力を得てしまって、でもこれ以上失わないため戦う少女たち
けれど彼らの運命はあまりに残酷で
これは救いなんてない物語。
過去から未来に繋げる物語。
─────好きな子がいた。その子はとてもお節介焼きで、明るくて眩しい笑顔の子だった。
特に、ある二人の友達といる時の彼女はとても輝いていた。そしてそんな彼女に俺は恋してた。
──勿論いつかこの思いを伝えたいと考えていたけれど、その方面に対しヘタレな自分は言い訳をつけては逃げていた。でもいつしか彼女はそんなことしていいような立場でなくなって────────────俺は彼女の死を知った。
それは楽しかった遠足が終わったその翌日のことだった。
それは朝唐突に先生から切り出された。
「──突然ですが、みなさんのクラスメイトであった三ノ輪銀さんは立派にお役目を果たし、そして神樹様の元へ逝きました」
それはただ淡々と機械的にも思えるような口ぶりで言われた。それ故に感情を殺しているのだろうと容易に誰もが推察できた。
そしてそれは教室において、彼女の親友二人の様子から、『もしかしたら』を察しつつも、ただいつものようにただ遅刻してるだけ、と
その『もしかしたら』信じたくなかったクラスメイトたちの希望は呆気なく砕かれた。
──その事実に泣くもの
──涙を流さずともその死を悔やむもの
──突然過ぎて思考が回らないもの
それらは、尊いとたった今わかった当たり前だったものが2度と戻らないという事実が彼らを悲しませているに過ぎない。
だが、違う者たちがいる。
散々泣いたであろう二人は己の無力さに。
そしてその原因を間接的ではあるが、作ってしまったと確信してしまった一人。
そこから記憶に在るのはその後日の葬儀にて彼女の弟がさけんでいたのと、その丁度すぐ後壇上に立っていた彼女の親友たちが突然居なくなっていた事だけだった。
先生言ってたっけ、彼女たちはお役目を果たすため唐突に居なくなるからあまり動揺しないで、と思い出した。
────────そして今更のように思った。
───俺はなんて酷なことを名誉だの、立派だのと言って彼女たちにやらせていた。た命の危険があるのは分かっていたはずなのに。分かっていながら彼女たちが命懸けで守った平穏に俺は逃げ、当たり前のように甘受してる。出来たとしても謝罪。当たり前だがそれはきっと無意味な─────
─────────────────────
全く記憶に残ることがなくなるほど慣れてしまった帰路を経て家に帰ると最近は見慣れなくなった車が家の駐車場に止まっていた。あの車は大赦のだ。
何かただ事ではないのは察しがついてたし、理由が次の勇者候補を探してるのでもない確実だ。
確かにウチは大赦に名を連ねる名家で、勇者の武器を代々研究、製造してきた。さらに、初代勇者の家系で非公式ではあるが勇者の血も引いてもいるが大赦においてはそれほど発言力はなく、更に家は女の子供は居ない。それに俺自身は分家から来たとはいえ養子である。それに財力だって乃木や上里の家とは比較にもならないのだ。では何故きたのか、
実は大赦が用があったのはやはり俺だったらしい。そしてその覚悟はしていた。
ランドセルも置くまもなく、何ヶ月前と同じようにリビングで同じ話を聞いた。頭を下げてはいるが、大赦は俺がもう断れないのを承知で来ているのもわかった。
話は予想してた通りの内容だった。
「───、西暦においてもそれで様々な問題が起きました。しかも、──────で、西暦が終わり約三百年、術式そのものも劣化してしまっているのです。────────です。しかし貴方様が協力して下されば、そのリスクを減らせるかもしれません」
二回目の説明。聞き飽きてたし、そのリスクが何なのかは経験したから知っていた。
そして再び貴方「様」呼びだった事に未だ慣れてる事に気付いていながら、リスクがあるのにも関わら今回はyesと即答した士郎自身を客観的にどこか違和感を抱きつつあえて、それ無視した続けた。
大赦本部にて士郎はそのプロトタイプについて改めて説明を聞かされた。とっととやらせろ。
プロトタイプとは、本来人類を救うためのとある術式を型落ちさせ儀式用にアレンジされていたものを更に改良して特殊な礼装を用いて扱うというもので、そして勇者システムはそれが基盤となっている、なんてのはよく知っているから。
この数ヶ月も前の説明の台本をまんま読んでる、意図的に感情を殺した人形みたいな説明はいつ聞いても嫌いだ。
前回と違うのは、今回の儀式は失敗できず、皮肉なことに前回の儀式より成功率は高いという事だった。
時は流れて深夜帯。
俺は再び渡された弓持ってる女性が描かれたカードを持ちながら言われた通りの位置に立たされていた。
それは奇妙な光景だった。魔法陣の丁度真ん中に立たされている少年1人を囲むように仮面フードな複数人の大人達が薄暗い、しかしそうであるが故に神秘の濃いこの密室で草木も眠る丑三つ時──程ではないが小さい子なら確実に寝てるような刻。少年、否魔法陣の中心に手をかざし呪文を唱え始めると同時に何とか適合した『刻印』を起動させる。
───閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
────────セット
───────────────────── ─────────────────────
─────────────告げる。
─────告げる。
汝の身は彼の下に、我らが命運は汝の剣に。
神樹の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
(やっぱなれないな、コレ、自分の中の何かがどこかへ繋がって行くような感じ─────)
────汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手─────
そして最期の一節は被召喚者が。
────────
刻印が反応し、身体が宙に浮くような、脳が頭の中で高速回転してるような、いや逆に世界が自分中心に回転してるような、頭にとても重い重りを乗っけられたような、足が上に引っ張られるようなそんな訳の分からない感覚────────ッ!
そして視界は暗転する。
目を開けるとそこは剣の丘。歯車の浮かぶ空。
数多の剣が地に突き刺さっている。鞘に収まっているように───いいや、これはまるで戦うためでなく墓標の代わりような──────
────「ここに来客とは珍しいな」──!?
男がいた、浅黒い肌に白髪で黒いプロテクターの上に赤い外套を身につけている男が。
そして感慨深いような声音で口を開く。
「こんな縁もゆかりも無さそうな子が───いやないことはなさそうだが、『この場所』に直接繋がるとはな。余程高位な『ナニカ』の後押しを受けているように見える。だが───」
「・・・・」
「・・・・前にもこうなったことがあるな?
信じ難いことだが、その目を見れば分かる」
包み隠さず説明した。自分のこと、大赦のこと、世界のこと、そして自身がここに来ることになった要因と過程を。
「なるほど。そのような召喚を行おうとしていたのか。サーヴァントを、幾ら血の繋がりがあるとはいえで身体的にかなり近いとはいえ子どもに降ろそうとするとな。しかも、本人が本気で騙されたわけでもなく自分の意思で」
やはりそんな目で見るか・・・この人が『座』に至るまでの過程を考えると。
「取り敢えず君の名を教えてはくれないか?
君、というのは些か呼びすづらいのでな」
「高嶋士郎」
「──────」
その瞬間、男の顔において冷静さはそれによって塗り潰された。
それは驚きのようで、それは嘆きのようで、
それは諦めのようで、それは憐憫のようで、
それは悔恨のようで、それは呆れのようで、
だがそれ故にその全てでは表しきれないものだった。そして厳しい口調で、
「・・・そうか。改めて高嶋士郎、忠告しておくとだなその大赦とやらのやろうとしてることは私の力を、つまり英霊そのものを君の身体に降ろすということだ。人を超えた存在を人の身に降ろそうとしているからにはそれなりの準備はしているだろうし、力が定着するという事は『視』てわかっているがね、いやむしろ定着出来てしまうと分かっているから断言するが、そのせいでこの力を使いすぎると君は私、いや正確には私という英霊に侵食されきっていずれ
『高嶋士郎』という人間は死ぬ。無論知ってて来たということは勿論覚悟はあるのだろうな?」
と忠告してきた。成功しても結果が出るかは知らんがななんて続けて。
──ああ、知ってるよ。
──当たり前だ。前はそれで逃げたから。
──そして逃げてしまったから、ここにいる。
だから後ろに下がるわけにはいかなかった。
覚悟を問われているのだ。
力を貸すに値するが問われているのだ。
ここにいれるのも短時間。
まどろっこしい御託はいらない。
故に思いの丈全部ぶちまけた。
自身の罪を悔やみ自身を殺したい衝動に耐えながら。
これからは目を背けちゃいけない、直視しなくてはならない。今まで散々逃げて、間接的にとはいえ結果的には殺してしまった彼女のためにもその犠牲に報いるためにも、自分がどうなるか分からないけどこの儀式のリスクは甘んじて受け入れなくては。だってこれは俺の自業自得。
でもこんな自分でもまだやらなければならないことがあるって、そう自身に言い聞かせて。
そうだ、俺は─────────────
俺は憧れた。忘れてはいけないとも思った。
凄惨で、痛々しくて。けれども自身の大切なものを守るため決して折れることのなかった、とても気高いその姿に。
それは消えてはくれない。
彼女を失い泣く人々の顔が、嘆きが、慟哭が。人の命の脆さが。今の平穏の裏でどれほどの悲劇があったことが。それはもう頭にこびりついて離れない。それを忘れられない。
だから願った。もう誰もがこんな目あって欲しくないと。こんなふざけた運命を覆してくれる何かを。
男はただ忌々しそうに俺の顔を見つめるだけ。そして何を言っても聞かないと悟ったかのように。苦々しい顔をして。
その
まるで未来を見てきたような声音だった。
しかし忠告は既に無意味。
なぜなら高嶋士郎がここまで辿り付けたということはもう彼が拒否しても英霊の力は既にもう少年にある程度転写されている。そもそもここは高次の領域。新樹の加護があるとはいえ、この場に繋がれる程の縁があれば問答無用で染み込まれる。そしていずれ溶かされる。
塩が海水に溶けるのように。
士郎の本来の目的は果たされているから。
もう強制退去の時間だ。士郎の体から光の粒子が溢れ、体は透け始める。
「もう私のまだまだ言いたいことはまだまだあるが、もう時間のようだな。最後に1つアドバイスだ。お前は自分のために生きると手段はもう無理だろう」
的確なものだった。そしてこう続けた。
「他者に生きる理由を見つけろ。これが出来れば私より少しはマシになるだろうよ」
士郎の考えについて怒ってるような感じだったけど、少しでもマシになるようにと世話を焼いてくれた。それだけで少し安心する。そんなことを思いながら。
視界はまた暗転する。
空は曇っていた。荒野と言うべき場所に黒いっぽく汚れたものが、転がっている。自身の足元まで。赤黒い色をしていて、鉄の匂い鼻腔にまで達する。この光景は───────────
───、─きろ!お─ろ、そ─はお──じゃ─
い─、─れるな、目を覚ませ!
声が聞こえた。酷く遠い。
誰かが「だれか」を呼んでいる。
けれど今、その五感はこの景色に、別の五感に支配されてる。
名も無き者は地獄を見せられている。
それは残酷な行為なのに、主観的ながらとても流れ作業のようで。
ただやりたくない、見たくない。
そんな光景が延々と続く。
人を殺した。
兵士を殺した。
子どもを殺した。
その母親を殺した。
老人を殺した。
義憤で立ち上がる人を殺した。
家族を守ろうとする父親を殺した。
友の復讐を果たそうとした女を殺した
何も知らない赤子を殺した。
救いを信じる人々を虐殺した。
明日を願う人々を皆殺しした。
─皆、被害者だった者達。
いつか加害者になるであろう者達。
いづれ加害者を生むであろう達者。
けれど彼らに何も罪はなかった。ただ、誰もが同じように幸せになれないように、そこから爪弾きされてしまっただけ。
それらを殺しに殺して。世界何度も救って。
そして失い続けていつしかその心は伽藍堂。
───ああ、こんなハズじゃなかったのに──
───彼らこそ救いたかったのに──────
そんな嘆きは届かず、そして今も─────
────これはなんだ、誰の記憶だ────
全く知らない声が聞こえる。男とも女とも子供とも老人とも分からない声が。
「その生き方は、考えは歪だ。君はただ罪悪感に突き動かされてるだけに過ぎない。そうせねば、そうしなくてはと強迫観念に突き動かされてるだけなんだ。恐いけれど好きだった女の犠牲を無駄にしてはならないとそれらしい理由を付けて自ら死を選ぶその姿がまさにそれだ。犠牲になった者のためと言いながら、君自身には助けになりたいという感情はない。だってあるのはそうしなくてはならないという罪悪感だけなのだから。だからそれは偽善だよ。破滅への直行便だ。いずれ守りたかったものまで君は壊してしまうだろう─────彼のように。」
何も言い返せない。寧ろ納得してしまった。
彼女の死があって、今ここに俺はいる。
逃げた後悔からここにいる。
血塗れになりながら戦う彼女の姿に尊さを感じたのもある。
だがそこに1番に感じたのは───────
─────死への憧れ。こうやって償いとして誰かのために戦って死にたい。
まさに偽善そのもの。
そんな自分が彼女が命張って守ったものに役立とうなど。偽善ではないか?
こうやってリスクを犯してまで儀式をしてるのことでその証左では?
自身が───偽りの仮面が剥がれて、
ただいまをもって『高嶋士郎』の意味は失われた─────────けれど。
また。赤い光───否、赤い花が見えた。
見間違いではない。それは何度も瞬く。
とても明るい、暖かい赤だ。さっきまで見てた血のそれとは似てはいても全く違う。
その赤は希望を齎す。
意識が鮮明になる。
───確か・・・、あれは牡丹の花だ───
力強い声が頭に響く。不思議と不快感はない。
──意義も意味も見い出せないなら、気に食わないけどくれてやる。命賭してあたしの友達をテメェが守れ!あたしの死を理由にする死にたがってたんだろ、だったらあたしの願いのために生きろ!
───────高嶋士郎!───────
目頭が熱くて頬に暖かいものが。
今ここにいるへこたれそうだった死にたがり─否、高嶋士郎─に喝を入れてくれた誰かは。
そして理由をくれた誰かは。
救いをもたらしたその子は。
赤い花弁散らしながらとなって士郎を導いていく。
心に願いを刻みながら。
暗闇の中、真っ白な光に向かって。
意識なんて失っていなかった、そんな感覚と共に意識が戻る。最初に目に映るのは病院の白い天井、ではなくまだくらい儀式所の天井だった。周りに変化はない。
あれほどの出来事が刹那の間に終わったということに驚いたし夢のようだった。けれど、頬を伝っていたものは本物のようだ。
いきなり脱力感に襲われ、膝を着いてしまう。いや、今はそんなことはいい。
顔を拭わぎながら、淵が緑のフードの中から仮面に前髪がかかってる人を探そうとしたけれど、何を言えばいいのか分からない。
しばらく迷ってるうちに仮面フードのスタッフに結果を伝えられた。
結論から言うと儀式における目的は達成できた。『人知を超えたもの』を人の身に降ろした際のデータは採れた。
しかし、勿論代償もあった。思っていたより
故に大赦としてはあまり戦ってほしくない、というのが本音のようだ。現状、士郎の代わりたり得る者はほとんどいない。
確かに、座からの使者であり人類の総合無意識に属するものである
しかし、それだけではないはずなのだ。もし、もしもだ。勇者全員が人類に反旗を翻した際、彼女たちを止めることの出来る数少ない切り札となり得るのがこの力だ。勇者と一緒に戦わせてしまってはいざという時、情が移ってしまうかもしれないし、手の内を知られてしまっては切り札足りえない。前半は既に手遅れだが。
色々質問に疲労に耐えながら答えてると、気が抜けてきた。質問が終わると仮眠室に案内された。ベッド周り明らかに自分を観測し続ける精密機器ばかりだが。
寝かせる気あるんですかねぇ?
今すぐベッドで眠りたい。時計の短針は右斜め下ある。あまりのことがありすぎて、すごく眠い。そのまま吸い込まれるようにベッドへ─
朝から軽い能力測定。戦わせたくないのでは?
とか思ったが、激しいことはせず学校でやるようなやつだから支障をきたすことは無いようだ。後、変身プロセスを見たいそうだが、勇者も似たようなことできるだろ、なんて反論してみたら、君のそれは勇者とは違う、と返されてしまった。
彼の力がこの身体に宿ってから妙なルーティンが染み付いている。ただ思いつくようにとある呪文を唱える。撃鉄を上げるように。
魔術回路が活性化していく。
頭から足までカーテンが降りてくような。
そしてデータ取りをこなしてく。
残念ながら霊装は顕現できなかった。
そんなこんなでデータ収集は着々と進んでった。
致命的な見落としを忘れてることに気づかずに。大赦が隠してることに気づかずに。
何日か時間が経って、『切り札』改め
『満開』が勇者アプリに実装され、彼女たちの手にアップデートされたスマートフォン渡されたことを大赦から聞いた。
役目は終わった。──公的なものは。
後は、彼女から言い渡されたこと─割とざっくりしてるが─を果たすくらいだ。
けれど、守るとはどういうことか。
彼女たちは勇者だ。まずこの勇者を敬う教育が行き届いてるこの四国において人的トラブルがあるとは考え辛い。となると対バーテックスくらいしか思いつかない。
しかし『満開』を手に入れた彼女たちが苦戦するとは士郎は思えない。少なくとも今は。
彼女たちを監視すれば良いのだろうか、
いやこの行為は逆に彼女たちに害にならないだろうか。嫌でも何もしないわけには───
そんな堂々めぐりな思案でハロウィンは過ぎてく。
ふと、思考が停止する感じがした─否、時間が、世界が停止した。まるで、写真の中に入ったような。
しかし、何故か意識はある。止まる瞬間、
自身の内部─物理的なものでなく、精神的なもの─で何かが停止させる何かを弾いたようだった。防水加工された紙が水を弾くような。
思考はできる。周りを知覚できる。件のカードもある。しかし体が動かない─いや、動かすには魔術回路を起動する必要がありそうだが、こんな状況で集中できるか不安なのだ。自身の未熟さにため息が出そうになる。
この状況は恐らくバーテックスが来たという事だ。覚悟してると。
海の方の空が、星空のようになっていて。
視界を埋め尽くすくらいの花びらが舞って。
───────そして世界は塗りつぶされる。
そこは神域。故に幻想的。そして複雑怪奇。
巨大な根がうねるように中心部から外縁部まで、うねるように伸びている。まるでたくさんの大蛇が重なり合ってるような乱雑さで。
『樹海化』
それはバーテックスが攻めてきた際、
現実にできるだけ影響を出さないように神樹様が用意する─負けると人類滅亡のお知らせな─終わらない決戦の舞台。
──そしてかつて三ノ輪銀が死んだ大橋。
過去この空間に入った男は自分以外いないだろう─そんな感傷に浸ってると、自身の異変に気付く。
身体は動く。
しかし身体が透けている。自らの存在がかけてるような、薄まってるような。召喚の時とは違う違和感。
どうしたものかと思ってると。
青と紫の光
そして爆発音。
勇者たちの戦いが始まってたらしい。
勇者二人に対して、バーテックスは三体。
彼女たちにはある意味因縁のある布陣だ。
戦闘は苛烈を極め、爆発音が何度も自身の腹まで響く。しかしこれらは勇者の攻撃によるもの。アップデートされたことにより彼女たちは二人だけでもバーテックスを圧倒しているようでそしてついに、『満開』が発動する────
────────まて、何かおかしい!
システム上、あれは『英霊』をその身に降霊させる『切り札』の発展系。
なのになんで。
その降ろされているハズの『英霊』の片鱗が見られないのか。
そもそもアレは、人の手によって造られたものなのか定かでないあの霊装らしき外装は。
戦艦を思わせるような造形をしている。
戦艦に関する英霊なのか────いや、違う。
その手の英霊は基本西洋系の造形が見られるはずなのだ。なのにアレは明らかに和服───
───まるで生贄に今からされる巫女のそれ。
つまり今彼女たちの身体に在るのは────
士郎の不安とは裏腹に彼女たちはバーテックスを圧倒していく。
そうこうしてるうちに制限時間。
予感は的中。異変は起きる。
バーテックスを2体屠ったところで満開が解けた。糸が切れた人形のように抜けたように彼女たちは地に落ちる。
遠くから見る第三者から見れば最も異変に気付きやすいのは、鷲尾須美のものだった。
まず彼女は背中から落ちた。着地は乃木園子とは違いできなかったようだ。仰向けで上体だけ起こして、すぐ目線の高さを戻す。
だが、自らの脚で立っていない。
後ろに結ってある髪のリボンが伸び、代わりに彼女の姿勢を支えている。本来その役割を果たすはずものはただの飾りのようにフラフラ揺れていた。
乃木園子のそれは遠目からはよく分からないが、彼女の手を顔に伸ばしている仕草から察するに彼女にも何かが起きている。
自身も似たようなことがにあったが、すぐに動くようになった、違うのは個人差なだけだ、すぐ治る、なんて願望の混じった推測という名の言い訳を、飲み込んで
──今すぐ行かねば。
そう思う前にすでに魔術回路を起動して自らの『存在』を確かなものにする。そのまま脚に『強化』を施し、一気に加速した。
行って何をするか、何が出来るかすらも分からずに──────
レオバーテックスは他のバーテックスとは格が違う。能力からして、天の神の劣化版と言うべきだろう。その炎の魔力は外のそれと───
燃えている星屑はいるだけで樹海を侵食していく。侵食は現実世界にまで影響を及ぼす。
勇者たちはより早くこれらを殲滅しなくてはならない。しかし、通常時でも厳しいような戦いなのにさっきまで動いていた身体が機能不全を起こしているのだ、だんだんガードするだけで精一杯になっていき。追い詰められて。
満開した。
そこにどんな思いがあったのか。
きっと使命感なのだろう。
満開してからも戦況が逆転することは無かった。やや有利に持っていけたぐらい。
燃えている星屑たちを次々殲滅していく。
数の暴力を身に纏う神威で撃滅していく。
人に、神樹に仇なす災厄を撲滅していく。
けれどその役目は大人でも、男でもなくて、
ただの少女たちが担う。故にその力の代償も─
レオバーテックスの最大の攻撃が放たれる。
前方中心部に超高密度にまで圧縮されたエネルギーがたまっていく──まるで太陽──放たれる。周囲の神樹の根が消し飛ぶ。
勇者たちは、乃木園子が鷲尾須美を庇い満開が解け、また地に落ちた。
満開の続いてる彼女は相手の破壊力にどうやら戦慄しているが、すぐに構え直し、攻撃を、再開する。しかし今度もまた燃えている星屑を召喚し、数の暴力に訴えかけてきている。
しかし勇者とてやられっぱなしではない。
乃木園子はすぐ前線復帰し、空中で敵を舞うように両手を添えてるが片手で持ってる槍を振り回して敵を落とし、攻撃中の戦艦に着地した。
二人で何か話し合っているが、レオバーテックスが、先程同様の太陽じみたエネルギー弾を放ってくる。アレは勇者ではなくこの世界を破壊するために放っている。勇者に当たらなくても彼らの目的には近づけるという、明らかに理不尽な性能を誇る一撃。
対して、勇者。樹海に着弾すれば、現実世界にさらに被害が出る。かといって、受け止めれば満開は解かれる。
ならば、取る手段はたったひとつ─────
────真正面より全力全霊の相殺のみ!
戦艦前方に彼女のフルパワーのエネルギーを集中させる。
それはまるで相手のそれに対する蒼炎纏いし青き太陽。
人類の敵と人類の守護者。
今、両者の最大の一撃がぶつかる─────
結果として、相殺はできたものの、余波で先程の一撃で壊れかけだった大橋が破壊され、跡形もなく吹っ飛んだ。そして満開が解かれた。
対して、レオバーテックスは一切無傷。
鷲尾須美と乃木園子が話したあと。
青は落ち、紫が神樹よりまた力を授かる。
───ダメだ、使うな!
声は届かない。
士郎は走っているが余りの距離で届かない。
そして紫の流星が敵を外縁部まで轢き飛ばす。のと、同じくらいの時に士郎は鷲尾の元に辿り着く。そして、
「解析、開始」
いきなり女性の身体を調べるのはあれだが、状況が状況なのでなりふり構ってられなかった。肉体には異常なし。
「大丈夫か!最後の一体は乃木が倒した。だかr」
だが、この言葉のあとに続けるべき言葉を、あるいは続けたい言葉を、士郎は失った。
質問より答え─士郎の知りたいえる、質問の答えになってない返事が帰ってきた。
「───っ!ここばどこ?あ、あなたはだれなの?!」
目を覚ました第一声がこれだった。
士郎と須美らは同学年であってもクラスが違う。知らないというのも無理のない話だった。
まだこれだけならば。まだこれだけであったならば、彼はまだちょっと家族関係が複雑だがそれでも現実的に人として有り得る1人の少年、であれた。
しかし続く言葉は彼に一生消えない傷を残す。
「銀はどこ?!ねぇ、銀はどこに行ったのよ!?訳がわからない、どこなのよここ!さっきまで銀と一緒だったのに?!」
─────三ノ、輪?だと、あいつはしんだじゃないか、なにをいっているんだ?
そこまでだった。ようやく現実が嫌でも頭に叩きつけられた。そして全て理解した。
『満開』とは神樹のごく一部をその身に下ろし、擬似的な神性を得てその神威を振るうもの。だが、たかが人間の身体、少女の肉体ではその神威に耐えられない。
だから身体の一部を霊的に──人は身体、魂、精神の三要素で出来ている──生贄として捧げることでその部分を神樹の力を通す使い捨てパーツとして使う。なので、筋肉が正常だろうと細胞が正常だろうと──魂か精神がかけているのならば──関係なくその部位は使えなくなり神の一部となる。神には動くことも見ることも聞くことも必要ないのだから。
これが解析結果から推定される『満開』の仕組み。
鷲尾須美は脳の一部の機能を持ってかれた結果、記憶が蝕まれたのだろう。文字通りに。
ガンッ!
音がして真上に細長い棒が─いや、槍が伸びていて。
「わっーしーー、大変なんだよ!、外がね、たくさんのバーテッ・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・しましろーくん?!」
乃木園子が戻ってきた。彼女は片腕を既に持ってかれてるようだ。
「えっ、なっ、なんで勇者でもないのにしましろーくんがいるの!?というかここ危険だからはや「誰・・・ですか?銀はどこ?」えっ・・
・・わっしー?何、いってる・・の?」
彼女は最初何が起きたかは分からなかったが、すぐに全ての事情を察した。そして、
「貴方ならわかりますか!?銀、私の友人がいないんです!わた、あれ私の名前って、何!?そんな私は気づいたらここにいて脚が動かなくてもうどうし「大丈夫、わっしー」えっ──」
「大丈夫だよ、後は私がなんとかする。私は乃木園子、あなたは鷲尾須美、あの子は三ノ輪銀。3人は友達だよ、ずっともだよ。私は死なないから、後でまた会えるから、だからちょっと行ってくるね」
リボンを結びながら。
「あとしましろーくん、君が何故ここにいるかは分からないけど、今はわっしーを安全な所まで運んでね。お願いだよ?」
そう言って彼女はリボンを友人の腕に結び終え行った。再生した12体のバーテックスに向かって。俺はただの見送ることしか出来なかった。
乃木園子は、普段は抜けてるような感じだが、その実とても聡明なのだ。
先のお願いだってそう。
『わっしーを安全な所まで運んで』
これはきっと俺を気遣ってのものだろう。
彼女は死なないと言った。もう気づいてるのだろう。満開の仕組みを、そしてそれは親友の鷲尾須美にも言えることでもあると。
だからこれは暗に逃げろ、と言ってるのだ。邪魔だからとか、足でまといにとかいう理由じゃない。ただの傷ついて欲しくないのだろう。
勇者である彼女にとって高嶋士郎は隣のクラスの顔見知りでただ守るべき存在なのだから。
その優しさが、気高さが。
士郎を苦しめる。
彼女たちの不幸は、自分が─遠縁とはいえ─原因であるのだから。
だが、それに今更気づいたところでなんなのだ。
自分には何も出来ない。ならせめて足でまといにならないようにまた気を失った鷲尾を運び、戦場から離れるだけ─その決意が運命を決めた。
士郎と勇者たちの大きな違いは性別でも魔術回路でもない。今勇者たちは身体の一部を神樹に捧げ、その部位は文字通り、
『神樹の
まだ人よりではあるが神性は確かにある。
バーテックスは人のみを襲う。優先的に。
さて、この結界内で最も人間なのは───?
既にバーテックス12体のうち、9体が倒されていた。
花が散ったのは13回。そして今も満開し、
散ろうとしている。
園子は違和感─身体のことでなく─を覚えていた。
(なんで、こんなに戦いやすくなっていっているの?最初あんなに嫌なコンビネーションを使ってきたのに、途中から連携がズレるようになってる?)
園子の疑惑通り確かにバーテックスたちのは戦いに集中できていなくなっていた。
確かに勇者より内側にバーテックスがいれば、間違いなく奴らは勇者を無視して神樹へ向かう。神樹には1体でも辿り着くのが目的なのだから。
そして今回。結界が戦闘で緩み大量に結界内に大量に侵入できた今、何体かが足止め役をやれば、園子はさらに満開していたであろうし、また神樹は破壊されていたかもしれない。
それなのに途中から足止めもせず、いきなり中心部へ、園子に背を向け始めたのだ。
現に、それから満開のスパンが長くなっている上、攻撃で解除されることも少なくなった。
しかし、園子は楽観視はできなかった。
神樹に向かうということは、先程逃げろと言った彼の所にも向かうということ。
彼女はバーテックスを背後から奇襲しつつ、
中心部へ向かう。
その精神状態は最悪だ。
自身を優先した結果好きな女の子が死に、自身を優先しなかったら、好きな女の子の友達をさらに傷つけた。
そんなとき、ましてや1人の女の子を抱えているのだ。
注意力なんてあってないようなもの。
────だから気づけなかった。後からの敵なんて。
蠍の尾が、弓の矢が、火球が、そのすべてが等しく自身の命を狙っていることに。
ガギィンッ!!
ビクッとして後ろを振り向く。
視界に飛び込んできたのは、
すぐそこに敵がいて、乃木がその攻撃を庇って満開が解けている光景だった。
────────あ。
満開が解けて乃木が自身の後ろ吹っ飛ばされる。バリアがあるため無傷に近いが、まともに食らったので空中で何回転もして落ちた。そして士郎も鷲尾を抱えたまま余波に巻き込まれ吹っ飛ばされる。
「ぐっ──、逃げてしましろーくん!」
後ろで声がする。
彼女は叫びながら無理矢理身体を起こそうとするが、身体の代わりが彼女の焦りと連動してるのか上手く起き上がれない。当たり前だ。彼女は既に身体の大半を捧げてしまっている。勿論両足も。
それでも彼女は彼を守ろうと足掻き続ける。
もう何も失うものか。そう決意したから。
────やめてくれ、お前らが苦しんでるのも全部俺のせいなんだ、だなんて考えが次々浮かぶが、それらか口に出ることは無かった。
だって、目の前には無数の死が迫っていたから。
ああ、ここで死ぬのか。
湧き上がる感情はそんなちっぽけなもの
たくさんの後悔が走馬灯みたいに頭に浮かぶ。
自分は死ぬ。守ると誓った──いや、そもそも1ヶ月も前までは逃げて一般の生活してた奴がそう思うこと自体おこがましい。また俺は足を引っ張っちまった─────ああ、そうだこれは罰なんだ。ここまでやらかしてきたことへの。今まで生きてきたことへの。だから──
『あたしの願いのために、生きろ!』
───俺は生きなければ。
頭にハンマーで釘を打たれたような感覚。
頭から足の先まで、自身の意思とか、本能とか、理性が全て一本化されたような。
彼女の願いを果たすため生きる。
その為だけに今思考は優先されている。
集中力は一瞬で過去最高のものへ。
魔術回路は普段ではありえぬ速さで。
「
「しましろーくんッ!」
園子の悲鳴が聞こえた。
しかし。
彼女の恐れたした事態にはなっていない。
どころか何が起こったか分からず、目の前で起きたことに呆然とする。
無数の矢は全て周囲に散乱してて、彼に刺さったと思ったあの忌まわしい尾は中ほどのあたりで切断されている。
誰が切ったか。
そんなのすぐに分かった。
「み、みの、さん?」
死んだと。そう思った彼は。
姿、というより衣装が違っていた。
まるであの赤い勇者のように。
左腕だけ着けてる赤い外套に、腰から着けてるマント─左は赤く、右は黒く若干もう片方より長い─の中から覗くベルトの多いズボンに金属パーツの目立つ姿。髪は半分─オールなのに─オールバックになって赤いバンダナを着けていた。そしてその振り抜いた両手には、そして蠍の尾を断った白と黒の夫婦────────
──ではなく。
それはかつての親友の懐かしい斧剣。
最後に見たそれは、ひび割れ欠けていた。なのに、それはまるで新品のよう。
勇者よ。神樹よ。
刮目するがいい。
─今此処に霊長の守護者が再臨した。
錬鉄の
今の彼を例えるなら、
『ブレーキの壊れたガタガタの自転車で整備されていない山道を駆け下りているようなもの』
と形容出来るだろう。
そもそもカードを使わず、無理矢理英霊をその身に降ろせたのは幾つか無理矢理な要因があるということ。
ここが神秘溢れる樹海であること。
以前にも同じことをカード込みでやった事。
そして想い人の幻影による
受け継いだ魔術刻印の機能。
4つが合わさった結果生まれた偶然。正規の方法に比べ、リスクが高いのは当然。しかしそういう時に限り人の集中力は極限まで高まるのも必然。
だから結果は歴然としていた。
サーヴァント、と定義し直された彼の肉体は止まらない。
飛んでくる無数の矢は致命傷以外躱し、跳ね返ってきた中で避けられないのはそれらを剣と仮定し投影して相殺する。
皮肉な事に三ノ輪銀の致命傷を多く与えたこの攻撃は士郎は相性が良かった。だからまず狙うはあの射手座。
脚を強化して、一気に距離を詰める。
今の奴らにとって獅子を除けば射手座は攻撃の要。守らなければさらに手間取る。
そう感じたのか、考えたのか、蠍と蟹がバックアップに来る。
が、しかし。ハサミでなく叩きつけることと、相方の攻撃反射させることしか出来ないのと、無様に切断されたのが来たところで彼の進撃は止まらない。
叩きつけをデカい剣を投影して、一瞬だけのつっかえ棒にしてくぐり抜け、先の無い尾はさらに短くした。
そして。目の前には射手座のみ。もう蟹に反射してもらい多方向からの奇襲も間に合わないと思ったのか、不用意に撃ちまくるのをやめて1発で決めようというのかでかい杭状の矢を装填し出した。
だがもう遅い。既に攻撃の準備は終わっている。既に矢は──否、剣は弓に、そして周囲に番えられている。既に奴は詰みきっている。
「
バーテックスはサーヴァントに似ている。
その構造はエーテルで出来ている。
攻撃は勿論神秘によるもの。ならば1箇所に杭状にバランスよく高密度にまで圧縮されたそれに全く異なる大量の神秘をぶつけ、その均衡を無理矢理崩すとどうなるか。
「
煌めく流星を引いて矢が吸い込まれるように突っ込む。
結果は明白。まるで酸素ボンベと水素ボンベに撒かれたガソリンに点火したド派手なものよりもさらに過激な爆発。
計算づくなのか、偶然なのか。はたまた、この
文字通り御霊ごとぶっ壊した衝撃は士郎をも巻き込んで。
それは蠍のところまで吹っ飛ばす奇襲となった!
「うぉぉおおおおおおおおお!」
まだ再生仕切っていない尾が突き出される。
だが、それすら読んでいたのか。はたまた、この英霊の経験か。
両手に持っている斧剣の片方を逆手に持ち、受け流すように体を回転させ、車輪のように尾をズタズタにしながら一気に本体まで駆け上がる!
蟹が蚊でも潰すかのように蠍ごと叩いてくるがこのこの眼の前では意味などなく。
得物を白黒の夫婦剣に変え、回転の勢いを利用して硬い甲殻に無理矢理ぶっ刺しまくる。さらにそれらをまた投影しまた刺す。刺す。刺す。刺す。全体に満遍なく刺したら、
「
刺さっていた短剣が
そして、
「
内部に食込んだ剣が神秘を撒き散らしながら爆発を起こす。ガワが破壊され、御霊が飛び出した。そして先程と同じく壁の外に向かい、全速て逃げ始めた。おそらく獅子座と同じく回復を図るつもりだろうが、
「消し飛べ、跡形もなく────────」
それは既に
「───
それは一切の弧を を描かずただ真っ直ぐに飛んでいき、先程と変わらない威力で御霊を粉砕した。
次は近い蟹座。データを見る限り、固くはあるが単体性能は低い。本来こいつは相方の射手座の攻撃を反射し軌道を変えるのがメインの仕事。叩きつけることも出来るが、予備動作ですぐバレる。
怖いのはまだ残ってる獅子座とのまだ見ぬ連携だが、獅子座は後ろに下がって見物らしい。油断は禁物だが。
蟹座。この星座ができたエピソードはなんとも悲しい。この蟹、親友のヒュドラを助けようと敵を襲いに行ったら存在を気づかれることなく踏まれて死ぬ、というものだ。
そして今からこの蟹を殺すのに使うのは、
甲殻をぶち破れる、その踏み殺した奴の宝具。
しかし投影には少し─命を賭すには長い─時間がかかるので、
「
ハリボテではあるが巨大な神造兵器を投影し、相手にぶつけ、時間を稼ぐ。
しかし、相手は人類を滅ぼした厄災。
先程までのやつらと同じく園子により疲弊こそしてはいるが、それでも人を殺すのはわけはない。そこまで猶予はないと見積もる。
「
あの大英雄の宝具を鮮明にイメージするが、すればするほどその情報量に押し流されそうになる。それに連動するかのように脳が圧迫される
ように痛い。足止めの大剣はひび割れ始めた。
(耐えろ、耐えろ耐えろ!こんなのはこの先余裕で超えなくてはならないものだ!出来て当然なんだ、痛みもリスクも知ったことか!)
「っ───
少し投影が落ち着いたところで足止めかついに意味を成さなくなる。ここぞとばかりに蟹が突っ込んできた。
「
その巨体はもう目の前。こちらを叩き潰さんと反射板を振り上げており、今にも振り下ろさんとしたとき
──────
不完全ではあるがそれでも神速の、投影された斧剣の七連撃がそれより速く蟹を屠った。内蔵をぶちまけるように御霊が飛び出す。
振るった勢いで左腕が痺れて動かない。どころか身体中痛いとこがない。けれどしかし。 まだ右腕がある。 時間がかかったのは二つも投影したため。迎撃用と、始末用。
脚をまた強化して今度は宙へ躍り出る。そして、今一度神速のの斬撃が放たれる。
「が、ぐっ、う、おおお、おおおおおおおおお───
今回は神速の八連撃。
一撃ごとに、ヒビが広がれり硬い御霊が欠けていく。そして八連撃目。
文字通り粉砕した。
後は獅子座のみ。回路をさらに活性化させながら、相手へ向き直り走る。そして。
その時はきた。
ガキッン!
────あ?
頭でありえない音が響き、身体の芯がぶれたようにバランスが取れなくなって、前のめり倒れ込んだ。
立ち上がろうと藻掻くも力が入らない。いや、抜けていく。
(な、にが起き、て)
急いで自身の身体を解析する。
結果は酷いものだった。
魔術回路は瓦解寸前で肉体は無理な動きをしすぎたおかげでボロボロ。骨も折れてはいないが全身ヒビが入っている。よくもさっきあんな技をはなてたものだ
だが一番やばいのは。
侵食率。
瞬間、意識が混濁し、身に覚えのない記憶が流れ込んでくる。やばい、と感じた。前回と同じ。三ノ輪銀との約束だけを必死に考え、自我をぎりぎり保つ。
だが肉体は無理だった。霊装は解かれ、変わりに背中を体内から剣が貫く。腹も、腕も、首からも。
ごふッ、ゲハッ、がっ、
もとよりリスク承知の上での戦い。そして不幸なことにそのツケが今来てしまった。いや、元々彼の補助も何も無いこの戦闘は無理しかなかった。ここまでやれたのは奇跡だろう。だが、これでは彼の望みは叶わない。
(立チあがラ、ナい、と。まダ敵は、いる。もう勇者には、戦わせない、ために、たタかわなイと、その為に!)
「ガッ、アァァァあああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ」
吐血を、無視し叫ぶ。脳内麻薬が、分泌され痛みが、少しずつ和らいでいく。
しかし身体は動かない。力を込めても痛みが帰ってきて、ピクリとしか動かない。
「動けよ、頼むから、動けよ。動け、動け動け動け動け動け、動けェーーーーーッ!」
彼の思いとは裏腹に身体は尚動かず、獅子座が、動き出した。
地獄直通の門が開かれる。
現れるは無数の燃えている星屑たち。
狙うは目の前に横たわる人間。
───死ねるか、こんなとこで死ねるかぁぁあ
もう手はない。無数の火の玉が彼を殺そうと突っ込んでくる。未だ闘志衰えぬけれど、彼は死ぬ。先頭の星屑が辿り着きその口を開けて、
無数の長剣により、集団ごと切り刻まれた。
──えっ
「ありがとう、しましろーくん。勇者でもないのに私たちのためこんなになるまで戦ってくれて」
後ろから声がして、振り向くと『満開』した、
してしまって船に乗った園子がいた。
「まだ俺は戦える、だか「でももう大丈夫だよ。後は任せて。あなたのおかげであと一体だけになったんよ。私は死なない、死ねないから。それに色々聞きたいことがあるんよだからね。後でお話したいから、先休んでてね?じゃ、行くね」おい話はまだ終わって、いやそれよりも俺が───────あ。」
言葉遮り一方的に話しながら笑顔を作って。
見えてない方の瞳を閉じてウィンクしながら無理矢理明るく振舞って。
彼女は戦場へ飛ぶ。
そんな彼女を見ながら士郎は彼女へ訴えながら気付く。自分の状態に。自分がやるから戦うな、て言う自分は戦える状態ではない、今にも気絶しそうなのに。というか、いきなり現れた一般人がいきなりボロボロになりながら失った親友の武器を使い戦う様を、見て彼女が黙って見てるなどありえるだろうか。
彼女たちのためと言いながら、寧ろ逆のことしかなせていない。しかも、彼女たちのことを考えていなかった。これを偽善と言わずしてなんというか。
「俺は、また、何も守れないのか・・・ッ!」
今更のようにあの忠告が頭に浮かぶ
『いずれ守りたかったものまで君は壊してしまうだろう』
その慟哭が最後で意識が暗転し、連動するかのように世界は戻る。
プロローグ
あのあと、高嶋士郎と鷲尾須美は入院していた。けれど、病院は違う。前者は大赦直轄の施設なので、入院、というのは些か語弊かあるが。容態は内蔵、筋肉、脳、骨全てに深刻なダメージがあり様々な魔術、呪術、科学による緊急治療を受けた。
一方、後者一般の病院で脚が動かないのと、記憶喪失という比較的まだ何とかギリギリ軽いものだった。名前が変わる─戻るらしい。
そして乃木園子は。
厳重大赦に祀りあげられる、という拘束を受けていた。もう彼女はろくに動けやしない。しかし戦闘となれば別で、いやむしろ戦闘における彼女は、修羅のよう。だから、反逆を恐れた大赦は端末を取り上げ、こういう形をとった。
しかし本当に畏敬込めて祀りあげる、というものも本物なのだ。彼女は身体の大半を神樹に捧げた、いわば半神。だから彼女の言うことは基本聞いてくれるが、それでもやはりと言うべきか、制約はつく。彼女のやりたいことばかりに。
「園子様、園子様、園子様。」
仮面つけた大赦の人が五体投地でベッドにて横たわる自分を崇めてくる。それしか自らしてこない。許せなかった。
「・・・・・ふざけないでよ・・。こんなことするよりわっしーに会わせてよ!記憶失ってしまったってあの子は私の友達なんだよ!なんで満開の副作用をなんで黙ってたの!いつもそうだ都合の、悪いこと全部私たちに押し付けて!
生き返してよ、ミノさんを!わっしーを直してよ、私を元に戻してよ!私たち3人の日常を返してよ!」
彼女は爆発した。抑えきれなかった。でも相も変わらず、大人達は園子様、と崇めるばかり。
言葉も思いも届かず、何も変わらなかった。
彼女を救うもの、未だ───
月日は流れ2年後。そして
「「こんにちはー」」
「お、なかなか美人」
「もう失礼だよ?士郎。で、それでそれで貴方がこの家に住む人!?」
「え、ええ」
「じゃあ、新しいお隣さんだ!」
──否、
「私は結城友奈!よろしくね」
「東郷・・・美森、です」
───────運命に出会う。
「ついでに俺は結城士郎」
続くかは未定なので短編としてます。続けれるといいなぁ