IS 別人ストーム   作:ネコ削ぎ

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登場天才

 臨海学校二日目。

 一日目? 着いて寝て起きて食って寝て終わった。何か凄い変わったことなんて一つもなかったとだけ言っておく。動かない人間にはドラマチックなものなんて飛び込んでこないものだ。

 ああ、でも。血の涙を流した弟が部屋に侵入してくる事態が発生した。寝る直前だったからすぐに追い出ししたのだが。

 今日は臨海学校の本来の目的であるISの課外授業だ。決して海がメインでISがサブなのではない。教師を含めたほぼ全員が一日目で九割目的を達したと思っているようだが、メインはあくまで今日の授業だ。

 海を目の前にして全員がだらりと整列しているのを見ると、私の考えがおかしいのではないかと錯覚してしまいそうだ。誰もかれもがこんなにやる気がないとは、去年よりも酷い有様だ。

 

「さぁ、皆さん。今日は授業をしましょう!」

 

 海を背に美生が両腕を広げて宣言すると、数秒遅れて生徒たちが返事をした。

 だらだらとしていたが腐ってもIS学園の生徒、エンジンがかかったのか段々とシャキッとした動きに変わっていく。

 今日は一日を使ってISの武器運用の授業を行う。ISの数に限りがあるために一日をかけて全員がISを装着して色々な武器を扱うのだが、その中には日本の企業が開発した新しい武器の試験運用も兼ねていて、そのデータ取りも行わなければならない。今日はてんこ盛りだ。

 授業は数人のグループになって行い、それを担任の教師たちがグループ間を見て回るものなので私は美生と一緒に一組の専用機持ちたちが集まったおそらく一番面倒なグループへと向かう。

 メンバーは第一の問題児の弟、第二の問題児であるラウラ、少し面倒なセシリアに、面倒ではない箒の四人だ。ちなみに彼女たちはあまり組だ。

 

「私だけ専用機を持っていませんが、この場にいていいのですか?」

「よろしいのではなくて? そうでなくてもお金を見せれば許されると思いますわよ。と言っても織斑先生には無駄でしょうけど」

「教官。手とり足とりご教授願います」

「千冬姉。俺、凄く未熟なんだ。だけど、千冬姉みたいなIS装着者になりたい。俺に千冬姉の全てを叩き込んでくれ!」

 

 面倒だ。自己流で行け。

 

「断るそうですよ」

「教官!?」

「千冬姉!?」

 

 美生が笑顔で断れば、仲の良い問題児二人は懇願するように私を呼ぶのだが、タイミングが被ったことで二人は罵り合いを始め出した。私の気のせいではなければ学年別トーナメントで仲良くなったと思う。罵り合い足の引っ張り合いを良く見かけるようになったが、あれは俗に言う喧嘩するほど仲が良いという奴だろう。現実見るのが嫌になってプラス思考を押し通したような言葉だが。

 専用機持ちに関してはそれぞれの国から送られてきた装備を試すだけなので、一般生徒に比べてやることがすくない。だから目の前で弟とラウラが喧嘩していても構わない。

 問題は箒だ。彼女は専用機を持っていないから訓練機を使うわけだが、訓練機は他のグループに回った分で全てなので、この専用機持ち班が使う分はない。他の班に入れれば良いだけなのだが、先輩教師が駄目だと言ったので仕方がない。あの先輩は一体何を考えているのだろうか?

 あまりやることのない専用機持ちは時間を持て余し、一般生徒である箒もまた時間を持て余す。

 かと思いきや、箒はいつの間にか持ってきていた木刀で素振りを始めた。真っ直ぐ振り上げられた木刀がこれまたぶれることなく真っ直ぐ振り下ろされる。

 私には美術的な美しさは分からないし武術の等の美しさもまた分からないが、箒の素振りが素晴らしいものであることは素人目にも分かる。

 風を切る音だけが私の耳に入ってくる。他の生徒たちの声だとか、弟とラウラの口論だとかはまったく耳に届いていない。唯一届いたのはセシリアの「十万は出しても良い美しさですわ」という呟きだ。

 暫く箒の素振りを眺めていると、遠くの方で何か盛大な音がしているのを耳が捉えた。

 

「ちーちゃーーーーーーーーーーーーーん!」

 

 遠方で砂煙が上がっている。人間離れした速度で砂煙が近づいてくる。正確には砂煙をあげながら人間が近づいてくる。右手に何かを人間大の荷物を引きずっているようだ。

 

「この……声は」

 

 砂煙を上げる人物の雄叫びを聞いた箒がひくりと顔を上げる。そしてゆっくりとした動作で木刀を構えて、こちらに接近してくる者を呼吸を止めて静かに待った。

 箒の顔は至って平常心だ。パッと見るとどうして木刀を握りしめているのかと不思議になってしまうほどだ。

 しかしそれは表情の話である。雰囲気は顔の通りのものではない。周囲が引きたくなるくらいに強烈な敵意を纏っている。実際にラウラと美生と私以外は彼女から三歩ほど離れている。

 砂煙が目前に迫ってきていた。

 彼我の距離が縮まった時、箒が音もなく動き出す。ポニーテールにした黒髪が風にふわりと流れた。

 

「シノノノ……タバネェエェェエエエエェェェッ!」

 

 篠ノ之束。今までに一度も聞いたことのない、怨嗟の籠った声でそう叫ぶ箒。想いに押し出されるように木刀を振るう。真剣ではないものの、素人が使っても平気で人を撲殺できる木刀だ。それを腕に覚えのあるものが振るう。手加減の一切ないソレは一撃必殺だ。文字通り一撃の名の下に殺しに行ったのだ。

 箒の放った一撃の先には世界的に有名な篠ノ之束がいた最後に見た時よりも女らしくなってはいるが間違いなく篠ノ之束だった……見た目は。

 箒の攻撃に気がついた束は人間離れした速度から一瞬でブレーキをかけて止まる。

 

「ばっばぁーん!」

 

 満面の笑みを浮かべた束が右腕を向かってくる必殺の一撃に突き出す。

 

「くっ!?」

 

 抵抗のために動き出した右腕を見た箒が驚愕の声をあげて、束に向けていた木刀をあらぬ方向に軌道修正して振るった。誰がどうみても白々しい空振りだ。

 だけど、箒が空振りを選択したことには全員が納得してしまった。納得した瞬間、息を飲む音が聞こえ、音が死んでしまったかのように世界が沈黙した。

 束は右手に持っていた役目を終えた道具を砂浜に投げ捨てた。

 

「お姉ちゃん!」

 

 悲痛な叫びが世界を動かす。

 人間を楯にした挙句に、それを使い切りの道具のように投げ捨てた束に、恐怖で動けなくなった生徒たちの中から一人の女子生徒が駆け出した。

 水色の髪をした大人しそうな少女だ。彼女は信じられないものを見るかのように投げ捨てられたまま動かない人間を抱き起そうとする。

 少女の腕に抱かれたのは満身創痍、そう言うしかないほどにボロボロになっている更識楯無だった。胸が微かに上下していることから、辛うじて生きてはいるようだが、その痛々しい姿に誰もが目を背けてしまう。

 

「はぁい。篠ノ之束、華麗に見参。なぁーんてねっ!」

 

 楯無をこうまで痛めつけたであろう束は度が過ぎるほど明るかった。

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