セイバーはランサーが居なくなった事を、極めて危険な状況だと悟っていた。数が勝っていたのなら、数を減らせば良い。単純な戦法だが、行うことは実力がある人間が増えるごとに難しくなっていく。
それを
その事実だけでも、マスターを庇いながら戦うことは不可能に近いとセイバーは感じ取る。
「セイバー、俺はどうすればいい?」
衛宮士郎の問い掛けはセイバーにとって意外であった。
セイバーはただ一言だけを告げる。
「少し離れていて下さい。これからの戦いにマスターを気にかける余裕は無くなりますから」
《タドルクエスト》
戦いを始めることを告げるように黒色の機械を起動させた
西洋鎧を身に纏った兵士が剣を掲げる絵が後ろに表示される。
《レッツゲイム、メッチャゲイム、ムッチャゲイム、ホワッツザネイム?》
その一つを正面に突き出した手の平で触る。
『character select』と派手な文字が浮かび、顔の絵の一つが選ばれる。それはモノクロの兜。頭を隠すフェイスガードと冷静さを持つ目、どことなく西洋の兜の特徴を取り入れた仮面は、
《アイムアカメンライダー!》
今までの鎧武者の姿は消え去り、兵士のようなモノクロの大仮面を被った白い鎧を纏っている。丁度鎧武者が電光板擬きを潜る前と白い鎧が同じだったと衛宮士郎は思う。
「かめん、ライダー?」
謎を問う声に左手を胸元に添える大仮面。
礼をしているような仕草。闘いの始まる前に行われる礼儀作法とも取れる。そして、大仮面の中から変声機械を強くかけた聞き取りづらい人間の声が、言葉として羅列していく。
「......私の名は仮面ライダー
腰の機械に備えられた、明度が高い赤色のレバーを大仮面は左から右に倒す。レバーに連動した蓋が開かれ、機械の中心部が露出する。
その中にある透明なガラスから、青色の光の板が立体的に大仮面を包む。
《レベルアップ!》
誰かがそう言った。
セイバー達にはもう紫の異次元の布に包まれ聴こえることはない。
辿る世界。巡る世界。
様々な扉が開かれて、景色が目まぐるしく移ろう。
夕日の海岸。木漏れ日の森。星空の下の湖。極熱の砂漠。極寒の雪原。荘厳な古城。
やがて時代を中世にまで遡ったと錯視する巨大なステンドグラスが前面に現れる。翼を広げ、見上げる極彩色の龍。月光に導かれて今にも咆哮を上げんとする。
《タドル、メグル、タドル、メグル、タドルクエスト!》
火が灯る。
月光では見えない闇の部分が、松明に灯っていく。
全てが灯り、部屋の全貌が暴かれる。
絹で織られたレッドカーペット。それは、部屋の中心に境界線のように造られた大理石の階段を10段登り、玉座の所まで伸びている。距離感が狂う程まで、愚直に、真っ直ぐに、一直線に。
セイバーはその先を睨みつける。
そこには黄色い眼を光らせた白銀の騎士。
「このゲームは、秘宝を巡り冒険をする剣と魔法のロールプレイングゲーム『タドルクエスト』。さあ、私の仕掛けたゲームを攻略出来るかな?」
蒼き
止めどなく吹き荒れるこの場には、二人の息遣いしか存在しない。
ゴクリと衛宮士郎の喉の奥から鳴る。
「受けて立とう。このふざけた遊びは私が両断する!」
およそ500mはあるだろう両者の距離をセイバーは一瞬にして詰める。
風に紛れた武器を白銀の騎士に振り下ろす。
初撃必殺。誰だろうと防ぐ手段は迅速によって消し去り、死ぬ選択肢しか与えない。透明な武器と脅威的な身体能力でそれを実現する。
今この状況、状態で行える最優の手はこれだった。
故に全力を振り絞りきり、現在の最大火力を白銀の騎士にぶつけようとセイバーは考えた。
届く3秒前。
白銀の騎士とセイバーは顔を見合わせる。
届く2秒前。
白銀の騎士は左の小手に付けられた盾を仮面の前に掲げる。
セイバーは盾に直撃する軌道で武器を上から振り下ろす。
届く1秒前。
叩き斬る武器にセイバーは全力の魔力を込める。
白銀の騎士は右手に黒の機械を構える。
刹那。
暴風が暴力の形を成した。
空想の産物であるドラゴンの息吹を体現した破壊の密度を、最大限に高めた一撃が白銀の騎士を飲み込む。
火が風に消えて、月明かりと静寂が場を支配していく。
そして。
「星の輝きを束ねる剣の一撃とは、こんなものなのか。まだマキシマムマイティXが放つ一撃の方が重い」
金色を携える奏でが場違いに響く。
《ド、ド、ドシラソファミレド オーライ! ドレミファビート!》
「何?」
セイバーの言葉に疑問と驚きが混じる。
誰がどう見ても会心の当たり方だったのにも関わらず、全力の一撃が防がれた。
次の驚きは、白銀の騎士の変貌。
白銀の帽子を被り、左肩にはモノクロの大型スピーカーが取り付けられ、右腕には同じ色のターンテーブルが装着されている。
同一色に装甲が追加されており、見えていたゲージは装甲で隠れてしまった。
「リズムゲーム『ドレミファビート』を起動させてもらった。レベル3の私ならば、君と同等の力を発揮するだろう」
セイバーに向けて指を曲げて挑発する白銀の騎士。
セイバーは武器を上段に構えて、距離を詰めるために踏み込んでいく。
見えない武器ならば間合いも分からないだろうと、白銀の騎士を武器の間合いに捉える。およそ2メートル弱の距離で、白銀の騎士の出方をセイバーは測り始める。
「姿が変わっただけで、そう易々と私の武器は捉えられるのか?」
「捉えられるとも。君の見えない武器の対策はもう終わった」
白銀の騎士は右腕のターンテーブルを擦る。
すると左肩の大型スピーカーから音楽が流れてくる。
ピアノに似た軽やかな音楽は、華やかに空間を飾っていく。
「曲名は『キングオブファンタジー』。お誂え向きのBGMだろう?」
「そんなもので、私が惑わされるとでも?」
「さてはて、かかって来れば分かるものさ」
セイバーは逆風を起こす。
上段の構えから切り替えた股下からの斬撃に、幻夢は対応が出来ないとセイバーはそう直感で選択した。
正しいか、正しくないのか。
答えはーーー
「これで攻撃のつもりなのか? まるで子供が振る筋だ」
幻夢は武器が当たるギリギリで剣撃を避ける。
右切り払いからの左薙ぎ払い、そこからの右回転斬り。
三度の技巧を凝らした攻撃を見えているかのように軽やかなステップを踏み避けていく、白銀の騎士。
ウィービングを挟んで、徐々に距離を詰めていく。
しかし、反撃はせずにただひたすらに避けていく。
セイバーはその不可解な行動に、一つの解を得る。
「貴様見えているな。音か」
「正解。音というのは、物体に跳ね返る。イルカが障害物を避けながら泳げるのと同じ原理ということ。君の武器はおそらく剣だ。徒手空拳の撹乱する動きが最適という訳さ」
「厭らしい性根だ」
「あいにくと、その言葉は褒めてくれと言っているに等しい」
剣と魔法のゲームといいながら、素手で避ける白銀の騎士。
緩やかな曲調に合わせたダンスでも踊るような身のこなしに、セイバーはこれ以上剣撃を振るうことは無意味だと悟る。
ならば、奥の手を。そうでもしなければ状況は動かないと、セイバーは行動を開始した。
突き。
誰もが疑わない攻撃を選択する。
当然、白銀の騎士は間合いを見切り当たらない寸前まで身を引く。
セイバーはそれを待っていた。
「侮ったな!」
ーーー
武器に纏し風の結界を、攻撃に回すことで成り立つ技。
不可視に費やしていた全ての魔力を放出するため、省エネルギーながらも強力な一撃を放つことが出来る。
デメリットとして、秘められた武器が明らかになることと魔力の関係上使い切りであること。
それを加味して、セイバーは迷うことなく使用した。
左切り払いから放たれた風の刃は、白銀の騎士の装甲を刻む。火花が白銀の胴に咲き乱れ、機械で強化された身体を切り裂いていく。
左側の大型スピーカーは真っ二つに両断され、スパークと共に音楽が雑音に変換される。
セイバーは確信した。会心の一撃が入ったと。
白銀の騎士はタタラを踏み、力無く立つ。
「ほう、そんな力技があった訳か。ここまでダメージを与えるとは、少々認識を改めるとしよう」
黒に赤の差し色が施された機械を懐から取り出し、起動する。
《マジックザウィザード》
腰の差し込まれた黒い機械の一つと交換して差し込み、機械のレバーを開閉する。
《ガッチャーン! レベルアップ!》
再び光の板が白銀の騎士を通過する。
変わったことといえば、黄色の代わりに赤が混ざっていくことだった。
《アガッチャ ド、ド、ドラゴラーララーイズ! フレイム、ウォーター、ハリケーン、ランドォーウ!》
白銀の騎士はこれまでよりも変化する。
特徴的だった西洋の鎧兜は紅玉を象った仮面になり、胸にも同様の模様が貼り付けられ、腰から縁が銀に彩られた黒い布が足元まで伸びている。
《オールドラゴン!》
それは正に魔術士のような姿だった。
「『マジックザウィザード』。このゲームは少々特殊でね。知られざる英雄の能力を再現した、伝説のゲーム。その能力は多種多様の魔法を使えることに尽きる」
《コネクト プリーズ》
先程と違う機械音声が鳴る。
ステンドグラスに描かれたものと、似ている龍の模様が入った小さな紅い真円が魔術士の前に現れた。魔術士はその中に右手を突っ込み、中から何かを取り出した。
銀に輝く刀身に、手元に取り付けられた黒い閉じた手のような物体。
「『ウィザーソードガン』......。更に剣を追加だ!」
魔術士は閉じた手の親指の部分を反対側に倒す。
開いた手にすぐさま右手を翳した。輝いた虹彩は橙色に染まり、再び同じ音声が鳴る。
《コネクト プリーズ》
剣を地面に突き刺すと、床に真紅の真円が浮かび上がる。
引き抜くと同時に、魔術士の背後へ台座が設置される。
大理石で造られた質素な台座に鎮座するは、古びた西洋の剣。
魔術士は一息に台座から剣を抜く。
セイバーは、どこか見覚えのある場面に手元の武器を握り直す。
風を纏い不可視の結界を張っていた武器は、今この時において正体を明かす。
黄金に輝く刀身。鍔に施された青と金の刺繍。
西洋の剣の造りだと思われるそれは、世界で知らないものは居ない。
湖の妖精より造られし、選定の剣。
数多の伝説に象られた幻の一振り。
ーーーエクスカリバー。それをセイバーは正眼に構える。
対して、魔術士が二つの剣を両太ももの位置に構える。
古びた剣は赤と青の螺旋に包まれ、別の姿に変わっていた。
炎を燃え上がらせる意匠の刀身を持った、奇妙な剣。
騎士の姿に変わった時に持っていた剣と似ていると、セイバーは思う。
「さぁ、ショータイムを始めよう」
月に照らされる虹の龍は、二人にスポットライトを当てる。
空想と伝説、白銀と黄金。
交わりし知られざる劇は、最後の見せ場に差し掛かる。