よろしくお願いします。
――第2話「2人目の敵と勇気」
あれから少しばかり日がたった。
日数にすると1週間ほどだろうか。
授業では毎回ぼーっとしてしまい質問に答えられず先生に怒られ、最初は友人もケラケラ笑っていたけどそれが毎日続いてしまったため後半は心配しだしたしよくない事ばかりだった。
このままじっとしていても何も始まらないと思った僕は善子ちゃんと花丸ちゃんの協力を経て黒澤家へと赴くことに決めた。
あんまり自分から行動する方ではないし、アウトドアかインドアかで言ったら断然インドア派だ。
そんな僕が自分から何かをすると善子ちゃんに言ってみたらそれはもう驚かれた。
電話越しに善子ちゃんは『ここまで裕紀を動かすなんてルビィは何者なの……? 羨ましい』
なんて言っていたけど、何が羨ましいのかはさっぱりだった。
僕をこれほどにさせるルビィちゃんがすごいのは同感なんだけどね。
だってそりゃあ面と向かってしゃべりかけないでほしいなんて言われたの初めてだもん。
花丸ちゃんにも善子ちゃんを経由して連絡してもらい、2日後の土曜日の日に黒澤家へと赴くことが決定した。
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運命の土曜日がやってきた。
いつもはだらけた服装を着ている僕でも今日だけは失礼のないようにびしっと決めた服を着て手には菓子折りをもって家を出た。
万が一もう一度同じようなことを言われてもくじけないだけの心の準備もできた。
まず善子ちゃんの家に行ってそのあと花丸ちゃんにルビィちゃんの家を案内してもらうっていうことにした。
花丸ちゃんにもとても悪いことをさせてしまった。なんでもルビィちゃんが僕に会うように説得するためにとても時間がかかったのだとか。
ルビィちゃんが話したくないと言っている相手に無理やり合わせようとして申し訳ないことしてしまったずら……。と落ち込んでもいた。
それに関して、僕も二人に申し訳ないと思っている。
バスに揺られる途中でなんでそんなにびしっと決めてるのかって聞かれたけど変な格好だったのかな? 今からなんか少し不安になってきてしまったよ……。
それに花丸ちゃんがルビィちゃんにお姉さんがいるって言っていたけどどんな人なんだろうか。
ルビィちゃんみたいに男の人が苦手だったりするんだろうか。とっても厳しい人だ。なんて言ってはいたけど……。それはそれでいやかな……。
花丸ちゃんと善子ちゃんも幾分緊張していたのかルビィちゃんの家に着くまであまり会話もなく、僕も考え事ばかりで上の空だったので沈黙が多く続いたままルビィちゃんの家に到着した。
「ここがルビィちゃんの家ずら」
花丸ちゃんが指さしたのはまさに古風な歴史のある家だった。その雰囲気は昔からここ内浦の権力を握っていたかのような、そんなオーラの漂う家だった。
そんなオーラにも圧倒されながらも僕は一歩前へ足を踏み出した。勇気ある一歩を踏み出した。
「ごめんください」
中にお邪魔させてもらっても豪華で強いイメージのする内装だった。
「おじゃまします」
後ろをこそっとついてくるように花丸ちゃんと善子ちゃんが言った。二人の声はまさに黒澤家に圧倒され気が沈んだ声だった。
花丸ちゃんは一応何度かこの家に来たことがあるみたいだったけどそれでも緊張していることが声から伝わってきた。
その声の後両サイドに髪を束ねた少女がトコトコと歩いてきた。
――ルビィちゃんだ。
「花丸ちゃん善子ちゃんいらっしゃい! 何にもないお家だけどゆっくりしていってね!」
やっぱり僕のことは無視か……。わかってはいたけど少し堪えるな。
ルビィちゃんが花丸ちゃんと善子ちゃんを客間らしき部屋に案内して待っているよう指示して見送った後ルビィちゃんは僕に話してきた。
「……あなたはこっちの部屋で待っていてください」
「僕ちゃんと名乗ったはずなんだけどな、名前で呼んでくれると嬉しいんだけど」
「……」
そうやって僕はルビィちゃんに対して小さな反抗をしてみるけれどもちろんそんなものはむなしい抵抗で案の定これも無視されてしまった。仕方なくそのままルビィちゃんに従って花丸ちゃんと善子ちゃんが入った部屋とは別の部屋へと入った。
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ルビィちゃんに案内されて善子ちゃんといつもルビィちゃんと遊んでいる部屋に来たけど肝心の裕ちゃんはここにはいなかった。
マルたちが歩いてる途中にチラッと後ろを振り返ったら裕ちゃんを別の部屋に案内している姿を見たけどなんでだろう。
そう思っていたらスッとふすまが開いた。
「花丸ちゃん善子ちゃんお待たせ! 今日は何して遊ぶ? 善子ちゃんはルビィのおうち初めてだったよね、何もないところなんだけど……」
「ちょっと、ルビィ。裕紀はどこに行ったのよ。それに私はヨハネだから」
すかさず善子ちゃんがルビィちゃんに突っ込みを入れるまるでもなかなか聞けないことを善子ちゃんは意外とずかずか相手の領域に入って聞くんだなぁ、なんて幼馴染だったのにわからなかったや。堕天使キャラは相変わらずでわかりやすいんだけど。
「そうずら、まるたちは3人でこの家に来たずらよ」
まるも善子ちゃんに便乗してルビィちゃんに問い詰める。
「……ねぇねぇ! 見て! 最近話題のスクールアイドル特集の雑誌! 今月のお小遣いギリギリだったけど買っちゃったんだぁ。3人で一緒に見よ?」
少しの沈黙の後ルビィちゃんはなんにもなかったかのようにしゃべり始めてしまった。そんな姿を見てまるも、さすがの善子ちゃんもその先に踏み込むことはできなくて、しぶしぶ3人で最近話題のすくーるあいどる? の雑誌を見ることにしたんだ。
3人で一緒になって雑誌を見ていると善子ちゃんが横からちょいちょいとちょっかいを出してきた。
耳を貸せって合図しているみたいだったからまるはそのままルビィちゃんに気づかれないように耳を貸した。
「ねぇ、ずら丸さっきのルビィ明らかにおかしいと思わない? たった数日しか喋ったことのない私でもわかるくらいに」
確かに善子ちゃんの言い分はもっともだ。だけどこんな状況でルビィちゃんにそんなこと聞けるはずがない。
「そうずらね。だけど今更こんな状況でそんな踏み込んだ話聞けないずら」
「そ、それもそうだけど……」
おらがそういうと善子ちゃんは瞬く間に黙り込んでしまった。思いのほか善子ちゃんとの密談が長かったせいかルビィちゃんが怪訝そうな顔をしてこちらを見てきた。
「2人ともルビィの話聞いてる? いま北海道のスクールアイドルが注目なんだよ!」
「え、ええ。もちろんよ。ねぇ? ずら丸」
「そ、そうずら! おらもこのスクールアイドルには注目してたずら!」
「まるちゃんスクールアイドルなんて興味ないよね……。もう、二人で何話してたの?」
ルビィちゃんにそう問い詰められもう後に引けないと思ったおらは単刀直入に聞いてみることにした。
善子ちゃんとまるにはこれ以上ルビィちゃんをごまかしきる技術がないから……。
「ねぇ、ルビィちゃん。まるたちにどうしてルビィちゃんが男性恐怖症であんなに男の人を邪険にするのか教えてほしいずら」
「ちょっ、ずら丸余りにも直球すぎるわよ。まぁいいわ。ルビィ、私も納得いかないわ。さっきだってはぐらかしてまったく教えてくれようとしないし」
ルビィちゃんはまるたちの言い分に対して顎に手を当てて少し考えるようなそぶりをした後に口を開いた。
「わかった。二人には話すよ。だけど裕紀さんには黙っていてほしいんだ。それが守れるなら話してもいいよ」
「実はルビィ―――――」
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ルビィちゃんに部屋に通されて5分少々たっただろうか、部屋には僕一人だけで目の前の机にはお茶の入ったコップが一つ。
おそらく僕に出されたお茶なんだろうけど飲んでいいと言われてもいないので手を付けるのはやめておいた。
だけどこの家に入ってから雰囲気に圧倒されて緊張してしまいさっきからのどがカラカラだ。
我慢できず湯気がゆらゆら立ち上っているそのコップを覗くと茶柱が立っていた、今日は幸運なことが起きるかなぁ。こんな状況で起きるとは到底思えないけど。
なんて今後の心配をしていたら襖が開いた。
襖から出てきたのはルビィちゃんとは全く毛色の違う黒い髪を腰あたりまですらっと伸ばした女の人で、髪の毛は一本一本きちんと手入れされていてきっと枝毛なんて一本もないんだろうな、なんて思わせるような髪の毛だった。
そういえばルビィちゃんも髪の毛はきれいに手入れされているなと思った。
お母さんかなとも一瞬頭をよぎったけどそれにしては顔立ちが若すぎるなと思って、きっとお姉さんだろうと勝手に予想をたてた。
目は釣り目でそこもまたルビィちゃんとは別だな、なんて思うけど目の色はやっぱり一緒の碧玉で、どこか違うけど2人はやっぱり似ていた。
The和といった感じのその女性は襖をしめると、机を挟んで僕の正面に正座で腰を下ろした。
「そのお茶はあなたのために用意したものですわ、よければお飲みになって」
「あ、ありがとうございます」
そういってくれたので僕はのどを潤すことにした。飲んだお茶はのどをスッと通って行って茶葉の風味がとてもおいしく感じられるお茶だった。
やっぱりこんなに大きな家ともなるとつかう茶葉も高級なのかな。なんてくだらないことを思いながらお茶を飲んでいたらいつの間にかすべて飲み切ってしまっていた。やっぱりよほど緊張していたんだな、と自分で感じながらコップを再び机の上へとおいた。
「初めまして、わたくしは黒澤ダイヤと申しますわ。ルビィの姉でございます」
そういってピシッと背筋の伸びた状態からのお辞儀はとても美しく洗練されていた。
「あ、僕は神城裕紀って言います。今日一緒にここにきているルビィちゃんの友達の花丸ちゃんと善子ちゃんと幼馴染です」
「それはもうルビィからうかがっておりますわ」
ルビィちゃんから聞いているってダイヤさんは言ったけどなんだかその単語が僕の頭の中で引っかかる。
ルビィちゃんに話しかけないでくださいなんて言われたのに、そんなルビィちゃんが自分から僕のことを姉であるダイヤさんに話すだろうか。
「我が黒澤家に対して話しかけてくる無礼な殿方がいるとルビィから聞きましたわ」
ダイヤさんの口から発せられた言葉に驚愕しながら、その事実を受け止めることができなかった。
僕が黒澤家に近づくだなんてとんでもない。ルビィちゃんと出会ったときなんてそんな名家だなんて知る由もなかったし、そんな理由でルビィちゃんに近づいたんじゃない。
だけど僕の口から弁明の言葉が発せられることはなかった。ダイヤさんの威圧感、重圧に押しつぶされそうになってしまい声すら出せない状況になってしまったのだ。
まさに怒りのオーラ。何者も寄せ付けないような怒りに満ちたオーラ。そんなオーラに押されるがまま、ただただ押しつぶされながらも受け止めることが精いっぱいだった。
だけどその中に少しだけ……ほんの少しばかり隠しきれていない悲しみのオーラを見つけ出した。
「あら、何も言わないということはやはりそういう目的で黒澤家に近づいてきたということでよろしいですね?」
再びダイヤさんが口を開いて僕に確認を取る。もちろんそんな意味でルビィちゃんに近づいたんじゃない。花丸ちゃんと友達だったから……。僕も友達になりたいなって、ただ純粋にそう思ったから。
そう思うと今まで開かなかった口が思うように動き始めた。
「違います! 僕はただ単にルビィちゃんと友好関係を持ちたかったから、仲良くなってみたかったから話しかけたんです。もともと黒澤家が名家だなんて知らなかったんです、信じてください」
少し驚いたような顔をしたダイヤさん。少し目が開いたから驚いたのかなって印象を受けたんだけど、きりっとした顔は一切崩さない。
だけど少し驚いたってことは僕の誠意が少しでも伝わったってことでいいのかな。
「どんな理由であれあなたがルビィに近づいたという事実に変わりはありません。今後ルビィやわたくし達黒澤家に近づくことはやめてください」
「なんでですか? 何か言えない事情でもあるんですか?」
なんで頑なにダイヤさんやルビィちゃんは僕を寄せ付けないようにしてくるのか。
いや僕だけじゃない、もしかしたら僕以外の男性でもそういうのか。
昔に黒澤家と関わっていた記憶なんて僕にはないし、きっと全国の男の人が黒澤家に近づこうとしてもきっと拒絶されることになるだろう。
それになんで異性はだめで同性なら仲良くしてもいいのだろうか。
考えれば考えるほど謎は浮かんできて、浮かんできた謎はどれ一つとして解決することもできなくて……。
「っ、それはルビィを守るためですわ」
? なんでダイヤさんは今一瞬ためらったのだろう……。やっぱり言えない理由があって、それを言えないから、別の理由を探していたからためらってしまったのかな。
あと少しで、もうちょっとで真実がわかりかける決定的な何かをつかめそうな気がしたけど、僕はこれ以上言及することを辞めた。
これ以上言及したところでダイヤさんはきっと真実に近い何かを話してくれそうもないし、真実を知ったところで僕がルビィちゃんやダイヤさんのために何かできるようなことではないと本能で感じたからだ。
「そういえば、一つ疑問だったのですが……」
僕がすっかり黙ってしまったタイミングでもう一度ダイヤさんは口を開いた。
「黒澤家のことを知らないあなたがどうしてルビィと知り合うことになったのですか? あの子は女子高に通っていますし、帰りに男性に会うような寄り道もさせないように教育してきたのですが」
ダイヤさんは疑問をぶつけてきた。きっと姉として妹が可愛くてたまらないんだろうな、と今の一言でそう思った。
とりあえずダイヤさんに僕がルビィちゃんと出会うことになったきっかけとなんでそんなにルビィちゃんに固執しているのか、なぜ仲良くなる対象がルビィちゃんでなければいけないのかを話した。
「あなたがなぜルビィと知り合ったのか、なぜルビィと仲良くなりたいのかはよくわかりましたわ、ですが今日はこれまでにしてください。とりあえずルビィや私を含めこれからあなたが黒澤家に近づくことを許しませんので、よろしくお願いします」
結局僕がルビィちゃんと仲良くなるための手段はこれで閉ざされてしまったわけだ。
とにかく今日1日で喋れるくらいまで行きたかったんだけど、仕方ない気もする。
もともとあんな風に拒絶された時点でどうやって打ち解けていくかなんてしっかり順番を考えて行動すべきだったのかもしれない。
拒絶してる人をいきなり家に呼ぶなんてありえないよね……。そりゃあダイヤさんも怒るわけだ。
そう肩を落としていると僕の両肩にそれぞれ若干違うタイミングで手がポンっと置かれた。
「裕紀、あんまり気を落とすんじゃないわよ。まだまだきっとチャンスはあるはずなんだから」
「そうずらよ、きっとまだまだ機会があるはずだから頑張るんだよ」
そうだ、こんなところでくよくよしている場合ではない。とりあえず今は解決策を考えてそれからルビィちゃんと仲良くなるのも遅くはないだろう。
まだまだ僕たちも高校に入学したばっかりだし、桜の花が落ちて緑の葉っぱが木になるころまでには仲良くなれるといいな……。
こうして黒澤家を後にして帰る途中幼馴染に励まされながら僕はわが家へと帰った。
何かありましたらよろしくお願い致します。
基本的に休日の投稿はこれっきりになると思います。
それでは、またお会いしましょう。