ゲイム、ゲイム、ホワッツザネイム
虚空の海。ただただ広がる漆黒は僕を優しく包み込んでいた。
星の瞬きも超重力の渦も出来ている訳でもなく、僕は星の輝きを放ち突き進んでいく。虹色の螺旋は次第に色味を薄くしていき、桃色へと変色し、やがて肌色へと色づく。
まだ■■■まで足りない。
虚なる海は僕の推進剤に記憶を要求してくる。
迷いなく、これまでの記憶を捧げることにした。
全ての運命を変える黄金を溶かし、絆を最大限に引き出した肉体を弱体化していく。
けれども遠くに見える■■■まで届かない。
まだ海は推進剤に代償を求めている。
僕に眠る別の人格を捧げ、肉体を動かす獣性さえも捨てる。
届かない。
僕は更に代償を支払う。
笑顔でいることを忘れ、ただ過去の欲求から目を逸らしていく。
心を滾らせる熱を鎮め、何でも出来る万能感を消し去る。
僕は存在を維持するための礎を殆ど破壊した。
存在が軽くなればなるほど、水の抵抗力がなくなっていく。
僕が僕という存在を分離させていき、視界がぼやけて意識が朦朧としながらも、新たな推進剤を元に■■■の下まで進んでいく。
------お前は俺だ。
一節の言葉に僕は意識を覚醒する。
僕は揺蕩う。思考の大海へ意識を滑り込ませ、潜っていく。
深く、深く、深く。
やがて視界の一端に気泡が現れる。軌跡を辿るとそこには、一人の青年が沈んでいく姿が映る。何故か、救わなければならないと強く思い脚を巧みに動かして青年の元へ近づいていく。
ーーーーーお前も僕だ。
無意識の内に気泡へと変換されゆく、誓いの言葉。
けれども、それは届きそうで届かない歯痒さを交えていた。
これは夢だと、先程から感じていた。しかし、現にならない幻は何一つない。これは実現できない絵空事じゃない。
決して救えない結末があったとしても、心はただ救われる気持ちでないといけない。それが■■■■だから。
「ijshiじkぁjづ」
それが青年の名前だった。
発した雑音は、確かにそう告げていた。未だ沈み続ける彼へ手を伸ばす。彼の身体は黒に塗られて分からない。けれども、僕に似た顔の輪郭は感覚で分かる。
そして、これ以上は進めないということも。諦める訳ではなく、単に時間が来てしまうから。それでも僕は手を差し伸べてーーーー
そこで僕は現実に引き戻された。
瞼には残像が残り、視界にはここ2年愛用してきた無機質な教員机の上側が映っている。戻ってきてしまった。酷く悔やみきれない目覚めの後味悪さに、口の中で酸味が溢れ出てくる。
また日常が始まってしまう。誰かが死んでいる間にも、僕はただただ生きる時間を傍受していた。