遠坂凛は口をポカンとOの字に広げていた。
遠坂凛は魔術師である。それ故によくよくオーバーな驚きを隠せないでいた。現在、遠坂凛の居る場所は衛宮士郎邸である。
「まあ、驚くべきではあるか。世界を移動することで移動距離の概念を打ち消す芸当など、昨今の魔術師ではなし得ないことだからな」
そう言う赤い伊達男ことアーチャーは、起きていた現象について冷静に言語化していた。サーヴァント達の戦いの後、駆けつけてきた二人のマスターはそれぞれの従者に対して叱責をかましていた。
片や勝手に戦いに行ったことに、片やあれだけ魔力を消費して負けたことに。
そして、落ち着いて話す場所が欲しいとして提供されたのが、ステージセレクトによる空間移動を応用した、衛宮士郎邸だった。
仮面ライダーレーザーのマスターも衛宮士郎邸に良く訪れていることから、勝手の良い場所といえばということらしい。家主が居ることから満場一致でそちらに向かってから、話し合うということになった。
「で、どこから話していくか? 何故アーチャーと戦ったのかって所からか」
仮面ライダーレーザーは変身を解いた人間の状態で話し始める。
彼には九条貴利矢という名前はあるが、アーチャー達には伝える気は無いため、武装を解いた人間の姿だということだけアーチャー達には情報を渡した。その時に、人間だったことに散々驚かれたことはレーザーにとってある意味で新鮮な感じだった。
閑話休題
「大方予想はついている。原因はランサーだろう?」
居間の昔ながらの大きな平机を挟んで、アーチャー組とレーザー組は会議をしている。右の位置で正座で座り語るアーチャー。
「ああ。恐らくは暗示の類だ、ランサーが退却する時に仕掛けられたんだろう。次に見た戦士と全力で戦うという契約を無理矢理結ばされて、見てしまったのがアーチャーだったという訳だ。生半可な戦いでは解けそうにはなかったから、ああやって戦う選択肢の劇薬を飲んだということさ」
全く、とあの長身の青タイツを思い浮かべて状況を整理している机の左側に座るレーザー。その隣に居るマスター上条茂夫は衛宮邸に備えられた茶飲みを人数分出して、ヤカンのお湯が沸くのを待っていた。
「全くランサーにはお互い一杯喰わせられたな。おかげでこちらも手札を幾らか切る必要があった」
アーチャーはマスターのその行動に、多少の疑問を抱きながら次の問題に頭を切り替える。
仮面ライダーレーザーというサーヴァントは一体何のクラスだったのか、それを先程の戦いと照合すると可能性は二つのクラスに絞られる。
「まあ、恨み言はこれまでとして。君のクラスはライダーか、キャスターなのか?」
以前の問いに解答を求めるアーチャー。
対してレーザーは正座を崩し、あぐらを掻き気怠そうに答える。
「不正解だ。あんまり常識に囚われんなよ」
あんまりにも気怠く、鬱陶しさも混ざっていたであろう一言に憤慨したのは、パラダイムシフトの衝撃から自我を取り戻したアーチャーのマスターであった。
「ちょっと! じゃあ一体何のクラスだという訳!? 仮面『ライダー』だからライダーとか、自身の領地を作るキャスターじゃなければどんなクラスなのよ! 貴方、アサシンやバーサーカーなんて柄じゃなさそうだし? もう、頭がこんがらがるわよ!」
既にこんがらがっているという満場一致の突っ込みは、アーチャーと上条とレーザーのアイコンタクトにより口に出すことは無かった。
代わりに余計混乱を招く一言を、レーザーは言ってのけた。
「ルーラーだ」
「はい?」
「自分のクラスはルーラーだ」
お湯で煎れたお茶を注ぐ上条。
5つ注ぎ終わり、ようやく沈黙を保っていた口を開く。
「なんでも、世界を守るために聖杯に呼ばれてきたらしいです」
白衣を脱ぎ、自らもレーザーの横へ座る。
無地のグレーの七分袖シャツとジーンズパンツという無個性な服装は、特徴的な服装達からすれば目立っている。
「世界を守るため、か。とすれば、聖杯にかける願いはないと」
真っ赤な異国の服を着た男は、その服を着るまでに至った経緯を想像していた。赤原礼装と呼ばれたものに籠めた願いは、果てしなく青く途方も無い幻の夢だと改めて思い知らされていた。
「そもそもの願いというものが、ただの人探しだからな」
南国風のシャツの上に茶色の皮製ジャンパーを羽織る男は、皮ジャンパーに込めた赦罪を思い出す。かつて自分のせいで親友の命を奪ったという、過去の十字架。背負うことが自分自身を生きると実感させる。
「人探し? 一体誰を探しているというの?」
穂群原学園の制服を真っ赤なコートで彩る少女は、とある男から毎年送られてくる服の意味を考えた。普通ならば好意的に受け取れるはずのことを、男のせいで素直に喜べないと。事柄だけで判断することは出来ないと少女の理性は判っている、だからこそレーザーの魂胆を知りたかった。
「天才ゲーマーMを探している」
上条は誰だろう?と、素朴な疑問を持つ。
それはアーチャーや遠坂凛も同じで、口に出さないが頭の中の記憶を探すようなそぶりをしていた。
数瞬の間を置いてレーザーは話を続ける。
「顔の感じは上条と同じで、髪を短く切り揃えたら天才ゲーマーMになる」
「その人、相当な童顔なのね」
例えに出された上条は、僕ってそんなに顔が若かったっけと呟く。
童顔で可愛いらしい校医って言えば上条先生で決まってますからと、遠坂凛は言った。
上条はそんな目で生徒に見られているんだと、今更ながら気付いて心の中で膝をついてうなだれる。
「それと、とあるゲームカセットを探している」
レーザーはそんなだらしないマスターを横目に、懐からスマートフォンを取り出してとある画像を表示させ、机の中心に置く。
これは? と一同が疑問を抱く。
通電性のガラスに映る画像には、黄金の箱と思しきものに星を象った透明なものが横に合体している謎の物体が映っていた。
箱の表面には、髪を伸ばした凛々しいマスコット調のキャラクターが星が散らばる虹色の背景にプリントアウトされている。
そのキャラクターの上から主張するようにデカデカと、英語が黄金に輝いていた。
「ハイパームテキと呼ばれる、ゲームカセットだ」
レーザーは英語を読み上げ、スマートフォンを懐にしまう。
「それはゲームなのか? 我々の知っているゲームカセットというものからとても逸脱しているのだが」
アーチャーは、世間一般に流通しているゲームカセットの形状を思い出す。最新のものは、あれ程にも大きくない上複雑な造形はしていない。
「だろうな、これはライダーガシャットと呼ばれるものの亜種だ」
レーザーはまた懐から一つ物を取り出す。
それはアーチャーには分かるものであり、遠坂凛には分からないものだった。
透明なブレード状の長方形プレートに、手に持つ部分が黄色と黒で彩色された装置だった。元々手に持つことを想定しているのか、手に馴染むような形状をしている。
「 なるほど、ライダーガシャットというのは君の力でもある訳か」
「どういう事よ、アーチャー」
「何、その事はレーザーが答えてくれる」
レーザーは立ち上がりとある装置を腰に装着する。
蛍光グリーンが基本色に、ワンポイントにレバー部分が赤で彩るハイカラな装置だった。
「これはライダーガシャットを使うための装置、ゲーマドライバーだ。一度使うところを見せてやる」
レーザーは右手にあるライダーガシャットを起動する。『バクソウバイク!』とひと昔前のレースゲーム調のイントロが流れそして、黄色のブロック状ワイヤーフレームが居間を張り巡らす。
「これがゲームエリア。俺たちが有利に戦うための空間」
レーザーの背面には、荒野をバイクで疾走するレーサーの絵が大きく表示される。
「俺が展開したのはレースゲーム『爆走バイク』他にも色んなのがあるが、今はいい」
レーザーはガシャットをゲーマドライバーの左方向にある、銀色に縁取られたソケットへ透明なプレートを下にして差し込む。『ガッシャット!』と機械音声をなったと同時に、ゲーマドライバーにあるレバーを掴み、右側に倒す。
『ガッチャーン! レベルアップ!』と一際ハイテンションな機械音声がコールしていき、レーザーは周囲に現れた顔写真の内の一つを回し蹴りで選択する。
『爆走、独走、激走、暴走、爆走バイク!』
と、またもやレースゲーム調にノって歌う機械音声。バイクがジャンプした絵を写したワイヤーフレームがゲーマドライバーから拡大表示され、レーザーの身体を通過する。
すると、黄色いエネルギーが纏わりついてレーザーはその身を変える。アーチャーを一度負かせたあの姿に。仮面ライダーレーザーに。
厳密に言うならば、仮面ライダーレーザーターボ バイクゲーマーレベル0に。
「これが俺の本来の姿。仮面ライダーレーザー レベル0」
遠坂凛は深呼吸をして茶飲みを手に取ろうとする。
本来の姿になった時、ステータスが読み取れたというあまりにも非現実的な現象を目の当たりにしたのか、茶飲みが注ぎたてという事をすっかり忘れていた。およそ80度の熱さに、手を焼く。
アーチャーはどこからともなく氷嚢を取り出し、遠坂凛に渡す。
「ここまで情報を渡したんだ。聖杯とは、何だ」
アーチャーは、口軽く答えた。
聖杯とは万能の願望機であり、それを求める7人のマスターが使い魔であるサーヴァントを呼び出して戦う。聖杯戦争というものをレーザーに伝える。
「本来なら7つあるクラスにサーヴァントは一つしか入らない、か。聖杯戦争はまだ始まってないのか?」
「ああ、多少の小競り合いはあれどもまだ全てのサーヴァントが出揃っていないからな」
アーチャーは横たわっている衛宮士郎を一度見て、レーザーに向き直り己が知りうる記憶を頼りに答える。
「アーチャー、バーサーカー、ランサー、及びにクラス不明の2体のサーヴァントが呼び出されている」
レーザーは仮面の下でランサーの言動を思い出す。
『此度の聖杯戦争は真っ当な役割を捨てた奴が多い』と。ライダーの宣言をして、ランサーは不可解な事に直面したような表情をしていた。更にライダーを名乗った時のアーチャーの反応も同じということが、クラス不明の一人がライダーだと言っていた。
「アーチャー。召喚されていないのは、セイバーとアサシンか」
レーザーは迷いなく言及した。
ゲームエリアの森で不可解な事件が無いかを上条と話した時、気になった事があった。夜な夜な襲われ生気を抜き取られ、夜の野外に放置されていた事と街全体の体調不良者が多くなり、聖都の医者が出張る事態に発展した事。
そして、『キャスターは自分の領地を作る』。これに当てはまるなら領地を維持するため何かを抜き取っていることになる。それは剣士であるセイバーと暗殺者であるアサシンは出来ない芸当だと。
「なぜそう言い切れる?」
「直感さ。ライダーとキャスターは呼びだされ、セイバーとアサシンはまだ居ないと思ったからさ」
アーチャーはレーザーの脅威的な洞察力に舌を巻いた。失言も何もしていないのにも関わらず、僅かな情報のみで真実を暴いたことに。
戦いとは別のところでも、優秀な人間というのがアーチャーのレーザーに対する総評だった。
「敵にするには惜しいな。是非同盟を結びたいところだが、レーザー、君はどうかな?」
レーザーは変身を解いて、座布団の上に胡座をかく。
机の上にあった冷めかけたお茶を一杯煽り、全てを飲み干す。
「いや、まだだな。情報を提供し合うまでならいいが、まだ味方にはなれない。こちらもまだ戦力が揃っていないからな、しばらくは情報収集に忙しくなる」
とここで上条に視線を振る。
ほとんどサーヴァント同士の会話だったために、口も挟む暇もなかった上条はようやく意見を出せるタイミングがやってきた。
「でも、僕は校医の立場上君達を危険に晒す訳にいかない。もし、危険に晒された時は僕が守りますから。あまり一人で抱えこまないで下さい」
アーチャーもレーザーと同じく、マスターの意見を求める。
「分かりました。私も魔術師の端くれですから、最低限の身は守れます。通常は情報提供のみ、非常時は手を貸すということでいきましょう」
レーザーを除いた全員が茶飲みを飲み干す。
今回の話し合いは終わった。レーザーは再び変身して、ゲームエリアに上条を連れて転移していく。
残ったアーチャー達は、じきに目を覚ますだろう衛宮士郎を布団に寝かして衛宮邸近辺で護衛をすることとなった。
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とある少年は、夢を見ていた。
暁に染まるなだらかな丘の上で佇む少女。
黄金に光るブロンドに、深緑を眼球の奥底に染み込ませている。
少女を観た第一印象は可憐と清廉さだった。少女というには品があり過ぎ、大人というには少々足りない風貌。彼女はドレスのように、群青を色付けて白をアクセントに金属を纏っている。
鎧。確か戦闘を行う時の戦装束だ。
ならば少女は鎧を何故纏っているのか。疑問は直ぐに解決した。
彼女の佇む丘は、死骸が積み重なって出来ていた。
死骸、即ち人間が戦い争い命を散らしていった。
剣で斬られ、槍で貫かれ、矢に刺されて。
彼女は最後の一人だった。
向かう敵はなく、ただ孤独に勝利の丘にて佇む。
酷くその光景がどこかと同じように見えた。
自分もそうだったのか。
ーーーああ、俺もそんな地獄を見た。
だから、少女に手を伸ばした。
届かないとしても、少女に手を伸ばす理由がある。
俺は少女の味方だから。
景色は遠のく、自分は暗闇に取り残されて。
次に見た景色は自宅の白熱灯だった。
辺りを見回すと、そこが自分の部屋の中だと分かった。
ちくりと胸の痛みを感じる。何ともなかった自分の胸板を見て、直前の記憶を思い出す。確かに胸へ、心臓へ真紅の槍に串刺しされた。
でも生きている。
ごく普通の呼吸ができて、身体の感覚も異常はない。
自分の寝床から起き上がり、辺りを見回す。
数ある和室の一つ。障子と箪笥と丁寧に折り畳まれた自分の制服だけだ。制服には赤黒い染みが大きく付いていた。胸を中心に、殆どが血に塗れていた。最早二度と着ることが叶わない制服をゴミ袋に入れようと、袖が青く胴の部分が白いロングシャツと青いチノパンを履く。
右手には、ミミズ腫れのような痣がある。
制服を居間にある色付きの袋に入れて、カモフラージュに新聞紙を入れようとしていた時ふと気になってしまった。
数日前から痣はあったものの、特に痛みもなく害も無かった為、頭の隅に追いやっていた。注視してみると、なんとなく紋章にも見える。
「もしかして、これが死の宣告だったりして」
そんな訳ないだろうと、とあるゲームを思い出す。
刻まれたら最後、死の刻限が迫り、やがては致死に至るという厄介な状態異常があったなと幼い頃、藤ねえと状態を解除するため四苦八苦していた思い出を。確か、聖剣を探し出してその破魔の魔力で掻消せたんだっけ。と、懐かしさに浸っているとふと縁側の風鈴がチリンとガラスを擦りつける。
涼風は、死の具現者を呼び込む。
衛宮士郎は咄嗟に何もいないところへポスターを空中に広げ、自分の内なる力を解放する。魔術回路。魔術を行使するための神経を繋げる。身体に巡る光をポスターという物体に意識を集中させる。
「
ーーー構成物質、解析。完了。
ーーー構成物質、材質強化。
ポスターを構成する紙を、繊維から変換する。
盾のための鉄の如き堅牢さと強固さを想像し、流し込む。
瞬間、強撃が防ぐ盾となったポスターに襲いかかってくる。鉄の如き強度を持った材質が一瞬として粉々に砕け散る。
それは紛れもなく、人間離れな威力を叩きつけられた証左となり、放った者はもれなく人間を超えている。
衛宮士郎はカラフルな粉吹雪の向こうで、正体をしっかりと眼に焼き付けた。
深海よりも深い青い髪をオールバックに後方へ一房を結びつけた、怪物たりえる真紅の双眼。濃い密度で殺気を纏う赤々とした一振りの槍。首から下を包む青いボディスーツ。最低限の部位を守る鉄の銀を飾りつけた、高身長の青年を衛宮士郎は知っている。
命を奪おうとした、いや。
衛宮士郎の命を奪っていた宿敵だ。
「よう、死に損ない。命を奪いに来たぜ」
その言葉と共に、衛宮士郎の身体は庭園に弾かれる。
サーヴァント・マテリアル4
《ルーラー》
本来、聖杯戦争では召喚されることのないクラス。
何らかの異常が聖杯戦争で起きた場合に調整する為、中立の立場で召喚される。しかし、レーザーがルーラーとなった理由はとある世界の人理焼却が行われた異常を正すため、とある世界の法則をよく知る人物として特例的に適用されたためである。
特異な経緯を辿ったため聖杯戦争のルールを知らず、中立の立場でいなければならないという法則を逸脱している。『ルーラーという名の何者か』という立場がレーザーである。その為ルーラー特権である、真名看破等の力は弱体化している。