取り敢えず高校までの話は終わり、次回から本格的に大学編突入です!
春先になると合格発表の報道がされる。一番有名なのは東京大学の掲示板を見て一喜一憂する姿だろう。ラグビー部が受験生を胴上げする写真は一面を飾ることもしばしばだ。しかし、2000年代に突入するとwebで確認できることもあり、掲示を見に大学まで足を運ぶということも少なくなってきた。
合格発表日の市ヶ谷駅も大して混んでいなかった。山城は麻知と駅を降り、外堀通りと靖国通りの間にある道を歩く。法英大学の立地というのは大変変わっていて、三角形のような土地に幾つかの棟があるという大学だ。大学に着いても、掲示板までの道のりは遠く階段を何度も上りやっと掲示板が見えてきた。
「経済学部の掲示板ここみたいだよ。受験番号は?」
「05327...」
山城は緊張気味に言った。自分のベストは尽くしたものの合格発表、結果が全てである。受験以上の緊張が山城の身体にのしかかっていた。
「051....」
「052...3...あ、ここからみたいだ」
053の桁に目を移す。051から連番かと思えば突然一気に数字がないという受験の残酷さを見てきた。自分の数字があってくれ...そう願うばかりだ。麻知も一緒に見ていてくれるだけ怖さは引いてくる。
「05301..02..06..」
「....11..12..13..14..15..21..」
05289
05301
05302
05306
05307
05310
05311
05312
05313
05314
05315
・
・
・
自分の数字が近づいてくる。目をそむきたくなるが頑張って数字を追っていく
「24..25....
05315
05321
05324
05325
05327
05333
05334
・
・
・
27!あった!05327!」
山城は感極まって麻知に抱き着く。見れば麻知は泣いていた。
「おめでとう!コウくん...私は信じてたよ。コウくんなら受かるって」
「本当にあるよな!05327」
「うん。写真とるから前に立って」
麻知は携帯電話を取り出し、受験番号に指さす山城を撮った。山城は母に電話したが「家に書留届いてるから知ってるわよ。」と意外と冷めた反応だったが「おめでとう。頑張ったわね」と最後に語り電話を一方的に切った。山城は麻知と近くのカフェにでも寄ろうと誘ったが麻知は「ごめんね。お父さんと用事があってもう帰らなきゃ」と駅で別れた。
コンコン
「麻知です。」
議員会館の事務室に高校生が入るのは珍しいようで来る途中にカメラマンに撮られてしまった。父の事務室に着くと公設秘書の白井さんが出迎えてくれた。
「麻知ちゃんね。先生は客間にいるわ」
「ありがとうございます。白井さん」
コンコン
「失礼します」
ガチャ
「お父様」
「麻知、ここまで来たのか」
「近くに寄ったので挨拶に来たのですが迷惑でしたか?」
「いや..別に迷惑ではないが。ここには記者や陳情で色んな団体の方が来るからあまり歩き回らないほうがいい
......が、まぁ麻知の顔を見れてうれしいよ」
父は麻知の頭をなでる。あまり口が上手い訳ではないので間が持たないというのが本音だ
「お父様、明日高校を卒業します。今までありがとうございました。」
麻知は深くお辞儀をする。
「麻知ももうそんな歳なんだな。本当にかわいい娘に育って..」
「まだまだ迷惑をかけますが、大学卒業までお願いします」
「そんなにかしこまらなくてもいい。親の責務だ。しっかり勉学に励んでくれ」
「はい。」
「.....」「.....」
伝えたいことを伝え、沈黙が訪れる。
「その...なんだ..滉一くんとはどうなんだ」
「今日、コ..滉一君の合格発表に付き合って無事合格したよ。それにおばさまにも優しくしてもらっているし大丈夫だよ。」
「...そうか。滉一くんは法英だったな、麻知とは明日で『お別れ』か..」
「!........はい。」
「ごめんな麻知...傍にいてあげられない挙句勝手ばかり言ってしまって...」
「そんなこと言わないでください。分かってますから..まだ滉一君には伝えてないんですあのこと。明日ちゃんと伝えます」
「先生、建設業協会の方が見られています。」
「通してくれ..すまない麻知。来てもらって早々」
「いえ、長居してしまい申し訳ありません」
麻知は会館を出、山城の家へと帰った。
**************
卒業式。高校にもなると別れにも慣れ、男子に関しては涙を流すこともほとんどない。
「山城、クラスで送別会あるけど参加できそうか?」
神原が楽しそうに話しかけてくる。卒業式よりもそっちが楽しみという生徒も少なくない。
「ちょっと麻知と相談してくる」
「あ、山城待って」
神原と違う聞き覚えのある声がする。振り向くと笹島みのりがいた。
「山城、卒業おめでとう」
「ああ」
返事だけして立ち去ろうとすると右腕を掴まれた。
「待ってよ。なんで私を避けようとするの...あの日から」
「...そんなの。そんなのお前が麻知をいじめていたからに決まってるだろ」
「私が北方さんをいじめたから私を振ったの?...ねぇ答えてよ」
「不良雇って麻知に傷を負わせた奴に答える義理はねえよ」
山城は皮肉に引き合いに出すと、笹島はキョトンとしていた
「え?待ってなにそれ。私そんなことしてない!」
「何言ってんだ。宏池高校の体育倉庫で..」
「知らないってば!私はただ北方さんが山城の家に来るのを邪魔したり、弁当を捨てたりはしたけど...暴力をふるわせるようなことはしてない!」
「....」
どういうことだ...話を聞いている限り笹島が嘘をついているようには見えない..演技か?それともあの不良の単独犯なのか...
「もう...いいだろ。」
山城は掴んでいる手を解き、麻知のもとに向かう
「....ありゃ欠席かもなぁ」
隣のクラスに行くと記念撮影をしている途中であった。廊下には在校生がうじゃうじゃといる。うちのクラスはすでにHRが終了したので教室は人でいっぱいだ。
記念撮影が終わり、麻知のクラスもHRが終了した。麻知は同級生の女子と話していた。
「麻知」
「あ、コウくん」
「この後、うちのクラス送別会があるみたいなんだけど..麻知のクラスもあるのか?麻知が参加しないなら断ろうと思うけど」
「コウくん、ちょっと静かなところに行こっか。話したいこともあるし」
「?ああ」
教室を離れ、中庭に移る。とはいえ考えることは皆同じで卒業カップルがポツポツといた。
「コウくん、卒業おめでとう」
「ああ..麻知もおめでとう」
「コウくんももう大学生になるんだね。」
「なんだよ親みたいなこと言って」
「大学生になったコウくん見たかったな」
「何言ってるんだよ。これからも一緒に暮らすじゃないか」
「.....コウくん、そのこと..なんだけどね」
麻知はバツが悪そうに卒業証書入れの筒を持ちながら話す
「コウくん......別れよう。私、許嫁がいるんだ...大学卒業したらその人と結婚するんだ..だから今のうちに......まだ取り返しがつく今、コウくんと別れたい...」
麻知はボロボロと涙をながしながら別れを告げた。山城は呆然と立ち尽くすだけだった。
「それにね...私、悪い女なんだよ。笹島さんから聞いたかな?宏池高校の不良、あれ私が頼んだんだ。ボコボコにしてって...その後、あの女のせいに仕立てたらコウくんは私になびくって思ったから」
「麻知が...なんでそこまでして」
「好きだからだよ。コウくんのことが...
コウくんが私の最初の男で良かった...でもこんな悪女嫌でしょ?嫉妬深くて他の女を陥れる彼女なんて。だから別れるチャンスをあげる。ほら、嫌いって言ってよこんな性悪女嫌いって」
「麻知...じゃあなんで泣いてるんだよ。本当は別れたくないんだろ?」
麻知の顔は涙でいっぱいだった
「....てよ.....やめてよ!そんなこと言われたら意思が揺らいじゃうじゃん!どうしようもないじゃん!いずれ別れなきゃいけないんだから...だったらもういっそ嫌われたら潔く諦められるんだから..言ってよぉ....私のこと嫌いって...」
麻知は立っているのがやっとという感じだった。足をガタガタ震わせて別れを迫る
「...嫌いだ.......麻知のことなんて嫌いだ!」
山城の目には一筋の涙が流れていた。なんでこんなことを言わなければいけないのか。ただ、それが麻知のためになるならば...
袖で涙を拭い終えると、麻知はもういなかった。
**************
「あら、麻知ちゃん早かったわね。滉一と一緒に帰ってこなかったの?」
「おばさま...うぅ...うわああああああああああん....私、コウくんに嫌われちゃった...ううう..うわあああああん」
麻知は文加に抱き着きワンワン泣いた。
「言ったの...あのこと」
「うっ..うっ.はい...お父様を裏切りたくないから..ヒクッ...まだ今なら諦めがつくから..」
「それでいいの....?麻知ちゃんはそれで」
「.......そんな訳ないです...本当は..本当はコウくんとずっといたいよぉおおおううう..うわあぁぁぁぁ...嫁ぎたくないよぉぉぉぉぉうわあああああん」
文加は静かに麻知を抱きしめるしかできなかった。
閲覧ありがとうございました。
結婚という結末は分かっているけど、それまでにどんな経緯が...大学編では結婚までは至りませんがお楽しみに!