摂氏0℃   作:四月朔日澪

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遂にとんでもない対決が実現してしまった...


文加vs麻知デスマッチ

「待っててね滉一、すぐこの小娘始末するから。ずっとお母さんと一緒にいようね?」

 

母文加は包丁を麻知に向けながら俺に顔を向け、そう言った。

 

「早く子離れしたほうが良いですよ?おばさま?コウくんは未来の...ううん私の旦那様になるんですから。」

 

麻知もまた近くにあった包丁を手に持ち、二人は間合いを取る。

 

「減らず口を!」

 

文加は麻知に斬りかかろうとする。なんでこんなことになったのか...さかのぼれば今朝の出来事からだ...

 

**************

 

法英大学の一般受験を終え束の間の休息を得ている三月上旬。合格発表は一週間後、法英大学にて掲示板で発表される。そんな朝、起きると隣には誰かが寝ている。シーツで見えないが麻知だろう。

 

「おい、麻知また部屋に入ってきて何度もやめてくれと言っているだろ」

 

俺は注意するが一向に起きる気配はない。

 

「もうコウくん、遅刻するよ」

 

「え?!麻知!?」

 

ドアからは麻知が起こしにきた。じゃあ、隣に寝ているのは誰なんだ..一気に怖くなってきた。麻知はベッドに視線を落とし違和感に気が付いたようだ。

 

「コウくん....誰と寝ていたの?私以外の女を連れてきたのかな?」

 

「ばっ...んなわけないだろ。起きていたら隣に誰かが寝ていたんだよ」

 

「そんな言い訳通ると思ってるの?」

 

「本当なんだって!」

 

「んん....うるさいわね..」

 

シーツの下から聞き覚えのある声がするかと思えば、母が布団から起き上がってきた。

 

「母さん!なんで俺の部屋で寝てるんだよ」

 

「あー滉一、おはよう」

 

「おはようじゃないよ」

 

「チューして」

 

「は?」

 

「お・は・よ・う・のキス!」

 

文加は唇を滉一の顔に近づけてくる。近い...本当にキスが出来そうな距離だった。

 

「離れてください!」

 

「チッ...」

 

麻知が割って入り込む。助かった...て、いうか今母さん舌打ちしなかったか?いつも麻知とは仲がいいのに。

 

「何?親子のスキンシップを邪魔しないでくれる?」

 

「どこがスキンシップですか?あんまりコウくんが嫌がることをするとおばさまでも怒りますよ」

 

「......」「......」

 

「えっと....あ、そうだ!麻知、時間は大丈夫なのか?」

 

 

「あっいけない遅刻しちゃう」

 

気まずい感じになったので話題を変え、すり抜ける。話題転換もあるが本当に遅刻しそうだ。母には本当に困った..今日はどうしたのだろうか?機嫌が悪い日でも麻知に当たることなどないのだが。

 麻知は「急いでるしパンでいいかな」と申し訳なさそうにキッチンでせわしなく朝食の用意をしている。

 

「こちらこそごめんな。母さんが」

 

「ううん。別に平気だよ...でも」

 

「どうした?」

 

麻知は動きを止め、俺をじっと見る。

 

「私がコウくんのうちに来るまではおばさまが一緒に寝たり、おはようのキスをしてたの?」

 

「そんなわけないだろ。小学生じゃあるまい」

 

「....そっか。考えすぎだね、はい」

 

麻知は笑顔を取り戻し、机にベーコンエッグを置く。俺は急いでもいたので焼けたトーストにマーガリンを塗り、食べ始めようとした。すると、突然着替え終えた母がやってきてベーコンエッグの入った皿を取り上げる。

 

「何すんだよ」

 

何を思ったか、母は流しにベーコンエッグを捨てる。

 

「こんなの食べたらおなか痛くなるわよ...どきなさい」

 

文加は麻知を押しのけ、卵を焼きはじめた。麻知は諦めたように俺の隣に座った。麻知は下を向き、手で顔を覆いながら泣いていた。涙が手を伝い、床に落ちる。俺は黙って麻知の頭を撫でた。俺は母が作った目玉焼き(黒こげ)を食べ、泣いている麻知を慰めながら学校へと向かった。

 

『ぐすっ....ぐすっ..』

 

『麻知ちゃん大丈夫?』

 

「山城、何やったんだよ」

 

隣の教室を見て神原が聞いてくる。

 

「何もしてねぇよ」

 

「何もはないだろ。あんだけ泣いてて学校来てからずっとだぞ」

 

「そうだそうだ!お前学校のマドンナ北方麻知を泣かせておいて言い逃れできると思ってるのかよ」

 

六合が横槍を入れてくる。六合は麻知のファンクラブ(本人非公認)の会長をしている俺の同級生である。麻知のファンは本人の知らない間に増えており、文化祭の全生徒対象のミスコンにおいて麻知が3位になった(本人は別に喜んでいなかった)のも彼らが暗躍していたからだ。六合は「女子の組織票がなければ麻知ちゃんを一位にできたのに..」と悔しそうにしていたが..

 

「お前らにはいうが...母さんと麻知が喧嘩して、普段怒らないから麻知が泣いちゃって」

 

「麻知ちゃんが何かしたのか?」

 

「ただ朝食を作って..

 

「「待て待て待て待て」」

 

「え?」

 

「「朝食だぁ??」」

 

「なんでそこに食いつくんだよ」

 

「お前、弁当だけでなく朝食までありついてるのか」

 

「ずるい..ずるすぎる!俺にも麻知ちゃんの料理を食わせろ!この幸せ者め!」

 

あーこいつらに教えるんじゃなかった...そう後悔した。

お昼になり、麻知と昼食をとろうとするが

 

「もう泣くなって..気にしてないから」

 

「ごめんなさい..ごめんなさい..」

 

弁当の中身は空だった。米粒がついていたりあげかすが残っていたりと入っていた形跡はあり、麻知が早弁するわけもないのできっと母が朝同様捨てたのだろう。

 

「別に麻知のせいじゃないし..今日は購買で何か買って済ませようぜ俺が奢るよ。」

 

「うん...ごめんねコウくん」

 

2年ぶりに購買のパンを食べる。ここの唐揚げ焼きそばパンはとても美味しい。男子の好きな惣菜パンを総括したようなパンで250円とお得なのが嬉しい。麻知はメロンパンを食べていた。いつも思うが女子というのは菓子パンをよくごはんとして済ませられるものだ。お腹が膨れるものなのだろうか。

 

「ちょっとジュース買ってくる」

 

「待って!.....その、私の飲みかけだけど」

 

そう言ってストローの刺さったピクニックを差し出す。

 

「いいのか?」

 

「うん、いいよ.....」

 

後ろめたさもあったので差し出されたピクニックを飲む。人工的な甘ったるいいちごの味が口にまとわりつく。

 

「ありがとう。」

 

「..うん」

 

昼食を終え、再び別れる。家に帰ってから母にどういうつもりなのか聞かなければいけない。いつもぞんざいに扱っているくせにいきなりスキンシップといってキスをしてこようとしたのは別にいい(よくないけど)。ただ、麻知の作ったものを捨てるなんて許せるわけがない。放課のチャイムが鳴り帰り支度をしていると、麻知がやってきた。

 

「コウくん、後で帰ってきてくれないかな?おばさまと話したいことがあるから」

 

「俺も聞きたいことがあるし..」

 

「お願い!二人だけにさせてほしいな..」

 

麻知がそういうならと思い、喫茶「純」で時間を潰すことにした。

 

「ブレンドで」

 

「かしこまりました。」

 

この落ち着いた雰囲気でもソワソワしてしまう。二人だけにさせてよかったのだろうか...

 

「ブレンドコーヒーになります」

 

コーヒーを飲むがただただ苦みしか残らない。ふと今朝の泣いている麻知を思い出す。麻知は大丈夫だろうか..

 

「ゆっくりもできねぇよ...」

 

麻知が心配で10分もたたずに店を出る。走って自宅へ向かい、ドアを開けるするととんでもない修羅場に突入していた。

 

「いつもあんたに朝食とか弁当を作らせてたけど気が変ったわ。あんたみたいなどこの馬の骨かも分からない女に私の大事な息子の胃袋を任せるわけにはいかないわ。」

 

「お言葉ですけど、おばさまより料理上手ですから私。今日の目玉焼きみましたけどあんな黒焦げな目玉焼き作って母親ヅラなんてほんと笑っちゃいます」

 

「もう一回言ってみなさい!この小娘!」

 

「本当のことでしょ!大年増!!」

 

二人は取っ組み合い髪を引っ張ったり、足をがちがちと蹴り合ったりと酷い醜態を晒していた。

 

「やめろよ二人とも!」

 

「滉一」「コウくん」

 

「母さんが悪いんだろ!朝ごはんだけじゃなくて麻知の作った弁当を捨てるなんて」

 

「え?なんのこと弁当は私が作ったものにすり替えたはずなのに」

 

「私が捨てたんですよ...これでおあいこですよ?『お義母さま』?」

 

「ふざけんなっ!この小娘!殺す....殺してやる」

 

母は台所で干してあった包丁を持ち、麻知に向ける。

 

「待っててね滉一?すぐこの小娘始末するから。ずっとお母さんと一緒にいようね?」

 

「早く子離れしたほうが良いですよ、おばさま?コウくんは未来の...ううん私の旦那様になるんですから。」

 

麻知も包丁を持ち、対抗する

 

「減らず口を!」

 

文加は麻知に斬りかかろうとする。俺はやばいと思い、止めに入る

 

「二人とも落ち着けよ。取り敢えずその物騒なものを離してさ」

 

「危ないでしょ?滉一。間違えて刺しちゃうじゃない」

 

「そうだよコウくん。早くどいて?殺すからそいつ」

 

「落ち着けって。ちょっと外に出ようぜ...三人で落ち着いて話せば..」

 

俺はリビングを出ようと廊下の間のドアを開けると..

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドッキリ大成功!』

 

と書かれたプラカードを持ったうちの高校の生徒がいた。

 

「ごめんね。コウくん、騙しちゃって」

 

「ちょっと演技に熱が入っちゃった。やりすぎかしら..」

 

後ろでは今まで殺し合いをしようとしていた二人が笑っていた。

 

「お二人ともご協力ありがとうございました。ばっちりですよ」

 

「えっと...状況が読み込めないんだけど」

 

「生徒会なのですが、卒業生を送る会のビデオを制作をすることになったのですが。生徒の多くの要望で学校のマドンナ、北方先輩の彼氏の山城先輩に一泡吹かせたいというのがありまして....ドッキリを仕掛けました」

 

それを聞いて怒りよりも深い安堵と脱力が体を支配した。テレビでドッキリ企画を見て「よく怒らないなぁ」と思うこともあったが実際経験すると怒りを感じないものだ。

 

「大成功~」

 

能天気な母

 

「本当にごめんねコウくんっ...ずっと断ってたんだけど根負けしちゃって...」

 

こっちが申し訳なく思うほどに謝り続ける麻知。最初からおかしいと思ったんだ。母と麻知が喧嘩するなんて。これは騙された方が悪いって奴だ。

 

「え?ってことはずっと撮ってたの?」

 

カメラを回している子がいたので聞いてみた。ドッキリということは終始撮っていたということになるが

 

「はい。朝食のところから麻知さんのハムエッグは美味しくいただきました。」

 

「あ、実は流しの下に皿を敷いておいたのよね」

 

「学校でも?」

 

「授業中は回していませんが昼食の時はバッチリ。お弁当美味しかったです。」

 

「ピクニックも飲みかけを飲ませてって頼まれてコウくんに差し出したの..」

 

「少女漫画みたいなので女子ウケしそうですしね」

 

「家に帰ってきたときは見なかったけど」

 

「だって山城先輩を尾行していましたから。」

 

「私たちは帰ってくるまで談笑してたわ」

 

「帰ってくるときに電話を貰って演技を始めたらヒートアップしちゃって..」

 

「包丁は流石に危ないんじゃ...」

 

「あ、これ?偽物よ。よくできてるでしょ?」

 

文加は滉一の頭にニセ包丁をコンコンとする。

 

「演劇部から借りてきました。いやぁでもお二人ともうちの演劇部より迫真の演技でしたよ」

 

「コウくんがおばさまに取られたら...って考えて」

 

「ダーリンが麻知ちゃんに取られたらって思ってやったわ」

 

「マジでやると思ったよ....寿命が縮んだよ..10年くらい」

 

「麻知ちゃんと喧嘩なんてするわけないじゃない。」

 

「そうだよなぁ...家事がめんどくさい母さんがやりたがる訳ないもんなぁ..ああ騙された」




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