キバって運命をブッ壊す!   作:ふくつのこころ

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久々に投稿しますけど、もうビルドも終わっちゃうんですよね。



牙の剣

 牙の一族との物語は、寝物語で何度も聞いたことがあった。

 彼らはおぞましく、それでいて悪魔である私たち以上の身体を持ち、吸血鬼のように生命エネルギーことライフエナジーを吸い上げる特性を持つ。

 しかし、その身体の表面に浮かび上がっている体表の一部のステンドグラス状になっている部分はとても美しいものであるとお兄様が言っていた。

 

「彼らに同情するのかい?私の可愛いリーア」

 

 『おうごんのおう』という絵本を読み聞かせてくれた、お兄様は絵本を閉じて幼かった私の頭を撫でた。

 お兄様、お父様と同じ美しい紅髪はお父様もお母様も自慢だと褒めてくれ、私にとって誇らしいもの。

 

「だって、あんまりだと思うの。だれかをまもるためにたたかったのに、むくわれないなんて」

 

 私が頬を膨らませると、優しい笑顔を浮かべたお兄様は私に顔を近づけた。

 

『おうごんのおう』。

 

 特別なエネルギーを摂取しなければ生きられない、というのはファンガイアの王を元にした物語であるというのは今になって分かった。

 

 肝心な内容は、社会に潜むようにして暮らす一族の物語であり、一族の宝を狙ってやってきた者と頑固な王が仲間を守るために立ち上がるというもの。

 

 

 主役である牙の一族の王は他の者の追随を許さない、闇に紛れて必殺の一撃を放ち、スピード、精密さ、パワーに優れる能力を持ち、一族の規律と安全を守るための戦う力を持っている。

 そして、本当に守るべきものの為に牙の王は黄金の姿となって剣を振るって強敵に立ち向かったという。

 

 

 だけど、牙の王は敵対していた一族との戦いに敗れてしまい、己の命と引き換えに一族を守ることを選んだ。

 しかし、その約束は守られることはなかった。敵対していた一族は、牙の王から何もかもを奪い取ってしまったのだ。

 

 

 牙の王はとても真面目で融通が利かない頑固なところがあると絵本に書かれていたが、今となって分かることがあるとすれば、牙の王は自分の家族や仲間を守るために戦っていたからこそ、非常に徹していなくてはならなかったのだと思う。

 

「……驚いた。君はいつまでも小さな可愛いリーアではないらしい」

 

「おにいさま、わたしもいつまでもちいさなおんなのこでいるつもりはないわ!グレモリーのレディよ?」

 

 寝間着姿で得意気に言うことではないのだけれど、お兄様に言うと、私の頭をなでながら、お兄様は私の頬を突く。

 

「そうだったね。……だけど、これだけは覚えておいて欲しい。情愛を大切にするグレモリー、我が家の精神を受け継ぐ冥界の未来を担う者よ」

 

 私の頬を優しく触れ、お兄様は言葉を続ける。

 

「この君に読み聞かせをした、『おうごんのおう』は教訓、つまりは教えをテーマにした絵本なんだ。約束は守られるとは限らないというものでね」

 

「でも、えほんはやくそくをまもるたいせつさをおしえるものじゃないの?」

 

「そうだね。君は『おうごんのおう』の情愛の深さを学んでくれた。それが大切なんだ。だけど、こればかりは覚えておいて欲しい。知ってのとおり、魔王と言う私の務めている役職と言うのは必ずしも上手くいくことだけではない。これから、君はきっと大きな壁にぶつかる事だってあるだろう。理想と現実の違いに気づくこともあるだろう」

 

 

 

 だからこそ、仲間への情愛を忘れないで欲しい。

 

 

 この『おうごんのおう』のエピソードは、この言葉による締めくくりもあってか、今でも私の心に深く刻まれている。

 

====

 

 ステンドグラスが浮かび上がった巨人のことを俺はキバットに聞いたことがある。

 

 サバト。

 

 ファンガイアの遺体が集合し、誕生するファンガイア版フランケンシュタインの怪物と言ったところか。

 そんなものを北欧神話のトリックスター、ロキが作り出せることに疑問を隠せないが、そういう()()()をやってのけることがロキがロキたる所以なのかもしれない。

 質量を持たないサバトの振り下ろされる拳を受け流すようにしながら、回し蹴りを叩き込む。

 拳をぶち込むのもいいが、どうやら、キバの姿と言うのは脚のほうに魔力を集中させやすいようになっているらしい。

 

 モチーフが蝙蝠であることを考えれば、脚力が相当凄いことになっているのだろう。

 難しいことはよく分からないが。

 

 

 

Booooooost!!!!!

 

Transfer!!!!

 

 機械音が響いた後、俺の身体に力が漲る!!!!

 

「先輩!受け取ってください!」

 

「どういう仕組みかわからねえが、ありがたく受け取っとくぜ」

 

 赤い鎧の姿、たぶん、イッセーの奴だろう。

 イッセーがそんな能力を隠し持っていたことに吃驚したが、キバの力のことについて全く話さなかったことを思えば、ヒトのことは言えないけどな。

 しかし、サバトの奴、蹴り飛ばしても、質量がないモノだから、聞いているのか聞いてないのか分からないのが辛いところだな。

 

 木場も姫島もそれぞれが剣や魔法で応戦しているが、イッセーの家にホームステイしているとの噂のアーシアちゃんを守りながらの戦いはきついだろう。

 多くの触手のような腕を持つサバト、しかも攻撃を加えても通用しているのかどうか分からない敵と言うのはやりづらいものだ。

 イッセーたちの実戦経験がどれほどのものか分からないが、おそらく、ここまでやりづらい相手と言うのは出会った事が無いだろうと予測できる。

 

 イッセーの能力によって強化されたような気がするのは、脚力だけではない。

 全体的に能力が飛躍的に上昇しているのが感じられるのは、拳のラッシュを叩き込んだときだ。

 いつも以上に身体のキレがよく、蹴りも拳もいつも以上に威力が上がっているのはいい感じだ。

 

「こいつは便利な力だな?味方の能力を引き上げつつ、その姿でブッ飛ばすのか?ある意味、支援も白兵戦の両方をこなせるとは大したもんだな。俺には勝らないが」

 

「貴方って本当に軽い方なんですのね?お付き合い、お断りしてよかったですわ!」

 

「おいおい、今その話をするんじゃない。……もしかして、アレか?まだ俺に未練でも?」

 

 拳を作り、開いては閉じてを繰り返す。

 やはり、身体の面が非常に好調だ。

 銀髪の素敵なお姉さんにいいところを見せたいのが本音だが、その前に俺がくたばってしまっては意味がない。

 ちょっと、俺に未練があるような物言いをされてしまっては、俺としても受け止めざるを得ない。

 この先、何人もの女をまとめて愛するくらいの気概はもっとかないとな?

 

「こら、朱乃。登くんも煽らないの!……イッセーは赤龍帝だもの、最近は色々あって強くなったんだから!」

 

「まあ、リアスがそういうなら……」

 

 リアスに諭され、しおらしくなる姫島。

 そういうところがあるから、俺はお前に惚れたんだと言いたいところだが、こちらを見る目にいい意味でも悪い意味でも感情が篭っているのが見える。

 

 

 

「それ以上、それを言ったら容赦しない」

 

 

 そんな風に言っているようにも見え、姫島は実は大和撫子でもなんでもなく、本性はサディストと言うか苛烈なんじゃないか?

 そこも踏まえて魅力だと思うが、そういうところを伝えるべきはあいにく俺じゃないのが寂しいところだ。

 

=====

 

「……なんだか、部長と朱乃さん」

 

 俺と木場と小猫ちゃん、あとアーシアにとっては珍しい光景が広がっている。

 

「そうだね、あんな風に取り乱しているというか、感情を見せてる朱乃さんは珍しいんじゃないかな」

 

 木場が小猫ちゃんに同意する。

 ステンドグラスの怪物に応戦しつつ、コウモリ男の姿の先輩と部長と朱乃さんの三人が背中合わせになっているのは、なんだか不思議な気分。

 遠慮がなく、思ったことをすぐに口に出来る仲であろう三人、俺たちの前では微笑を絶やさない素敵なお姉さんと言った感じの朱乃さんだけど、部長の前ではプライベートとかだったら、あんな感じになるって聞いたことがある。

 

 部長と朱乃さんが仲が良いというのは知っているけど、まさか、正音先輩の前でもすを曝け出すなんて意外だ。

 はじめて部長の婚約者だった、ライザー・フェニックスに通ずるような女好きを感じさせる先輩だけど、あの三人の空気は俺や松田と元浜で三人で馬鹿をするような感じに似ているものがある。

 昔からの知り合いというか付き合いだって言ってたし、遠慮をしなくて言い関係と言ったところなんだろうか。

 

「おい、後輩三人!お前らに華を持たせてやるから、俺の姿を恰目しながら、よぉく焼き付けとけ!」

 

 一連のやり取りが終わった後、正音先輩が叫ぶ。

 青い笛の吹き口のようなモノをコウモリの口元に運ぶと、フルートのような音色が響き渡る。

 すると、青い刀身を折り畳んだような武器が先輩の手に納まり、複眼と体の一部が蒼に染まる。

 刀身を開くと、カーブを描いた剣を肩に乗せるように構える様はチンピラとか少年漫画の主人公のよう。

 

「正音、名付けてそれはファングセイバー!本当はもっと正しい名前があるんだが、それとは全くの別モンだ。お前、剣の心得はあるか?」

 

「美しい刀身だし、俺にピッタリの武器じゃないか。それに美女もいるとあれば、冴え渡る。知ってたか、キバット?俺は剣術においても頂点に立つ男だ」

 

 

 キバットと呼ばれたコウモリと正音先輩のやり取りを聞いて、部長は楽しそうに見えるのは気のせいじゃないだろう。

 それから、なんとなく不服そうな朱乃さんと楽しそうに笑っている部長の支援を受けつつ、蹴り技を主体にしつつ、その剣でステンドグラスの怪物の攻撃にカウンターをぶつけるように叩きつける。

 隣の木場が「あれじゃあ剣の持ち味があまりないよ」と言いたげだったが、徒手空拳を除けば、喧嘩殺法の色が全面的に押し出されている先輩と俺の剣術は同じレベルだ。

 徒手空拳では向こうの方が上だけど。

 

「忌々しい()()め!その形態でも渡り合えるか!」

 

「悪いな。神だろうがなんだろうが、俺は自分の中の音楽って奴を信じてるんでな。だから、」

 

 ステンドグラスの怪物をその青い剣――ファングセイバーで切り捨てた先輩、雨のように降り注ぐ怪物の身体の破片が粒子へと変化するのが一つの演出のようにしてみせ、ロキの方を振り返りながら、右手で拳を作る。

 

「神だろうがなんだろうが、キバってブッ飛ばすだけだ」

 

 

 

 


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