうか...」

 

山城はなんだか感心した。笹島の件から麻知が浮いているんじゃないかと心配したがクラスに打ち解けているのだと。

二人は学校に向かい廊下で別れた

 

「滉一ぃ麻知ちゃんからのチョコどうだった?」

 

「え?まぁ...美味しかったけど」

 

「ったく可愛い彼女からチョコなんて羨ましいぜ!」

 

「そういや、麻知今年は他にチョコ持ってきてるらしいからお願いすればくれるんじゃないか?」

 

「いや、もう行ったよ」

 

「手が早いな..それでなんで貰えなかったんだ?」

 

「なんか女子にあげる奴だからごめんねって」

 

最近女子同士でチョコを交換するのが流行っているようだ。それが主流になりつつあり、男が貰うことは減ってきてるようだ。

 

「まぁ神原は積極的だから沢山貰えるだろ」

 

「ちょっと声掛けてくるわ。じゃあ」

 

山城は一時限目の準備をする。うちの高校は先生にチョコをあげる生徒もいるような中堅高校だが生徒指導の先生は例外的に厳しく、一時限目の山県は生徒指導部長の堅物なので神原がバッタリ出くわさなければいいのだが..

 

「山城」

 

バッグから筆箱を取り出そうとしたとき前に笹島が現れた。そして、後ろからピンクチェックの包装がされた箱を取り出し

 

「これ......義理じゃないから」

 

そう言い残し、笹島は自分の席へと戻った。義理じゃないということは残る意味はあれしかないが...笹島はまだ俺に好意があるのだろうか。それから後も調理部が昨日作ったクッキーを分けて貰ったりと午前中に幾つか貰った。

 

「お弁当もチョコを使ってみたよ。」

 

「なんか罰ゲームみたいだな」

 

「外国ではカカオとかダークチョコを料理に使うらしいよ。これもノンシュガーを使ってるよ」

 

確かにカカオの風味がしてゲテモノではなかったが、ご飯に合う感じではなかった。麻知に言える訳もなく完食する。

 

「はい。お茶」

 

「そこはココアじゃないんだな。」

 

「ココアがよかった?」

 

「そこは普通にお茶でよかったよ」

 

ずっとチョコを食べていて鼻血が出そうだ。貰ったチョコはほとんどその場で食べた。いつものことだが麻知は他の女子からチョコを貰うと不機嫌になる。中学の頃は「○○ちゃんのが美味しいよね」「私のが美味しくなかったから○○ちゃんのチョコ貰ったんだよね。彼女は私なのに...」と呪詛のように延々と小言を吐き続き宥めるのが大変だった。

 

「あ、そういえばコウくんはチョコいくつ貰った?」

 

きたか...

 

「え、いや貰ってないよ」

 

「あれ?でもさっき調理部の子がみんなに渡してるって聞いたけど」

 

「あんまり食べ過ぎると鼻血ブーになりそうだからさ。断ったんだ」

 

山城は鼻をつまみジェスチャーをとる。麻知はふっ、と「そうなんだね」と微笑んだ。

 

「でも手が込んでたなぁ。私みたいに中にクリームが入ってて」

 

「え?何も入ってなかったよう...」

 

山城はハッと口を塞ぐ。しかし時すでに遅く

 

「なんでコウくんが知ってるの?」

 

「いや、神原から聞いて...」

 

「じゃあなんでそんなしまったみたいな顔してるのかな?...コウくん、本当は貰った............よね?」

 

まるで金縛りにあうように身体は動かず、口の中の水分が失われていった。しかし、麻知の反応は意外なものだった。

 

「貰ったなら貰ったって言えばいいのに。こっちもお礼しないといけないんだから。」

 

「あっそういうことか。あははは」

 

なんとか難を逃れることができた山城だった。

 

***********

 

バレンタイン前の夜。山城はその日も遅くまで勉強をしていた。麻知はというとキッチンでチョコ作りに励んでいた。

 

「まずはコウくんのから..」

 

中身入りのチョコは難しそうで簡単である。型に溶かしたクーベルチュールチョコレートを半分ほど入れ、別に作ったクランベリーのジュレを入れその上にチョコを流し冷蔵庫に入れるだけである。

 

「さて...」

 

麻知は防塵マスクをし、プラ手袋を着ける。用意したのは「硫酸マグネシウム」と書かれた白い結晶の入った袋だった。そしてブロックアイスを敷き詰めた発泡スチロール製の簡易冷蔵庫を作業台の脇に置く。

 

「ちょっと加減しなくちゃ..胃に穴が空いちゃうもんね。まぁ図々しくコウくんにチョコを上げるやつがどうなろうとどうでもいいんだけど」

 

その姿は年頃の女の子が料理をするというよりも毒リンゴを生成する白雪姫のお妃のようだった。

 

-------

読取新聞 2006/02/16付

『都立高校で悪質イタズラ 砂糖の代わりに下剤

 

2月14日、都立高校で女子生徒7人が入院に搬送された。原因はクラブ活動でバレンタインデーのクッキーを作った際、砂糖の容器に下剤などに使用される微量の硫酸マグネシウムが混ざっておりそれにより、腹痛の報告が相次いでいると見られている。学校側は調理室内の点検を行い、4月まで調理室の使用を禁止にしたと報告。調理室は普段施錠されており、警察は学校関係者の犯行と見て捜査を進めている。』

 

「でも、7人だけなんておかしいよな。3年生にはほぼ全員分けてたみたいだし」

 

「みんなそうだよね。調理室を捜査してるけど砂糖に食塩が混ざってただけじゃないかな?原因は別にあるような気がするけど..」

 

結局、原因は突き止められず生徒の作ったチョコレートによる食中毒として処理された。それを境に学校では弁当以外の食べ物の持ち込みが禁止されることになった。




閲覧ありがとうございました。食中毒怖いですね(すっとぼけ)
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