「友奈ちゃーん、朝だよ~」
声を掛けつつ友奈ちゃんの身体を揺さぶる。
友奈ちゃんは朝起きることが苦手なのだ。
目を覚ました後はシャキッといつもの元気いっぱいの友奈ちゃんになるのだが、寝ぼけている時間が長いので、早く起こさないと遅刻になってしまう。
「友奈ちゃん、今起きないと朝ごはん食べる時間なくなっちゃうよ」
「んぅ~、あと5分だけ~」
「それさっきも言ってたよ」
「授業初日で遅刻するのは、さすがにまずいよ~」
「きょう君も一緒に遅刻すれば怖くないよ~」
そう言いつつ友奈ちゃんは僕の手を引っ張り布団の中に引きずり込もうとする。
中学生になっても、力では友奈ちゃんに勝てない僕は簡単に友奈ちゃんが寝ているベッドの上に倒れてしまう。
そこにすかさず友奈ちゃんが掛け布団を僕にもかけてくる。
つまり今友奈ちゃんと一緒の布団に入ってしまっている。
目の前には寝ぼけた顔をしている友奈ちゃんがいて、お互いの鼻が触れ合いそうになる近さだった。
恥ずかしくて早く布団から逃げ出そうとすると
「んふふ~、きょう君あったか~い」
友奈ちゃんが後ろから抱き付いてくる。
友奈ちゃんは仲が良い相手とは、抱き付いたり、手を握ったりのスキンシップが多く、約2年も家族ぐるみでの付き合いがある僕は、当然抱き付かれたり、手を握ったりなどのスキンシップは毎日のようにある。
お風呂も週に1回ぐらいの頻度で一緒に入ったりするが、まだこのスキンシップには慣れない。
今も友奈ちゃんに後ろから抱き付かれて顔を赤くしてしまう。
「友奈ちゃん、そろそろ起きないと本当に遅刻するよ」
目を合わせるのは恥ずかしいけど、体の向きを変えて友奈ちゃんに向き直る。
そして友奈ちゃんの脇腹を思い切りくすぐる。
「うひゃあ!あははははははははははは!」
友奈ちゃんは脇腹が弱いので、朝どうしても時間が無いというときの切り札なのだ!
友奈ちゃんの身体あったかいし、やわらかいなあ・・・
はっ!ヘンなこと考えちゃだめだよ!
「友奈ちゃん、目覚めた?」
「はー、はー、う、うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、僕は1階で待ってるから制服に着替えてね」
「オッケー!」
目が覚めた友奈ちゃんは早い。
数分で支度を終え、1階のリビングでご飯を急いで食べる。
僕はご飯を食べる友奈ちゃんを眺めている。
急いでいるときでも、ご飯をおいしそうに食べる彼女を見ていると、心がポカポカしてくる。
そして家の前で待っている東郷さんと合流し、友奈ちゃんは東郷さんの送迎車に乗り2人は一緒に登校する。
友奈ちゃんは東郷さんの身の回りの世話をすることが多いので、車での登下校を学校から特例で許可が出ている。
僕には許可が下りなかったので2人を見送ってすぐに自転車で学校に向かう。
学校に着けば同じクラスなので2人とはすぐに会えるのだが、友達と一緒に登下校出来ないのはちょっとだけ寂しいかな・・・
初回の授業は、大体その授業の内容や評価方法などの説明でほとんどの時間が終わるのであまり疲れを感じることもなくその日の授業は終わった。
ホームルームが終わったらすぐに2人の所へ向かう。
帰る準備をして昇降口へと向かっていると、すれ違う他のクラスの子とも友奈ちゃんは挨拶をしていた。
本当に友奈ちゃんは凄い。
コミュニケーション力の高さや持ち前の明るい性格などでいろんな人と友達になってる。
僕には到底真似できない。
僕の考えていることが顔に出ていたらしい。
「きょう君、そんな顔してちゃダメだよ。笑顔じゃないと幸せが逃げちゃうよ」
「僕そんなにひどい顔してた?」
「うん。きょう君は人と話すのが少し苦手なだけで、思いやりの心が他の人より強くて、気遣いの出来る優しい人なんだから少しは自信を持っていいんだよ!」
「でもそれは、以前逃げるために身につけた術みたいなもので、自信なんて持てないよ」
友奈ちゃんと出会う前の僕は、いじめや嫌がらせなどをされないように自分を目立たせないようにしたり、周りの人間の空気をできるだけ読む努力をしていただけだ。
結局どこでもいじめはされていたのだが。
逃げるために身につけた術なんて、ただの恥であると思ってしまう。
しかし彼女は僕の考えを否定する。
「今の生活できょう君自身や周りの人のために役に立っているのなら、誇っていいことだよ。その経験で今の優しいきょう君がいるんだから」
「う、うん」
その言葉を聞いて泣きそうになる。
僕の人生を肯定してくれる人がいる。
それだけでとてもうれしいことなのだから。
校門前に着いて、送迎車が来るのを待っている間、友奈ちゃんと東郷さんがどの部活に入部するか話し合っていた。
来週から仮入部の期間なのでそれで話していたのだろう。
「ねえ、きょう君はどの部活に入部するの?運動部?文化部?」
「僕は帰宅部でいいかな。特にやりたいことはないし」
「ええ~!せっかくの中学時代を帰宅部で終わらせるのはつまらないよ!」
「そうだ!3人一緒の部活に入ればいいんだよ!絶対楽しい中学時代が作れるよ」
「きょう君も東郷さんも料理が上手だし、みんなでクッキング部とかいいかも!」
「いいと思うわ、結城さん」
「でしょ!他にも色々部活はあるし、来週がたのしみだよー!」
部活の話をしていると送迎車が着いたので、2人とはそこで別れて自分も自転車に乗り帰宅する。
今日も両親が遅くに帰宅する日なので、友奈ちゃんの家で夕食を一緒に食べてお風呂に入る。
さすがに中学生になっても一緒にお風呂に入るのは色々まずいと思うのだが、友奈ちゃん自身と友奈ちゃんのご両親が特に気にしていないので今もお風呂に一緒に入ることにしている。
あと一緒にお風呂に入ることを断ろうとすると友奈ちゃんがとても悲しい表情になるのでやめられないというのもあるし、僕自身も友奈ちゃんと一緒のお風呂は、心がポカポカし暖かい感じがしてやめることが出来ない、という理由もある。
そしてお風呂を上がり、自宅に戻る。
新しい学校生活で疲れていたらしく、その日はすぐに寝てしまった。
次の日は休日だったので休みたかったのだが、朝早く大赦の車が家の前に止まり、神樹様のマークの仮面をつけた人が訪ねてきた。
「高嶋叶吾君かな?」
仮面をしていたので分からなかったが、声を聞いて男性だと分かった。
「は、はい。父と母でしたらまだ仕事から戻ってきていないのですが・・・」
「今日は君に用があって迎えに来たんだ。これから一緒に来てほしいところがあるんだ。ご両親の許可も頂いている。一緒に来てもらえるかな?」
「ぼ、僕がですか?」
「そう、君にやってほしいお役目があるんだ。ちなみに、君に拒否することはできない。拒否するとご両親に何か影響が出るかもしれないしね」
そのことを聞いて僕はただ受け入れるしかできない。
「わ、分かりました。今から準備します」
朝早くから脅されて車に乗ると、神官に仮面と大赦の方が羽織っているローブを渡される。
「朝早くから済まない。こちらも急いでいてね。私の名前は三好春信、これから君が担うお役目の担当者だ」
「あ、あの、僕はこれからどのようなことをさせられるのでしょうか?」
「その仮面とローブを身につけてとあるお人と会って、お話をして欲しい」
「ぼ、僕初対面の人と話すのはとっっっっても苦手なんですが・・・」
「大丈夫、特に難しい話をしろと言っているわけではないよ。君の学校での話をしたりすればいいんだよ。君の友達の話とかをね」
それは世間話をしろということなのかな?
でも僕にはそれでもハードルが高いよ・・・
そんなことを考えていると大橋の近くにある大赦本庁の病院に着いた。
僕はその病院の特別病室まで連れていかれる。
扉の近くに立つと中から大きな声が聞こえてくる。
「ねえ、なんでわっしーのことを教えてくれないの!友達が今どんな暮らしをしているのか知りたいのはダメなことなの!ねえ!」
女の子の声だった。
「もう一度説明するけど、今部屋の中で怒鳴っている女の子とお話をしてあの子の怒りを鎮めてほしい。いきなり連れてこられてわけが分からないと思うが、部屋の主の怒りを鎮められるのは君しかいないんだ」
「な、なんで僕なら部屋の子の怒りを抑えられるんですか?」
「詳しい説明は私からは出来ない。さあ、部屋に入ろう」
部屋のドアが開かれ中に入ろうとする僕の足が止まってしまう。
部屋の中央に置かれたベッドといる部屋の主らしき女の子とその周りに頭を下げている神官が数人いることはまだいい。
人の形をした紙が壁にたくさん貼られており、病室の白い壁が見えない。
ベッドがある正面には部屋にどうにか収まる大きさの鳥居があり、ベッドの周りが神社やお寺などで見るような木製の手すりのようなもので囲われている。
ベッドの真上は白熱灯のような白い明かりが灯っているが、他の場所は明かりが無い。
部屋の主の女の子が祀られているようにも見えるけど、僕には腫れ物の扱いを受けているように見えた。
足が動かない僕を三好さんが手を引っ張って、女の子の前まで連れていく。
僕が鳥居をくぐった後に部屋にいた神官たちは僕と三好さんを残して出ていってしまった。
「園子様。我々ではお力になれないので今後のお話し相手を連れてまいりました」
「私の怒りをぶつける身代わりを出すということは、大赦は何も私には話さないってことかな~?」
「上層部はその考えでしょう。我々からお話しすることは禁止されておりますので。しかし彼は園子様の知りたいことを教えてくれるでしょう」
「・・・・・・」
「我々お付きの神官にはこの程度のことしかお手伝い出来ませんが、何卒ご容赦下さい」
そう言うと三好さんはお辞儀をして部屋を出ていってしまった。
部屋に2人になってしまい、沈黙が続く。
友奈ちゃんに、挨拶は大事!と教え込まれているので勇気を振り絞り言った。
「お、おおお、おはようございます!」
2回ほど噛んでしまったがなんとか挨拶はできた!
ほっとひと息つく。
「うん、おはよ~」
女の子は先ほどの怒りを感じさせない挨拶を返してくれた。
「私の名前は、乃木園子って言うんだ~。あなたの名前は?」
「ぼ、僕は、高嶋叶吾と言います」
乃木園子との出会いは、将来僕を勇者になるのを手助けしてくれる人物で、僕にとって2つ目の運命の出会いだった。
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