リセマラで棄てた美少女勇者が目の前に現れたら?   作:高嶋ぽんず

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一話

 僕、つまり久能忠寿が住む久能家は、地方都市のそこそこに立地条件のいい住宅街にあった。

 

 一昨年の夏頃、父が一等賞金六億円のあの宝くじの、まさにその一等に当選し、地方の商社の課長には不相応な一戸建てを持つことになったからだ。

 

 それまでは、両親に僕の三人家族は、3LDKの社宅に住んでいたのだけど、たまたまくじに当選したらいきなり土地付き6LDKの大豪邸をおったててしまった。しかも、子供部屋は離れで設えられ、僕は離れでの半一人暮らし状態になってしまっている。

 

 養護老人ホームとも早々に契約を結び、年金も合わせて夫婦で悠々自適の老後を送るのだとも言っていた。

 

 そこまで六億はもつのかと思っていたら、僕の将来のことも考えて気前よく一億円を投資信託したのだという。それだけ出費して、六億円の残額五千万円だから、そこそこ切り詰めたのだろうか。

 

 父さんは、なんなら医科大に進んでもいいぞと笑っていたっけ。

 

 もちろん、僕はそこまで頭が良くはない。

 

 ともかく、そんな分不相応の邸宅の僕にあてがわれた離れの洋間八畳間、屋外は蒸し風呂のような真夏の熱帯夜、午前零時。

 

 そんな真夜中、冷房がたっぷりきいた部屋の中で、僕はパイプベッドに腰掛けながら手にしたスマホをフローリングの床に落としていた。

 

 何故なら、さっきまでスマホの中にいた冒険者風の女の子が、今目の前に現れたからだ。

 

 僕はただただ呆然と、その類い稀な美少女を見ていた。

 

 青い瞳は大きくくりっとしていて、鼻はちょんとつまんだような可愛らしさ。唇は薄いピンク色で艶やかさが際立つ。眉は意志の強さを表してるかのようにはっきりしていて若干つり気味。明らかに染色した色ではない、エメラルドを思い出させるような深く美しい緑の髪の毛をポニーテールにして、小さな蝶の髪飾りを結い目に付けている。

 

 左右の腰には申し訳程度の短剣を下げていた。服は藍色のワンピースで金糸の刺繍が縁取りされている。鎧は籠手と脚甲のみの軽装で、籠手はいかつい作りで拳の部分も守るようにできていることから、格闘をメインに戦うキャラだと想像できる。

 

 ルミナ。それが彼女の名前だった。フルネームはルミナ・パスティスというらしい。

 

 プリンセスワールド、通称プリワーの課金ガチャ排出で出てくる三冠の、いわゆる〈使えない〉キャラの一人で、風属性、格闘メインで戦う肉体派。シナリオマップのクリアには不足はないけど、イベントなんかでは役に立たなくなる、典型的な穴埋めキャラだ。

 

 性能面ではそうだけど、目の前に現れたら人目を引きつける美少女ではあるし、プロポーションも群を抜いている。ぱっと見の華が無いのはやはり着ている服が凡庸だからなのか。

 

「ね、聞いてる? 私、何度もあなたを選んだし、あなたもそれにこたえてくれたよね。それなのにどうして何度も契約を破棄するのよ」

 

 その彼女は、僕の前で焼き餅のように頬を膨らましながらカモメ座りで床に座り込む。

 

 可愛い。

 

 五冠のキャラたちは、全員それぞれに群を抜いて可愛かったり美人だったりするんだけど、ある種浮世離れしていて手が届かない雰囲気がある。

 

 でも、目の前のルミナは、手の届きそうな美少女だった。

 

 五冠が、人を寄せ付けない常人離れした美しさだとするなら、彼女は常識内ギリギリの可愛さだ。

 

 そんな彼女が、僕を選んだ? ここは喜ぶところか?

 

 僕は、彼女の前に右手のひらを突き出して、

 

「ごめん、ちょっと待って」

 

 矢継ぎ早に何かを聞いてこようとするだろう彼女を止めた。そして、うっすら痛くなってくるこめかみをおさえる。

 

 まて自分、落ち着け僕。まずそこじゃない。僕が考えるべきところはそこじゃないんだ。

 

 深呼吸する時間は十分ある。えと、素数を数えながら深呼吸するんだっけ?

 

 っていうか、僕、今何か聞かれてたよな。

 

 だめだ。全然思考がまとまらない。

 

 とりあえず深呼吸だ。こういう時は、逆に何も考えないほうがうまくいくって父さんいってたっけ。母さんは、食器を洗えって言ってたような。食器を洗いながら何も考えないのがあの両親の子供のやることか。

 

 よし決まった。

 

 僕はとりあえず立ち上がって部屋を出ようとした。

 

「だからちょっと君、私の話聞いてってば」

 

 と、ルミナが僕を呼び止めた。

 

 そうだった。そもそもの原因の彼女を放っておいて僕は何をしようとしてたんだ。

 

「どうして契約を破棄して何度も繰り返したの?」

 

 うーむ、ゲームのキャラがいざこうして目の前にいると、やはり一人の人間なわけで、どうして彼女のいう契約を破棄したのか、その理由を説明するのに気後れしてしまった。

 

 しかし、どう説明したものか。

 

「えーと、まずルミナさん?」

 

「呼び捨てでいいよ」

 

「あ、そう? ルミナはえーと、自分がゲームのキャラだってわかってる?」

 

「げぇむ? よくわかんないけど、私と契約するために、汎用遠隔交信魔法を使ってたのはわかってるよ。それだよね」

 

 ルミナは、驚いて手放し、床に落としていたスマホを指差して言った。

 

「汎用遠隔交信魔法? いや、これは魔法じゃなくてスマホっていって元々は携帯電話って……」

 

 僕は、これが魔法だというルミナに説明を開始しようとした。そりゃあ、魔法と勘違いされても仕方ないけどさ。

 

「その概念は分かってる。ここが私が住んでいた世界とは異なる世界だって事も、この世界に魔法がないっていうことも。私がそれを魔法っていったのも、そうした方が私が理解しやすいから。そんなことよりいい? よく聞いて。私の世界は、こちらの世界の貴方達がいて初めて人の域を超えた力を振るうことができるの。その為に、私は貴方と何度も契約しようとしたのに、その度に破棄するってどういうことなのよ。ちゃんとした理由を聞かせてちょうだい」

 

「わかったよ」

 

 僕は深くため息をついた。

 

「まず、ルミナ、君はここではゲームのキャラクターで、ゲームの世界から出てきたってことを理解してほしい。ルミナは本来実在しない架空の存在なんだ。そのことはわかるかい?」

 

「ゲーム? さっきからゲームって言ってるけどなにそれ。ゲームって、つまり遊戯ってこと? そこはちょっと理解できないけどまぁいいや。要はこの世界での私は、架空の存在ってことが重要なんだよね」

 

 なるほど。どうやら、彼女は筋力バカではないらしい。むしろ、話の要点がどこにあるのかをすぐに判断できる知性をもったキャラなのはわかった。

 

「で、それがどうつながるの?」

 

「僕は、最初はきみ、つまりはルミナというキャラではなく、別のキャラと契約を結びたかったんだ。知ってるかどうかはわからないけど、サクラとか、イムレットとか、アレイとか、フィンとか。だから、その四人の誰かが出てくるまで契約をやり直していた」

 

 諦めて、彼女が分かる範囲でどうして契約を破棄し続けたのかを説明する僕の言葉を、ルミナは真面目な顔をして聞いている。一言一句逃さない集中力だ。

 

「で、かれこれ五百回繰り返してもう一度やってみようとしたところで、ルミナがあらわれてこうなってるっていうわけで」

 

「ああ……そっか、あの四人と契約したかったのかぁ……そうだよねぇ、確かにあの四人、桁外れの実力だからねぇ」

 

 そして、事情を知ったルミナは、ガックリと落ち込んだ。まぁ、そうだよねぇ。

 

「ルミナ、あの四キャラのこと知ってるの?」

 

「うん、まぁ、知らなくもないかな。あ、それからね、久能くん」

 

 ルミナは、ちょっときつい顔をして僕を見る。

 

「はい」

 

 僕、何か気に触ることでも言っただろうか。

 

「四キャラとかって、私たちをものか何かみたいに言わないでもらえるかな。私たちは久能くんにとっては架空の存在かもしれないけど、こうやって実在するんだよ。ちゃんと彼女たちのことも人として呼んでもらいたいんだよね」

 

 なるほど、そういうことか。

 

 僕は自分の言っていた言葉の意味を理解した。そうだよな、僕も、家族や学校の友人をキャラって呼ばれたら少し癪に障ると思う。

 

「ごめんなさい」

 

 だから、僕は頭を下げて謝った。プリワーの世界で、頭を下げるのが謝罪を意味するかはわからないけどね。

 

「うん。そうそう、そこだよ。私は久能くんのそういう素直なところに惹かれて好きになったんだよ」

 

 ルミナは、腕を組んでうんうんと頷いた。

 

「いやぁ、父さんから悪いと思ったら素直に謝れっていつも言われてたから」

 

 頭をかきながら答えた。そっかぁ、そういうところって普通だと思ってたし、人から美点だなんて言われたことなんて一度もないけど、人によってはそうなんだ。

 

「さてと、久能くんがどうして契約を破棄したのかについては、大体の事情はわかった。でも、キミはあの四人と五百回も契約儀式をやって契約できてないわけよね」

 

 うぐ。痛いところをついてくるなぁ。

 

「まぁ、はい」

 

「それなら、なおさら私と契約した方がいいよ。冠ってのがなんなのかわからないけど、ある程度強くなると、クラスアップの試験があって、それをクリアすると基礎体力なんかが恒常的にあがる魔法をかけてもらえたり、より強いスキルなんかも使えるようになるから」

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