「犬吠埼ってことは部長の妹さんですか?」
「そうよ。私の愛しの妹よ!」
「お、お姉ちゃん恥ずかしいよ・・・」
「ちなみに今は小学6年だから来年この学校に入学することになるわ。そして勇者部に入部させるわ」
「私の部活もう決まってるんだね・・・」
そういえば以前人見知りの妹がいるって話してた。
「部長が以前話してた妹さんですよね?」
「そうよ」
「えぇ・・・。お姉ちゃん何を話したの?」
「色々とね。うちの妹がどれだけ可愛いのかを!」
「お姉ちゃん、やめて・・・」
部長、溺愛しているなー。
「あ、僕高嶋叶吾といいます。中学一年です。よろしくお願いします」
そう言ってお辞儀をする。
挨拶は大事だからちゃんとしないと。
「あれ?あ、あの、高嶋さんって男の人じゃ・・・」
僕が男だと知っている?
そっか。
部長が勇者部の話をしているんだろう。
でも今この姿だと女性だと思われてしまう。
「あっ、ご、誤解させちゃいましたね。僕男です」
宣伝用の看板を見せつつ説明する。
「え、えええええ!男の人なんですか⁈どうして女の子の服を着てるんですか⁉︎」
「僕のクラスがコスプレ喫茶をしているんです。それで僕はこの格好をしているんです」
よかった、年下の子と一対一でなら話せる。
少し心に余裕が出来てくる。
「凄いです!髪とか伸ばしてるんですか?」
「これはウィッグを付けてるんだよ。男で髪を伸ばす人なんてそんなにいないと思うし」
「ウィッグってなんですか?」
「地毛にクリップとかで髪を留める物のことだよ」
多分だけどこの子はきっかけがあれば相手に話しかけられるんだ。
今だって僕の女装に興味があって話しかけてきているのだから。
僕の場合はきっかけや話題があっても相手が話しかけてくれないと話す勇気も出ないし話が一度途切れてしまうと、話しかけていいのか、何を話そうかなど色々悩んでしまい全然だめなのだ。
多分部長はこの子の人見知りを直すために勇者部に入れるのだろう。
友奈ちゃんの人とすぐ仲良くなれるコミュニケーション技術や東郷さんの話し方や仕草には品があるので見ているだけで参考になる。
それが身につくとはいえないけど・・・
それに勇者部の活動は人と関わることが圧倒的に多い。
それらも考えてのことだろう。
ひとまず僕は彼女の人見知りが発動しない相手になれるようにしよう。
話に受け答えをしていると犬吠埼さんがはっとしたように話すのをやめおどおどし始めた。
「ど、どうかした?」
「あ、あの私ばっかり色々聞いたりしてしまったごめんなさい」
とっても申し訳ない表情で謝られてしまった。
「あ、謝らなくて大丈夫だよ。僕もその、人と話すのが苦手で話しかける勇気がないんだ。だから沢山話しかけてくれて嬉しかった。だからまた次会う時も話しかけてくれたら嬉しいな」
「あ、ありがとうございます!」
「相手を気遣ったりすることは大切だけど、気にし過ぎると僕みたいに話しかける勇気すらなくなっちゃうからあまり考え過ぎないほうがいいよ」
「わ、わわ分かりました」
真剣な表情で頷く犬吠埼さん。
「人見知りやあがり症はゆっくり直していけばいいと思うよ。無理して治そうとするとさっきの僕みたいになっちゃうかもしれないから」
「分かりました!」
真面目だな、と感じてると部長が話しかけてきた。
「高嶋も顔色が戻って来たからそろそろ行くとしましょう」
「そうですね。僕も宣伝に戻らないと」
「いやあんたはさっき具合が悪くなってたのにまだやるの?あんたのクラスまでまず行くわよ」
「いやでも申し訳ないですから・・・」
「あんたが何処かで行き倒れるほうが迷惑だわ。そういえば具合が悪くなった原因が人に酔ったって言ってたけど、人が多くて酔ったの?それとも視線に酔ったの?」
部長は僕の具合が悪くなった原因をある程度予測しているらしい。
よく周りの人を観察しているのだろう。
「視線に敏感になってしまって具合悪くなってしまったんだと思います」
「そう。なら私達が一緒にいた方が視線を減らせると思うから行くわよ。あとその看板は文字が見えないように持ちなさいよ。格好だけだと女子だと思われてあまりジロジロと見られることもないだろうし」
「はい・・・」
ああ、僕はダメだなぁ。
人に迷惑かけてばっかだ。
友奈ちゃん達の期待には答えられなかったし・・・
「まあ、今回は東郷のスパルタも悪いからあまり気に病んじゃダメよ。挑戦することが大事よ。なるべくあきらめないってね」
部長が笑顔で言う。
「そうですよ。高嶋さんがさっき言ったようにゆっくりやればいいと思います」
さっき言った自分の言葉がそのまま返ってくる。
そうだよ、落ち着いてゆっくりやればいい。
出来なくて焦ることもあるだろうけど、落ち着いてやらないと失敗ばかりしちゃうだろう。
「二人とも、ありがとうございます」
「無理してる顔じゃなくなったわね。よろしい!さあ、行くわよ」
そうして三人で校内を移動することになった。
先程よりぐっと視線が減ったのでとても楽になった。
「高嶋さんは初めて女装したときはどんな理由だったんですか?」
「友達にご褒美として女装して欲しいって頼まれたの。まさかあの時だけかと思っていたんだけど、今も続けているとはね・・・」
「そのお友達の気づきは素晴らしいと思います!」
「そ、そう?」
「はい!」
犬吠埼さんと僕が話しているのを部長は優しく見ていた。
犬吠埼さんと話していたら僕のクラスの前まで着いていた。
今も列が長く続いていた。
ふうっと一息つくと部長が言った。
「それじゃあ私は東郷に高嶋のこと話してくるから二人で待っててもらっていいかしら?」
「え?今回のこと東郷さんに言うんですか?それだと後で怒られちゃいますよ、僕・・・」
多分東郷さんは怒らないだろう。
東郷さんはスパルタだけど優しいから。
というか友奈ちゃんや東郷さんに心配をかけたくない。
「あんたねー、出来ないことは出来ないってこと周りに伝えないと周りの進行に影響が出てくるのよ。今回は文化祭で東郷は裏方の指揮をしているんだから言わないと迷惑よ。きちんと言えば東郷は考えて対応するだろうから、あまり気にしない」
「は、はい・・・」
「樹も待ってもらっていい?」
「うん。高嶋さんがいるから大丈夫だよ」
「分かったわ。それじゃあ行ってくるわ」
二人で待っている間は当然話題は女装に関してだった。
犬吠埼さんが似合うからと化粧することを鼻息荒く勧めてくる。
多分これからも女装することになるのだから東郷さんと犬吠埼さんの組み合わせで女装の幅が広がるのだろうなーと考えていると、部長が戻ってきた。
「樹。私達はここに並んでお昼にしましょう。高嶋は東郷の所へ行ってね」
「と、東郷さんはなんと?」
「それぐらい自分で聞きなさい。ほら行った行った」
恐る恐る厨房に戻ると友奈ちゃんと東郷さんの二人がいた。
「きょう君!風先輩から聞いたよ!大丈夫?」
友奈ちゃんが近づいてきて僕の顔や手などを触って具合の確認をしてくる。
「くすぐったいよ友奈ちゃん。でも、その、ごめんね。上手く宣伝出来なくて・・・」
「大丈夫だよ!まだあんなにも混んでるんだからきょう君の宣伝は効果あったよ!」
「そうよ。高嶋君は頑張ったわ。それよりも私が高嶋君のことを見抜けなかったのがいけないの。ごめんなさい」
東郷さんが頭を下げてくる。
「と、東郷さんが謝ることはないよ!僕も自分のことなのに東郷さんに教えてもらっただけでいきなり出来るって思い違いしちゃったし・・・」
二人で謝り合いをしていると友奈ちゃんが間に入ってくる。
「二人とも今日は失敗しちゃったけど明日もあるし大丈夫だよ!今日はこんなにお客さんも来てくれたし失敗にもならないって!」
笑顔で友奈ちゃんが話す。
「なせばたいていなんとかなる!だよ。二人とも」
「ええ。そうね友奈ちゃん」
「うん。分かった」
そうだ、文化祭は明日もある。
みんなの役に立つことを考えよう。
「ちょうどお昼だから高嶋君はご飯を食べていって頂戴。高嶋君のお昼ご飯は準備できてるから。その後高嶋君は自由時間だから最後までどこか行ったりしても大丈夫よ」
「分かったよ。ちなみにご飯は何?」
「ぼた餅よ」
「私も?」
「そうよ」
「やったー!」
そう言って友奈ちゃんは東郷さんが用意したぼた餅に飛びついていた。
流石に僕も厨房で一緒に食べると狭そうなので場所を変えることにした。
二人とも僕が一人で移動することを心配していたが、もう大丈夫。
僕みたいな人間なら何処が人が少ないかは部長達と移動した際に目星はつけていた。
その場所はこの学校の屋上だ。
文化祭の日に屋上にいる人なんていないだろう。
みんな友達や家族と学校を回っている人がほとんどなのだろうから。
そして屋上に着いてみると予想通り誰もいなかった。
入口の壁に寄りかかって座る。
ふう〜。
誰もいない所で休むと気を使う必要が無くなるから楽でいい。
少し目をつぶって休もう。
あれ、目をつぶってしまったらそのまま寝てしまったらしい。
コスプレ用に付けていた腕時計を見ると14時過ぎを指していた。
約二時間近く寝てしまったけど、一人で文化祭を見ることなんて出来ないのでこのままここで時間を潰そう。
そういえば、パックに入れたぼた餅をまだ食べてない。
食べようと思って隣に置いてあるパックの方を見ると何かピンク色の物体がぼた餅を食べていた。
なにあれ?
外見は牛っぽいんだけど何か羽のようなものが生えてる?
てかこんな生き物見たことないんだけど・・・
普通よく分からないのを見たときは叫び声を上げるのかなと思ったけど、隣で堂々とぼた餅を食べているのを見ているとそんな気も起きなかった。
でもよく見ると可愛いかも・・・
よくそんな小さい手で物が持てるな〜。
そんな事を考えながらじーっと見ているとその生き物は僕が起きたことに気づいてこっちを見てきた。
僕が見ていることに気づいたら驚いたりするのかなっと思ったけど少し僕を見た後またぼた餅を食べ始めていた。
結構な勢いでぼた餅を食べているのでお腹が空いているのだろう。
だから僕も何も言わずに少しの見た後、また目をつぶった。
もしかしたら僕が見てる幻覚かもしれないし。
何かお腹に寄りかかるような物の重さを感じて目を開ける。
すると先程見た幻覚の生き物が膝の上に丸まって僕のお腹に寄りかかるように寝ていた。
しかも暖かい。
流石にこれにはびっくりした。
だってよく分からなくて可愛い生き物が僕に懐いてくれてるんだよ!
触らないわけがない。
頭や体を撫でてみるとすべすべの肌触りをしていてもちもちとした弾力を持っていた。
触り心地もいいとか完璧!
でも友奈ちゃんには劣るね。
そんなことを考えて触っていると顔をこちらに向けてきた。
「ご、ごめんね、起こしちゃって」
なんと言葉が分かるらしく首を横に振る。
そしてそのまま僕の膝の上から浮かび上がる。
と、飛んでる!
「すごい・・・。羽みたいなのがあるかもしかしたらと思ったけど本当に空飛べるんだ・・・」
呟くように言うと目の前のその子はドヤッと誇らしげな表情になる。
「そうだ。ねえ、君の名前は?」
その問いには残念そうな表情で首を横に振る。
この子は声を出すことが出来なさそうなので、自分で言えないという意味で首を横に振ったのだと思う。
「じゃあ僕が何か名前をつけてもいいかな?」
すると嬉しそうな表情で首を縦に振る。
「じゃあ空飛んでるけど牛っぽいから牛さんでいいかな?ちょっとそのままな感じだけど・・・」
友達のあだ名をつけたりしたことなんて無いのでいい案が思いつかない。
てか牛って種族名だよね・・・。
センスなさすぎだよ僕・・・。
僕の安直すぎる命名でも牛さんは嬉しいらしく喜んだ表情で顔の周りを飛んでいる。
「じゃあで決まりだね。よろしくね」
そう言うと僕の頭の上に乗ってきた。
さりげなく撫でつつ疑問に思ったことを聞いてみた。
「そういえば牛さんはどこから来たの?」
それを聞いた牛さんは屋上の真ん中にある神樹様を祀っている祠まで飛んでいき、その横で僕の方に振り向く。
「その祠から来たの?」
軽く首を縦に振る。
「それどうやって帰るの?」
祠の周りを見ても何も見当たらない。
牛さんの方を振り向くと牛さんの体が少し光っていた。
それに合わせて祠も少し光っていた。
そして牛さんは祠に吸い込まれるようにして消えていった。
「なんだったんだろう・・・」
この四国は神樹様という数百の神様が集って恵みを下さったり、ウイルスで四国の人が死なないように結界を張ってくださっていたり、未知な現象が多い。
なので牛さんも神樹様に関係する生き物なのだろうと思った。
でも今まで見たことない生き物なのにどうして不気味だとか気持ち悪いとかの気持ちを僕は抱かなかったんだろう?
逆に可愛いとか好感を持って接していたと思う。
色々考えているとまた目の前にある祠が光り始めて、牛さんが出てきた。
「うわ!お、驚かさないでよ。ていうか自由に出入りできるの?」
それに対して牛さんは頷く。
「じゃあまた今度何か食べ物を持ってくるね」
そう伝えると牛さんはまた頭の上に乗っかってきた。
多分喜んでいるのだろう。
そういえば今何時だろう?
腕時計を見ると16時を少し過ぎていた。
不味い!
今日は15時で文化祭は終わりだから僕が教室にいないと解散できないんじゃ・・・。
「牛さんごめんね。今から急いで戻らないと!」
牛さんを頭から持ち上げ顔の前に持ってきて話す。
そこまでしたら自分から飛んでくれた。
僕が持ってきたお茶とぼた餅が入っていたパックを持って急いで戻る準備する。
「また今度来るから!」
牛さんに向かって大きく手を振って屋上を後にした。
教室に戻ると友奈ちゃんと東郷さんが待っていた。
他の人は解散できたらしい。
僕のせいでクラスの人を待たせるのは申し訳なかったので少しホッとした。
けれど友奈ちゃんには心配され、東郷さんには叱られてしまったので反省だ・・・。
帰る準備を整えて教室を出ようとした時にふと思った。
今日屋上で体験したことは多分神樹様に関係することだ。
だから大赦関係者に言ったほうがいいのかもしれない。
まあ、僕も大赦関係者ではあるんだけど詳しくないしね・・・
「きょう君、帰ろー!」
「友奈ちゃん、東郷さん、先に行ってて。僕ちょっと電話してから向かうから」
「分かったー」
二人が教室から出たことを確認して登録してある連絡先に電話をかける。
「もしもし、高嶋君かい?」
「あ、はい、もしもし、三好さんですか?いまお話しても大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ」
「あの、今日学校で不思議な体験をしたんですけど・・・」
三好さんに屋上で体験したことを話す。
「これって僕が幻覚を見たとかですかね?」
「いや、心当たりがある」
「ほ、本当ですか?」
「けれど何故君なんだ?色々と条件が合わない。それに・・・」
「も、もしかして僕マズいものを見てしまったのでしょうか?」
「いや、人間に対して害意をもたらす生物ではないから安心して欲しい」
「それならよかったです」
とりあえず危ないことに巻き込まれたとかではないらしい。
「それで学校に通っている君にお役目をお願いしたい」
「園子ちゃんとは別ですか?」
「そうだ。学校に通う日は毎日屋上に行ってその生物と会ってほしい。生物の食費は当然大赦が負担する」
「僕としてはなるべく行くつもりだったので問題はないです」
というかそこまでして僕と牛さんを仲良くさせたいらしい。
三好さんの考えがよく分からないけど僕としては問題ないから了承した。
「あとご両親には私から話をしておくから、もしかしたらご両親は今日家に戻らないかもしれない」
「はい。分かりました」
そんなに時間のかかることなのかなー、と考えながら電話を切り、教室を後にした。
〜三好春信視点〜
何故彼に精霊が見えるのだろうか?
以前行われた勇者適性の全国調査では男女関係なく行ったはずだ。
基本神樹様は純真無垢な女の子を勇者として選ぶので男の子を調査する必要は無いのだが万が一のことも考えて男子も調査したが勇者適性がある男子は確かいなかったはずだ。
だが彼に精霊が見えているということは勇者適性はあるということだ。
精霊との仲が深まることでもしかしたら彼が勇者に選ばれる可能性もない訳ではないと思う。
勇者候補を増やすことは悪いことではないはずだ。
またバーテックスが侵攻してくるのはそう遠くはない。
急いで準備を整えなければいけないのだ。
子どもを戦わせることはとても辛いが、人類存続のため仕方のないことなのだ。
感想や評価、誤字報告などいつもありがとうございます!
次回なのですが、作者が9月から忙しくなり下手をしたら来年の投稿になってしまうかもしれないです。
投稿速度が不定期ですみません。
のんびりとお待ち頂けたら幸いです。