『ここは……』
意識が覚醒する。 身体に走る痛みはすでに無い。 どうやら解放されたらしい。新たなバトルファイトを行う為に目覚めたのだろうか?
姿はヒトのモノでは無く、カリスのモノでも無い。 俺自身の姿、俺固有の姿。
手元にラウズカードは一枚も無い。
一万年、経っているのなら――彼女は既に死んでいるのだろう。 不死の存在たる俺からすれば生き物の生命とは何と短いものか。 彼女がこの世界で幸福に生涯を過ごせたと願うばかりだ。
それにしても化け物でしかない俺が、寂寥に浸るなどと全く以って妙な話だ。
だがしかし、正に世紀末としか形容の出来ない惨状は、まるでローチにゼロに回帰させれた世界の様にすら思える。 無論、そうでない事は分かっている。
確かに彼女には俺を封印させたのだから。
情報を得る為にモノリスを呼び出そうとするが、どう云う訳か出現しない。 こんな事は今迄一度も無かったのだが。 まぁ、仕方が無い。
その地を歩み、巨大な白い鎧が地鎮座しているのを見つけた。 四本の鳥のような腕にサイの様な胴体、蛇の尾のような脚部。大凡アンデッドの型とは言い難いそれは、ハート型の聖杯にスペード型の剣、ダイヤ型の盾にクラブ型の棍をそれぞれ四の手は掴んでいる。
動かぬ白き鎧の肩に、一つの影が佇んでいるのが目視できた。 金色の瞳に金色の髪。 見覚えがある顔だ。 それもそうだ、一万年前、体感で云えばつい先程まで俺が模倣していた姿なのだから。
ヒューマンアンデッド。 一万年前の世界――人が覇権を持った世界では正しく神に等しい存在。 そして、俺が前々回止めを刺され、前回封印した存在。
世界の回帰を司る
そんな
統制者はアイツ――ヒューマンアンデッドこそを世界の主として据えたいようだ。 そうでなくては、こんなにまで一体のアンデッドに力が偏る事は無い。
そして、アイツが負けるというイレギュラーに対する保険として、バトルファイトの強制終了の為に俺は――ジョーカーは存在していたのだろう。
奴は俺の眼前に降り立つと、肩に担いだ見慣れぬ槍を軽く振るった。
「久しいな、ジョーカー」
『おおよそ一万年だな。 所で、どうしたその槍は?』
俺の記憶が正しいなら奴は武器を持っていなかった筈だ。
「これかね?」
槍に視線を飛ばし、こちらへと向き直る。
「私の子孫の力が私にさえ届き得るモノへと成った。 それを器に作り出したモノの試作品だ」
槍を振るうヒューマンアンデッド。 鋒が二つに別れ、光の刃が現出する。 アレに触れるな、と本能が騒いでいる。 全く便利なものだ、制御できればの話だが。
『お前に届いても、俺に届くとは限らんぞ?』
「やってみるかね?」
珍妙な槍から放たれたオーラを右腕の鎌で引き裂いた。 真っ二つに裂けたオーラはそのまま地を引き裂いて消える。 どうやら奴の云っていた通りの様だ。 アレはアンデッドの身体にすらダメージを与える。 死にはしないが、当たり所によれば無様にバックルを開いて行動不能に陥りかねない。 誇らしげにしているヒューマンアンデッド。 腹が立つ。
だがラウズカードが一枚も無い現状、コンボは使えない。 と、云うよりも《Change》のカードが無い以上カリスラウザーが使用不能だ。
まぁ、いいさ。
――押し切るのみだ
「力押しかね? だが、君らしいとも云える」
地表を力を込めた両脚で蹴り付ける。 亀裂の入った大地を踏み越え、宙へと跳躍する。 アンデッドと云えども弱点ではある心臓部と頭部を槍のオーラに耐え切れる鎌で庇いながら宙を疾駆する。
奴は槍を両腕で構え、オーラを鋒へと集中させる。 槍一振り分程のオーラを剣の形に変形し、柄を持つ右腕で振るう。
オーラの刃と接触する瞬間鎌を凪いで刃を切断する。
「他は知らぬが、私は単純で無い故な」
どうやら、切断されること前提で剣状態のオーラを振るった様だ。 瞬間、折れたオーラの先端部がバラバラになり、俺を追尾する光弾へと変わった。
さらに、奴は槍を此方へ向けて投擲する動作をみせた。
『恐ろしい奴だよお前は』
今この手にラウズカードは存在しない。
カードを媒介して流れ込む力の扱い方は体に染み付いている。 後は力の発生源——即ち力の根源さえあればいい。
『だが、俺は
接近する光弾の一つを右の手で掴む。 激痛が奔るが知った事ではない。 握る力を強め、光弾を身体の中へと流し込む。 身体を焼く様に駆けずり回る光。
それを呑み込む様にどす黒い力の奔流が身体に奔るのを感じ取ったコレこそが、俺の魂そのものに近しい力。 不死身故に無尽蔵のライフエナジー。 《Tornado》のカードの力をこのエネルギーで代用させる。
ラウズカードのハートの6。 風を操る属性操作。 齎されるのは竜巻。 俺の身体を中心に風が吹き荒び、次第に渦となって光弾を消し去った。
しかし、急造の模造品に過ぎない力であるが故、ラウズカードによる力よりも数ランク下がっている。 だが、これで十分だ。
「流石だ。 この僅かな期間に今世における力の操作を会得するとは。 それでこそ、闘う意義がある!」
《Tornado》により巻き起こった渦を利用し、さらに上空へと飛翔する。
単体の効果を擬似的にだが再現できた以上は、コンボも再現出来る筈だ。
先ずは《Tornado》の力をもう一度解放する。 下で広がる渦を呑み込み、竜巻が俺に追従するように上昇する。
次にその中心で渦の回転力を《Drill》の力を再現することによって増幅させる。地に届いた竜巻が地表を抉り、砂塵や岩石を巻き上げる。
槍を両手に構えたヒューマンアンデッドへと己の身体を向ける。 それに追従した竜巻が、奴へとその矛先を向けた。
《
呼称するならば、こんな物であろうか。
アンデッドに対しては必殺とは足り得ない。 所詮紛い物の力だ。 それでも、真面に受けたならば致命的なダメージを与える事も出来るだろう。 まぁ、奴がそんな簡単に倒せる筈は無い。
両腕で槍を構えると、奴はライフエナジーを込め始めた。 キャパシティを超えたのか、鋒からだけでは無く柄からもグレアと言えるほどの光りが漏れ出す。
竜巻を纏った蹴りと光を纏った槍とがぶつかり合う。 衝撃の余波で地が裂け、空間がひび割れを起し、砕け始める。
膠着し、互いに互いの力を喰らい合う。
故にその均衡を破壊する。 打破する為の術は既に存在している。
その布石を打つべく、三度目の《Tornado》を解放。 渦が更に一回り程の成長を遂げた。
「槍よ、我をも射抜き得る真なる聖槍よ——」
奴が唄でも詠むかの様に紡ぐ。
同時に槍へ加える光が増大し始めた。
均衡は未だ維持されている。 これで押し負ける程度の雑魚ならば、俺を斃す事などは為し得なかった。
————それでこそ、それでこそ、だ。
加えて、《Drill》の解放。 爆発的な回転力が遂に力の均衡を崩す。 だが、それは一時的なものだった。
「我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ——」
段階的に増加する光が崩れた均衡を更に傾けた。 光が渦を避けて空間へと広がる。 内側を侵食する様に渦が呑み込まれ様とする。
『俺が勝つ』
さて、最後の布石を打とう。 この打ち合いを完膚無きまでに終わらせる為に。 俺が最強だと誇示する為に。 一度は負けて、二度目は勝った。
ならば、三度目は勝たねばならない。
あの少女が、俺を化け物と知りつつも慕ってくれた少女は、俺を最強だと信じていたのだ。 ならば、負ける訳にはいかない。
《Float》の解放。元にしたラウズカードは使用者に飛行能力を与える事。 この能力一つでは今この場では何の役にも立たない。
だが、ラウズカードにはコンボがあった。 癪な事に奴が編み出した方法。 それを俺の独力で再現する。
先程再現出来たのだ、出来ない謂れは無い。 出来ないならば、何度だろうと施行する。
《
「我が力の一端よ。 語らいは
勝敗は決した。 存外それは興醒めだったと言えなくも無い。 互いに現在放てる必殺。 そのぶつかり合いが齎したのは、槍の崩壊。 自壊する事は無かった点は賞賛に値するだろう。 神の器たり得たのだから。
だが、この均衡は奴の力量と、アンデッドとしての無限のライフエナジーが齎した結果だ。 ラウズカードの力に対しては無力であろうと思われる。
もっとも、アレで何度も穿たれれば無様にバックラーを開いて倒れる羽目になるだろうが。
『さて、幾つか説明して貰おう』
「よかろう」
奴から聞きだした話によれば、各スート既に奴を除く各スート2〜10までのアンデッドは封印されているらしい。 ハートのエースだけは上級アンデッドでは唯一封印されて、奴の手元にあるらしい。
「しかし、君もモノリスが呼び出せ無かったか」
『ああ。 そう云うお前もその様だな』
「他のアンデッドも同じらしい。 ある意味イレギュラーな存在である君ならば呼び出せると思ったのだが……」
ならば、奴はどうやって他のアンデッドを封印していたのだろうか。 モノリスを介さずにアンデッドを封印する事は不可能な筈。 例外である
「私はアレの力を使って封印を行っていた」
奴が視線を向けた方向には、巨大な白い鎧があった。 奴が先程肩に乗っかていた物と同じだ。
「————邪神14。アレの存在を知覚する者は黙示録の獣などと呼称している」
『獣?』
「アレの鎧は拘束具だ。 中にはアンデッドである私ですら悍ましいナニかが封じられている」
鎧の隙間から見える、鎧の中身。 そこに何かがいるのは間違い無い。 ああ成る程、これが…………。
『大方はお前の想像通り、アレは器だ。自らを御する者を主とする埒外の。 アンデッドの願い——俺を除けば同種の繁栄を実行する』
「つまりは、コレが私の子孫を繁栄させた大元だと?」
驚いた、と言った表情を浮かべる
『ああ。 俺が勝てば、こいつを媒介にローチは精製されてモノリスを介して世界を埋め尽くした』
此処はまるでローチに滅ぼされた世界の様だ。 生物などこんな場所では育たない。 正しく死の星だ。
「此処は最果ての地。 次元の狭間よりも深い場所に存在する我々にしか辿り着けないような場所だ。 私はコレを封印すべく此処へと訪れた」
次元の狭間、恐らくは闘いの余波で穿たれたあの場所と同質なのだろう。
獣を封印すると云う事ならば、其処にすら繋がらない様に此処を完全に閉じる必要がある。
「コレを」
奴が俺の手へと29枚のラウズカードを乗せた。 奴のカードであるハートの2を除いたハート、クローバー、ダイヤスートエースから10まで。
「私の持つ全てのラウズカードだ。 スペードスートは何者かに封印されていた」
『モノリスは使えないのではなかったか?』
「私は君が封印したものだと思っていたのだが……」
既にヒトがラウザーとベスタを生み出しているのだろうか。 まぁいいだろう。
「————さて、私は君に封印されようと思う訳だが。 少し待って欲しい」
『14の封印か?』
奴は頷くと、もう一度邪神14を一瞥して告げた。
「ああ。 後は此処を閉じるだけだ」
『その程度は待つさ。 アレは危険過ぎる』
邪神14の周囲を無数の光の壁が封鎖し、奴の片手に巨大な鍵のような物が現れる。 どうやら奴はこの空間ごとアレを閉鎖し、封印するつもりらしい。
奴は鍵を壁に突き立てる。 そのまま鍵を捻ると光の壁に隔離された空間が、この最果ての地からすら排除された。 鍵は虚空から引き抜かれると、13個の光の球となって何処かへ飛び去って行った。
『終わったか?』
「コレで恐らく。 もう一つ頼まれてくれるか?」
『何だ?』
「鍵は分割して器に封じた。我が子等が此処に訪れることの無いようにして欲しい。 アレは我々の手にすら余るのだ。 余りにも危険過ぎる」
『いいだろう』
思い残すこと等無いとでもいった表情を奴は浮かべる。 そんな顔が出来る奴を何処か羨ましく思いながら、俺は右腕の鎌で
奴の身体と引き替えに虚空に一枚のカードが現れ出でる。 それをジョーカーラウザーにラウズし、俺は次元の狭間へと飛び込んだ。