過去と今を見る。
その度に、あの忌々しい顔が映る。
不屈と優しさに彩られた希望の顔。
それに比べて自分の顔はどうなっているだろう?
鏡なんてないが、それでも鏡みたいなものはある。
それに映った顔はとてもじゃないが見れない。直視できない。
眩いのだ、自分であり続けた光だから。
闇に染まりきった自分の身体が、拒否反応を起こしている。
駄目だ。
仮面を被らなければ。光をかき消さねば。
そうでないと自分を見失う。
『ラビット』『タンク』
違う。
『ゴリラ』『ダイアモンド』
違う。
『タカ』『ガトリング』
違う。私は、その仮面ではない。
私の仮面の名はーーーーーー
【ジーニアス】
ーー
ーーーー
ーーーーーーー
「マスター、起きてください」
誰かが呼んでいる。
これは、女性の声だ。桜でも、藤村ねえでもない。
・・・誰だっけ?
意識が無くなる前に見たセイバーと名乗る金髪の女性しか、記憶がない。
確かあの銀色の騎士がマジシャンっぽい赤色の服装に変わった時から、記憶が終わっている。
・・・これ以上記憶を掘り返しても意味がない。
こうして記憶を探り当たっている時でも、女性の起床を促す声は絶え間なく続いている。
起きよう。
そうして目を開けて、飛び込んだ景色は我が家の天井だった。ついでに言うならば、金髪の女性が見下ろしているというのも付け足して。
って見下ろしている?
見下ろしているということは、今俺は寝ているということを加味して・・・加味して、後頭部に柔らかな感触を確かめて、で、現状が理解出来た。
出来ちゃった。
これって、膝枕という奴なのでは。青少年の夢である、女性の膝枕ではないのか。
やばい、やばい。
何がどうとやばいのが、やばい。俺の青少年が突き抜けてやばい。
・・・落ち着こう。
はい、深呼吸。スーッ、ハーッ。
今だ!
「おはようございます、セイバー様」
タイミングよく起きた俺は、目覚めの挨拶と共に何もなかった事を装って、リビングのテーブルに目を向ける。
そこには、黒髪のロングツインテールが赤色の服を着て、強烈な視線を向けていた。
構成物質、解明。軽蔑と諦観、怒りが視線に含まれていた。
「何やってるのよ、衛宮士郎」
「遠坂こそ何で此処に居るんだよ。ここ俺の家だよな」
細めの綺麗な眉に、人形のような大きめの瞳。すらりとした鼻柱に連なる瑞々しい唇。常人よりも小さな顔に完璧な調整を加えられて当てはめたそれは、男を惑わす魔性の美人系。
遠坂 凛。通称赤い悪魔が居間に居座っていた。話を聞く限り、どうやら俺の家に閉じ込められていたかららしい。
らしい、というのはじいさんのこの家に見知らぬ束縛系の結界が仕掛けられていた可能性があったからだった。まぁ、ゲームエリアとかいうのに縛られていたというのだけが、話を聞いて分かった事だった。
で、聖杯戦争というのはどういうものなんだ?
なんて疑問を遠坂にぶつけると、呆れた様子だった。
「あんた魔術師なのに、聖杯戦争を知らないのね。これは7騎のサーヴァント、つまるは強力な使い魔を使い争い、願いを賭ける戦い。あんたはそれに巻き込まれたのよ」
遠坂の言葉に拒否権なんてない。
この言い方だと、否が応でもやらなければならないことがあるってことだ。
それは戦うってことか?
人と人の戦いを?
喧嘩をするのとはスケールが違う戦いをしなければならないってことか?
絶え間なく疑問が湧き出てくる。
それを飲み込んで噛み砕いた差し障りない言葉を遠坂に伝える。
「サーヴァントってのは何だよ? もしかして、セイバーの事か?」
「ええ、それはクラス名よ。サーヴァントには真名というのがあるけれど、基本的にはクラス名で名乗った方がいいわよ」
溜め息混じりに答える遠坂。
とても面倒くさい感じに忠告を受けている気がした。多分、忠告なのだろう、遠坂としては。
「にしても、何でセイバーを召喚出来たのかしら」
俺もその言葉には同意する。
そんなものなんて、辺りにあったのか? 爺さんのことだから、事前に何らかの術が発動して呼び寄せたというのは分かる。
分かるけどさ、妙に理解が追いついていかない。
「無いもの強請りはそれぐらいにしたらどうだ? 凛?」
居間に一つの声が聴こえてくる。
男の波形をした音は、遠坂の側から聞こえてくる。
「アーチャー。分かってるわよ」
「なら、話を前に進めるとしよう。おっと、姿を隠したままでは話辛いか」
辺りを漂う魔力の波が、一点に集中していく。
金色の粒子が一つの人形へと象られる。
真紅の外套、黒を基調とした軽鎧と機能性抜群の長ズボン。褐色の肌に、緋色の瞳。オールバックにした白髪。
一目見ただけで、主婦の皆様方に人気のありそうなその貌はどこか見覚えのあったものだった。
どこだった?
...........妙に既視感がある。まるで数時間前に見たような。
「衛宮君どうしたの?」
「お前、まさか......あの時の槍男とやり合ってた奴か!?」
苦味を含んだ笑いが居間に広がる。当然、褐色の男が発生源だ。
「覚えていたか。ならば、名乗らせていただこう。私の名はアーチャー。遠坂 凛をマスターとして仕えるサーヴァントが一騎。聖杯戦争にて争う者だ」
褐色の男、アーチャーはそうきっぱりと宣言した。
敵であり、味方であり、駒であり、使われる者だと。
「......どうするんだ。これから」
超人的な戦いは見てきた。
セイバーとランサー、そして仮面ライダー幻夢。
特に仮面ライダーの戦い方は奇想天外で、他のサーヴァントとは比べものにならない程警戒を持たなければいけない。今の状態で戦うのは無理だ。先ず自分のことすら掴めていないのにも関わらず、他を掴むなんて夢物語だ。
「まずは聖杯戦争の監督役に会いに行きましょうか。最低限の知識を備えるのが先決だから」
遠坂凛の提案には二つ返事で賛同する。
セイバーも渋々と首を縦に振り、教会へと同行することが確定した。
◇
軽く身支度を済まして、セイバーにある質問をする。
遠坂が外に出ている間に聞いておきたいことだった。
「セイバー......アーチャーみたいに姿を消すことって出来るか?」
セイバーの外見は夜でも目立ち過ぎる。
こんな金髪の美女が夜道を歩いていたら、良からぬ輩が集ってくるに違いない。サーヴァントって奴に狙われてしまう危険性だってある。
「サーヴァントは皆、霊体化という能力を持っていますが......その、申し訳ありません。マスターとの繋がりが不十分なのか、霊体化が出来ません」
眉を顰めて、不快感を露わにしたセイバー。
遠坂によると視界を共有して見ることも可能とのことだが、そもそもの感覚が掴めない時点で問題外だ。
俺は今のところ役に立っていない。その事実が肩に重くのし掛かる。
無力で、何もできないことがこんなにも腹立しいと感じるのは、久しぶりだった。
「いいよ。セイバーが悪いわけじゃない、俺が未熟なだけだから」
そう俺の中で言い聞かせる。単純な気休めだ。
「.........分かりました。では行きましょう。あまり待たせても良くありません」
蛍光性の雨合羽を羽織り、目深く合羽のフードを被るセイバー。
些か違和感はあるものの、顔と胸の鎧を隠せばサーヴァントぽさは消えていた。
小学校の時に使っていたダボダボの雨合羽が此処で役立つとは、捨ててなくて良かった。
「ああ、行こう。セイバー」
黒のジャケットを羽織って玄関の方へ向かう。
冬の寒さ漂う、戦場へ。
◇
君は僕だけ。
僕は俺で、俺はお前だ。
眼を覚まして、自覚したのは自分である実感だ。
「おはよう、と言うべきかな。天才ゲーマーM」
手の平にある物体を確認して、自分が何者かを思い出した。
それはソフトであり、いつまでも愛用したハードへ差し込む大切なピースだ。
「目覚めは悪くないか。早速だが、頼みたいことがある。何、簡単なことさ」
導く神の代理人の声は、とてもうざったい。
俺はやりたいことをやるだけだ。
「戦いを......だろう? 心配ない、前庭を荒らす者共を蹴散らせばいいだけだ」
外が煩いのはそういうことだったか。
夜を騒がす無法者を討つ。
目的は決まった。だったら、やることは一つ。
【What’s the next stage?】
戦いは知らずに始まっていく。
一つは復讐のため。
一つは守るため。
互いは正義を成すため、戦う。
そして、勝利の方程式が成り立った時、混沌の扉は開かれる。
創造せよ、正義を。
次回『MAX hazaRD On』
See you Next EXtra Stage?