IS 別人ストーム   作:ネコ削ぎ

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不動教師

 シャルルが実は男性ではなく女性で、それも名前もシャルロットだった。

 この何がしたいか分からない悪戯のせいで授業は難航したと言っても良い。他人の趣味にとやかく言うのは憚れるが、結果的に授業妨害になるようなことは止めてもらいたい。

 まぁ、毎日続くようなことではないから注意するほどのことではないだろうと、私は肩をすくめた。

 

「なぁ、千冬姉。こんなところに呼び出してどうしたんだ」

 

 静かに過去を振り返っていると背後から弟が声をかけてきた。どことなく嬉しそうに聞こえるのは弟がどうしようもないシスコンだからか。

 時間は放課後。場所はIS学園内に幾つかある整備室の一つ。

 私と美生と弟の三人しかいない整備室は静かだ。時間が時間なら怒声や泣き声が飛び交う騒音の嵐が発生している。

 

「きひひ。一夏くんに見せたい物があるんですよ」

 

 私の代わりに美生が応えると、弟は不満そうな表情を見せた。

 美生の言う見せたい物は私達の目の前にある。黒い布が被せられていておおよその大きさ以外のことは分からないようになっていた。布で隠してあるのは「その方が格好いい」と持ってきた人間が言っていた。理解できない感性だ。

 そんな特殊な感性の持ち主から布を取り払う格好いいやり方を押し付けられたのだが、それを格好いいと思わなかった私は黒い布を掴んで無造作に引っ張った。

 腕の動作に合わせて黒い布はふわりと舞った。

 

「あれ? これって……」

 

 黒い布に隠されていたのは白だった。

 

「ええ、ISですよ」

 

 美生の言うように目の前に現れたのはIS、装飾のない真っ白な流線型の装甲が特徴だ。

 このISは何時だったかに学園の敷地内に不法投棄されていたモノで、何かあってはと倉持研究所の方で検査してもらっていたのだ。

 そして今日ようやくそのISが返ってきた。精密に精密に検査をした結果、何も怪しいところはないとのこと。

 本当なら倉持で開発しているISが弟に渡るはずだったが開発が難航しているらしい。

 そのため上の指示によってこの白いISが弟に宛がわれた。男性のIS装着者のデータが欲しいからこその対応だと思われる。

 

「名前は『白式』と言うそうです」

「白式?」

「ええ。近接戦タイプのISですよ」

 

 名前も能力も倉持研究所の手によって判明した。詳細なデータは膨大な紙媒体の資料がこちらに送られてきたので、読めば大抵のことは分かる。嫌がらせなのか、省いても良いような情報まで記載されていて、読むのが億劫になりそうな枚数になっていた。

 資料によると、白式は近接戦闘に重きを置いたISであり、スピードはセシリアの持っている専用機よりも速い。

 そんな白式の特徴はスピードではない。武装に特徴がある。

 装備に『雪片二型』と呼ばれる近接戦用ブレードが一本。

 たった一本だけ。それ以外に武器は存在しない。そして武器を後付けすることもできないようだ。

 火器を手に持つことはできるが、射撃の補助をしてくれるプログラムが搭載されていないらしく扱うには相当以上の訓練が必要となる。要は今の弟には射撃は無理ということだ。

 

「で、これがどうしたんだ?」

 

 どうしたも何も、話の流れで分かることだろう。

 いや、弟には分からないか。これは言葉やその時の状況から意味を連想することができない人間だった。そのせいで女子からの告白を全て勘違いして怒りを買っていた。二人きりで女子が緊張した面持ちをしていたら少しは理解できるはずだというのに。

 

「一夏くんの専用機ですよ」

「は?」

「ですから一夏くんの専用機なんですよ。目の前にある白式は。名前と仕様を教えていたんですから想像できたはずですよ」

 

 美生が苦笑を見せる。自殺してしまうんじゃなかと思ってしまいそうな儚い顔をしていた。

 弟が驚愕の表情で私を見てくる。何かの間違いだろ、と顔が言っているが、残念ながら間違いは一切ない。事実を素直に受け入れてISを受け取れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けてくれ千冬姉!」

「夜分遅くに失礼します千冬さん、美生さん」

「お邪魔します」

 

 夕食も終わり少ししたら寝よう思っていたら、弟とその幼馴染達が管理人室の扉を叩いてきた。弟が救難信号を発していることから、何か面倒事にでも巻き込まれたのかと考えたが、後ろにいた箒と鈴の表情から面倒事ではないと分かった。本当に面倒事なら二人の表情も険しくなっていることだろう。

 まぁ、わざわざ訪ねてきたのだから話だけは聞こう。

 

「三人とも遠慮せずにどうぞ」

 

 来客の為に座布団を用意しながら美生が歓迎した。

 それぞれ思い思いの座布団に座ると、正面を陣取ってきた弟が身を乗り出してきた。

 

「千冬姉! 二人に何とか言ってくれよ!」

 

 悲痛な声で訴えてくる弟。私から見て右側に座っている箒はやれやれと溜息を吐き出し、左側で胡坐をかいている鈴はどうしようもない馬鹿を見るような目を向けていた。

 私も特別弟を信じるような家族愛溢れる人間ではないので、弟が被害を勝手に膨らませているだけだと思った。

 

「実は――」

「はい、ストップ!」

 

 弟が何かを話そうとしたが鈴が横から妨害した。

 

「アンタが話すと真実の度合いが薄いだろうからアタシが話す」

「俺が虚偽の訴えをすると思ってんのか」

「そうよ」

「ふむ。虚偽とまではいかないだろうが、真実から若干逸れるのは間違いあるまい」

「箒まで!? ファースト幼馴染まで俺を疑うのかよ」

 

 まず幼馴染に序列をつけるのをやめろ。そうすれば少しは疑われなくなる。

 結局宣言通り鈴が説明することになった。

 弟は私達と別れた後部屋に戻ろうとしていた。そこに鈴がたまたま通りかかり声をかけた。聞くと弟がISを手に入れたと言う。

 ならば、専用機持ちとしてちょっとだけ練習に付き合ってあげようと鈴が訓練に誘ったが、弟は拒否。

 

「コイツ。素人に毛が生えたかどうか程度のくせして、弱くないつもりだからなんて言うのよ……言うんですよ」

 

 別に校舎内じゃないから敬語を使わなくても構わない。鈴が礼儀をきちんとすると言うのならこちらも無理強いはしないが。

 

「いや。俺は強いぞ。千冬姉の為に強くなりたいと思っているから強いんだぜ」

 

 我が弟ながら馬鹿だ。思っているだけで強くなれるわけないだろう。

 一度頭蓋を揺さぶった方がいいかもしれない。そう思ってしまうほどの問題発言だ。

 私の想いを読み取ったのかそれともただ単に同じ想いを抱いただけか、箒が手刀による鋭い一撃を弟の頭頂部に叩き込んだ。頭を抱えて蹲る弟。

 

「馬鹿者め。強くなりたいと思うだけで強くなれるのなら苦労はない」

「そうよバーカ。みんな大なり小なり努力してんだから、アンタも苦労して強くなりなさいよ」

「そうだ。どんな力よりも大切な力を蔑ろにするな。努力はいかなる力を得るために必要な力なんだぞ」

「もうすぐクラス対抗戦なのに弱いままでどうすんのよ。アタシに素人イジメをしろって言うの?」

 

 ボロクソに言われている。自業自得だから同情はしないが。

 頭の痛みが引いたのか弟は勢いよく立ち上がった。

 

「くそ。覚えてろよ」

 

 そして出入口に向かって走り出した。俗に言う敵前逃亡という奴だ。

 

「意気地ないわね」

「仕方がない。努力を怠ったのだ」

 

 相手が悪かったとしか言えない。

 箒は力こそ全てという考え方を持っている。人間は力こそが全てであり、様々な力を手に入れるには努力に努力を重ねる人物である。

 箒はよく学び、よく動き、よく考える。人生を有意義に過ごすとこういうことなのではないかと考えさせられるほどだ。

 そんな箒からしてみれば弟の考え方は全然駄目だ。

 鈴は私の知る限り箒ほど折れも曲がりもしない信念を持っているような人間ではない。

 しかし彼女には彼女なりの想いというものがある。

 弟を私から引き離す。

 一見するととてもくだらないような想いだ。弟が私にばかりすり寄ってくるものだから、私に嫉妬して何とか仲を裂こうとしてるようにしか聞こえない。

 真意は違う。

 鈴は周囲に目を向けずに私ばかりを見ている弟に危機感を覚えたらしいのだ。このままではこの男はダメ人間になってしまうと。だから、いちいち構ったり馬鹿にしたり挑発したり努力を促すことを言う。

 鈴がいなかったら小学校高学年で弟はどうしようもない人間に成り下がっていたことだろう。

 

「じゃあ、千冬先生おやすみなさい」

「長々と失礼しました」

 

 二人は弟がいなくなったことで自然と腰を上げて出入口の方へと向かって行った。

 私はその場で見送るだけに留めた。

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