摂氏0℃   作:四月朔日澪

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忘れてたけど、楓って既に日本三大ヤンデレキャラがいるやん...ただ楓パイセン今のところヤンデレじゃないから大丈夫..大丈夫...

それでははじめます


はじまりの夜

起きると隣がなんだかうるさい。どうも隣に誰かが越してきたみたい、こんなボロアパートに...モノ好きがいるなぁ..また絵を描いている途中で寝てしまった。筆がカピカピになっているし、締め切りまで時間もないのに納得のいく絵ができない..昨日描いていた時にはとても上手く描けていた気がしたが今見れば全然だめだ。春休みはまだまだある、そのうちに仕上げないと..

 描いて消して描いて消してを繰り返していたらいつの間にか夜になっていた。お腹空いたなぁ...仕送りもそろそろ尽きそうだし、面倒くさいけど自分で作るかな。

 

ピンポーン

 

誰か来た。セールスか宗教勧誘ならまだいい方だけどNHKだったら嫌だな..テレビ持ってないって言ってるのに。

 

「ん」

 

「あ、こんばんは」

 

チェーンをしてドアを開けると、高校生?多分新入生とおぼしき男の子がいた。

 

「今日から越してきた山城です。これ引っ越し祝いにお口汚し程度ですが..」

 

そう言って男の子は紙袋から菓子の入った箱を出す。....あ、東京ばな奈だ。甘い物なんて何週間ぶりだろうとても嬉しい

 

「ん」

バタンッ

 

こんないいものをただでもらうわけにはいかない。私があげられるものなんて大したものはないけど...あ、前にスケッチしたやまゆりの絵をあげよう。確か公園でおじいさんがやまゆりは八王子の花とか言ってたの聞いたような気もするし。

ドアを開け、彼にお返しをしようとすると階段を下りる前だった。引っ越し前なんて冷蔵庫空っぽだもんね。.....だったらご飯も誘うか。別に一人や二人増えても変わらないし

 

「.....私、岸楓........ん..私からも祝い」

 

私が色紙を渡すと山城くんは色紙をまじまじと見ていた。

 

「えっと....ありがとうございます。これ岸さんが」

 

「ん」

 

「その..上手ですね」

 

「.....」

 

「あ......えっと」

 

久しぶりに自分の絵を褒められて浮かれていると、山城くんが気まずそうにしていた。あ、そうだご飯まだなら食べないか聞いてみないと...

 

**************

 

「あの...じゃあ失礼します。またよろしくお願いします..」

 

「あ....のさ..ご飯まだ?」

 

「え...はい。これからどこか食べに行こうかと。」

 

もう喋ることもないのでお暇させてもらおうとしたとき岸さんに声をかけられた。かけられた言葉からしてお誘いだろう..ここら辺のお店よく知らないし、お隣さんと仲良くしたほうがいいしな..

 

「じゃあさ、うちで食べなよ」

 

「ありがとうございます....ってえ?」

 

まさか部屋にあげてもらうことになった。岸さんの部屋は殺風景で家具は必要最低限しかない。その他はパレットだったり、筆、絵の具、キャンパス...絵画道具で散乱していた。

 

「ごめん、部屋汚いけど....どかして..いいよ」

 

「お構いなく...朝はお騒がせしてすいません。」

 

「ううん。絵を描いていたから気にならなかった」

 

キッチンで料理をしながら岸先輩は相づちを打つ。

 

「それはよかったです。その、岸先輩はデザイン系の大学なんですか?」

 

「うん。多摩芸...来年で3年生あ、申し訳ないけど壁に掛かっているテーブル広げてくれる....かな?」

 

「あ....はい」

 

壁に掛かっているローテーブルを持ち、脚を広げる。先輩は皿を手に持ち、テーブルに置く。野菜炒め、ちくわのチーズ焼き、ご飯、豚汁を頂くことになった。先輩は冷蔵庫からビールを取り出してきた。

 

「....飲む?」

 

「いや、まだ未成年なんで」

 

「かたいなぁ別にここ大学生しか住んでないし....」

 

先輩は缶を開け、グビグビとビールを飲む

 

「遠慮しないで。簡単なものしか作れなかったけど」

 

「そんなことないですよ..いただきます。」

 

野菜炒めに手を付ける。キャベツと人参と魚肉ソーセージのシンプルな野菜炒めでウスターソースで軽く味付けされていて濃すぎず薄すぎずちょうどいい。

 

「美味しいです」

 

「ありがと」

 

先輩はお土産に持ってきた東京ばな奈を肴にビールを飲んでいた。

 

「甘い物はずっと食べてなくて.....うん。嬉しかった...」

 

「甘い物は好きなんですか」

 

「いや、たまに甘い物が欲しくなるんだよねぇ..あの....言うじゃん。囚人さんがおつとめ終えたら一番食べたいのは甘味だって。あれと同じ心理だよ」

 

まだ一人暮らし半日だから分からないけどそういうものなんだ。ただ岸先輩が気に入ってくれたならよかった。お土産どうしようか考えた結果無難な東京ばな奈にしたがどうやら正解だったようだ。

 

「山城くんはどこの大学?」

 

「法英大学です」

 

「あー法英ね。ここに越してきたってことは...経済?」

 

「はい。」

 

「西八王子のが行きは楽じゃない?まぁここは買い物しやすくていいけどねぇ」

 

「そっちも考えたんですけど、ここに一目ぼれして」

 

「ここいいかなぁ。共用トイレは少し考えたけど..」

 

「あ、それ思いました」「だよね!」

 

その後、先輩と話しが弾みすぐに帰ろうと思っていたけどもう一時間も経つ。先輩は富山の人で上京したきたみたいだ。進学するまでに親と大喧嘩をした話を聞かせてもらった。

 

「....私の話ばっかりじゃなくて山城くんの話もしてよ」

 

「俺っすか?別に大した話なんてないですよ」

 

「山城くん、東京でしかも近場でしょ?なんで一人暮らし始めたの?」

 

「やっぱり...一人暮らしに憧れがあったっていうか。」

 

「....山城くん、私嘘は好きじゃないよ」

 

先ほどの笑い上戸と打って変わってやや低い声で注意される。その時、山城は別の人物の言葉を思い出す

 

『コウくん、嘘をつくときは人を考えたほうが良いよ...』

 

すみれにフラれた次の朝、麻知に言われた言葉だ。俺は嘘をつくのが下手なのだろうか。あの時のことや卒業式のことを思い出してつい涙が出てしまう。麻知の前でも、実家にいたときも泣かなかったのに..

 

「あ、ごめん....別に怒って..ない...」

 

「いや...違うんです。前の彼女のこと思い出して...」

 

「...そっか。ごめんね...思い出させちゃって」

 

「....いや...聞いてもらいたかったのかもしれません..この投げ場のない感情を..」

 

「うん.....お姉さんが聞いてあげる。お酒飲む?気持ちが晴れるよ」

 

「じゃあ...いただきます」

 

生まれて初めてビールを飲んだがとても苦かった。たださっきまでの暗い気分が少し良くなったような気がする。麻知に強引によりを戻してきたこと、親の関係で一緒に暮らすようになったこと、麻知に許嫁がいたこと、そして別れてと告げられた卒業式...酒の力か自分でも驚くくらいサラサラと岸先輩に語っていた。

 

「今でも好きなの?彼女のこと」

 

「....好きです。大好き....ですけど....大人にならないといけないんですよね..」

 

「.......今くらいは子供になってもいいんじゃないかな..」

 

不意に岸先輩が俺の頭に腕を回し、抱きしめてきた。

 

「泣きな。そして思いの丈をぶつけな..」

 

「うう....麻知ぃ..」

 

「うん。今だけは正直にいたほうがいいよ..きっといい思い出になるから」

 

岸先輩には麻知とは違った優しさや温もりを感じた。




閲覧ありがとうございました。

岸パイセン、基本いい人です。
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