作:ナメクジ

1 / 2


今日は何をしようか。

 

こんな考えしかできない朝。自分が暇人なのがバレる。

 

いや、暇という訳では無い。

 

いつもなら行く場所、行かなきゃいけない場所を前日には決めて予定通りに動かなければならない。

最近は少し忙しかった気がする。

 

だが、今日は予定がない。

 

全部の案件をすませたのだ。

やりたいことをすませることができたのだ。

 

効率が死ぬほど悪く頭がガバガバな自分が、予定のない日を作れるなんて滅多にない。

 

「もしかして俺って天才?」とか言ってみちゃったりしたい。凄い言いたい。

 

でも言ったらアホの子を晒すことになる。やめた方がいいね。

 

 

 

 

 

 

そういえば。と、ふと数日前のことを思い出す。

 

やらなければいけない事が詰まり始めて、気分転換に友人のシマの家に赴いた時である。

 

その日は珍しく、朝っぱらからカラスが鳴いていて。

 

自分の家から出ると天気雨に遭遇して。

 

シマの家に行く途中、野良猫の尻尾を踏んでしまった。

 

まぁまるでその日はシマの家に行くなとでもお天道様に言われている気分だったが、自分が行きたかったので好きなように行かせてもらった。

 

 

シマは少し特殊な体質をしている。

 

日替わりで運がやべーぐらい変わる。

 

「あ、シマ今日は運いい日かな」「あ、今日はシマ運悪い日なんだな」と見てわかるほどだから正直言ってかなり面白い。

 

彼の生活には、運がめっちゃいい日と運がとことん悪い日しか存在しない。

 

だから、すぐに察しがついた。

今日はシマは運が悪い日なんだなと。

 

わかってしまえばもう、行かない手はなかった。

 

下手したらタンスの角に小指ぶつけて悶えているかもしれない。

 

少し心配だった。

 

 

 

 

尻尾を踏まれてブチ切れしている猫を適当にまいて、森の奥に建つシマの住処のドアノブを勝手に回した。

 

早朝、まだ家から出てないだろうに鍵がかかっていなかった。

 

鍵穴を覗き込んでみると、綺麗にぶっ壊れてるのがわかった。

 

運が悪い日だとこんなことまで起こるのか。

 

シマ、可哀想や…と思ったのを覚えている。

 

 

 

 

勝手に家に上がり込むと、辛気臭い顔で朝飯を済ませた食器を片付けているシマがいたっけ。

 

せっかくの美少年フェイスが少し台無しだった。

 

でも、勝手に上がり込んできたことにびっくりしてた間抜け面が面白かったからどうでもよかったんだけどね。

 

 

 

その後は、壊れた鍵を直したり飯をたかったりしたんだけれど、体調すら優れていないのか挙動不審だった。

 

身をあんじたのに対し、シマがとんでもない焦りようで俺を家から追い出したせいで飯のホットケーキを食べることが出来なかった。

 

 

…なんか思い出したら俺理不尽な扱い受けてる気がする…

 

というか、追い出されたら追い出されたで装着している義足の関節部分の調子が悪くなってしまい、1時間ほどシマの玄関前に居座って調節作業をしていたのだ。

 

ゲロゲロさん来る気配なかったし、てか来るなら俺が真っ先に察知して逃げるし。

 

鍵直すのに地味に脳みそ使ったから、甘いホットケーキ食いたかった。

 

 

 

 

今日はシマん家邪魔しようか。

 

そうと決まれば早速、と俺は軽い足取りで目的地に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじゃまっぷ、突撃隣の晩御は………ええ…(困惑)」

 

あ、ありのまま今起こったことを話すぞ。

 

真昼間なのに家のドアに鍵もかけずに昼寝をしているアホの子がおる。

 

なにが起こったのかわからないだろうが、俺にもわかんねえよハゲ。

 

いや鍵直したんだから閉めてあげて。防犯ガバガバですよ。なんとなくチャイム鳴らす前にドアノブ回したらなんの抵抗もなく開きやがった。

 

てかこんな時間から寝る?昼だよ?お昼ご飯食べないの?もしかしてこいつも今日は暇人だな?

 

それはそれでラッキーじゃん、たたき起こして遊べる。

 

でも、起こすのは可哀想だ。凄く気持ちよさそうに寝ていらっしゃる。

 

俺が突撃訪問したにも関わらず寝続ける精神力、見直したぜ。へへ。何言ってんだか

 

 

ソファでぐで〜っと惰眠を貪るシマの頭に手を置く。

わしゃ、と柔らかい髪の毛を撫でた。

 

「んー」

 

柔らかそうな頬を上げて微笑むものの、起きやしない。

 

「…かなり前からずっと思ってたんだけど」

 

高い鼻を手にすり寄せてくるのを目をそばめ見やり

 

「シマって顔がいいな」

 

今まで思っていたことを吐き出した。

 

 

病み付きになりそうなふわふわの髪の毛をいじりながら、シマを観察する。

 

「可愛い…んだよなぁ、やらかい…シャンプー何使ってんだろ…てか俺も髪の毛の色黒以外が良かった羨ましい、綺麗だ」

 

そう、シマは可愛い。

 

女子力高い顔してる。髪の毛めっちゃやらかいし。正直キスしたい。アホか。

可愛くて綺麗で優しいけど、この前俺からホットケーキの時間奪った罪は重い。

 

そうだ、昼ごはんどうしよう。

 

「あ」

 

いいことを思いついた。

 

勝手に作ってしまおう、ここのキッチンを借りて。

 

最後にくしゃくしゃっとシマを乱暴に撫で、毛布を肩までかけておく。

 

昼飯を作った後でたたき起こすところまで想像出来ている。ビジョンは完璧だった。

 

 

 

「作るのは…も ち ろ ん 」

 

ジャーン(ジャーン)

 

「リバイバル!ホ ッ ト ケ ー キ」

 

またホットケーキである

 

俺は食えなかったけど、シマは数日前に既に食事済みであろうこの料理。

 

ホットケーキミックスがまだ余っていたので、使ってしまおうという魂胆だった。

 

他人の家に勝手にあがりこんで勝手に材料使って勝手に料理するゴミとか言われそう。

 

でも、シマとの仲なら大丈夫。

 

またホットケーキ食わしてやろう。新手のいじめな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シマぁぁーーー」

 

「んぅ、」

 

「しーーまーーーー」

 

「んー」

 

ホットケーキ作るの、余裕で終わりました。

 

混ぜて焼くだけのせいで死ぬほど早く終わった。

 

シマと一緒に昼飯食べたいから、焼きたてのホットケーキが冷めないうちに早く起こさなければいけない。

 

「おきねぇぇぇぇぇぇぇ」

 

だがシマ、全く起きないのである。

 

揺さぶっても叩いても声を大きくしても全然起きてくれない。

 

「気持ちよさそうな顔して寝やがって…」

 

顔を綻ばせながら花が出てきそうなほのぼのオーラで寝続けるシマ。

あ、僕も眠くなってきた…

 

まずい、やばい。ダメダメ。飯食うんだよ一緒に。

俺の「またまたホットケーキ嫌がらせ」の意味がなくなる。

 

 

「シマ」

 

大声と揺さぶりで無理なら、耳元で騒音を出すか痛みで起こさせる方が効率がいい。

 

 

「起きなきゃアイアンクローだぞ、本当に起きないの」

 

できる限り耳の近くで喋る。最後の通告だった。

寝てるシマの眉間が少しだけ寄る。

だが、目が開くまでは行かなかった。

 

「この手は、使いたくなかった…(悲哀のテーマ)」

 

シマの頭に置いた手を、するりと下にずらしてこめかみに指が当たるようにする。

 

 

そして、思いっきり指に力を込めた。

 

 

「!?、!?!?????っい!!だだだだだだだだだいたいたいたいたい」

 

「ミッションコンプリート」

 

途端に響く絶叫。

 

一気に覚醒した涙目のシマが、抵抗しようと俺の腕を掴んで離そうとしてくる。

 

その分指に力を入れる。

 

「ちょっと!!!!強くなってるんだけど!!!いったぁぁぁぁぁぁ」

 

「ごめん反応面白くてやめられない」

 

「さいてー!!!もーーーいいから!!やめてやめてなんでここにいるのちょっっ痛い!!」

 

 

シマに渾身の力で手を横に叩かれ退かされた。

 

腕でシマに体重をかけていたので、支えがなくなり前に倒れ込みそうになる。

 

瞬発力を極振りした自分の腕が、シマの頭のすぐ横に手をついて身体を受け止めた。

 

ナイス(自画自賛)

 

 

 

「…」

 

「…あ、ごめん」

 

今気付いた。シマと凄く顔が近い。

 

マジでキスする5秒か3秒前くらい

 

視界いっぱいに広がる造形の良い顔面の唇が気になってしょうがなくなった。

 

シマは先程の喧しさと打って変わってうんともすんともいわない。というか固まってる。

 

目と目が合う。

 

いや、瞬きくらいしろよ。

 

そんなビックリしたのか。

 

 

つい出来心で、余っていた片方の手をシマの頬に添えた。

 

「ほっぇ」

 

相手の肩がビクリとはねた。

 

 

 

これキスできるやつだ、と思うやいなや、さっさと顔を寄せる。

 

 

 

 

みゅ、とリップ音もなく抵抗ロールすらしないシマと唇を重ね

 

 

数秒

 

 

 

 

 

「目覚めのアイアンクローから目覚めのキスになったな、ご機嫌いかが」

 

沈黙を破ってムードもへったくれもなく喋る。

 

「シマが無防備だったのが悪いかんな、嫌だったら抵抗くらいしてね」

 

キスしてからの羞恥心がとてつもなく辛い。

顔が赤くなるのを無理やり抑えて、硬直したままのシマにしたり顔を向けた。

 

 

 

 

直後腹を思い切りドツかれ、昼飯のウマを話しても顔を合わせてもらえなかった。

 

 

ホットケーキの味は、よくわからなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告