ダリアの花に情熱を   作:ほおずきん

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よろしくお願いします。


知らない感情

 ――第6話「知らない感情」

 

 もうすぐ夏休み、夏休みの前にあるイベントと言えば、そう定期試験。

 今僕は定期試験の勉強をしている。

 

 

 ――善子ちゃんと。

 

 なぜ善子ちゃんと定期試験の勉強をしているかというと花丸ちゃんに頼まれたためだ。

 

『善子ちゃん最初のほうは不登校だったし勉強もできないみたいだから教えてあげてほしいずら!』

 

 って言われた。花丸ちゃんが教えればいいじゃん……。ってもちろん思ったけど何やら花丸ちゃんも暇ではないらしく用事があるらしい。

 そこで僕が呼ばれたわけだ。

 

 確か善子ちゃんの親って教師だった気がしたんだけど、まぁ教師の子が必ずしも頭がいいってわけでもないし、仕方ないのかな。

 そもそも善子ちゃんが厨二病に走ったのも親からの期待が、その圧力が凄まじいものだったからそんな風になってしまったと本人の口からきいたことがある。

 

 そういえば同じ塾に通っていたはずなのに急にやめちゃってからだっけ、『堕天!』とか言い始めたのも。

 それからはもう大変だった。毎日のように屋上に上ってはみんなに堕天使を布教していた。

 そのたびに僕が先生から怒られていたというか懇願されていた。

 

『お願い! あの子を止められるのはもうあなたしかいないの!』なんて。

 

 重要役職だったんだなぁ……。

 でも僕は善子ちゃんを止めることはしなかったし、危ないことをしない限り彼女を止めることはなかった。

 

 若いうちはやりたいことをやるのが一番だし、人に迷惑をかけてなかったり法に触れてさえいなければいいと思う……。多分。

 

 さすがにとめなきゃまずい! と思ったのは屋上のフェンスの先に立って厨二病語録をぶつぶつ唱えたときかな。

 最初は僕も危ないなぁって感じで眺めてたんだけど下から同級生のヤジが入るたびに善子ちゃんが一々反応するのでさすがに止めた。

 

 だって反応するたびに大きなリアクションとって足を踏み外しそうになるんだもん。

 不幸体質を名乗っている善子ちゃんなら落ちることもありえなくもない、って思ってさすがに止めたんだっけ。

 

 そんな思い出も懐かしいなぁ。

 

 前にも言った気がするけどやりたいことを自分の気持ちに素直に答えてできる人はどんな人でも僕は尊敬できる。

 むしろ僕が今までやりたいことはやってこれなかった人間なのでとても羨ましい気持ちのほうが大きいかもしれない。

 

 話を戻して善子ちゃんが教えてほしいという数学に取り掛かることにした。

 どうやらまったくわからないようでペンがまったく進んでないみたいなんだけど

 

「それで、どこがわからないの?」

「ここ……。まったく誰よぉ! 数学なんて考えたのは! 公式なんて作ったのは! 出てきなさい! このヨハネが直々に成敗してくれる!」

 

 善子ちゃんがさしたのはさっきやっていた公式を使った応用する問題。

 まさに勉強があまり得意ではない人が詰まるであろう部分だった。

 正直数学が得意な僕でもミスが出てしまうような問題だろう。

 そんな応用編まで行くくらいなら僕が教えることなんてないと思うんだけどな……。

 

「それはね、ここの公式とここの公式を使って……。っていうか公式を考えた人はみんな天に召されちゃってるから出てくるとしたら化けて出てくると思うけど……」

「そっ! それはダメ! ヨハネはお化けなんて信じないんだから!」

 

 いや、思いっきり信じてる人の反応だよねそれ……。堕天使なのにお化けが嫌い……ヘタレ堕天使。

 

「ヘタレ言うな!」

「おっと善子ちゃん僕の心を読むのはズルいよ」

「読んでないわい! あんたがボソッと口にしたことくらいわかるわよ!」

 

 知らぬ間に声に出てしまっていたらしい、口に出すつもりはなかったんだけどな。

 

「さ、信じないならお化けなんて出てくることもないし我慢して公式覚えようか」

「うぅ……。ここって何の公式当てはめるんだっけ」

 

 またまた詰まってしまったようでさっきやった問題と類似した問題を解こうとしていた。

 そこの問題の公式さっきやったはずだし、同じ公式の使い方で解けると思うんだけどな……。さっきやったことを忘れちゃうなんてよっぽどだと思うけど。

 

「善子ちゃん少しは自分で考えようか……」

「裕紀ー! いいじゃないのよ! さっさと教えなさい!」

 

 こんなのだから勉強ができなくなってしまったのでは? という一抹の不安とともに責任感を感じるようになってきてしまった。まぁ花丸ちゃんに言われた通り勉強を教えてるし答えがわからなくなって勉強を辞めちゃうよりはましだよね。

 

「アハハ……。ハイハイ、わかったよここはねこの公式を使って…………」

「あっ! わかったわ! さすが私のリトルデーモンね、褒めて使わすわ」

 

 やっぱり善子ちゃんの素質はいいみたいで要領がわかっていればスラスラと問題を解き始める。計算ミスだってないし字もきれいでノートもわかりやすく書かれている。ちゃんと公式を覚えればいいのに、それにテスト中僕が隣でどの公式を当てはめればいいかなんて言えないわけだし。

 それも踏まえてリトルデーモンになるつもりは毛頭ないけど。

 

「……それはどうも」

「不満そうにするなー!」

 

 問題を解き終わると善子ちゃんはついに集中の意図が途切れてしまったようで机に突っ伏してしまった。

 

「あ”あ”-やっぱ勉強は疲れるわね……なんでこんなもんやらなきゃいけないのよ……」

 

 そんなおっさんみたいな声を出す善子ちゃん、きっと文字で表しにくいだろうからやめたほうがいいよ……。

 

「それは人類の性だからあきらめようよ善子ちゃん」

「私は人間じゃなくて堕天使! 人間の皮をかぶった魔物なのよ……」

 

 魔物って勉強できないんだ……。まぁ善子ちゃんが堕天使だろうが人間の皮をかぶった魔物だろうがそれを信じる人はこの世に一人もいないと思うけどね。

 

 

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 ピンポーン 

 僕らが勉強しているところに善子ちゃんの家のチャイムが鳴り響いた。

 

「お二人さん進んでるずらか?」

 インターホンを鳴らした主は花丸ちゃんだったみたい。手にはコンビニの袋らしきものが提げられていてなかにはジュースのようなペットボトルやお菓子の袋などがちらちらと見えた。

 

「あれ花丸ちゃん、用事はどうしたの?」

「もう終わったずらよ、だからマルも善子ちゃんのこと応援しに来たずら」

 

 用事って結局何のことだったのかな用事って何? って聞いたら花丸ちゃんは慌てた様子で『よ、用事は用事ずら! な、なに変なこと言ってるずら裕ちゃん』なんてあからさまに動揺してた。だけど僕も言いたくないことを無理やり聞くような野暮な男ではないのでそのまま納得してあげた。

 きっと花丸ちゃんは隠し事が苦手ないい子なんだね。

 

「げっ、ずら丸が来たらだらだら勉強できないじゃない」

 

 あぁ……。この堕天使は、また口を滑らせて。悪いけど僕は花丸ちゃんに怒られるの嫌だから言い訳でもして逃げさせてもらうよ。

 

「善子ちゃん? 裕ちゃん? だらだらとはどういうことずら? マルはだらだら勉強していいなんて言ってないずらよ?」

「あぁ、僕はしっかりやるように言ってちゃんと教えてたんだけど善子ちゃんがどうしてもって言ってきかなくて……」

「ちょ、ちょっと! 裕紀! それはズルいわよ!」

「よーしーこーちゃーん?」

 

 善子ちゃんが弁明を仕切る前に、いや僕も道連れにする前に花丸ちゃんは善子ちゃんのほうにズイっと身体を寄せてジト目で善子ちゃんを見つめる。

 あぁなんだか今から恋が始まりそうな気がするなぁ、なんて。始まるわけなんてないんだけど。

 

「ち、違うのよ! 結構な時間勉強してたから少し休憩がてら勉強をと思ってね、ね! 裕紀?」

 

 ……ここで僕に振ってくるのか。まぁあながち嘘でもないし、そういうことにしておいてあげようかな。

 

「うん、まぁ間違ったことは言ってないよ、花丸ちゃん」

 

 あからさまにほっとした顔をする善子ちゃんを確実に見た花丸ちゃんだったけどどうやら本当に堕落している堕天使を見逃してくれるみたい。

 

「まぁノートを見る限り頑張ってるみたいだから許してやるずら。数学しかやってないみたいだけど」

「アンタは一体何様のつもりよっ!」

「勉強のできない善子ちゃんに言われる筋合いはないずら~」

「なにを~! 言ったわね!? 次のテストで絶対ぎゃふんと言わせてやるんだから!」

 

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 善子ちゃんのためを思って裕ちゃんに勉強を見てもらうように頼んだんだけど、どうしても裕ちゃんと善子ちゃんが2人きりでいるっていうことがきになって我慢できなくなってしまった。

 

 用事も途中だったけど全部すっぽかしてきてしまったずら。

 何とか自然を装って善子ちゃんの家を訪ねたけど心の底から裕ちゃんと善子ちゃんが何かいかがわしいことをしていないか心配だったずら。

 

 だって『二人きりで遊んだ時に、間接キスしちゃったわ!』なんて自慢されるからそれを思い出して飛んできてしまったずら……。

 マルと遊んだときはそんなことなかったのに……。

 

 あぁ、ハンバーガーなんて食べてる場合じゃなかったずら。いつもはいかない小洒落た”れすとらん”にでも行けばよかった。

 そうすればマルも裕ちゃんと……。

 

 はっ、いけないこの場に善子ちゃんも裕ちゃんもいるのだから今のうちに雑念は捨てておかないと……。

 チラッと横目で机に張り付いて勉強している二人を見るが特にこちらに気づいている様子はないようだ。

 ほっと胸をなでおろすがまだマルの雑念が捨てきれたわけではない、というかこのまま善子ちゃんが間接キスを成し遂げたというのにマルは何もしないまま終わるわけにもいかない。

 

 雑念なんてくそくらえずら。

 

 今はどうにかして善子ちゃんと同等か上をいかなければ……。

 幸い二人は勉強中、マルも今2人が解いている問題はすんなりこなすことができる。

 普段から勉強をしておいてよかった。

 

 さて、どうすれば善子ちゃんを超えることができる? できれば善子ちゃんと一緒である間接キスは最終手段にしたい、だって自慢できないずら。そんなの絶対『私のほうが先にしたんだから私のほうが上よ!』なんて言われるのは必至だ。

 それよりも上となると……。

 

 

 ……………………ま、まさかちゅーずら!? 接吻ずら!? 

 

「す、助平ずら~!!!!」

 

 マルは思わず机をバンっと叩き立ち上がる。顔が熱いのが自分でもよくわかる。

 さっきまで黙々と勉強していた二人が不思議そうにこちらを見てくる。

 そしてマルの顔が赤いのを見るや否や二人ともおろおろと心配し始めてしまった。

 

「だ、大丈夫ずら! 何でもないずら! 何でもないから! ほら勉強しよ? ね?」

 

 もちろんそんな願いなんてかなうはずもなく。

 

「顔真っ赤じゃない、熱でもありそうなんだからとりあえず今日は帰りなさいよ」

「そうだよ花丸ちゃん。もし無理そうなら僕が送って行ってあげるからさ」

 

 そうやって裕ちゃんは言う。送って行ってもらえるなんてマルはなんて幸せ者なんだろう。

 雑念捨てなくてよかったな、願い通らなくてよかったな。

 善子ちゃんには悪いけど帰るまでの時間少し裕ちゃんを独り占めしてみちゃおうか、なんて悪いことを考えてしまうマルなのでした。

 

「そ、そう? 二人がそういうならマルもおとなしく帰るずら」

「だそうよ、裕紀。後は頼めるかしら? 今日は数学だけだったけれど教えてくれて助かったわ」

「うん、テスト頑張ってね、いい結果を期待してるよ。それじゃあお邪魔しました。ほら花丸ちゃん大丈夫? 帰れそう?」

 

 はわわ……。裕ちゃんがマルの事を介抱してくれてるずら、今日はいいことが起きすぎて明日はマルの身に何かあるんじゃないかっていうくらい幸せずら。

 そのまま裕ちゃんに見守られながらバス停に来た、幸せな時間はここでおしまいかな。

 マルがバスに乗り、席に座ろうとすると後ろからもバスの金属部分がカツン、と金属特有の少し甲高い音が鳴った。

 まさかと思いつつも後ろを振り向く勇気がなかったマルは一番後ろの座席に座るまで後ろを振り向かなかった。

 座ろうとしたときにマルの目に映ったのはマルが勝手に分かれたであろうと思っていた人物がいた。

 

「ほら、花丸ちゃんもう少しずれてくれないと僕も座れないよ」

「な、なんで裕ちゃんバスに乗ってるずら!?」

「だって今の花丸ちゃんを見過ごして帰るわけにもいかないし、いつか倒れちゃうんじゃないかってずっとひやひやしてるんだからね?」

 

 やっぱり裕ちゃんは優しい、きっと女の子には平等なんだろうな。

 だけどその平等の優しさが辛くて、さみしくて不意に目頭が熱くなって涙がマルの頬をポツリと流れる。

 ばれないように服の袖でごしごしと目をこすってごまかす。

 それでも涙はポツリ、ポツリと流れてくる。何とかごまかそうとあくびをしてグイっと背伸びをする。

 

 それを見ていた裕ちゃんが心配そうに口を開く。

 

「花丸ちゃん眠そうだけど大丈夫? ほら、膝を貸してあげるから。こういうときは甘えないとダメだよ?」

 

 そういって裕ちゃんが指示したのは膝。膝をポンポンと叩いてマルが寝るように示唆してくれている。

 何とか泣いていたことはごまかせたみたいだけどこれはこれでなんだかおいしい状況なのか、それとも。といった感じでもやもやする。

 

「………そこまで言うなら失礼するずら」

 

 もやもやすると言ったものの目の前の極上の催しを見逃すわけにはいけない。

 仕方なく、仕方なく、マルは裕ちゃんの膝の上で寝るずら。決して裕ちゃんの膝の上で寝たいからではなく仕方なくずら。

 

 ぽすんと頭を膝の上にのせると少しだけ男の人の筋肉質な太もも。

 マルや善子ちゃん、ルビィちゃんのとは全然違う太もも。ぷにぷにとは程遠いごつごつしている太もも。

 でも、なんだか……落ち着く感じがして……心地いいずら。

 そのままマルは裕ちゃんの膝のぬくもりに包まれながら眠りへとついた。

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

「マルちゃん、マルちゃんもう家の近くのバス停に着くころだよ」

 

 裕ちゃんの声に起こされてマルは目を覚ます。お姫様にでもなった気分ずら、こんなに心地いいなんて。

 片耳から感じることのできる人肌のぬくもりにハッとなってマルは裕ちゃんの膝を借りて寝ていたことを思い出す。

 それがまた顔に熱を持たせる。

 

 バスのアナウンスはマルの最寄りのバス停をアナウンスしていてもう幸せな時間は終わってしまったのかと悲しむと同時に幸せな時間を過ごすことができた喜びをかみしめた。

 まだ、あと数秒、かみしめられる。できるだけ長くこの時間を、顔が熱くたって気にしない。

 

「……もう少しだけこのままがいいずら」

 

 マルのこの言葉にきっと裕ちゃんは驚いていることだろう、普段わがままを言わないマルだから。

 でも裕ちゃんは何も言わずフフっと笑って頭をなでてくれた。

 まさに犬でもなった気分で、犬は飼い主から毎度こんな喜びを与えられているのだろうと思うと嫉妬心まで沸いてきてしまうくらい心地よかった。

 

『お降りの方はお気をつけてお帰りください』

 

 そんなアナウンスとともに訪れる幸せな時間の終焉。

 

「さ、降りようか」

 

 裕ちゃんがそういったのでマルも席を立ってバスを降りる。しっかり運転手さんにお礼を言って、運賃を機械の中に入れてバスを降りる。

 毎度思うけれどあの機械は勝手にお金の計算をしてとってもすごいずら。科学の発展ずら。

 

「それじゃあここまででいいから、送ってきてくれてありがとう。気を付けて帰ってね」

「うん、花丸ちゃんこそ。すぐそこだけど階段に躓いたりしないようにね。早く元気になってね」

 

 そういって裕ちゃんは歩いてどんどん遠くへと離れて行ってしまった。

 いつかこの想いをしっかり伝えることができたらいいな、離れて行ってしまう裕ちゃんをしっかり近くに引き寄せられるように。マルは内気だしいつになるかわからないけど、絶対かなえてみせるから、待ってるずらよ、裕ちゃん。

 ちなみにテストの結果はマルが圧勝して敗北した善子ちゃんは真っ白な灰になっていた。

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