そもそも、ISとはなにか?
篠ノ之束が作り上げた、複製不可能である産物とされるISの動力源を解明できたものはいない。束も製作にあたり、そのあまりにも反則といえる性能に危機感を覚え、厳重にブラックボックス化したためにどの国の研究機関でもそのコアの中身を完全に把握できていない。
しかし、そのコアを搭載したISが生み出す数々の現象を分析すれば、おのずとその特性の予想は可能である。束がかつてイリーナに説明したように、ISコアが持つ機能は大きく分けて三つ。
動力源。操縦者の生命維持。自己判断能力。
このうち、自己判断能力に関しては束がそれぞれのコアに個性が出るように“種”として仕込んだものだ。第三形態に至ったISはまだごく少数だが、すべてのISが個性を獲得できる可能性を宿している。操縦者の生命維持も宇宙空間での使用を前提に考案されたので当然の機能だ。
残る動力源としての機能――――これこそが束が誰にも明かすことのなかった、ISの原点であり、すべての源泉だ。
半永久機関として作られた、ISコアの心臓部――――それが【ディストーションドライバー】。空間歪曲機関と称される、ISの動力源となる、その正体である。
起動するための初期励起エネルギーさえ確保すれば、限界生成速度を超えない限り半永久的にエネルギーを生み出す夢のエンジン、いや、世界を破滅させるほどの危険を孕んだ破滅級の動力機関である。 ―――「機密云々は抜きにしても、さすがにこれはヤバいと思ってブラックボックス化をせざるを得なかったよ」とは束の言葉だ。
とはいえ、仮に解析できたとしてもそうやすやすと再現できるような代物ではなかった。その動力源の核となるのは、かつて束が運よく手に入れた隕石から抽出した地球外由来物質。それと地球由来物質を掛け合わせて作り出した合成物質―――それがオリハルコンの原型ともいうべき結晶であった。ゆえに、束以外の誰にも構造は知りえないし、最初期の467個という限定された数しか用意できなかった理由である。精製方法も束の頭の中にしか存在しないという徹底した機密管理をしている。そこまでするほどの代物なのだ。
そしてその特性は、空間干渉。
外部からエネルギーを与えることで内包する量子スピンに作用し、常磁性を瞬間的に上昇させて周囲の空間に歪みを生み出すという、地球上では考えられない現象を生み出す。これを動力に利用することを思いついた束は、この空間干渉作用を制御し、意図的に空間歪曲を起こすことでその反作用、歪みが元に戻る【歪曲復元】によって再び外部にエネルギーを取り出す半永久機関を作り上げた。
これが歪曲機関、ディストーションドライバーの原型である。
すなわち、ISのシールドエネルギーとはディストーションドライバーによって供給されたエネルギーであり、シールドエネルギーの枯渇とはエネルギー供給が一時的にストップした状態だ。励起させてしまえば歪曲制御さえも反歪曲作用からの抽出エネルギーで賄えるため、供給量が不足し、歪曲制御に必要なエネルギーの確保ができなくなるまでに使えばコアが停止する。これがISにおける機能停止状態となる。IS戦でシールドエネルギーがゼロになる、イコール、供給されたエネルギーを使い果たす、ということだ。
逆を言えば、――――使い果たさなければ、過剰使用しなければ半永久的に起動し続けるということだ。
そしてカレイドマテリアル社のバックアップを受けた束によって完成形たるディストーションドライバーの核となる物質―――ー伝説の金属の名を関するオリハルコンが精製された。
エネルギーを加えることで周囲の空間に干渉するという特性を備えた超常物質である。その応用の幅はすさまじく広く、動力源としての利用もISのみでなくスターゲイザー級の大型艦、移動式人工島まで、サイズに見合った規模の歪曲炉を造ればそれだけですべて賄えてしまう。励起エネルギーさえあればあとは勝手に爆発的にエネルギーを生成できるのだ。そしてこのオリハルコンをISの装甲そのものとして利用することでIS自体に空間干渉作用を付与することになる。
セシリアの機体【ブルーティアーズtype-Ⅲ/evolution】はこのオリハルコンで装甲を形成しており、空間歪曲現象を利用した外部から受ける攻撃に対する耐性と、単一仕様能力使用時における光の集約にも利用している。そもそもこの装甲自体が莫大なエネルギーを生み出すのだから、装甲そのものがジェネレーターの役割を担っている。主機関であるコアと副機関となる装甲を合わさることで通常より遥かに豊富なエネルギーを活用でき、当然長期戦にも長ける。
これを利用して作られたものがD2カタパルトエレベーター、空間歪曲を利用した地表から宇宙へと上がる射出装置だ。
基点と終点の座標を決定し、その間の空間をまるごと歪曲、その復元作用を利用し、基点から終点へ空間ごと移動する。終点を引き寄せ、元の座標に戻ろうとする終点に乗って移動する。スターゲイザーの空間航法と同じシステムであるが、スターゲイザーの場合は本機しか移動できないものに対し、D2カタパルトエレベーターはその規模に設定された限界許容内であれば不特定多数を同時に運ぶことが可能だ。大型のカタパルトなら、艦隊そのものを即座に宇宙に上げることも可能だ。
当然、相応のオリハルコンを必要とするが、そこは束の技術力とイリーナの資金力というふたつの力技で解決した。そのために小惑星をまるまる資源として食い潰したが、もちろん公表されることのない事情である。
そして、それがどれだけのコストをかけようとも実証してしまったことが最大の切り札となった。
エネルギー問題に決着をつけることができる可能性を持つだけでなく、資源を食い尽くしつつある地球の外へと進出することも可能となる技術だ。国ひとつですべてを纏めるには規模が大きすぎ、世界全体での協力体制を余儀なくされるほどのオーパーツ級のテクノロジーだ。それを、しかもご丁寧に様々な応用・派生技術も作り上げて世界に示したのだ。
誠実にして悪辣。正道にして邪道。そんなプロデュースを全世界を強制的に巻き込んで叩きつけたイリーナ・ルージュの名は間違いなく人類史が続く限り語り継がれるであろう。そして発明者である篠ノ之束もまた、偉大な功績として称えられることは確実だ。
このディストーションドライバーの技術提供をちらつかせるだけでどんな相手に対しても絶大な交渉カードとなる。宇宙進出という目標のための、実現するためのテクノロジーであり、同時に世界経済・情勢を味方につけるための餌としてもこれ以上ないものだ。
イリーナ・ルージュと篠ノ之束が手を組んだ最大の理由といっても過言ではない。イリーナだけでは現実として技術力が足りず、束だけではせっかくの技術も世界に浸透させられない。それどころか一度、束はいいように利用されたことがあるだけに身に染みて理解していたことも大きい。互いにできることとできないことを理解し、そしてそれを補完し合えると判断してこその同盟だった。
どちらかだけでは頓挫した計画も、二人が手を組むことで問題を悉く解決し、とうとう宇宙への道を拓く王手をかけた。
【宇宙へ行く】。その理由は違えど、この大前提とした目的が一致したからこそ、暴君と天災は手を組み、ここまでやってきた。IS委員会の存在意義を喪失させ、アメリカを味方につけた時点でほとんどの問題はクリアされたも同然だった。
――――残る障害は、あとひとつ。
束にとっては怨敵であり、イリーナにとって最悪の姉の残滓。亡国機業を従えるマリアベル――――レジーナ・オルコットのみ。
アイズやセシリア、それぞれ個々人で精算するべき因縁は残っていれど、最終的にはレジーナ・オルコットの打倒へと集約される。偶然、という言葉では出来過ぎているそれは、運命の悪戯なのか、はたまたそれすら魔女の掌の上なのか。
それはまるで運命の収束点。因縁という糸によって作られた蜘蛛の巣の中心部。そこに待ち受けるのは彼女たちにとって、最後に超えるべき悪夢。
謀られたように集められた因縁の渦中で、魔女もまた、その時を待ち続ける。
それは、すぐそこまで迫っている――――。
***
急速に変化していく戦況を見据えながら、セシリアは思案する。
ここまではほぼ予定通り。正面決戦を臨み、敵部隊の戦力を削りつつエース級の幹部クラスを誘引。できることならこの場で全員を撃墜したかったが、それでも全員を足止めするという最低限の戦果は挙げている。
オータムの駆る大型機は鈴が撃破。脱出したオータムもセシリアの狙撃で落としている。
シールはアイズが迎撃。戦域を移動しながら、未だ戦闘中。もともと拮抗していた二人だけに、長期戦は当然だろう。
マドカは多数の無人機を率いての集団戦を執りながらセプテントリオンの主力部隊と交戦していたが一時撤退の動きを見せている。しかし、おそらくはこのままだと側面から強襲している一夏、箒とぶつかるだろう。
クロエはラウラが迎撃。一時は両機をロストしたが、再び現れたクロエがIS学園の部隊へ強襲。同じく戦域復帰したラウラが簪、蘭と共に交戦中。
スコールにはセプテントリオンにも手痛い被害を与えられたが、シャルロット、シトリー、リタ、京の四人がかりで撤退させている。現在の位置はロスト。
現状は五分よりややこちらが優勢に推移している、といった具合だろう。未だ無人機という簡単に量産可能な機体のために亡国機業側の戦力は底を見せていない。質で高いのは有人機のみだが、数の暴力も侮れない。セプテントリオンとシュヴァルツェ・ハーゼ、IS学園の応援部隊で応戦している。
優勢に傾いているのはやはり鈴が単機で相手のエース機の一角を落としたことが大きい。もともとタイマンに異様に強い鈴だけに、そうした役割を期待していたことも確かだ。フリーとなった鈴のおかげで島に上陸された地上の敵戦力はほぼ駆逐できている。完全に第三形態に覚醒したために大型機でさえ単機で容易に撃破する鈴の存在は現状の最優のカードだ。上手く使え、という鈴の言葉通り、彼女の動かし方で今後の戦況の情勢も変わってくるだろう。
懸念は“上”のほうだが、そちらに対処するには地上を制圧しなくてはならない。イリーナの策がうまくいけばこれ以上の増援はない。本命を打倒するためにも、まずは残存勢力を排除する必要がある。少なくとも、エース級は無力化しなくてはならない。
「………」
ふと、視線を上へと向ける。もちろん見える距離ではないが、この先にこそ、セシリアの運命が待っている。マリアベルが単機で軌道ステーションの制圧を仕掛けてきたのは予想外だったが、劇場型の演出を好む性格を考えれば納得もできる。おそらく最後の決戦の舞台として、あの場所を選んだのだろう。
間違いなく、マリアベルはセシリアがやってくることを待っている。そう確信できていた。本人としては最高の舞台でもてなそうとか、そう思っている程度なのだろうが、そのためにどれだけの被害を出しているのかわかっているのだろうか。
いや、理解していても実行するのがマリアベルという女―――セシリアが知る母たるレジーナ・オルコットであった。もちろん規模は段違いだが、昔もどんな些細な事でも、やりたいと思えばどれだけの出費や労力を費やすことにも頓着しなかった。そしてそれは、誰かの不幸であっても変わらないのだろう。
「ですが、それも今日で終わりです」
ただそこにいるだけで誰かの不幸を糧に、災厄を撒き散らす魔女。そんな母を止めることは、娘である自分の責務だ。義務感にも似た意識で、セシリアは肉親の情を封じ込める。いや、情があるからこそ、これ以上母のあのような姿は見たくないのだ。
「止めて見せます。私が、あなたの娘であればこそ――――」
「その必要はありません。あなたはここで消えるのですから」
轟ッ、という音と共に猛烈なプレッシャーが真下から放たれる。そして瞬時に周囲の気温が上昇、すさまじい熱気と共に、鉄すら軽々と融解させるほどの熱量を持った炎がセシリアに向かって迫っていた。
「ッ!?」
索敵を潜り抜け、この距離まで接近されたことに一瞬動揺しながらも即座に回避運動を行う。しかし、ドレッドノート級の特徴であるその巨体ゆえに初動が鈍く、回避しきれずに主砲であるプロミネンスの一つに直撃を許してしまう。あっさりと砲身が吹き飛び、それだけでなく炎に舐められた装甲が融解する。
なによりもその容赦のない攻撃にセシリアは表情を変える。今の攻撃は完全にセシリアを消すつもりだった。その威力はISの絶対防御すら簡単に消し飛ばすほどのものだ。もしセシリアに直撃していれば、もしかしたら即死していたかもしれない。明らかに殺意の込められた攻撃に、襲撃者が本気で自身を狙っていることを理解する。殺すつもりはなくとも、死んでもかまわないほどには思っているだろう。
「炎の能力……スコール・ミューゼルですか!」
「ええ。初めまして。早速だけど、死んでくれるかしら?」
スコールの駆るISを視認すると同時に、再び炎がセシリアを襲う。ドレッドノートの出力を上げ、高機動を維持しつつ迎撃行動に移る。レーザーガトリングカノンとミサイルで反撃するも、あっさりと回避され、さらなる猛攻を加えてくる。
「私を狙うことはわかりますが、そこまで殺意を向けられる覚えはないのですがね……!」
「さて、どうでしょうね。私が言えることは、ここで死ぬほうがあなたの為ということです」
「それは、どういう意味です?」
セシリアの問いかけには答えず、代わりに激しい炎と砲撃を返すスコールの眼に冗談の色はない。そこにあるのは純粋にセシリアを狙う殺意のみだ。理由はわからないが、スコールはどうやら本気でセシリアをここで消すつもりだ。
無論、セシリアもやられるつもりはない。だが………。
―――――強い!
セシリアでも、スコールは手強い。激しい攻撃をしながらも、まったく隙を見せない。そしておそらく単一仕様能力であろう、あの炎もかなり厄介だった。
鈴の駆る甲龍の第二単一仕様能力【龍雷炎装】と酷似しているが、その性質はまったく違う。鈴の場合はあくまでISコアの排出エネルギーを炎という形で制御下に置いているのに対し、スコールの操る炎は純粋にその熱量が脅威だった。装甲を軽々と融解させるほどの高熱。加えて明らかに遠距離型の能力だ。鈴の場合は遠距離攻撃はただ炎を放つだけの単純なものだが、スコールの操る炎はしっかりとした戦術理論が垣間見える。鞭のような形状にもできることから応用の幅も広い。なにより直撃を許せば即撃墜という威力だ。どうやらシャルロット達と戦ったときは手加減をしていたようだ。
「あの人は、私との闘いを望んでいると思っていたのですが?」
「ええ。だからこそ、あなたを会わせるわけにはいきません」
「意外です。あなたは、独断専行をするようなタイプには見えませんが……」
「それは私の事情です。もともとあの方からは反逆の権利すらいただいているのですから、ここで意志に逆らっても構わないでしょう」
「反逆の権利、とは。また酔狂なことを」
しかし、そう言いながらもスコールの言葉から感じられるのはマリアベルに対する敬意だけだ。裏切るにしても、セシリアとの決着を望むマリアベルの前にセシリアを消すなどという横槍をする意味がわからない。まるで、セシリアがマリアベルと邂逅すること自体を嫌っているようだった。
いや、おそらくはそれが正解だろう。その理由まではセシリアには推し量れないが、スコールがここで逃がしてくれないとわかっただけで十分だった。相手の理由など、それこそどうでもいい。セシリアにはセシリアの理由がある。それは当然、スコールの心情で揺れ動くものではないのだから。
「私にも、あの人との決着をつける理由があります。そのためにあなたが邪魔だというのなら―――」
セシリアは余分な思考を切り捨て、完全な戦闘思考に入る。スコールを強敵と認め、同時にただ排除するべき障害と認識する。狩人のように獲物を追い詰め、仕留めることだけに思考を割き、並列思考を駆使してスコールの攻略法を算出する。
「ここで、排除するだけですわ」
今この場でスコールを仕留める。そう決断したセシリアの行動は早かった。
時間をかけるわけにはいかないため、短期決戦を決意したセシリアはここまで温存してきた切り札を起動させる。
「ゾディアック・システム起動」
本来、たった一機を相手に使うものではない。例外として対マリアベルのひとつとして用意していたものでもあるが、マリアベル以外に使うことになるとは思っていなかった。
しかし、目の前のスコールはそれだけ強敵だ。ここでこれを使うことは決して間違いではないだろう。
「私としても、あなたは手加減ができる相手ではないようです。本来ならあの人との戦いで使う予定でしたが……悪く思わないでください。蹂躙させていただきますわ」
「っ!?」
セシリアの駆る大型パッケージが突然その形を崩壊させる。その城のような巨体を構成していたドレッドノートが、解体されるようにユニットごとパージされていく。
装甲を排除しての軽量化、もしくは形態変化か、と思うスコールだが、その思考は中断を余儀なくされる。パージされ、破棄されたはずの大型火器のひとつであるレーザーガトリングカノンが自律しているかのように動き、スコールへと照準を合わせて射撃してきたのだ。
慌てて回避行動をとり、なんとか回避には成功するも、それだけで終わらなかった。先のガトリングカノンはそれ単体で高機動戦を仕掛けてきたのだ。
「これは………ビット……!?」
「御明察」
さらに続けてレールガンと誘導ミサイルも、同じようにパージされた武装そのものが稼働して攻撃を仕掛けてくる。しかも、それぞれが最適な位置取りをしての包囲殲滅を狙ったものだ。回避しきれずに装甲を削られていくスコールがその美貌を苦し気に歪め、炎を盾とし距離を取ることでなんとかその包囲網から抜け出した。
そこでスコールが見た光景は、異様なものであった。
「これを使うからには、これ以上あなたになにかさせるつもりはありません。覚悟してください。あなたは、ここで落ちるのです」
本来のブルーティアーズを纏ったセシリアが、まるで玉座のようなユニットに腰を掛け、スコールを見下ろしていた。おそらくドレッドノートのコックピットブロックだったものだろう。それ自体が通常のIS用パッケージ以上の大きさを持ち、その背部には巨大な砲身が接続されている。左右不釣り合いな三つの砲身は、先ほどその一つを破壊した四連装狙撃砲のプロミネンスであろう。
そしてその周囲には大小さまざまな形状の武装が、まるでセシリアを女王として付き従うかのように控えている。
そのどれもが、見覚えのあるものだ――――当然だろう、それらはすべてドレッドノート級パッケージを構成していた火器やユニットなのだ。それらが分離し、それぞれが独立稼働している。分離したといっても、もともとが規格外の大きさを誇るドレッドノートを構成していたパーツだ。そのどれもが本体であるセシリアよりも大きい。
そしてその数は、セシリアが座する本機を入れ、全部で十二。それらはすべて独立稼働を可能とした、ウェポン・コンテナ・ビット。武器そのものをビットとして操る、かつてジェノサイドガンナーに搭載されていた装備の発展型。
ドレッドノート級パッケージそのものを構成するパーツとして機能し、同時にユニット単位での独立稼働を行うビットとして機能する合体・分離を行うパッケージ。それがセシリアの持つドレッドノートの真の姿。
すべての力を集約したドレッドノート形態。そして十二に分離し、集団戦を可能とするゾディアック形態。セシリアだからこそできる、並列思考制御によってなされるセシリア単独で成立する【軍隊】である。
「いきなさい【アリエス】、【スコルピオ】」
そう告げるセシリアの言葉に従うように二つのユニットがその猛威を振るう。
多連装誘導ミサイルユニット【アリエス】。そして徹甲レーザーガトリングカノン【スコルピオ】。それぞれ山嵐、フレアといった武装を基にさらなる大火力、大型化がなされた兵器が自在に空を飛翔し、その過剰威力とされる大火力を叩き込む。本来、対多数戦を目的として搭載された大火力の重兵装がそれぞれ独立稼働し、包囲殲滅を仕掛けてくるなど狙われた側からすれば悪夢であろう。
実際、スコールの顔には既に余裕は一切ない。さきほどまでセシリアからの砲撃が捌けていたのは一対一だったからという理由が大きい。それなのに火力はそのままに数の利を生かして包囲戦を仕掛けてくるなど、ふざけるなと叫びたいほどだった。
受けに回ればその火力で圧し潰される。そう判断したスコールが本体であるセシリアへ向けて攻撃を仕掛ける。
その判断は正しい。制御しているのがセシリア一人である以上、そこを狙うのは当然だ。だが、それが通用するかどうかはまた別問題であった。
「防ぎなさい、【キャンサー】、【アクエリアス】」
元は巨体を支える下部の装甲だったのであろう、壁といってもいい巨大な装甲がスコールから放たれた射撃、砲撃をすべて受け止める。さらに放たれた単一仕様能力の炎の砲撃も、別の球体ユニットから発生された粒子の壁にぶち当たり、瞬く間に散らされてしまう。その場から一切動くことなく、ただ指示しただけでスコールの攻撃を封殺する。
付け入る隙のない鉄壁さを目の当たりにし、スコールが眉をしかめる。
これがゾディアックシステム。十二星座の名を関する大型ビット兵器。それぞれのプログラムされた自律稼働と、セシリアの並列思考によって統合制御された忠実な僕たち。考え得る火器・技術を搭載したドレッドノートの、その機能を分割して使用するというセシリアの持つ奥の手。
「【リーブラ】、最大火力を展開」
最も巨大な、セシリアが座する【リーブラ】と呼ばれたユニットが、その背部に接続されたプロミネンスの照準をスコールへと合わせる。ひとつを破壊されたとはいえ三つのプロミネンスの火力は、専用機とはいえたかだかISだけで防げるような代物ではない。
「時間はかけません。そして残念ですが、あなたでも今の私を倒すことは不可能です」
挑発のつもりなのか、足を組んで玉座に座するセシリアの姿は傲慢な支配者のようだった。だが、それが許されるほどの力をセシリアは示し、そしてそれは一切の虚勢がない。確かにスコールは強敵だ。セシリアでも、IS学園での戦いのルールに則って戦えば難儀するほどの相手だ。
しかし、この戦場で、一切の制限もなくその力を発揮したセシリアにとって、スコール・ミューゼルという存在ですらも、ちょっと邪魔な程度の障害にしかならない。
「化け物め……」
そう呟いたスコールの声が聞こえたのか、セシリアはただ口端を釣り上げて笑う。それは彼女の母の姿を彷彿とさせる美しくも嗜虐的な魔女の嘲笑のようであった。
お久しぶりです。ゴールデンウィークはいかがでしたでしょうか。
こちらは休みもなく仕事三昧でした。連休が欲しいです(汗)
セシリアがいよいよ本気になってきました。魔改造セシリアの本領発揮です。
セシリア最強装備ゾディアックシステムはこんな感じです↓
アリエス 多連装誘導ミサイルユニット
タウルス ???
ジェミニ ???
キャンサー 主盾多層甲殻装甲
レオ ???
ヴァルゴ ???
リーブラ 主砲、及び統合制御コアユニット
スコルピオ 徹甲レーザーガトリングカノン
サジタリアス ???
カプリコーン ???
アクエリアス 広域粒子変異装甲
ピスケス ???
合体してドレッドノートパッケージになります。合体・分離はロマン(笑)
それではまた次回に!