明日も面接です( ;∀;)
口にヘアゴムを咥え、髪を束ねる。
「なんでまた忘れ物するのよ....バカ」
洗面所の鏡の前で夫の愚痴をこぼしながら身支度を済ませる。普段なら会社に忘れ物を届けに行くのは楽しみなはずだが、つい最近の出来事がきっかけで山城麻知は不機嫌であった。
それはつい3日前のことであった。滉一が水筒を忘れ、届けに滉一の働く甲辰商事の繊維部に行った。滉一はデスクにおり、直接手渡すことができたのだが、視線を落とした際見てしまったのだ。
女の写真を机に飾っていたことを。
「....へぇ。そういう雌豚(こ)が好きなんだ.....へぇ」
麻知がぽつりと放った言葉に感づいたのか滉一は釈明する。
「いや、これは..俺のじゃなくて、同僚がくれたもので...」
「そっか。へぇ...」
この時滉一の言葉など頭に入らなかった。この時、怒りと嫉妬が入り交じった感情を鎮めるのに必死であった。しかし、顔色で分かったのか滉一は動揺していた。
おそらく滉一の言っていることは本当なのだろう。別にそのことはいいのだ(後日滉一の部屋にあったファッション雑誌を全部燃やしたけど)。私が許せなかったのはその女の写真はあるのに私の写真がなかったことに苛立ちを覚えた。
私のことが好きって言ったくせに...コウくんのバカ
あれから数日まともに口をきいていない。はじめは無視していることに気がついていなかったが、朝になっても不貞腐れている私を見て謝ってくれたが、それでも私はやめなかった。普段なら許しているのだが、こんなに長期戦になるとは思ってもみなかった。それほど今回のことは傷ついたのだ。自分でもこのむしゃくしゃする気持ちを制御できない。
鏡でポニーテールに纏めた髪を確かめ、リビングに向かう。家には自分しかいないため、ワンピースを脱ぎ外着に着替える。
*****
今日は朝から洋服小売店の外回りであった。午後からも3軒ほど回る予定なのだが。午前最後の店舗を回った後、ぽつぽつと雨粒が滴った。バッグから折りたたみ傘を取り出そうと漁るが、傘らしき手応えがなかった。どうも家に忘れてきてしまったようだ。普段は麻知が雨の予報がでるとお弁当とともに傘を持たせてくれるのだが、ここ数日に限っては事態が違った。
「ちゃんと麻知の写真もあるんだけどなぁ...」
定期入れを取り出し、中を開けた。そこには旅行の時に二人で撮った写真が入っていた。麻知の写真は肌身離さず持っていたかったので会社に置いていなかっただけなのだが..
「しばらく許してはくれないだろうなぁ」
麻知が3日も無視を続けるのは初めてだった。普段は嫌味を言ったり、仕返しをしてくるのだが。ちなみに今回は雑誌が鋭利なもので無残に切り裂かれていた。
私は雨宿りついでに忘れものを取りに一旦家に帰ろうと自宅の方向に向かって歩いていた。家に帰ったところで麻知は無言で傘を渡してくるだろうが、仕方ない。今回は私に非がある。小走りで家に駆け込む。
「ただいまー」
返事はなく。居間に続く廊下は静かであった。私は一旦洗面所に向かいバスタオルを取り、髪をくしゃくしゃとタオルドライしながら、リビングに向かった。
「ただいま.....あ。」
リビングに入るなり私の目にうつったのは下着姿の麻知だった。ソファーには普段着がかけられており、着替えていたことが分かる。スカートを穿こうとしていたのか黒タイツに包まれた脚は露わとなっていた。上半身は下着だけを纏っており、麻知の真っ白な肌が大人びた黒の下着により際立って見えた。
音に気が付いたのか麻知と目があう。その刹那麻知の顔は羞恥に染まった。
「っ..../////」
「ぁ.......」
滉一と麻知の見つめ合いが続くと麻知の目から涙が出てきた。そして、止まっていた時が動き出した。
「.....ぁ、あっち行ってて(小声)」
麻知は今にも泣きそうな顔で胸を手で隠しながら懇願した。
「ご、ごめん!!」
滉一は我を取り戻し、リビングから出た。
ああ。余計麻知を怒らせてしまったかもしれない。
しばらくすると、リビングから「もう入っていいよ」と声がかかった。
「すまない。まさかリビングで着替えていたなんて思っていなかったから。」
リビングで着替える麻知の無防備さにも問題があるのだが、仮に脱衣所で着替えていてもバスタオルを取りに行ったときに鉢合わせしていた可能性は否めなかった。
麻知は小さく頷くだけで目を潤ませたままであった。
「まじまじと見られて...恥ずかしかった..」
「いや、本当にごめん」
「舐めるように下から見られて...」
「いや、そこまでしっかりは見ていないけど。」
「....」
よく分からないが、麻知の顔が羞恥から不機嫌になったのが分かった。何故だろうか。
「でもそんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか。夜には嫌でも見せるわけだし」
「そういうことじゃないの!コウくんのエッチ!だ、だってそのせ....する時だって暗くしないと恥ずかしいのに...(ボソッ)」
最後のほうが聞き取れなかったが、自分がデリカシーのないことを言ったことはすぐに分かった。
「そういえば早いね。どうしたの?」
「あ、そうだ。近くまで来たから傘を取りに帰ったんだ。」
「もう。届けに行こうと思ったんだからね。」
麻知は拗ねたように文句を言い、滉一に傘を手渡す。
「ありがとう」
「でも、ごめんなさい。私、コウくんの奥さんなのに些細なことで家事を投げ出しちゃって..」
「ううん。俺が悪かったんだよ。麻知の気持ちを考えてなかったなって。...そうだ、これ」
山城は定期入れを見せる。
「あ、これ...」
「うん。ちゃんと麻知の写真はこうしてあるから...その変な詮索はやめてくれ、な」
「コウくん....でも、他の女の写真は許せないかな。コウくんには私だけ見て欲しいんだもん」
「善処するよ...」
仲直りの後、帰宅ついでに昼食も済ませた。お弁当があったのだが、「折角だし温かいごはんを食べて欲しいな」と麻知に言われ家で食事をした。
「それじゃ、午後も外回りがあるから。」
「うん。気を付けてね。今日はいつ帰ってくるの?」
「いつもぐらいには帰ってくるけど。またあったら連絡するよ。
「うん!」
「それじゃ、行ってくるよ」
そう言って滉一は麻知のおでこにキスをした。
「~~~//いってらっしゃい」
麻知の顔は真っ赤になった。しかし、先ほどの赤面とはまた違ったものだった。
閲覧ありがとうございました。
明日はあげられそうにないかもしれません。近々あげますね。。。