キバって運命をブッ壊す!   作:ふくつのこころ

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オリ主の名前は登太牙の「登」と紅渡の息子(?)の紅正夫の名前の誤植の「正音」から。


登正音(のぼりまさね)の朝

 時代錯誤で古い屋敷の一室、そこでこの登正音(のぼりまさね)の朝ははじまる。

 

 なんとかって家の分家筋が我が登家らしく、その恩恵に預かって俺は高校二年生ながらも大きな家に住むことができている。

 そんな俺の父さんが俺に何度も俺に対して聞かせてくれた言葉って言うのは、「自分の音楽を見つけろ」というものだった。

 それがどういうものでどう言う形であれ、自分の音楽を持つ者というのは、魅力的な男であるらしい。

 朝起きて制服に着替えた後は鏡の前で寝癖を確認、年代物の鏡はこの屋敷にはぴったりベストマッチ!という奴だが、なんとなく俺には合わない。

 それでも、買い換えることなく置いてあるのは小さいときから傍にあるとなると、なかなか捨てられないもの。昔の恋人の思い出の品を捨てられないという話をよく聞くが、思い出に浸る分にはいいのではないかと思う。

 まあ、この鏡は誰か恋人からの贈り物でもないし、ただ昔馴染みの部屋に置いてある家具と言うだけでちょっとアンティークなだけで変な事はない。

 

「さて、今日もバッチリ決まってるな?」

 

 鏡の前で親指と人差し指を使い、銃のような形を作り、顎の近くまで持っていってポーズを決める。なんとなく、無意識のうちに俺の癖になってしまっているらしい。

 

「うわ、朝からまた鏡見てるの?正音は飽きないにゃん……」

 

 背後から覗き込むようにしている溢れんばかりの巨乳を詰め込んだような浴衣姿の黒髪の美女が飽きれた声、それに違わないようなジト目をしたままに鏡に映る。

 彼女は黒歌、妖怪らしいが、どうやら困っていた所を昔に声をかけて以降、登家に転がり込んできた。そんなに詳しく聞かなかったが、ワケアリらしい。

 良い男とは、美女の聞かれたくないことは空気を読んで聞かないものだ。これは、俺の父さんの教えでもあり、登家から見て本家に当たるバスカヴィル家の教えでもあるのだとか。

 古くからの伝統って言うのにあまり関心は湧かないけど、そういうところなら歓迎しておくとしよう。いずれどころか、これから役に立つに決まっているからな。

 

 急に俺の部屋に入ってくることはこれが初めてではなく、最初の頃は声を上げてしまったが、慣れとは怖いもので急に入ってこられるのも慣れてしまった。

 大方、のんびりで猫っぽい彼女のことだ、俺に朝飯を作れと言いに来たのだろう。寝癖で髪が跳ね、口を開いて欠伸をすると、八重歯が見える。片方の手で俺の肩を叩き、手に櫛を持って、「正音、髪してほしいにゃん」と寝癖を直せとおねだり。

 居候の身でありながら、家主に髪を梳かせるとは何事だといいたいところだが、()()()()()()状態では黒歌のほうが俺より強いので、ここは大人しく従っておこう。

 それに美女の寝起きと言うのは、毎日見ても飽きないもので、扇情的な服装のせいか眼福である。特に風呂上りは――おっと、これ以上は言えないな。

 

「椅子に座れ、この俺が髪を梳いてやる。神に感謝しろ」

 

「正音ってば素敵!」

 

 デスクとワンセットになっている椅子を持ってくるのかと思えば、よりによって俺のベッドに座った。せっかく綺麗に畳んだと言うのに……、しかし、寛大な心でそのわざとらしい賛辞と共に受け止めてやろう。

 

「ねえ、シェフ?今朝の朝食のメニューについて教えて欲しいにゃん?」

 

「俺は女には優しくするほうだが……、居候のお前は作ろうとは思わないのか?そろそろ、黒歌の愛情の篭った手料理が食べたい」

 

 大人しく座らせた後、またベッドに上がりなおし、後ろからそっと彼女の髪に櫛を通しはじめる。柔らかい髪質、それに手入れが行き届いているのは、うちの浴室のシャンプーやリンス類が増えたのと関係があると見て間違いない。

 上目遣いで家主にたかる気満々の黒歌にそれとなく言ってみるが、彼女は髪を梳いている間、気持ち良さそうに目を細めるだけで反応を返して来ない。

 以前、黒歌に振舞ってもらった食事はあれはかなり美味だったと言える。正直、俺が作るよりは上手かった。オムライスの玉子をふわふわに仕上げ、チキンライスの具材の火の通りもいい。

 あとは、なによりも美女が作ってくれた食事とあれば、それだけで絶妙なスパイスとなってくれ、食欲が進むし、食後のコーヒーも旨かった。

 確か、あれは何かの記念日でもなく作ってくれた気がするが、黒歌にとっては大切な日だったと見るか否かと裁判中、なお、まだ判決は下っていない模様。

 

「はぁ?ナルシストの癖に自意識過剰?重なってきもいにゃん」

 

「重なるどころか、同じような意味じゃないか。なら、俺はお前の髪を梳く必要がないな」

 

「自分の役割から逃げるつもり?これは毎朝の私の日課なの。勝手に辞められちゃ困るにゃん」

 

 黒歌の言葉はずたずたと俺の心を引き裂き、そして振り返ってからの腹に一発いいのを貰ってしまう。

 その場で悶絶するも、床に倒れ伏せなかったのはファインプレーと言うことにしてもらいたい。……下から覗きこむのも一興?それ以上、朝から心を引き裂かれたくないんだよ、分かってくれるな?

 言葉は悪いが、黒歌なりには俺が髪を梳くことに対しては、それなりに気に入ってくれている様子。

 ご近所に挨拶するときはもっと、こう、絶世の美女っぽい感じで振舞っているじゃないか。

 あの優しさを俺に接する時も分けてもらいたいものであるが、それは叶わぬ願いなんだろうな。

 

 いい具合に寝癖を直し終え、またズレていた浴衣を整えると(整えた直後に黒歌にすぐ崩されてしまうが)、扉を開け、黒歌を伴ってリビングに行く為にリビングへと向かう。

 俺が食事を作るとき、そういう時に限っては腕を組む黒歌、食事を作ってもらうためには機嫌をとることが必要だと薄々感づいてきているのだろうと見える。

 別にそうしなくとも、作ることに変わりはないのだが、これを言ってしまうと今腕に感じている柔らかな感触を味わえなくなるのは少し残念なのでこのままで。

 一個下の後輩の二年の()()()()有名人の奴はかなりのスケベと聞くが、そんな奴が聞いたら羨ましがるかもな。

 

「作っている間に歯を磨いて来い、朝だから期待するな。というか、高校三年男子に料理は期待するな」

 

「嘘。天才の登正音に出来ないことはないんじゃないの?……まあいいけど、今日はゆでたまご多めで」

 

 簡単に言ってくれる黒歌だったが、ちゃっかり、朝のサラダに添えてあるゆでたまごの数を増やせとは、これはいかに。

 は~い、と間延びした返事の後に洗面所のほうへと向かっていく。

 この広い登邸、かなり広いくせに住人の数がそれに釣り合わないほどに少ないと来たものだから、飽き室は残っている。

 二階にあるのは俺の部屋、父さんの書斎があり、一階はリビングと庭があり、地下室もあると聞いたことがあるが、そこへの入り口は閉ざされている。

 来るべき日、そのときになるまで行くことは許されていないということなのか、真偽は明らかになってない。

 

 下手に忍び込んで、何か仕掛けでもあったりしたら大変なのが俺の家の屋敷だ。

 ちょっと特殊ってものではなく、()()()()()()こともあるのだから、同い年の連中を泊めるには、これほど向いていない家もない。

 確かに、そういったお化け屋敷めいたものは高校生って言うのは好きなんだろうけど、あまり家の中を引っ掻き回されるのは俺の好みではないのが本音である。

 洗った野菜をザルに移し、よく水を切った後にサラダを作るための下ごしらえを始める。一流の男には一流の朝食でなければならない、というのが俺の流儀である。

 

「カシラァ~!おはようございます、飯食いに来ました!」

 

 朝から煩い奴らが来た、今日も静かに過ごすことは叶わないらしい。

 

 この俺、登正音の朝は優雅に始まる……はずなんだけどな。

  




年齢としては、正音はイッセーより一学年上の三年生。
卒業後は海外に「自分なりの音楽を探しに行く」んだとか
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