Fate/extra game   作:セトリ

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龍に羽撃く希望の唄

魔法。

その名の通り、魔の法則を短く切った言葉。

如何なる法則をも書き換える、邪道とも言うべき法則。

基本的には人々の空想でのみ発現する願望だ。

主に思春期を迎える多感な人間が、あれができたならばと全能感を覚えるための欲望に過ぎない。

世間一般的に、それを中二病と呼ぶ。

中二病に罹った人は、口を閉じて現実を冷静に見る事をお勧めしよう。さもなくば頭のおかしい人とレッテルを貼られることは確実だ。

 

だから、魔術師は秘匿する。魔の法則を再現する術、魔術を。

現実的なアプローチを持って神秘に挑んでいる魔術師は、最終的に魔法を会得するのを目的としている。

 

魔法使いとは、魔法を使える人間ということ。

魔術師の極致にあたる魔法使いは、実在する。

自らの身を滅ぼす絶望でも己を見失うことなく胸に希望を抱き続けた特異な精神を持つ人間。最後の希望として魔法を駆使して絶望の霧を晴らしていくその姿は、紛れもなく英雄である。

 

その魔法を抽出して、再現している機械。

魔法使いになりきれるアイテムであるが、所詮は再現しているだけに過ぎず、本物と比べても劣化が著しい。データでしか無いそれは、ゲームエリアを出れば効力を持たない。

 

英雄になりきった人間。

それが幻の夢という仮面を被った戦士、幻夢。

 

セイバーは魔法の攻撃を剣一つで捌いていた。

鎖や壁、巨大な剣や追尾する伸びた刀身。双つの武器でのバラエティに富む攻撃方法を、自前の魔法に対する高い耐性や未来予知に近い直感、高い剣の技量により退けている。

立ち位置は変わっていないことがセイバーの力量を証明している。

 

「多彩な変化にも対応するというわけか。しかし、もう余力は残っていないだろう?」

「抜かせ。これぐらいの事など、どうということはない」

 

幻夢の疑念通り、セイバーにはもう力が残っていない。

 

第一にサーヴァントの力の源である魔力が底を尽きかけている。魔力補給の為のパイプも細く、今全力を出すことは不可能に近い。

もし全力を出せば、魔力が切れて肉体を維持することはできない。霊体化もままならない状態でそれに陥るのは愚策である。だが、逃げる手立てはない。

閉鎖空間での強大な敵が、確実にセイバーの命を狙っている。

恐らくはマスターである少年を狙い、その障害であるセイバーを排除するために。

 

だとしても、セイバーが負ける理由にはならない。

 

「その眼、まるで宝石のようだ。私のような偽物の宝石ではなく、人の手によって磨きあげられた国宝級の宝石」

 

緩慢な動きで、愛でるような手の動きでセイバーに右手を差し出す幻夢。甘美な言葉は続く。

 

「決意、なんとも良い輝きだ。......ふふ、君に神の恵みを与えよう」

 

魔法は右手を介して発動している。これまでの仕草から読み取れた、攻撃の兆候。

セイバーは幻夢の右手を止める事は出来なかった。

 

《プリーズ プリーズ》

 

機械音声がなり、魔法の発動を表す真円が幻夢の前に現れる。

右手を真っ直ぐに突き出し、真円を通じて緋色の粉塵をセイバーに振りかける。

一瞬攻撃と思い至ったセイバーは防御するものの、粉塵は周囲に漂う。

 

「何をした?」幻夢は仮面の中で笑みを想像させる。

「それは魔力の霧だ。君の全力を私に見せてくれ」

 

《コネクト プリーズ》

 

再び真円から、炎を象った剣を取り出す幻夢。

鍔に備えられたAとBの文字が刻まれたボタンの内、Aボタンを連続して叩く。火に薪を焚べるように勢いが大きくなる炎剣に、腰の機械から引き抜いた黒塗りの機械を差し込む。

 

《キメワザ!》

 

およそ30メートルはある天井を焦がすほどにまで瞬く間に膨れあがった刀身を、高熱で溶かした地面に突き刺す幻夢。

 

《タドル クリティカルフィニッシュ!》

 

高らかに宣言する音声に、セイバーは幻夢の意図を見出す。

『全力を尽くせ、さもなくば殺す』

そう言いたげな宝石が、セイバーに秘奥の一手を出す勇気を与えた。

 

宝具の開帳。

それはサーヴァントにおいて、自身の象徴ともいえる宝具を使用する事。宝具の名を口にすれば、その英雄の伝承を元に効力を発揮する。

ランサーのゲイボルクのように。

 

空気を焦がす熱量を持った炎の波がセイバーに襲いかかる。

身構えたセイバーの手に握られた黄金が魔力の霧を吸い込み、一際輝きを放ち始めた。

理由は単純だった。幻夢のこれまでの行動は、ここに至るまでの下準備をしていたに過ぎないと。

 

「......なるほど、これならば!」

 

幻夢は、全力で阻止をしろと言っている。

宝具を使えるだけの魔力を、粉塵として振り撒いた。

相手の目的は宝具を使わせる事にある。さすれば、セイバーは迷わない。

 

エクスカリバーを抜くことは、王の権力の証である。

王の権力は総てを司り、総てを裁く事。

ならば今一度、幻夢を総評する。セイバーという王は、エクスカリバーを抜いた。

 

「.........!」

 

炎の中、幻夢は仮面の内側でため息を吐いた。

それはセイバーの選択に呆れたのか、はたまた別の理由があったのか。ともかく幻夢は、左手に握られた銀の剣のギミックを解放する。

剣に備えられた黒色のレバーを外側に開き、閉じていた手の装飾を開く。

融和を図るジェスチャー(シェイクハンズ)の形をとった剣を右手に持ち替え、左手を装飾の上に翳す。

 

《フレイム! スラッシュストライク!》

 

銀の刀身に情熱が灯る。

幾度も絶望を焼き尽くした、希望の一振り。再現したそれを、周囲の炎を巻き込み、劣化の中の真に迫る威力を纏い、セイバーに振り下ろす。

 

聖なる光は炎を滅する。

希望の炎は光を埋め尽くす。

 

データの擬似空間が、破壊の嵐に今にも崩壊しそうになる。

剣姫は全力で叫んだ。己を正義として、貫く為に。

 

「エェェクスッカリバァァァ!」

 

極光。

擬似空間は光に支配される。

均衡は一瞬にして、保たれることなくセイバーの勝利を暗に示した。

 

ーーーーーーー

 

「と、いうことがあった」

「いやいや、端折って伝えられても分かんないから神」

 

僕は、自分の部屋にいる黒スーツジャケットの男に疑惑を含む目線を向けていた。どういう経緯でこの男が居たのか、九条貴利矢さんが何故この男を神と呼んでいるのかと。

 

6畳半の整頓された一室に男が3人(・・)

パソコン前に陣取っているこの男をどうにかしようと、僕は考えた。そして閃いた。こういう時は、コミュニケーションを取ればいいと。

 

「初めまして。上条茂夫といいます、あなたは......神でいいのですか?」

「檀黎斗神だ。気軽に神と呼んでくれ」

 

パソコン用の安楽椅子に座って、モデルのように長く細い脚を組む檀黎斗神と自称する男。穏やかな笑顔がテレビの俳優と負けず劣らずな爽やかさを醸している。

 

「神。再三言いたいことがあるが、とりあえず不法侵入って知ってるか?」

「知っているとも、そのぐらいは」

 

九条貴利矢の方を向くと、深いため息を吐き、こめかみを揉んでいた。どうやら彼らにとって日常茶飯事のようだった。

 

「あー、神だから人の法律なんて関係ないなんてほざくなよ」

「それもそうだが、どうやらコンティニューのリスポーン地点がここに固定されていてね、不法侵入は致し方ないということだ」

 

コンティニュー?

聞き慣れない単語で、頭が理解できていない。檀黎斗神に首を傾げる。

 

「......そうか、コンティニュー機能について説明しなければならないか。「まぁ掻い摘んで説明すると、死んでも残機(ライフ)がある限りこいつは何度でも生き返るということさ」......九条貴利矢ぁ」

「なんだ?」

「......まァいい。本来は生き返る時は場所とタイミングを選べたが、今回は、特別な状態ということだろう」

 

檀黎斗神は僕のパソコンに安楽椅子を回転させる。けして安くはない値段の座り心地を確かめて、スムーズにベアリングが作動する。

 

「上条茂夫君と言ったね。パソコンを借りてもいいかい?」

 

何かを調べるのかと、二つ返事で提案を許諾すると、檀黎斗神はパソコンの電源ボタンではなく24型の液晶ディスプレイに手を触れる。

横で制止しようと、九条貴利矢さんが檀黎斗神に手を伸ばしている。

 

「まぁ、悪いようにはしないさ。これからの戦いに向けて必要なものを作る拠点が必要だろう、その為の大事な一手だ」

 

ディスプレイが通電する。画面には青一色に染められていて、白い文字が高速で羅列されていく。多分プログラムだろうそれは青を白に埋め尽くしていき、強烈な発光を誘発していく。直視することが難しい光から目を逸らし、光が止むのを待った。

 

そして、数秒が経ち視界が元の輪郭を取り戻す。

安楽椅子に座った檀黎斗神は消えて、ディスプレイには檀黎斗神と見知らぬ部屋が映っている。

 

「私の部屋が久々に戻ってきた! 良い、非常に良い! 牢屋に比べると数倍も作業効率が高まる!」

「......これってひょっとしてやっちゃいました? 貴利矢さん」

「大丈夫、いつものことだ」

 

ものすごく項垂れている九条貴利矢さんの姿を見て、檀黎斗神の認識をとんでもないトラブルメーカーと改めることにした。この破天荒ぶりは大河さんと遜色ない上、行動力がある分厄介な存在だよね。

 

「それで、『グローリーオブグレイル』のガシャットは役に立ったか?」

「ああ、こいつはどうやらこの世界のルールが込められていたようだった。使用した時点で『ルーラーとしての役割と力』を手に入れた。どうやら知識までは得られなかったが、その問題は解決済だ」

 

九条貴利矢さんの口から、これまで起きた出来事が話されていく。

聖杯戦争、7騎のサーヴァント、令呪、魔術。

今まで聞いたことのなかった単語達。今では何とか理解しているものの、今一実感が湧かない。

そしてもう一つ実感の湧かないもの、ライダーガシャットとゲーマドライバー。この二つはサーヴァントと戦う為の道具、身体を変化させるなんてどういう原理だろうか、謎は尽きない。

 

「今回はテストとして、プロトガシャット及びレジェンドライダーガシャットを使ったが、気になる点が二つある」

「エナジーアイテムか」

「本来ならゲームエリアと共に現れる筈のエナジーアイテムが、こちらの世界へ来た途端に発揮されなくなった。原因は不明だが、今後も使える可能性は著しく低い」

 

二人が専門用語ばかりを話していて全く会話の内容が理解出来ない。けれどこれは重要な情報だろう、二人の真剣な語り口に僕は押し黙った。

 

「その状況を良しとしない私は『グローリーオブグレイル』により与えられたサーヴァントの役割、『フォーリナー』の創り出す力を最大限に発揮させた」

「それがバグヴァイザーツヴァイを使ってのデータ集めって訳か」

 

ガシャコンバグヴァイザーツヴァイを画面の中から投げる檀黎斗神。

実体化したそれを受け取る貴利矢さん。バグヴァイザーに装着されたガシャットを外して、貴利矢さんはガシャットのラベルを眺めている。

 

「私はその中に入っている、アーチャー、セイバー、ランサーのデータを解析した。手持ちのガシャットとデータの相性が良かったのは、そのガシャットだった」

「『仮面ライダービルド』。どういうゲームなんだ?」

「様々な成分を封じ込めたアイテムを駆使して、世界を救う目的を達成するゲーム。『仮面ライダークロニクル』を元にして、とある仮面ライダーの戦闘データを組み込んだリメイク版だ」

 

貴利矢さんはそれを懐にしまいこむ。

 

「そのゲームには専用のエナジーアイテムの掛け合わせという機能が付いている。ガシャットに専用エナジーアイテムを触れさせると、エナジーアイテムに内包された成分が吸収され、相性が良いとベストマッチとして普段の数倍の力を発揮するという訳だ」

「ということは、ベストマッチ状態で戦えば有利に状況を展開出来る訳だな」

「無論専用エナジーアイテムの展開は問題無く行えた。後は、その専用エナジーアイテムから生まれるベストマッチだ」

 

九条貴利矢さんは何かを察して、目を泳がせながら檀黎斗神に問う。

 

「......デメリットは?」

「一回ベストマッチを使ってしまうと効力が消えてしまう上、その大半の組み合わせが不明だ。私が知っているのは2種類」

「......どんな組み合わせだ?」

「兎と戦車のラビットタンク、ゴリラとダイヤモンドのゴリラモンド」

 

想像の斜め上を行く組み合わせ。それってベストマッチなの?

 

「............聞くけど、組み合わせは全何種類だ?」

「60本の全30種類だ」

「阿呆だろ、それ」

「元データにそれぐらいあったから、仕方がない」

 

その元になった仮面ライダーさんも、それぐらいの種類を使い分けられるのかなぁ。だとしても、扱い辛いような。

 

「まぁ、私も対策をきちんと立ててある。このデータ収集用のガシャットを使ってくれ。そこに成分を保存して何度でも取り出せるようにした」

 

再び画面の中から、白色の何も描かれていないガシャットが貴利矢さんに投げられる。

 

「試しにラビットタンクのデータを入れてある。では私は収集した他のデータを相性のいいガシャットへ埋め込む作業に移る。九条貴利矢、君は他の事を進めるといい」

「へいへい。じゃあ上条、ゆっくり寝て身体を休めろよ。明日は忙しくなるからな」

 

貴利矢さんは、身体をブレさせて量子状に変化させていく。どうやらバグスターの瞬間移動を使うようだった。

 

「貴利矢さんはどちらに?」

「あの赤髪坊主のお守りだ。万が一、があったら今後に困るからな。じゃあ神、ここの防衛よろしく」

「むず痒いな、君が私に頼みごとをするなんて。ふふ、殺し合いの仲もここまでくると信用できるということか」

「誰が、信用出来るかってんだ! あんたしか頼れるもんがないから頼んでるんだよ! じゃあな!」

 

九条貴利矢さんは部屋からエミヤ君のところまで移動しに行った。それを気にせず、ぱちぱちと画面の中で何処からか持ってきた機材を操作している檀黎斗神。

この二人の間に何があったかはわからないけど、確かに絆を感じる。

 

「仲が良いですね」

「何か言ったか?」

「いいえ」

 

僕は寝室に向かう。

午前2時。混乱と戦いで疲れきった身体を休める、いい機会だ。

 


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