IS 別人ストーム   作:ネコ削ぎ

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決闘生徒

「クラス代表というものはなろうと思えば誰にでもなれるものです。ですからわたくしに立候補できない理由はありませんわ」

 

 勢いよく立ち上がったセシリアが胸を張って答える。救世主の出現に顔を輝かせる弟。早く授業を始めたい私。

 

「立候補するにあたってもう一人の立候補者の票を超える必要がありますわね。票数はいっぱい。これに打ち勝つには沢山の票数を得なければなりません」

 

 いっぱいと沢山の言葉に優劣なんてあったのか? 

 

「ではどうすれば良いでしょうか?」

 

 誰に向かっての演説だろう? あぁ、教室全体に向けての演説か。何分ぐらいか分からないが、授業時間は削られていく。授業は君たちの為にあるってことを忘れたのか。

 

「答えは簡単ですわ。わたくしの力、もしくは他の力を持って票を集めれば良いということです」

 

 セシリアが机の脇にかけられた鞄の中から何かを取り出す。何枚も重なって束ねられた紙だ。人の顔をようなものが描かれているのが見える。

 セシリアはその紙の束の帯を取り外してから空中へ投げた。

 

「さぁ、拾いなさい! そしてわたくしに投票しないさい」

 

 空中でひらひらと舞いながら教室のあちこちへと落ちていくのは、この社会にかかせないものであった。なければほとんど何も得られず、また何も捨てることのできなくなってしまうほどに大事な物だった。

 がたがた、と机や椅子が振動する。教室にいた全員が目の色を変えて床へと身を伏せて紙を拾い始めた。

 

「世界で一番強い力の前では何もかも傾きますわ。お金こそ世界を牛耳る力ですわ!」

 

 セシリアが散らしたもの。それは日本で使用される貨幣『一万円札』であった。

 

「べ、別にお金の為なんじゃないからね! オルコットさんの為なんだからね!」

「入学するに当たってお小遣いはなしよと言われて落ち込んでいた私に、神……いや、オルコットさんが慈悲の雨を降らせてくれた」

「経済力……私の持っていない力だ」

「これを取ったら、まるで千冬姉の稼ぎが少なくて俺が飢えていると思われるかもしれない。だけど、千冬姉を楽させてあげたいと思う俺はこの金に手を出すべきだと訴えている」

「お酒代……でも私は教師であって生徒のお金には手を出すべきじゃないんですよね。うぅ、手の届く場所にお金がある」

「さすが、イギリスの代表候補生。うちのとは違う意味で常識の埒外ね」

 

 授業どころではないな。

 

「きひひ。それに隣から苦情が来てしまいそうですよ」

 

 それもあるな。まずは事態の収拾をしなければならなくなった。とりあえず、セシリアには反省文を書かせることにしょう。

 面倒な事態に重くなってしまった足を動かして、地面を這い回る生徒達を一人ずつ正気に戻そうと、私は教壇から下りて無法地帯へと突き進んでいった。

 全員を正気に戻すだけに授業時間の三分の一を浪費してしまったのは手痛い。ちなみの暴力は振るっていないことだけは言っておこう。そして拾われたのも含め、散らばった万札の回収もしておいた。手を煩わせてくれて。

 

「それではセシリア・オルコットが良いと思う人は挙手してください」

 

 文句がでないよう一応セシリアの票を確認してみれば、ほぼ全員の手が挙がった。箒とラウラ、二人の手は挙がっていなかった。さっきも手を挙げていなかったが、誰なら納得するんだ。

 私は黒板に書かれたセシリア・オルコットという文字の下に『いっぱい』と書いておいた。

 

「な、同じ!?」

 

 弟が悲痛な声をあげる。もしかしたら奇跡が起こると期待していた表情が、ガラガラと音を立てて崩れ去る様は、見ていてそう悪くはなかった。

 美生の儚い笑顔が、まるで弟の運命を暗示しているかのようだった。

 

「ごらんなさい織斑一夏。これがお金の力ですわ!」

 

 そこで自分の力と声高々に自慢しなかったことは素晴らしいが、だからと言って堂々と金の力と言うのもおかしい。あと、恥ずかしげもなく言い切るのもどうだ。

 セシリアは自慢げに胸を逸らして教室の視線に身を晒すしている。恥ずべきことなど一つもないと表情が語っていた。

 私は黒板を見てどうするべきか悩んだ。黒板には立候補者の名前が二つあり、投票数は互角。多数決でどちらがなるかを決めるべきか。

 方法を悩んでいると、ラウラがピシッと綺麗な挙手をした。さすが軍人だ。行動もハキハキしている。

 

「互角に票を集める立候補者がいるなら、勝負で決着をつけるのはどうでしょうか?」

 

 はぁ、軍人は暴力沙汰が好きなのか。もっと穏便かつ簡単に済ませようとは考えられないか。

 

「勝負というと、例えばどのような?」

 

 クラリッサが聞く。何故聞く?

 

「ここはIS学園です。ならばISで決着をつけるというのはどうですか」

 

 ふむ。あまり詳しくはないが、軍人としてイギリスの代表候補生の実力を測っておきたいのだろうか。

 

「可能性はありますね。ワタシも詳しくはありませんから断定はできませんけど、ゼロではないでしょう」

 

 美生が同意してくる。

 問題があるとすれば、我が弟の実力は素人と同等のものでしかないということだな。

 

「そうですね。不平等な勝負ですね」

 

 不平等だな。

 不平等な試合内容を語ったラウラはどうして誇らしげな顔をこちらに向けてくる。気のせいだろうか? 褒めてくれと目が訴えてきているように見える。

 だが、そんな目で見られたところで、私の心が揺れ動くこともないので無視しておく。事態を面倒な方向へと進めたのだ。どうして褒めなければいけない。

 

「織斑先生。ラウラが褒めてほしそうな目をしていますよ」

 

 それで? それで何だ、クラリッサ?

 

「織斑くん達も乗り気ですよ」

 

 乗り気?

 クラリッサの言葉に弟の方を見ると、奴はセシリアを睨みつけていた。

 何となく理由は分かる。弟はシスコンである。寡黙で身内にさえ一度も話しかけたことがないというのに、この弟は何を思ったか私のことを好いている。特に姉らしいことはしていない。学校の勉強を見てやったこともないし、一緒に遊んでやったこともない。両親が蒸発してからは何度か飯を作って食べさせたりはしたが、それは途中から美生にバトンタッチしたから好かれるほどのことではないだろう。

 それなのにちょっとでも私を馬鹿にするような発言や、姉弟の関係について言われるとカッとなって喧嘩したりする。おかげで何度、学校に呼び出されたことか。美生と一緒に学校に行ったら、お若い夫婦ですね、と言われたな。きっとあの教師は正確に物事を見ることができないのだろう。

 

「ふざけんなよ。絶対に泣かせてやる!」

 

 我が弟はなんとも小物みたいな台詞を吐くな。

 

「うう、なんと言う姉弟愛。わたくし感動のあまり涙が出てしまいそうですわ」

「どこに感動させる部分があったんだよ!? そもそも、俺達の姉弟愛を馬鹿にしただろ!」

「貴方と貴方の姉である千冬先生の壮絶な別れに、泣かない訳には参りませんわ」

「壮絶な別れ!?」

「この試合で貴方が名誉の死を遂げられたなら、きっと千冬先生も胸を張って生きていくことができますわ。弟を想いながらも、真っ直ぐ前を向いて歩いていくことでしょう。だから、安心してお眠りなさい。葬式代はわたくしの方で出させていただきますので」

「ちょっと待て! 何で俺が千冬姉を残して死ぬことになってるんだよ!?」

「そういう設定ですから」

「やめろ! 何かありえない力が働きそうで怖い」

 

 少し離れてみると仲良く見えなくもない。きっと弟とセシリアは良き友達になることができるだろう。ここまでくだらない時間の無駄みたいな会話を繰り広げられるのだから。友達以上の関係については知らない。何かで聞いたが、結婚は判断力の欠如、離婚は忍耐力の欠如、再婚は記憶力の欠如というらしい。人間というものは欠如しているから先に進めるようだな。

 さて、ここまでISで決着をつけるべき、なムードが高まってしまっていると却下するのは難しい。まぁ、生徒達のやる気を上げるのにはちょうど良いイベントと言ったところだな。私達教師の負担が凄いが、無駄ではないだろうしな。

 それに弟の為にもなるだろう。世界で一人しかいない男性のIS装着者。どれほどのことか自覚させるにも都合が良い。

 美生にしかプレゼントしたことがないが、今回だけ特別だ。本人の気持ちなど考えない、私からの最初で最後の入学祝いだ。

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