――第3話「気分転換」
ダイヤさんとの話を終え、帰ってきた僕はしぶしぶダイヤさんの言ったことに納得してその日を終えた。
そもそもルビィちゃんとどうにかして仲良くできないかなって思って黒澤家を訪ねたわけだけど結局ほぼダイヤさんと会話していただけだった。
ルビィちゃんと話したのは最初に訪れた時だけ、進展もくそもあったもんじゃない。
はぁ……。いつになったらルビィちゃんと仲良くできるのだろうか。
そういえば花丸ちゃんがスクールアイドルとかいうものをルビィちゃんと、少し遅れて善子ちゃんも始めたらしい。
なんでも廃校から学校を救うために始めた先輩ともともと熱意のあったルビィちゃんに背中を押されての事だった。
花丸ちゃんは電話越しでもわかるくらいうれしそうな声で僕にそう話してくれた。
ルビィちゃんはスクールアイドルが好きなんだ、と花丸ちゃんに訊ねてみたら『そうずらよ! ルビィちゃんは誰にも負けないくらいスクールアイドルが好きずら! まぁマルがのっぽパンをこよなく愛するのと一緒ずらね』って言っていたんだけど何が一緒なのかわからないからとりあえずそうだね、って返事をしておいた。
さて今日はそんなダイヤさんとお話ししたり帰ったあと花丸ちゃんと電話したりした次の日で日曜日なわけだが、なんだか身体がいつもよりも重い。
金縛りかな、なんて一度考えてみたけど手と足は不自由なく動かせるしその線は薄そうだ。
いや、起きてるなら手や足を動かす前にまず目を開けろよ、だって? いや実は目はもう開いてるんだけど……。僕の上に花丸ちゃんが乗ってるのがあまりにも信じられなくて、今までこんなことなかったし非現実的だったから思わず目をそらしたくなってしまって……。
「で、なんで花丸ちゃんは僕の上に跨っているのかな?」
「やっと起きた、おはよう裕ちゃん。なかなか起きないからマル、裕ちゃんの事たたき起こそうか悩んでたところずら」
なんか割と痛そうなことを言っていたような気がしないでもないけど……。っていうか人が上に乗ってたら誰でも起きるよそりゃあ。
「質問に答える気はないんだね……。とりあえず重いし布団から出られないからどいてもらってもいいかな?」
「あっ、今裕ちゃんマルのこと重いって言ったずら。れでぃに対して失礼ずら、マル泣いちゃうずら」
「ほらほら普段使わないような横文字使わないの。せっかく来てくれたんだしお茶くらいは出すから、ね?」
僕がそうやっていうと花丸ちゃんは納得したようで僕の上からどいて床にちょこんと正座をした。
きれいな姿勢で今か今かとお茶を待ちわびている様子だった。僕もお茶を淹れると言ったので着替えたりする前にまずお茶を注ぎに行った。
花丸ちゃんにお茶を出してパジャマを着替えて顔を洗ってやっと落ち着いた。
「それで花丸ちゃん、今日は何しに来たの? 朝起きたら花丸ちゃんが僕の上に乗ってて結構びっくりしたんだからね」
花丸ちゃんはズズっとお茶を一度すすってふぅと息を吐いてから話し始めた。
「昨日裕ちゃんなんか少し元気がなさそうだったからマルが慰めに来てあげたずら! 感謝するずらよ」
前日の電話で言ってくれればよかったのにと思いつつもきっとサプライズで喜ばせようと来てくれたんだろうなって思ったから口に出して言うのはやめた。
「じゃあ具体的に何しに来てくれたの?」
僕がそう聞くと花丸ちゃんは顎に手を当てて何かを考えるそぶりをした。いや考えるそぶりって……。考えてきたんじゃないの? まさか何も考えずに僕の家に来た、なんてことはないよね……?
「そういえば慰めよう、慰めようってずぅっと思っていたけど何も考えずに来てしまったずら」
花丸ちゃんは『てへっ』とでも言いたそうに舌を出しておちゃめな顔をする。
いやいやそんな顔をしたって物事は先には進まないよ、花丸ちゃん……。
「じゃあまずは家でゆっくりお話しするか、外に出かけるかどっちか決めるところから始めようか」
こう見えても僕はきっちりとした性格なので物事の順を追ってはっきりと予定を決めておきたいタイプなのだ。
もちろん破天荒に突き進むのも嫌いじゃないんだけどね。だいたい破天荒に突っ走っているとどこかで躓いたり何か問題が起きてうまくいかなかったりするんだよね……。善子ちゃんの不幸体質をちょっともらっちゃったかな……?
「うーん、マル幼稚園の頃は裕ちゃんと外で遊んだりしなかったから今回は外で遊んでみたいな?」
首を少しかしげて質問してくるように聞いてくる花丸ちゃん。ふわっと栗毛を揺らしながらニコニコしながらこちらを見てくる。
そんな愛くるしい笑顔はもちろん100点の花丸をあげたいくらいで僕の心臓もドクンと高鳴った。
「それじゃあここからも近いし沼津に遊びに行こうか」
「よーし裕ちゃんと沼津にいくずらー!」
元気に右手を突き上げた花丸ちゃんは、僕とは反対に今をとても楽しんでいるようで若干落ち込んでいる僕を励まそうとしているのがすごくわかってとてもうれしくなると同時に僕もいったん昨日のことは忘れて今を全力で楽しもうと思った。
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沼津に行く途中の道で沼津で何をしようか花丸ちゃんと詳しく決めた。
いろいろしているうちにお昼になってしまったしとりあえず腹ごしらえをしてからそのあとは花丸ちゃんの好きな本を買いに本屋さんへ、そのあとは僕がしたかったショッピングをしようと決めた。
いくら僕を慰めるのが目的だとしても僕だけが楽しむのは何か悪いし、花丸ちゃんにも楽しんでもらいたいし、ね。
そうと決まったらまずは腹ごしらえをしなくては始まらないので近くのファストフード店へと入店した。
「マルこういうところ大好きずら。裕ちゃんよくわかってるずらね」
そういって花丸ちゃんは頼んだ食べ物を口へと運ぶ。
やっぱり毎日精進料理とかでお肉とかジャンクな食べ物食べられないからうれしいのかな。
「それはよかったよ。こういうところは全然来ないんじゃないかなって思って選んでみたんだ」
「え? マルは最近ルビィちゃんとここよく来るよ、ルビィちゃんポテトばっかり頬張ってて可愛いんだぁ」
えっ、花丸ちゃんってお寺の子だしてっきりこういうところとは全くの無縁だと思っていたのに……。
まぁ好きって言ってたし、気にしなくてもいいかな……。
「へぇ……。ルビィちゃんってポテト好きなんだね」
なんて僕が小声でボソッとつぶやくと向かいに座っている花丸ちゃんはズイっと身体をこちらに寄せてきてムッとした表情をする。
「裕ちゃん。今はマルとお出かけしてお話しているんだから別の女の話はしちゃダメだってばっちゃが言ってたずらよ! まったく、女の子の扱いがなってないずら」
そういって花丸ちゃんは身を戻して腕組みをしてふふんと自慢げな様子でフフンと鼻を鳴らしていた。
確かに今は花丸ちゃんと二人きりだし別の女の子のことを考えるのはちょっとなかったかもな……。花丸ちゃんがせっかく励まそうとしてくれたんだし。
まぁ、ルビィちゃんの話題を先に出してきたのは花丸ちゃんのほうなんだけどね……。
そんなこんなで腹ごしらえを終えた僕たちは近くの書店へと向かった。
とにかく花丸ちゃんはよく食べて、僕がおごるよなんていった瞬間に目を輝かせながらメニューを覗き込んで『あれもおいしそうこれもおいしそう』なんて言って遠慮って言葉を知らないかのようにバクバクと無心で食べていて、花丸ちゃんが少し怖くなった瞬間を体験した。
おかげで財布の中は寒くなってしまい、買おうと思っていた本も来月のお小遣いが出るまでおあずけになってしまった。
書店に来るとそこからは別行動にして各々好きな本を探すことにした。気づいたら花丸ちゃんどこかに行っちゃうし。
小1時間ほど次にどんな本を読もうか検討した後僕の予定は済んだので花丸ちゃんを探していると本屋ではあまり聞きなれないガラガラという音がした。
花丸ちゃんが荷台に本を山のように乗せて歩いていたのだ。
「は、花丸ちゃん。そんなに買うの?」
「? なにか変なところでもあるかな?」
首をかしげて花丸ちゃんは僕に聞いてくる。いやおかしいところだらけだよ。と心の中でつぶやくがきっとこれが花丸ちゃんの中では日常なんだろう。
「ところでそれはどのくらいの期間で読む予定なの……かな?」
「うーんこの量だと大体50冊くらいだからこれくらいなら1か月もあれば読み終わっちゃうよ」
悪い予感はしていたけどやっぱりひと月で全部読んじゃうのか……。
幼馴染の新しい驚異的な一面を見たところで書店での買いものを終えた。
レジ打ちの時に店員がひきつった顔をしていたのは気のせいだと思いたい。
……本のカバー全冊お疲れ様です。
結局花丸ちゃんの本のカバーを付け終わるのに店員が根を上げてしまい僕たちも手伝ってカバーを付けることにした。
どうやら書店の新人さんだったみたいでこの世の終わりだ……。もうバイト辞めたい……。みたいな顔をして本のカバーを付けていた。
結局3人で10分ほどブックカバーを付ける時間に費やしてしまった。
そのあとは僕が行きたかったショッピングに行った。
まぁ本を買うお金がない僕には春物の服を見たりほかにほしそうなものはないかなぁなんてみたりしていただけだった。
そんなこんなで日もいい感じに暮れてきて花丸ちゃんのバスの時間が来てしまった。
「じゃあ花丸ちゃん今日はここでお別れだね、今日はわざわざ気を使ってくれてありがとう」
「ううん、マルのほうこそ急に押しかけて……。」
そういってかばんをゴソゴソと探り始めた花丸ちゃん。
「はい、裕ちゃん。今日はマルにわざわざ付き合ってくれてありがとう。これは今日のお礼ずら」
花丸ちゃんが差し出してきたのは一冊の本。次のお小遣いが出たときに真っ先に買おうとしていた本だった。
「……なんでこれを?」
「だって裕ちゃんその本すごくまじまじと見てたし。だけど買うのかなって思ったら買わなかったから、もしかして今日のお昼マルにごちそうしてくれたせいでお金なくなっちゃったのかなぁって」
まさかそこまで見られて見抜かれていたとは……。
心配かけさせないようにしていたのにダメだったみたいだ。
「もう……僕が好きでやってることだからそんなに気にしなくてもいいのに。花丸ちゃんからはしっかり励ましてもらったよ、本ありがとね。あと、女の子は男の子にわがまま言ってナンボだよ。できる限り僕も聞いてあげるからね」
そういって花丸ちゃんは僕の手をぎゅっと握ってくれた。
「それじゃあ……。またマルとお出かけしてくれる?」
夕日がバックの花丸ちゃんがうるうると目を潤ませてこちらを見てくる。
その表情に、いつもと違う雰囲気を醸し出す幼馴染にドキッとしながら僕もあわてて返事をする。
「もちろんだよ、またいつでも誘ってね。今日はありがとう」
「こちらこそ、ありがとずら! じゃあまたお出かけしようね裕ちゃん!」
そういって花丸ちゃんは手を振りながら帰りのバスへと乗っていった。
花丸ちゃんに対しては平常心を保てていたと思うけど、僕の心臓がいつもよりうるさかったのは気のせいだろうか……。
高鳴る心臓を抑えながら僕も家に帰るために足を動かした。
また次回もよろしくお願いします。