Fate/extra game   作:セトリ

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MAX hazaRD On

午前2時。

眠気もとうに過ぎて、テンションが変に上がっていく時間帯。

疎らに点灯する街灯をいくつも通り過ぎる人影が3つあった。

 

一人は緋色の青年。

一人は黒髪の少女。

一人は青色ドレスの少女。

 

3人の行き先は町外れの教会。

だけれど、足並みは微妙に揃っていなかった。

物理的にではなく、精神的に。

 

「......って訳で、仮面ライダーというのには警戒をして事を当たるといいかもね。一度会っているのだし」

 

謎の仮面ライダーなる人物の情報を共有している一同。

遠坂凛の使い魔たるアーチャーは遠方の斥候を請け負って、この場には居ない。だが、アーチャーから聞いた仮面ライダーの情報を纏めて、衛宮士郎に話していた。

遠坂凛の言葉に続いて、セイバーの補足が入る。

 

「仮面ライダー。奴は得体が知れません。姿が物理的に何度も変わる姿はまるで魔法使いみたいなものだった。何とか追い払ったものの、今度はどんな手で攻めてくるか分かりません」

 

「姿が変わった? 頭に自転車でも被ったのかしら?」

 

アーチャーの報告通りのイメージを想像して、多少にでも『仮面ライダー』というものに興味が湧いていた遠坂凛は、もっとセイバーの話を聞きいる姿勢に入っていた。

 

「いえ、あれは......鎧人形でしょうか。多少趣が違いますが、東洋の鎧に似ていました。実際に見た方がいいのでしょうか? どうしても言葉では伝わりにくいものでして」

 

少し離れて会話を聞いていた衛宮士郎は、何かを思い出したかのように女性同士の会話へ混ざる。

 

「そういや、その『仮面ライダー』って奴? ゲンムとか名乗ってたけど、これって関係あるのか?」

 

「......妙ね。私が会ったのはレーザーよ」

 

微妙なニュアンスの違い。ゲンムとレーザー。

遠坂凛は、レーザーの方をマスターと共に既に知っているものの、ゲンムという初めて聞いた名詞に、衛宮士郎へ聞き返すほかなかった。

 

「......なんかゲームみたいだ。そいつの姿や能力から情報を集めて、正体を当てるなんて。そのゲンムやレーザーって名前、意味があるのか?」

 

当の本人は、所見と考察を述べていく。

既に頭の中が情報でごちゃごちゃとしていた遠坂凛は、即答に近い速度で反応する。

 

「こっちが知りたいわよ」

 

遠坂凛は思考を諦めていた。

魔術から離れた科学に近い技術。それでいて科学には程遠い魔術のような技術。

相手はそれを使っているだけの人間だと、そう思うように教会へと歩を進める速度を上げる。

 

衛宮士郎も、セイバーも追いかけるように歩を早める。

 

ーーー本来ならば、この辺りで行われた正義の在り方を問うこともなく。三人は教会へと向かった。

 

 

 

 

轟々と吹く風に緋色の外套は靡いていく。

聖都のビル群から生まれるそれは、悲惨な過去を塗り潰して新たな希望を息づかせる。

鬱陶しいそれを溜め息として吐き出し、ビルの縁から数十km先の教会を見つめる。

 

「教会に入ったか。何もなければ良いが......」

 

不安になるのには訳がある。

教会の扉の前で、呑気に欠伸をしている青年。

マスターである遠坂凛を含めた三人が教会入って行くのを案内していた様子は確認できた。

 

しかし、あれは何者なのだろうか?

服装は聖教者の着ている礼服と寸分違わぬものであり、顔も何処か狐顔に似たものだ。顔の雰囲気からして無邪気な子供のそれであり、尚更警戒を強めていく。あの場で教会に居るということは聖杯戦争の監督役のサポートと考えるのが自然だ。

 

「......あの監督役は何を考えている?」

 

呟いても仕方ない。

再びビルの屋上から監視を続けようと、視線を教会へ向けようとした。

瞬間、身体が臨戦態勢を勝手に整えていく。

理由は明確だった。背後に一人の人間が立っていたからだ。

 

「始めまして、君がアーチャーかい?」

 

名前、というよりもコードネームを知っているその人間に対して、警戒度を強めていく。

白いスーツジャケットに、紫から下に白のグラデーションをかけていくデザインの丸首シャツ。そして、黒一色の飾り気のない長ズボン。何処を観察しても怪しい所は無かった。

 

「......誰だ? 名を名乗れ。コードネームくらいはあるだろう?」

 

長めの黒髪を七三分けした、長目に太い眉、薄い唇に長い鼻。何処か女性のような顔つきをしているものの、中心には男性らしさである精悍さが滲み出ている。

総合的に顔付きが異性向けての殺傷に長けていると、分析する。

男は嫌味のない笑顔で返事をした。

 

「私は現人神、ダンクロトシンだ」

 

一瞬、耳を疑った。

しかしながら、コードネームとして名乗ったとして納得をせざるを得ない。でなければ、『現人神』なんてものを自称する事はない。

 

「ダンクロトシン。あなたは何故此処に居る? 返答次第では消さなければならないのだが」

 

ダンクロトシンは笑顔を絶やさず、ズボンの前ポケットから何かを取り出す。それは二つの突起が付いた円形の物体だった。

 

「君を治すと言ったら、どうだい?」

 

ダンクロトシンは腹部に謎の物体を当てる。すると、伸縮音と共に銀色の帯が腰を一周して物体を固定する。

 

「何をする気だ?」

 

思わず息を呑む。

ダンクロトシンの笑顔から爽やかさが消えたのもそうだが、この粘り気のある感じは人を貶める時の快感を覚えた表情によく似ていた。

 

「こうするのさぁ......」

 

男はジャケットの左ポケットから、AとBのボタンの付いた機械を取り出す。

レーザーが持っていた武器と変わらない形状の機械。違う所といえばカラーリングが爽やかな銀と浅葱色だったのに対して、毒々しい紫と黒へ変更されていること。

それをダンクロトシンは謎の物体へ機械を嵌め込む。

 

【GACHoooN】

 

機械から、奇妙な電子音が鳴り響く。

不安を掻き立てる、疎らな鼓動が首の後ろに嫌な汗を流す。

 

ダンクロトシンは更に右ポケットから、見たことのある物を肩上まで掲げる。

 

「ライダーガシャットだと?!」

 

持ち手の部分が紫一色のライダーガシャット。

ダンクロトシンは横についたラベルを見せびらかすように、スイッチを押した。

 

【MIGHTY ACTION X!】

 

タイトルコールと同時に紫のゲームエリアが展開していく。

ダンクロトシンの後ろには、黒い火の玉みたいなキャラクターが赤い目を光らせている。

 

「変身!」

 

彼は大きく宣言する。

そのまま機械の空いている上部スロットへガシャットを差し込み、上部スロット横に備えられていた赤いツマミを左から右へ押し込む。

 

【BUGGLU UP!】

 

ローテンションの機械音じみた発声が流れる。

腰から電光板らしきものがダンクロトシンの前に投影された。

斜めに人型の形をした紫の絵と、糸で釣り下がった赤い人型の絵が上書きするように点滅する。

 

【MIGHTY JAMP! MIGHTY KICK!】

《Genocide!》

 

ハイテンションとローテンションが混ざり合う音声を奏で、チグハグな言葉を紡ぎ出す。

 

【MIGHTYiii ACTIOoooN X!】

《Wooooo!》

 

そして電光板を透過したダンクロトシンは、姿を劇的に変えていた。

黒い髪を模した兜にゴーグルを付けた仮面。ゴーグル越しに光る赤い血走った目。レーザーと同じくゲージと四つのボタンを付けた胸当て。

肩や手首、脛に取り付けられた紫の装甲。胴体や手足には目立つように赤いラインが走っている。レーザーとはまた毛色の違うライダーと一目で分かってしまった。

 

「もう一度聞こう。貴様の名前は何だ!」

 

空中へ投影された絵がダンクロトシンの身体を一周する。

その絵をダンクロトシンは掴んで実体化する。

それは白を基調としピンクと緑に彩られたハンマーだった。

 

【GASHACON BREAKER!】

 

ハンマーが機械音声で名乗りを挙げる。

自己主張の激しい武器は、人生で二度目だ。

 

「仮面ライダーゲンムX(エックス)とでも名乗っておこうか」

 

白と黒の夫婦剣を投影し、手に構える。

手汗が尋常じゃないほどに分泌されていた。傭兵経験を経てなお緊張している。否、そうせざるを得ない。

 

「.....行くぞ!」

 

 

 

 

星空を眺める。

夜に輝く不定の煌めきは、決してその手に掴めないことは確認した。

右手には拳を、左手には覚悟を決めるためのガジェットを握っている。

 

目線の先には筋肉隆々の約3mほどの大男が、鎧を纏った金髪の女性に、2m以上の異常な長さと厚みをした黒石の斧を振り回している。

力に任しての振り回しではなく、女性の行動に合わせて先読みした上で振り出すいやらしい武器の使い方だ。

 

遠い草むらの茂みからでも分かる大気の大きな揺れが、斧の威力を物語っていた。女性は見えない何かで、化け物の攻撃を受け流ししているが時間の問題だろう。

 

周りに目を向けると、ツインテールの黒髪と緋色の髪の青年が女性側に、白銀髪の赤目の少女が大男側に立っている。そして、そのどちらでもなさそうな神父服の青年は、笑顔で教会の扉にもたれ掛かり戦いを観察している。

 

どうやらあの大男と女性をお互い使役して戦っているって感じだ。

にしても、身体能力のスペックが違い過ぎないかと思う。

あの中に入り込もうとするならば、変身するしかない。

 

しかし、変身してしまえば自分の存在がバレてしまう可能性だってある。

バレてもいいが、その場合とても面倒な展開になることは確実だ。

あの神父服の青年も気になることだし、今はまだ、機を待つしかないか。

 

上空からジェット音が聞こえる。

上を見れば、視界に今回の目標を捉えた。タイミングを見計らって奴のガシャットを奪わなければ。

仮面ライダーレーザーターボ、お前のな。

 

 

 

 

夜にそぐわない空気の破裂音を何度聞いただろうか。

 

「いいわ、いいわ。もっと悲鳴を奏でなさい!」

 

夜にそぐわない物体の衝突音を何度聞いただろうか。

巨漢と少女のぶつかり合いをどれぐらいの時間見ていたのだろうか。

冴え渡る剣技。互いの武器が創り出す線と線の螺旋。

 

「これでは......っ!」

 

少女は奥歯を噛み締める。

数合に渡る剣戟の末に彼我の実力の隔たりを感じていた。

魔力回路の接続不良、それに伴う魔力不足。サーヴァントと仮面ライダーとの連戦での疲労。様々なハンデを背負っているからこそ、少女は勝てないと直感した。

 

「◾️◾️◾️◾️っ ァァa Aアアアアア!」

 

修羅なる化身の咆哮。周囲の地面が捲れる程の大音量。

分厚い空気の壁は少女の防御をすり抜け、体勢を崩させる。

決め技はその一瞬に捩じ込まれる。

 

巨漢は、己の膂力をはち切れんばかりに右手へ集中させていく。そして限界まで後ろに引き絞り、少女に向かって放たれる。

何の技量も無い、純粋な力によるパンチング。

サーヴァントとしての身体能力ブーストを掛け合わせての一撃は、巨槌として少女の胸部を強打した。

 

「セイバー!」

 

少女は近くにあった森の方へと轟音と砂埃を伴って吹き飛ばされる。

木々の折れる音は数百mまで響き、先程の一撃がどれだけの威力を持っていたのかを如実に語っていた。

少年は少女の名を叫ぶしか出来なかった。少年に何も出来ることは何も無かったのだ。

 

「さぁて、そろそろ終わりかな? 楽しかったよ、お兄ちゃん♪」

 

嬉しそうにチェックメイトを言い渡す赤目の幼女。

守る盾である少年のサーヴァントは、もう戦闘不能だ。

残された生身の人間がサーヴァントに勝つなど、余程の奇跡が無ければ成し得ない。

 

少年は目を瞑る。

これからの人生にさよならを。生きる為に神へ奇跡を乞う。

 

「諦めないで! 何をボサっとしてるのよ!」

 

少女の激励。

少年の耳にジェット音と何かを飛ばしている不思議な音が聞こえる。

少年は瞑った目を開けると、横で人差し指を巨漢に向けている黒髪の少女の姿が視界に写っている。

勝ち気な笑みを浮かべた、堂々とした立ち姿。

自分よりも小さいはずの背中は、大きく見えていた。

 

けれど、その身体は震えている。

 

少年の心は激しく燃え上がる。

守らなければならないと。己の不甲斐なさを反省するのは後にしようと拳を握り締める。

 

「遠坂! 森に逃げるぞ!」

 

少年の提案には理由があった。

一に、ジェット音なんてのは上空に飛行機が飛んでいる場合だ。夜中にそれは無い筈。だからこそ、何者かが空から接近してきたと考えた。

二に、航空に伴う音に混じって、ある機械音声が僅かに聴こえたから。その音声は、以前にも少女が聴いたことのある言葉だった。

 

【ジェット クリティカルストライク!】

 

少女の手を引いて森に逃げていくのと同じタイミング。

超高速で地面の穿つ音が少年達の背後で炸裂する。

 

 

 

 

「さてと、いっちょあがりってところだな」

 

不意打ちの機関砲は流石の化け物じみたサーヴァントでも、避けられることは無かった。

ジェットエンジンを稼働させて上空に滞空していた自分は、砂埃の中に着地する。そして周りを警戒しながら、ガシャットをシャカリキスポーツに切り替える。

 

【シャカシャカコギコギシャカリキスポーツ!】

 

ゲーマの切り替えが終わった所で、更に追加でガシャットを起動する。

 

【仮面ライダービルド!】

 

ゲームエリアが赤と青の色を交え、エナジーアイテムが散りばめられたのを確認する。丁度砂埃は晴れて、奴さんの姿が見えてきた。

 

「へえ、変わったサーヴァント。貴方何ていう名前かしら?」

 

化け物の肩に乗り銀髪赤目の少女はそう質問をしてくる。

やはりというか、こちらの攻撃は威力が足りなかった。掛け合わしたレベル0の攻撃力でも、身体に傷を負わせられないということが実感できる。

 

「仮面ライダーレーザーターボ」

 

多少の嘘を混ぜ、答えておく。ルーラーなんてクラスを馬鹿正直に答えても、嘘だと不審に思われてしまうのは駄目だからだ。

まず、相手に信用される為には嘘と勘付かれないように動かないといけない。ファーストコンタクト(初期遭遇)のコツだ。

 

「面白い名前ね。仮面ライダー......名が体を成すってそういうこと」

 

これで、俺のクラスが彼女の中でライダーとなった。

仮面の中身は見えない。だから、ライダーという仮面を被ることで本来のクラスを隠し、戦況をコントロールできるように仕向けておく。

 

「まぁ、始めようぜ。退屈はさせないさ」

 

真名看破は終わっている。

クラス、バーサーカー。正直に言って13の命を削りきるつもりはない。が、多少削れる程度にしておこう。こういう何度も生き返る系の敵は戦ったことがあるからな。

 

「バーサーカー。あいつやっつけて!」

 

持久戦はほどほどに、機を見て撤退の戦法でいこう。

『仮面ライダービルド』の力、試させて貰うとしようか。

 

 




サーヴァントと仮面ライダーが戦う。

異なる歴史を捨て去る、正しき歴史の影響。

その歴史は果たして真実なのだろうか?

そしてまた運命は仮面ライダーと出会う。

次回『Super Best Match』

See You Next Extra Stage?

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