キバって運命をブッ壊す!   作:ふくつのこころ

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候補いろいろあったんですけど、黒歌は振り回すタイプなので、彼女には振り回されてもらう人になってもらいます


その名はキバ

 どうしてこうなってしまったのか。

 

 獣と形容するしかない怪物に不意に襲われた女の名前は、ロスヴァイセ。

 彼女は北欧神話勢力の主神であるオーディンの付き添いにきた戦乙女(ヴァルキリー)である。

 あちらこちらへとフラフラするオーディンの後を何とか付いていこうとしたが、はぐれてしまった。

 こういったところが彼氏ができない原因なのでは、と思考が後ろ向きになってしまう。

 

 普段であれば、戦乙女として優秀な彼女ならば、その怪物に負けることはまずないだろう。

 しかし、腰を抜かしてしまって魔力を操ることさえもおぼつかない。

 食われてしまうのだろうか?

 此処で死んでしまうのだろうか?

 

 ああ、せめて、彼氏は欲しかった。

 

 鍵爪の生えた手で掴まれ、脱出が困難なところに空いた手で振り下ろされる空いた手による攻撃がされようとしたとき。

 最後の最期まで自分が考えていたことに自嘲してしまう、こんなときにまで考えてしまうなんてなんと愚かなことだろうと。

 

 だけど、そんなロスヴァイセの運命は。

 

「お姉さんみたいな美女がいなくなるのは、世界の損失だ!」

 

『ほどほどにしておけよ?身元バレして面倒な思いをするのは、他でもないお前なんだぜ?』

 

 横から軽快な飛び蹴りと軽口を叩いて突っ込んできたのは、蝙蝠男と表現するのがふさわしいような姿をした青年だった。

 お姉さんと言っていることから、蝙蝠男は年下だろうか?バックル(?)部分に付属している蝙蝠らしき生き物が彼を宥めている。

 

「身バレだと?上等よ。そんなのはそのときに考えればいい。キバっていけば、そもそも負ける気しないからな」

 

『頼もしいんだかなんだかわかんねえぜ、それくらいの余裕は王には必要か。よっしゃあ!』

 

「「キバって行くぜ!」」

 

 どうやら、ロスヴァイセが人生で初めて出会った王子様と言うやつは、蝙蝠男で少々軽口を叩く傾向にあるらしい。

 

===

 

 キバになった正音は、銀髪の女性に見惚れたあと、獣の反撃を受けてしまい、吹っ飛ばされる。

 軽口を叩いた後にそれはないとキバットは呆れるが、こんな姿を見せてもなお戦意喪失していないことは評価に値するのではないだろうか。

 

「野郎……!やりやがったな!よくも吹っ飛ばしやがって!」

 

『本音はどちらだ?……あれができれば、対応しようがあったんだが』

 

「ないものはないんだろ?それとも、そんなに俺の力不足だって言いたいのか。蝙蝠野郎!」

 

 キバットはキバの秘められた力である、“従えた異種族を武器として使役する”能力に思いを馳せた。

 どういった種族が該当するのかは正確には決まっていない、それはキバの鎧を纏う者によって決めることができるからだ。

 しかし、その力を今のキバが扱うことはできない。

 正音は自分の力不足が原因か、と言っているが、そんなことはない。

 むしろ、正音はキバとしては十分な素養を持っており、キバの鎧をはじめて纏った日から大きな適性を見せている。

 

 その分、キバの姿に変身していないときの身体能力的な弱さは弱点となっているが、その性格から正音がキバに変身していることは想像できないだろう。

 本人のどうしようもないほどに戦闘中に軽口を叩く癖のせいでいずればれるのではないかと思っているが、キバットは正音のこれからのことを考えて口出しはしないことに決めていた。

 あくまで本人がばれる事も構わないと言っているのであれば、それに任せておこうと。

 この駒王町には、人ならざるものの多くが集まってきやすい場所であることもあり、酷い目に遭わされることはないだろう。

 

 もちろん、かつてのようにキバの鎧を狙ってやってくる者がいないとは限らないので注意をしておく必要がある。

 これまでのキバの鎧の装着者のように正音には未だに()()()姿()に変わることがなく、キバとしての姿が正音の自衛の手段であり、()()()姿()に等しかった。

 

「速くて捕まえ辛ェな!」

 

 キバは横から蹴り飛ばした獣のごとき姿をした怪物(以後、獣)の姿を捉え辛いスピードで撹乱してくることから悪態をついた。

 

『ああいう奴は基本、体力が馬鹿に多いってことはないと相場が決まっているモンなんだ!だいたい、そういう奴はパワータイプって決まってるからな。移動してる奴ってのは、実は一番無防備なんだぜ?それがどういうことか分かるか?』

 

 高速で移動しながらも、獣はキバに鋭い爪で攻撃を加える。

 「X」を描くように交差した動きを繰り返し、キバに与えるダメージは徐々に大きくなっていくのが分かる。

 キバに変身したことによって上昇した身体能力、その恩恵から視力は通常よりはずいぶん良くなっている。

 その姿がキバットにとっては()()()()()()()であることに気づくと、キバットは笑みを隠せない。

 

「移動することに意識を裂いているから、自分の身の心配までできない?」

 

『――当たりだ。あと、あいつの力を利用するぞ!』

 

「は?あの綺麗なお姉さんを襲った奴のか?」

 

 再度、獣の大振りな攻撃がキバに触れると、その腕を掴んで嫌そうにキバが反応するものだから、キバットはこの女好きめ、とため息をついた。

 

『使えるものは使っておかなくちゃな。方法は俺に任せておけ、まずはあいつの体力を削るところからが先だ。いいか?いつもの癖でやりすぎるなよ?必殺の蹴りは……、なんだったか?お前が付けた名前は』

 

「名前なんざどうでもいいって言ってなかったか?」

 

 正音が揚げ足を取ると、うるせえ、とキバットが怒る。

 周囲を一気に闇に変え、満月を背に膨大な量のエネルギーを対象に叩きつけるキバの必殺技。

 

「ダークネスムーンブレイク」

 

『そう、それだ。今日は使用禁止だ。あれがなくて倒せないってわけでもねえだろ?大丈夫だ。不安なら、また俺様がアドバイスしてやる』

 

 ナルシストで自意識過剰、女好きな正音がわざわざ相手を仕留める為の技に名前をつける当たり、年相応なところがある。

 変に凝っているところが正音らしいが、理由は「そのほうが覚えやすい」という。

 シンプルに必殺技とかの認識でいいのではないか、というのがキバットの意見だが、正音にとってはそのほうが美しくて大事だと言う。

 

「そんなに柔じゃない。なんとかできる。あとで、あのお姉さんに連絡先渡すんだ!」

 

 キバは、正音は自信満々なところを見ると大丈夫そうだ。

 

 キバットが状況が良く分かっていない銀髪の女性が慌てているのを見ると、あとで説明する必要を感じた。

 全く、その場から逃げる様子を見せないのは肝が据わっているからではなく、おそらく、彼女は腰を抜かしてしまったからだろうと予測する。

 

 キバが掴んだ獣を地面に叩きつけると、獣は唸り声を挙げてキバに取っ組み合いを持ち込む。

 キバと同等か、それ以上の腕力はキバが少しでも力を抜いてしまえば、簡単に形勢をひっくり返されそうだ。

 だが、その心配はないとキバットは断言できる。

 戦闘に持ち込む前だとか先のやり取りから、キバの姿で正音が銀髪の女性にいいところを見せようとしているのは分かりきったことだ。

 

 その「よく見られたい」というモチベーションがキバとしての正音の心の火を大きく燃え上がらせる。

 その感情が居候の黒歌に関わったときから燃え上がっていたのを考えると、キバットの決め台詞である「キバって行くぜ!」と似た「キバってブッ飛ばす!」というのは正音にとっては自分を奮い立たせる言葉なんだろう。

 

 格好良さゼロの泥臭い試合に持ち込むも、手で獣を拘束しているからか、キバは拳を使うことができないので、足で押さえつけ、獣に頭突きをかます。

 獣の脳はキバの頭突きによって脳震盪を起こすも、ふらふらと立ち上がってキバに突進攻撃を仕掛ける。

 それを華麗な動作で避けた後、魔力を左足に集中させ、蹴りを叩き込んだ。

 

『……お前、カウンタータイプに仕上がったな。そんなにキック好きだっけ?』

 

 気絶した獣を見ながら、さかさまにぶら下がった状態でキバットが正音に尋ねる。

 

「気づいたら、こっちのほうが身についてたんだ。華麗だろ?」

 

 正音は得意そうに返す。

 おそらく、仮面の下ではドヤ顔であろう。

 

『なかなかエグい戦法取ってた奴の台詞じゃねえぜ、そいつは。……まあいい、あとは俺様に任せておきな』

 

「キバット、頼んだ」

 

 キバットがベルトから離れると、キバは銀髪の女性に近づいた。

 

「やあ、素敵なお姉さん。怪我はない?大丈夫?」

 

 キバは膝をついて手を差し出す。

 

「助けてもらってありがとう。貴方は、誰?牙って聞こえたけど……」

 

 助けてもらったのはいいが、キバの姿は銀髪の女性、ロスヴァイセには同じに見えてしまった。

 疲弊している今の状態、少し後ろに下がってしまう。

 失礼なことをしているのは分かっている、だけど、それ以上に頭が追いつかないのだ。

 

 自分の危機にあまりにも急にキバは現れたのだから。

 

「俺が誰かって?俺はキバ。あの蝙蝠もどきは相棒さ」

 

『相棒っつーより、保護者みたいなモンだけどな。見たところ、()()()()()()()()()ってのは分かるが、油断すんなよ?今日見たいには行かないからな』

 

 キバットは獣だったものを刀身を折りたたんだような刀剣へと変化させ、それを隣に浮かせていたが、どこかに飛んでいってしまった。

 

「え、蝙蝠が喋ってる……!?」

 

『お、新鮮な反応だな?嬉しいぜ。……もう用は済んだし、帰るぞ』

 

 キバットの姿にロスヴァイセが驚くと、キバットは新鮮な反応に喜んだが、キバの頭の周りを飛びながら急かす。

 

「そうだ、お姉さん。別れる前に、「失礼しますっ!」

 

 ごそごそとなにか紙とペンを探そうとするキバだったが、ロスヴァイセは慌てて立ち上がって走り去ってしまった。

 

『お、ちょうど戻ったの今か。見られなくて良かったな』

 

「別に俺は構わないんだけどな。バレても」

 

『あのなあ……』

 

「キバットがうだうだ言ってたからだぞ。あのお姉さん置いてきぼりにするような。また会えるといいな」

 

 キバの変身が解除されると、正音はため息をついた。

 しかし、この町にいるということとなれば、またどこかで会えるのではないだろうか。

 そう思うと悪いことばかりではない。

 

 キバットと正音は、帰路に着いた。

 

===

 

「おお、ロスヴァイセか。どこに居ったんじゃ?」

 

 ロスヴァイセが走り去った後、探していた相手を見つけるのはすぐのできごとだった。

 

「オーディン様!あれほど離れないでくださいと言ったのに……」

 

「すまんすまん。いい女がいてのう、追いかけるのは男のサガじゃろうて」

 

「あのですね、オーディン様。貴方はもうちょっと自分の立場と言うものを……」

 

 ロスヴァイセがやっとのことで見つけた、オーディンと呼んだ眼帯の老人こそ、北欧神話勢力の主神である。

 ギリシャ神話の主神のゼウスのようなスケベ親父振りには、魔術師の側面を司ると本を読んでオーディンのことを知っていたロスヴァイセにとっては真面目で堅物そうだというオーディンに対して抱いていた印象の予想を裏切られるものとなった。

 

 今回の付き添いだって、他の同僚が忙しいと聞き、そこで白羽の矢が立ったのがロスヴァイセであった。

 確かにその奔放な性格はとっつきやすくはあるものの、もう少し、自分の立場を知って振舞って欲しいと真面目なロスヴァイセはオーディンに対して感じていた。

 

 奔放と言えば、自分のことを「綺麗なお姉さん」と呼んで腰を抜かして魔物らしきものに襲われていたところを助けてくれた蝙蝠男を思い出すが、やりすぎなところもあるものの、やんちゃで可愛らしいとも取れた。

 

 あの喋る蝙蝠については気になるところもあるが、あのように異性に接触されたのは彼女の人生の中でもはじめてだ。

 お姉さんと自分の事を呼んでいたことから年下なのかな、と思案をめぐらせるものの、それが正音の見知らぬ女性への呼称であることをもちろん彼女は知らない。

 

「頭が固い、ロスヴァイセの説教はもう聞き飽きたのう。……誰のことを考えていたんじゃ?もしかして、はぐれた間にいい男にでも会ったのか?」

 

「ち、違いますっ!そうだとしても教えません!」

 

 耳が痛くなるほど聞いたロスヴァイセの小言、それに面倒くさいといった表情をオーディンは隠そうともしない。

 にやにやしながら、上司に尋ねられると、それを肯定するような反応を見せるものだから、オーディンは確信する。

 

「ついにロスヴァイセにも恋か……。名前は聞いたのか?」

 

「名前、ですか?」

 

 あの蝙蝠男は確か、このように名乗っていた。

 

「キバ、と。確か、そう名乗ってました。牙って変な名前ですよね。私のことを綺麗なお姉さん、なんて……」

 

 照れて顔を真っ赤にする部下、その長い生の間で酸いも甘いも知る隻眼の主神は現実と言う刃を突き刺す。

 

「それ、ナンパ男の手口じゃぞ」

 

 ショックを受け、口をあんぐりと開けてしまっている彼女。

 キバと言う名前に思い当たるところがあるのか、オーディンは歩き出した。

 

「あ、待ってください!どういうことですか、それは!」

 

 その後を慌ててロスヴァイセが追いかけた。




キバットがこの獣に目をつけたのは、その素早さから原作・仮面ライダーキバのがるるフォームのような高速戦闘ができるところに目をつけました。
キバとキバットには設定に幾つかアレンジを加えています。

真面目ちょろいロスヴァイセさんかわいい(確信)
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