摂氏0℃   作:四月朔日澪

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やれシンギュラリティとかAIとか言うけど、日本の町工場の殆どは未だにコンピュータ使っていないから大丈夫...っていうのが私のAI論で大学のレポートコンテストで最優秀賞を取った記憶。

ではどうぞ


火種

 山城は一年前から小さな町工場で土日だけではあるがアルバイトをしていた。この工場ではワッシャーと云われるナットの回転緩み、非回転緩みを防止する小さな円状の部品を作っている。ワッシャーは一見必要なのか疑うような小さな部品だが、『ワッシャーがなければナットは緩み建築物が崩壊するんだつまり、ワッシャーは縁の下の力持ち』...と社長は熱弁していた。

 ワッシャーの作業工程は簡潔に説明すれば円筒の金属の両端を平らにして切断していくものである。山城の仕事はバリ取りという仕上げの工程だ。切断後出る製品の出っ張りを取り除く工程であるが予想以上に難しい。これを10時間ほど続けると単純作業でも気力がいる仕事だ。

 

「はい。これよろしく~山城、溜まってんぞ。バイトだからってちんたらやってんじゃねぇぞ」

 

「はい!すみません!」

 

加工工程のおじさんに怒られるのは一種の挨拶のようなものだ。最初は戸惑うこともあったが今では軽く流すようにしている。それにパートのおばちゃんがこっちに近づいて「気にしちゃだめよ。コウちゃんは頑張ってるよ」とフォローしてくれるのは意外と励みになる。そして、

 

「きっと余呉さん、コウちゃんに嫉妬してるのよ。ひよりちゃんと仲よしさんだから」

 

「本当にしょうがないなぁ余呉のおっちゃんは。コウも災難だね」

 

「まぁ仕事遅いのは本当のことだし」

 

同じバリ取りの藤橋ひよりは俺と同じ20歳だ。高卒でこの工場に入っているので俺よりも少し先輩だが。そして仕事も俺より早いし出来もきれいだ

 

「そう自分を責めんなって。もうすぐ昼飯だし元気出せよ」

 

♪~

昼休憩のチャイムが鳴ると、工員は一目散に食堂へ走っていった。目当ては日替わり定食を食べるためだ。

 俺はあの熱気についていける訳もなく残ったメニューを食べることにしている。静かな工場で一人、軍手越しでもこびりついた工業油をある程度落とし食堂に向かう。

 

「カレーで」「あいよぉ」

 

日替わりメニューは今日も味がいまいちなカレーを食べる。カレーを受け取り席を探すとひよりが場所取りをしていてくれた。

 

「コウ、またカレー?ここのカレーってイマイチじゃん」

 

「仕方ねぇだろ。これしか残ってねぇんだから」

 

「ほんとコウはダメだなぁ...ほら」

 

ひよりはおかずのトンカツを一切れ箸で持ち、カレーの上に置いた。

 

「これでカツカレーの完成~残りのカツはやらねぇかんな」

 

「お、ありがとう。」

 

貰ったカツを一かじり。肉汁がジワァと口の中に広がり脂も甘くとてもおいしい。あのカレーが際立つ味わいだ。

 

「そんでここの仕事は慣れたか?コウ」

 

「急に先輩風ふかすなぁ」

 

「だって先輩だし。ま、コウは入ってきた時よりマシになったよ。私もまだまだだけどね」

 

「おばちゃんたちの速さには追い付かないよホント」

 

「おばちゃんたち何年やってると思ってんだよ。勝てるわけないじゃん」

 

「「ははは」」

 

その後午後の業務、二時間程度の残業を終え帰宅した。3年上の先輩から紹介されて始めたバイトだけど、同年代がいて授業にも支障がない職場だし仕事もついていけるようになったし続けていけそうだな...

 疲れた体で階段を上り部屋のドアを開ける

 

「おかえり♡コウくん♪」

 

「麻知...なんで部屋に」

 

、とそこにはいるはずのない麻知が料理を並べ待っていた。

 

「なんでって、忘れたの?コウくんが合鍵を渡してくれたんだよ?」

 

「そうだったっけな」

 

「ほら、洗濯するから脱いで」

 

「ああ、自分で脱ぐよ。麻知が汚れちゃうだろ」

 

「お風呂沸いてるよ。先に入って。まだ作りかけだから」

 

既に机には料理があるのにまだ作るのか...と山城は思ったがお腹も空いていたのと疲れもあったので風呂に入った。

 

「....これがコウくんの制服か。...へぇここで働いてるんだね.....ハァハァ....コウくんの....スゥ......ハァ...汗の匂い....久しぶり....ハァハァ.....」

 

麻知が山城の家を訪れるのは半年ぶりくらいだった。久しぶりの山城の匂いに山城が風呂に入っている間酔いしれていた。

 

「......女の匂いがする..若い女の......ナンデカナ」

 

**********

風呂に入りサッパリした山城は麻知の手料理をご馳走になった。お腹が張るほど食べるのは久しぶりかもしれない。食べ終え麻知は食器を洗っていた。

 

「コウくん、作業服来てたけど工場で働いてるの?」

 

「ああ、先輩に紹介してもらってな」

 

「何を作ってるの?」

 

「ワッシャーっていう小さな部品を作ってる」

「何それ?」

 

「えっと、ボルトとナットの間に挟むこんな奴」

絵に書いて説明をする。麻知は分かったようだがへぇ、とリアクションは薄かった。まぁ当たり前か

 

「麻知はバイト....してる訳ないか」

 

「うん。でも、コウくんと一緒に働いて見るのも楽しそう」

 

「いや、大変だぞ。3K(*1)な職場だし」

 

「でも、女の人も働いてるんでしょ?」

 

「いるにはいるけどおばちゃんばっかりだよ」

 

「ふぅん(否定はしないんだ)」

 

「とにかく変なことは考えないでくれよ」

 

「変なことって?」

 

「職場に来るとか弁当を持ってくるとか...」

 

「ダメなの?(知られたくないことでもあるのかな)」

 

麻知は首を傾げる。何がいけないの?と言いたげな口調だった。

「ダメに決まってるだろ」

 

「...残念だな。コウくんの働いてる所見てみたかったのに」

 

「ダメダメ。危ないんだから」

山城は麻知に釘をさす。麻知もそれから深く聞かなくなった。

 

「大丈夫なのか?」

 

玄関で見送りをする。麻知は「迎えが来るから大丈夫」と言い帰って行った。

prrrr...

「もしもし、隆俊?迎えに来て。何処?八王子よ、もしかしてこんな夜中に女性一人を帰らせるつもり?」

 

〜〜

「.......ダレ?アノオンナ......コウは私のなのに......」

 

*1)3K...きつい、危険、汚いの略称。工場など劣悪な職場環境を指す




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