――第4話「2人目」
花丸ちゃんとお出かけした翌日。
今日は祝日ということで世間の多くの学生や多くの社会人は休みである日だ。
今日こそは遅くまで寝ているぞ、と意気込んだ僕。しかし若干の暑苦しさに目を覚ます。
まだ真夏日というわけではないし、僕は汗っかきというほど汗をかくほうではない。
昨日みたいに花丸ちゃんが上に乗っていて重いなんてこともない。
ふと目を覚ますと僕の横には頭にシニヨンと呼ばれるお団子を束ねた女の子が眠っていた。
紺色の髪の毛を持つその少女は僕の隣ですぅすぅと寝息を立てて寝ている。善子ちゃんだ。
僕は昨日花丸ちゃんが上に乗って動けなくなっていた時よりも固まってしまった。
まさに開いた口が塞がらないといったところだ。
善子ちゃんもなんだか顔に少しばかりか汗をかいていて前髪が額に張り付いてしまっている。
汗を少しぬぐってあげると善子ちゃんはなんだか嬉しそうな顔をしていた。っと、このまま眠ってしまいそうな雰囲気を醸し出しているがそんなわけない。
そもそもこんなに顔の整った女の子が僕の布団の中で一緒に寝ていること自体奇妙なことなのだ。
とりあえず善子ちゃんを起こさないようゆっくりと体を起こして布団から抜け出した。
そろりそろりと足音を立てないように抜き足差し足で進もうとするが。まだ完全に目が覚め切っていない僕は少しよろけてしまい後ろにつまずいた。
そこに運悪く善子ちゃんが……。そのまま善子ちゃんに引っかかってしまい、ドーン! という大きな音とともに尻もちをついた。
「んぅ……。もうなによ、朝から騒々しいわね」
当然善子ちゃんも起きてしまい眠い目をこすっている。
「あはは、ごめんね。気持ちよく寝ていたから起こさないようにしていたんだけど……。ってそんなことよりなんで善子ちゃんは僕の布団の中に侵入してきているのかな?」
「いや、昨日ずら丸が裕紀と遊びに行ったとか自慢してくるから、それで……。なんというか円環の理に導かれて……って感じで?」
って感じで? じゃないよ、もう。
「それで、花丸ちゃんに昨日僕と遊んだことを自慢されていてもたってもいられず今日僕の布団の中にやむを得ず忍び込んだと?」
「そ、そんなところね。裕紀の持つ魔力に私の魔力が引き込まれたというか……。とにかく!私とあなたはひかれあう関係なのよ!」
うーん。言ってることがまったく理解できないんだけど……。
「ところで何して今日1日過ごすかもちろん決めているよね?」
昨日花丸ちゃんは申し訳なさそうにしていたし。僕と遊んだことだけを善子ちゃんに報告しただけじゃないはず、予定も考えずに押しかけてしまったことを善子ちゃんに行ったはずだ。いや、そう願いたい。
「え”っ」
なんだか善子ちゃんからギクッともとれる、とても文字には表せないような言葉を今聞いた気がするんだけど、それは気のせいかなぁ……。
「えっ? まさか考えてきてない?」
「いやだって……。ずら丸から聞いたの昨日の夜だし……。驚かせようと思って電話切った後早起きするためにすぐ寝ちゃったし、考える余裕がなかったというか……。そんなこと考えることを考えていなかったというか……」
「はぁ、まぁ仕方ないからとりあえずお昼ご飯食べに行こうか、それから午後のことを考えよう」
「お昼? お昼ご飯を食べるのね!?」
なんだか僕がおひるごはんという単語を口にした途端善子ちゃんの瞳がキラキラ輝き始めた。
もしかして花丸ちゃんに昨日お昼ご飯をおごってもらったことも自慢されたのかなぁ。
そう思うとやっぱり不公平にすることはできないし、善子ちゃんにもお昼ご飯ご馳走してあげよう。
そこで僕は昨日なくなったお金を補充するために好きなアーティストのライブに行くための軍資金をためてあった貯金箱の中から一部を抜き出した。
善子ちゃんが花丸ちゃんよりもたくさんご飯を食べるとは思えないけど一応念のために……ね。
まぁ昨日花丸ちゃんから欲しい本のプレゼントはもらったしほしいものだって一か月くらい我慢することはできる。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
善子ちゃんとやってきたのは最近新しく沼津にできたファミリーレストラン、調べたところ全国展開はしていたが沼津にできるのはこの店舗が初めてらしく僕も楽しみにしていた店だった。
昨日は花丸ちゃんに合わせてファストフード店だったけど、今日は善子ちゃんとの意見も合致してこの店を選んだ。
「そういえば小、中と一緒の学校だったのにこうして二人きりでお昼ご飯食べるなんて今回が初めてじゃない?」
「うーん、確かに。家もそこそこ近かったけど一緒に遊ぶなんてことなかったし。それ以前に善子ちゃん中学校の時遊びに誘ってもいっつも忙しいって言って僕と遊んでくれなかったような気がするんだけど……。っていうかそもそも遊ぶこと自体初めてなんじゃ……」
僕がじーっと不満げな顔で見つめると善子ちゃんは顔をひくひくさせながら困った顔をしていた。
……まぁ人には話したくないことの一つや二つあるもんだしなんで遊んでくれなかったかは言わなくても別にいいんだけど。
「まぁ別に話したくない理由があるなら仕方ないよ。おっ、ちょうどいいところに料理が来たね。いわば善子ちゃんの救世主
「うっさい! こういう時だけそういう言葉使うのやめなさいよ!」
善子ちゃんを一通りから買って満足したところで料理が届いた。
僕が頼んだのはオムライス。ここのファミレスのオムライスはメニューに掲載されている写真を見る限り上にデミグラスのソースがかかっていて、僕好みになっている。ケチャップよりデミグラス派の僕にはたまらない一品だ。
一方善子ちゃんが頼んだのはイカスミソースがたっぷりかかったスパゲッティ。具材にもイカが使われていたりからいものすきの善子ちゃんにぴったりの鷹の爪が多めに入っていたりとそこそこおいしそうだ。
まぁ当の本人は暗黒界に堕ちた私にふさわしいから選んだとか言いそうなもんだけど。
「善子ちゃんの料理おいしそうだね」
「フフ、そうでしょ? まさに私にふさわしい色をしているし」
そういって善子ちゃんはフォークにスパゲッティをくるくると巻き付けた後こちらに差し出してきた。
「ほ、ほら食べたいからおいしそうって言ったんでしょ? 食べなさいよ」
そういって善子ちゃんはほおずえをついて照れくさそうにそっぽを向いて言ってくる。やっぱり善い子だなぁ……。
「ありがとう善子ちゃん、じゃあ遠慮なくもらうね」
パクっと一口で巻かれたスパゲッティを食べるとすぐに鷹の爪のピリッとしたからさとイカスミの風味が鼻から抜けておいしさを脳に伝えてくれる。数少ないイカを付けてくれた優しい善子ちゃん、スパゲッティの柔らかい触感とは違って少し弾力のある以下の触感もまた料理を楽しませてくれた。
「ど、どう? おいしい?」
「うん、おいしいよ。善子ちゃん。善子ちゃんも僕のオムライス食べる?」
そういってスプーンに一口分のオムライスを掬って善子ちゃんに差し出す。
すると善子ちゃんはすぐさま僕のスプーンに飛びついてパクっと頬張った。
んん~と頬に手を当て腰をくねくねしていた。おいしさに舌をうならせるのは別にいいけどほかの部分で表現しちゃったら周りから見たら変人だよ善子ちゃん……。
お互いに食べあったところでゆっくり自分の料理を食べ始めた。
善子ちゃんの親はなんでも教師らしく、堕天使には似合わないが意外と食事のマナーや基本的な礼儀はしっかりしている。
でも脇に置いてあるタバスコや七味唐辛子を『まだ足りないわね……』なんて首をかしげながら死ぬほどかけていたのはどうかと思う。
ところでなんで食べようとするたびにフォークを赤い顔で見つめて食べるのをためらっていたのはなんでだろうか。
そんな一抹の疑問が晴れることはなかった。
お昼を食べて次にやってきたのは善子ちゃんが来たいと言っていた場所。
僕の行きたいところはもうすでに昨日行きつくしてしまったし、ほかにいい案も出てこなかったので善子ちゃんに譲った。
善子ちゃんは気に入らなかったのか口をとがらせてぶぅーと言っていた。そんなふてくされた彼女の姿もなんだかかわいく思えた。
やってきたのはもちろん善子ちゃんお気に入りの変なグッズがたくさん並んでいるショップ。
中には最低限の灯りしかなく足元に何かあればつまずいてしまうんじゃないかっていうくらい暗い。
「なんかとっても薄暗いね……」
「何言ってるのよ! 堕天使的にはこの暗さがちょうどいいのよ!」
堕天使的にって何なんだろうか……。堕天使的に……。
そういえば中学の時に善子ちゃん本人にこの疑問をぶつけたことがあるけど結局答えられずに吃<rbども>ってしまってそのままわからず仕舞いだった。
今聞けば答えてくれるのかなとも思ったけど。まぁそんな野暮なことを聞くと善子ちゃんは怒りそうだったのでこの疑問は本人が口にするまで一生心のうちにとどめておこうと思った。
こんな店に来るのはもちろん初めてだけど、いざ店の中に入ってみると意外と興味深いものが多かった。
無駄に高価な水晶やどくろの柄をした指輪、こんなの普通に売っている店に行けばもっと安く手に入りそうなんだけど、やっぱり効果があるから高いのかはたまた客をだますために高く設定しているのか、そこが僕は興味深かった。
……多分後者なんだろうけど。
結局高価なものに善子ちゃんも僕も手を出すことができなくて一通り商品を見ただけで終わった。
善子ちゃんもうれしそうだったし一々商品を見るたびに目を輝かせていたし喜んでもらえて僕も満足かな。
まぁ値段を見るたびに毎回ガクッと肩を落とす善子ちゃんも見ていて面白かったけど。
外に出ると意外にも外は暗くなっていた。
お互い時間も忘れていたようで携帯の電源を付けて時間を確認すると20時をすでに回っていた。
「さぁ、暗くなってきたしそろそろ帰らないとね」
このまま夜も遊び続けるわけにもいかないので善子ちゃんに帰るよう促す。
幸い善子ちゃんは僕と家がそこまではなれていないおかげで送っていける距離ではあるしあまり怖くはないけど、やっぱり夜になってくると少し心配する気持ちも出てくる。
「フフ、心配しなくてもいいのよ? この眼は暗闇のほうがよく見えるようにできてるから。だから安心しなさい? 私のリトルデーモン」
きっと僕が心配しているのに気を使って言ってくれたんだろうけど何かあってからじゃ遅いし。だけど心配させないように気を遣うなんてやっぱり善子ちゃんは善い子だね。
「いや、それ単に目が暗闇に慣れてきてるだけだからね。さすがに僕も暗闇の中でも目が慣れれば見えてくるよ、それに街灯だってちらほらついてるし」
「コラー! 少し合わせるくらいはしなさいよ! まったく!」
「合わせるって言っても僕善子ちゃんみたいに厨二病みたいな言葉スラスラ出てこないからさ」
「厨二言うなー!」
僕は善子ちゃんみたいに堕天使語録は出てこないし普通に対応したはずなんだけどな……。
そう思っていたら善子ちゃんはなんだか急にモジモジし始めてこちらをちらちらと見てくる。
いったいどうしたのかな。
「じゃ、じゃあさ……。このまま外で遊ぶんじゃなくて、裕紀の家に行っていい? あっ! 別にそういうやましい気持ちがあるとかそんなんじゃないのよ! ただ裕紀の家で晩御飯食べたいなぁ……。なんて思ったりして」
そういった善子ちゃんには普段のキレなんて微塵も感じなくて、あぁ善子ちゃんもちゃんと女の子なんだなって思うとなんだかうれしかった。
やっぱり普通の善い子ちゃんだね、善子ちゃんは。
「善子ちゃんのお願いもうれしいしかなえてあげたいんだけどきっと善子ちゃんは僕の家に上がったら帰らない! とか言いそうだし、明日からは学校だし今日は我慢しよう? 今度また晩御飯作ってご馳走してあげるからさ」
「うぅ……。やっぱりそうよね。明日学校だもんね。わかった我慢するわ、でも言ったからにはしっかり約束を守りなさいよ!? 嘘ついたらただじゃおかないんだからね! 嘘だったら呪ってやるんだからー!」
そうやって善子ちゃんは走ってそのまま家の方向へ行ってしまった。
「あっ! まって善子ちゃん! 送っていくから!」
「いいわよ! そんなのー! 約束だけは覚えておきなさいよー!」
運動をしていない僕はあっという間に善子ちゃんにおいていかれてしまった。そういえば中学の時も何気に体力あったし足も速かったなぁ。
……僕も今日から運動頑張ろうかなぁ。
なんて思いながら昨日も帰った道をもう一度通って帰った。
次話もよろしくお願いします。