少年は驚愕を隠せないでいた。
青年は困惑を隠せないでいた。
少女は混乱を隠せないでいた。
ここは真上に陽が昇る、ひび割れて乾いた大地。
生命たる緑はなく、ただただ土色の平行線が広がっているだけだった。
「何だ、何だ、何だ! どこの誰が呼び寄せやがった!」
青年の叫びは虚しく響く。
スケール感が狂いそうなほどの殺風景にセイバー達は取り残されていた。しかし、微かに吹く風が少女の耳梁を打つ。
《ギリギリチャンバラ》
そんな雑音を聞いた。少女は其方に首を傾ける。
方向は真後ろ、痛めた身体を無理矢理反転させる。そこには鎧を着た複数のヒトガタが面白い形をした
頭は橙色と乳白色。二つの触覚が目に突き刺さっている変テコな仮面を被っており、時折キーなどの理性を感じさせない奇声が漏れている。
傷ついた身体であれど、取るに足らない相手だろうと少女は武器をとる。少年を背後に寄せて、迎撃体勢を整える。
そして、およそ十はいる群衆は少女を無視して青年に攻撃を開始した。
「ちっ、雑兵がわらわらとッ! コノートみたく物量作戦てことか!」
少女は警戒しながら、鎧の隙間を叩き斬る。
鎧の構造も見たことのないものだったが、脇の下や首など目視で薄いと感じたところを叩き斬る。肉の裂く手ごたえを通じて感触を実感する。青年も同じく襲いかかるヒトガタに対して、剣を弾き槍を頭や心臓を狙い突き刺していく。
トドメを刺されたヒトガタは橙色の粒子となり、跡形もなく空気に溶けていく。散り際はあっさりとしているが、少女には逆にそれが怖くなっていた。
まるで、道具のように使用しているかのような。
まるで、誰かが操っているかのような。
ゾクリと少女の首筋に悪寒が走る。
「セイバー、奥に誰かが居る」
少年の言葉に従って、雪崩れ込む鎧軍団の奥を注目する。
そこには場違いな大仮面が覗き込んでいた。
銀色の棘を額に真っ直ぐあしらった仮面は、白色の全身鎧の上に乗っかっていた。手足が短く大きな全身鎧と人間の顔3人分程の仮面。大仮面に付けられた大きな青い瞳の模様は、まるで人間のようだった。
《ガッチャーン! レベルアップ!》
また雑音が響く。今度は大仮面の前に身を包む程巨大な絵が現れる。
その絵は鎧を纏った、仮面の人形。白と黄に発光した絵を大仮面がくぐり抜ける。
すると全身鎧が弾け飛び、黒色に銀色の差し色の入った小さな鎧人形が何もないところから現れる。大仮面は回転して、基礎となる胴の鎧を作り出し、鎧人形は分解されて小さなパーツとなり手足が引っ付いていく。
《爆走、独走、激走、暴走、爆ー走ーバーイク!》
まるで一つの鎧が先ほどの仮面の人形を作り上げるように、白銀と黒の全身鎧が完成していく。鎧のヒトガタのような雰囲気を漂わせるそれは、正しく騎士。
《アガッチャ! ギリッギリバリッバリチャンバラー!》
青き眼差しの全身鎧が誕生する。
少女らには名乗る名もないが、あえて言うならば、かの名は、
ーーー仮面ライダープロトレーザー
荒野の熱の無い陽炎に揺られて、歩いてくるプロトレーザー。少女は警戒の度合いを強める。腰には明度の高い緑色の機械を装着しており、そこには二つの黒い何かが突き刺さっている。
意識を集中させていたというのに、プロトレーザーは姿を消した。
いや、目で追えない程の速度で動いていた。神速ともいうべき敏捷性。サーヴァントである青年に匹敵するそれは、同じくサーヴァントである少女の目に留まらなかったことが脅威を感じさせる。
少女は防御の構えを取り、来るべき攻撃に備える。
だが、打ち合う音は背後に聞こえた。
「チィ......あんた一体誰だ!?」
混乱極まる青年の声が聞こえる。少女と少年が青年の姿を見たのは、目隠しがわりの土煙が降りた時だった。辺りにワラワラと群れていた鎧のヒトガタは消え、青年とプロトレーザーが互いの武器で鍔迫り合い、火花を散らしている。
ゲイボルクとガシャコンスパロー。
互いに見知った武器を目に捉えて、青年、いやランサーはとある人物を思い出した。
『ライダー、仮面ライダーレーザー』
あの皮ジャンパーの顔を兜の仮面に重ねた。
「成る程、こんな小細工を仕掛けてくる奴だったとはな。あの時の約束を果たすにはまだ早いじゃねぇか!」
ランサーは宣誓を重んじている。
己の生き方を示したそれは、唯一絶対ともいうべきアイデンティティ。破ることはできない。破ってしまえば自身をとことん弱体化させてしまう呪い。だからこそランサーの真名を知ってしまった者は、消さなければいけない。
「ーーーーーーーー?」
それは悪魔の耳打ち。
お前の全てを知っているぞというべき、加工された機械的な言葉がプロトレーザーから微かに流れる。真名を察したセイバーならば、利用しないとわかっている。だがレーザーはどうだ。嘘も軽々しく言いそうな奴は策謀を好み言い寄るだろう。
ランサーの脳裏にコノートの女王の顔が浮かぶ。
「上等じゃねぇか! やってみろ、やれるもんならな!」
ランサーは槍を引き、鍔迫りの体勢からいなしの体勢に入る。レーザーの変則的な弓は空を切り、縋るあてもなく宙を舞う。
これを好機とみたランサーは槍の穂先を地面に刺して支え棒とし、レーザーの顔面部分を蹴り飛ばす。
まともに食らったレーザーはピンボールの玉みたく地面を跳ね飛び、5度目のバウンドでようやく勢いが収まる。土煙で全くレーザーの姿が見えない、けれど地べたに這いつくばっているとランサーは想像を膨らます。
「へっ、案外大したことはないかもな」
槍を構え、残心を取るランサー。
警戒は解けなかった。まだ何かしらの手段を取ってくるだろうとランサーは細心の注意を払う。それでも次の音声に耳を疑った。
《カメンライダービルド!》
小型の円盤が辺り一面に広がる。
中心に描かれた模様は黄色のライオンや赤色のウサギ、灰色の機関砲や水色のロケットなど多種多様であり、カラフルな色彩が何もない荒地を装飾する。
《タンク!》 《ズッキューン!》
そんな音声が聞こえてきた。埃の中で群青の風が一点に逆巻いていく。恐らくプロトレーザーが攻撃を仕掛けようとしているのは、ランサーには明白だった。
のにも関わらず、ランサーは顔の横1センチメートルを通り過ぎた青の光線に、一歩も動けないでいた。
《ライダー クリティカルフィニッシュ!》
そう名乗った光線は放物線を描き、地平線の近くで爆炎が上がる。
数百メートルは離れているランサー達にも、強烈な爆破による空気の振動が伝わり、その一撃がどれほどの破壊力を秘めているのかを物語っている。
「......あいつ無茶苦茶だ。色んな法則を吹っ飛ばしてる」
少年はそう評価した。側で少女が「サーヴァントというのはそういうものです。アレは少々規格外ではありますが」と少年にとって嬉しくない補足を入れて。
「......こりゃ、本腰を入れないといけないか? 冗談キツイぜ」
ようやく煙が晴れ、銃玩具のような武器を持っているプロトレーザーを視野に入れるランサー。ランサーは内心笑ってしまった。『飛び道具なら大丈夫だと』。
「......実験を始めよう」
プロトレーザーは銃玩具から取り出した赤と青の機械を、ランサーとの間に浮かんでいた赤色のウサギが描かれた円盤に触れさせる。たちまち機械ヘ吸い込まれたと思えば、《ラビット!》とテンションの高い男の声が鳴る。
と、同時にプロトレーザーの姿が搔き消える。
人間の少年もランサーもサーヴァントの少女も、プロトレーザーの姿を再び見ることは出来なかった。
《キメワザ》
少女はそれを危険なものだと察知する。この状況で狙うとすればーーー
「ランサー! 右に避けろ!」《クリティカルサクリファイス!》
ランサーは右に身を捩る。浅葱色の斬撃がすぐ横の地面を直線に抉る。その場所は、先程ランサーの右半身があった場所だった。冷や汗がランサーの額を濡らしていく。
「......これで終わりだ」
滴り落ちた冷や汗は、ランサーの腹部に添えられた浅葱色の物体に付着する。
《ライダー クリティカルストライク》
ランサーの鳩尾を強打する物体。
それを少年と少女が武器と分かったのは、ランサーがそのまま荒野の空間から弾かれるように消え、プロトレーザーが構えていた物体を直視出来たからだった。
ーーーーーー
遠坂凛は衛宮士郎が起きるのを居間で待っていた。
ただ、どれだけ待っても起きる気配が無い。
というか、あまりにも静か過ぎる。
「ねぇ、アーチャー。今何時?」
「丁度、12時だが」
側で直立していたアーチャーは、壁時計を見て主の疑問にすぐさま答える。遠坂凛は折り畳み携帯電話を開けて、画面をアーチャーに見せる。
「アーチャー、これ何時?」
アーチャーは主の言わんことを察してしまった。
携帯電話に表示された時間をアーチャーは答える。
「1時だ。凛」
「やってくれたわね。あの革ジャン野郎」
同盟をさらさら組む気は無いと、あの革ジャン野郎が言ってきたと同義の妨害工作。アーチャーは凛をどう宥めようかと思考することに全力を注ぐことにした。