若干原作改変してますが温かい目で見守ってください。
――第7話「海」
定期試験が終わって僕らの上にある太陽も容赦なく陽を浴びせる中、海に来ていた。
世間は夏休み。もちろん学生である僕も夏休みに突入していた。
なんでも海の家をお手伝いするとのことで僕も助っ人として呼ばれたのだ。
実を言うと、当日まで海の家の手伝いをするなんて聞いていなかった。
善子ちゃんに勉強を教えたお礼として海に誘われていたはずなんだけど、いつの間にかそんな面倒ごとに巻き込まれていた。
僕はまんまと善子ちゃんと花丸ちゃんに騙されていたのだ。
もともと僕は運動なんて好きではなく、ましてや水泳なんて苦手中の苦手だった。だから海に行く気なんてなかったのだけれど”ルビィちゃんが来る”と聞かされては海に行かずにはいられなかった。
まぁ海の家の手伝いだけなら泳ぐ必要もなさそうだし泳げない心配はしなくてよさそうだな。
ちなみにほかのスクールアイドルのメンバーの人も全員いるらしい。
ダイヤさんもいるらしいけど……。まぁ僕はお手伝いだし多少のことは目をつぶってくれるだろう。なんて甘い考えを持っている。
というかダイヤさんもスクールアイドルやっていたんだね。そういうのとは全くの無縁、って感じがする。
まぁ人のやっていることにああだこうだ口出しをするほど偉くないしするつもりもないけど。
2時間ほどバスに揺られて内浦の海にやってきた。
海は青く輝いていて今にも泳ぎたくなるような、そんな海だった。
もうすでに我慢しきれずに海に入っている人もいるみたいだけど。
「今、服を脱いで勢いよく入っていったのが千歌さんと曜さんずら」
詳しく聞くにあの妖怪アンテ……じゃなかった。アホ毛が堂々と反り立っているオレンジ色の水着を着た人がリーダーの千歌さん。ついでに髪の色もオレンジ。
その横で一緒に楽しんでいる青色のビキニを着たのが曜さん、らしい。ボーイッシュな感じでアッシュグレーの髪は肩につかないくらいの長さで癖っ毛が特徴的だ。
「オレンジじゃないよ! みかんだよ!」
海からはそんな声が飛んでくる。どうやって僕の心の声を聞いたんだ。
「千歌ちゃんはみかん色をオレンジ色って言われるのが一番嫌いずら、次からは気を付けるずらよ」
「そんなの私はどっちでもいいと思うけど」
忠告してくれる花丸ちゃん、ありがたいけれど僕も善子ちゃんと同感である。
ただ怒られるのも嫌なのでこれからはちゃんとみかん色って言うことにしよう。
海の波、サーフボードを手足のように扱って乗りこなしている髪の長いボニーテールの女性が果南さん。
海がないと息絶えてしまうといったうわさが立ち込めているらしいがさすがに嘘だろう。
そして海の中でルビィちゃんとボール遊びをしている女性が鞠莉さんと梨子さんだ。
鞠莉さんはなんでもハーフだそうで、いかにも! といった髪色と美貌だった。
梨子さんは東京からここに引っ越してきてスクールアイドルを始めたらしい。
東京から内浦に引っ越してくるなんて何があったら起こるんだろうか。
どうやら大人の事情には踏み込んではいけないこともあるらしい。
そんなスクールアイドル”Aqours”のみなさんはとても素晴らしい体を持っていて目の保養になる。
――今日来てよかったな。
そういえばダイヤさんの姿がさっきから見えないけど寝坊でもしたのだろうか……。
まぁ寝坊しているなら寝坊しているで好都合だし、そう思って横を振り向くと僕のほうをすさまじい剣幕で見ていた。
「あ、こんにちは」
「挨拶がしっかりできてよろしいですわね、ごきげんよう。今日は一日あなたのそばで活動させていただきますので、よろしくお願いいたしますわ」
……初めて口から『とほほ』って出てきそうになった瞬間だった。
ルビィちゃんに近づく
「さて! いつまでも遊んでいないで海の家の手伝いをしますわよ」
そういってダイヤさんは手をパンッと叩いてみんなに呼びかける。
……呼びかけるが誰も応じない。そりゃ目の前に海があったら泳ぎたくなるよ、僕はならないけど。
集まったのはせいぜい海で遊んでいない僕、善子ちゃん、花丸ちゃんだった。
このメンバーを見た時になぜかあぁ……と納得してしまったのは言うまでもない。
「集まりなさーい!!」
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ダイヤさんの怒号が飛んでようやく人が集まり、それぞれに役職が振り分けられた。
料理担当が善子ちゃん、曜さん、鞠莉さん。
広報担当が千歌さん、梨子さん、果南さん、花丸ちゃん、ルビィちゃん。
僕とダイヤさんが敵情視察、となった。
ダイヤさんは意地でもルビィちゃんと僕を近くに寄せさせないみたいだ。
何とかすり抜けて、掻い潜って今度こそルビィちゃんと――
僕たちの担当する海の家はもう潰れているといっても過言ではないほど廃れていて、隣にある視察予定である、新しい海の家にすべて一任すればいいのに、と投げ出したくなるほどだった。
まぁ仕事だし、その相方は何といってもダイヤさんだし行かざるを得ない。
お隣の海の家に着くと海に来たカップルや女性客で賑わっていた。
敵情視察なんて意味あるんだろうか……。いっそあのぼろい家をリニューアルしたほうが早いのでは、と心の中で思っていた矢先にダイヤさんが小声で僕に話しかけてきた。
「あなたはなぜここにいるんですの?」
「なぜって……花丸ちゃんと善子ちゃんに来てくれないかって言われたんです。最初は海で遊ぶだけって聞いていたんですけど、まんまと騙されていたみたいで」
僕がそういうとダイヤさんは『あの二人は……』とでも言いたそうに頬をポリポリと掻いていた。
「まぁルビィにさえ近づかなければ何も咎めることはありませんので、楽しんでくださいな」
常に厳しい人なんて印象を持っていたけれど、
まぁ今日一日その
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結局、敵情視察は収穫ゼロに終わり。海の家の売り上げもぼちぼちといったところだった。
なんでぼちぼちの売り上げがあったかというと、千歌さんや曜さんが事前に友人たちを招いていたようでワイワイしていたようだ。
料理担当は3人で一つ、複数のものを作ったわけではなくそれぞれ個人で1品ずつ作ったらしい。
曜さんは『ヨキソバ』ただのオムそばである。だけど野菜にもいい感じで火が通っていて、ソースの香りが鼻をくすぐり鼻とお腹の神経がつながっているのではないかと疑うほどたちまちお腹が鳴った。
善子ちゃんは『堕天使の涙』という真っ黒のたこ焼き。タコの代わりにタバスコを入れた一品。せめてタコと同じような固形物を入れようよという願いはかなわない。堕天使っぽく生地にはイカスミが入っている。
鞠莉さんは『シャイ煮』日本、世界から集めた高級食材をとにかく鍋に突っ込んだ料理。
とにかく原価が高く、よほどのことがない限り庶民では手がでない料理である。
この3つがこの『海の家Aqours』のメニューとなっている。
席を見る限りヨキソバしかない。まぁ当然の結果だろうか……。
本人は一生懸命作っているから若干かわいそうではあるが、自業自得である。
浦の星の生徒も帰り、日が落ち始めたころAqoursのメンバーは練習に励んでいた。
足を取られる砂浜でランニングや基礎のダンスレッスン、体幹をしていた。
ランニングと体幹は僕も半ば強制的に参加させられたがとてもじゃないけどつらかった。
ルビィちゃんがハァハァと肩で息をしながら若干離れたところにいたので、水でも渡そうかと近づこうとするとすぐそこから鋭い視線を感じて、手に取った水はそのままキャップを開けて自分で飲んだ。
チラッと横目で見るとダイヤさんがまたすさまじい剣幕でこちらを見ていた。
この人の危機察知能力はいかがなものかと感嘆しながらもまたもや機を逃した。
「今日はお疲れさまー! すごく助かったしいい練習もできたね」
千歌さんがそういうとみんなは顔を合わせてうんうんと頷きあっていた。
高校生してるな、って思って僕も改めてきてよかったと思えるし誘ってもらったことに感謝したい。
陽も落ち体にまとわりついた砂を落として夕食を食べるらしい。
余ったシャイ煮と堕天使の涙をすべて残さず食べなくてはならないらしい。
シャイ煮に関しては若干味に興味があるものの、堕天使の涙に関しては善子ちゃんがタバスコを入れているところを目の当たりにしていたのでできれば食べたくない。
まずはシャイ煮から片付けようということで全員恐る恐る料理に口を運ぶ。
”煮る”ということで鞠莉さんも気を利かせたのか入っている食材に魚介が多く、魚介の風味が詰まった爆弾が食べた瞬間に口に広がって、とてつもなくおいしかった。
それにしてもアワビはさすがに殻ごと入れないでほしかったかな……。
一杯10万円するらしく、それは売れるはずがないと鞠莉さんは非難を浴びていた。
次はいよいよ堕天使の涙を食べることになった。
調理風景を見ていた僕や曜さん、鞠莉さん、ダイヤさんは口に運ぶのをためらっていたが、ほかの4人は爪楊枝で堕天使の涙を刺して口に含んだ。
4人は急に黙りだし、爪楊枝を加えたまま動きを止めてしまった。
みるみるうちに顔が赤くなっていき4人は耐えられず外で悶えていた。
その横で善子ちゃんは平気でパクパクと堕天使の涙を食べていたけど、どうなってるんだろう。
辛みを感じる機能ないんじゃないかな……。
4人全員外から帰ってきたかとあたりを見渡すとルビィちゃんだけはまだ帰ってきていない様子だった。
天敵のダイヤさんは果南さんと鞠莉さんと談笑していた。
ここしかないという隙をついて僕は外へ飛び出した。
海岸のそばではドリンクを片手にまだ舌をヒリヒリさせている様子のルビィちゃんがいた。
「辛いの苦手そうだったけど大丈夫?」
「……大丈夫じゃ、ないです」
思いのほか普通に返事が返ってきたことに少し驚いたけど普通に受け答えしてくれたことがうれしかった。
「ここにいるとおねえちゃんに見つかりますよ、いざとなればルビィが大声出すだけで皆来てくれますから……」
そういってルビィちゃんは僕を離れさせようとする。確かにいつまでもここにいたら海の家にいない僕にダイヤさんが気付いて探しに来てしまうだろう。
「ルビィちゃんがそんなことしないってわかってるよ、けどダイヤさんに見つかるのはごめんだからここらへんで退散することにするよ、それじゃあまたどこかであったらよろしくね」
「会いません」
僕がルビィちゃんに背を向けて海の家に帰ろうとすると小声でそう聞こえた。
振り向くとルビィちゃんがベ―っと舌を出していた。
きっと威嚇のつもりなんだろうけど、僕にはそんなの通用しない。何度だってあきらめずに食らいついて見せる。
海の家に戻るとダイヤさんに「どこに行っていたんですの?」と聞かれたから「夜風にあたってました」と言ったらダイヤさんは素直に「そうですか」と返してくれた。なんだかんだでこの姉妹は優しいんだなと実感した。
「じゃあ僕はこの辺で」
Aqoursの皆さんに今日はありがとう、と一言もらって僕はバス停に歩き出した。
Aqoursはそのまま目の前の千歌さんの家が経営する旅館に泊まって次の日も練習するらしい。
僕も誘われはしたが、さすがに女子の塊に飛び込む勇気はなくて断った。
今日はルビィちゃんと少しは打ち解けられたかな、最初の時よりはきっとましだろう。
……でも結局ほぼ1日一緒の空間にいたのにルビィちゃんと大した話できなかったな。
せっかく二人が機会を作ってくれたのに、情けないな。
次会ったときはもっと進歩しているだろうか。
僕は天を仰いで一粒だけ、たった一粒。悔しさの涙を流した。