海賊王ゴール・D・ロジャーが処刑され、大海賊時代が幕を開けてからはや十二年。
世間では連日、海賊による被害がどこかしらで起きており、一般人達は日々海賊に襲われる恐怖に怯えて暮らしていた。
そんな不穏な世間の中、ログに乗らない人口の島では「不穏な世間とまるで別世界である」と言える程の平和な日常が続いていた。
「ご苦労様です」
「クー!」
ご苦労な事に毎朝、世界経済新聞を届けに来てくれるニュース・クーから灰色の短髪メイドが新聞を受け取る。
受け取る部数は二部。
五年程前までは一部だけだったが、今では一部だけでは『まずいこと』が起きる。
灰色の短髪メイドは『まずいこと』が起こらないように二部取っている。
灰色の短髪メイドは新聞を受け取ると、お金と少量のエサをニュース・クーに渡す。
少量のエサを渡す事は、毎日辺境の孤島まで飛んできてくれるニュース・クーと上手く付き合う為の追加料金である。
灰色の短髪メイドは急いで家の中に戻る。
新聞を待っている貴き方に渡す為に。
ニュース・クーは知らない。
この孤島こそが、世界政府の上層部が血眼になって、探している者が住んでいる場所である事を知らない。
世界政府は知らない。
まさか、ニュース・クーが己らの探し求めている者の住処に新聞を毎日届けているなどと知らない。
孤島に建てられている建物は少し広い一軒家のみ。
しかし、玄関ドアの先にはエントランスホールなどはない。
客人などが一切来ない事をいいことに、玄関ドアを開けば直ぐにダイニングがあるのがこの家。
灰色の短髪メイドが新聞を持って家の中に戻ると銀色の長髪少年がダイニングテーブルに着いている体制で出迎えてくれた。
「おはよう、ティカさん」
「ジーク様、おはようございます。今日の新聞でございます。こちらに置いておきますね」
九歳の子供にしては落ち着いている声を聞き、朝の挨拶をお辞儀で返すと灰色の短髪メイド、ティカは持っていた新聞の一部を銀色の長髪少年、ジークの手に届く範囲で邪魔にならない場所に置き、朝食を作る為にキッチンに向かった。
ティカがキッチンに向かうと、ジークは自室から降りて来た時に作ったカフェオレを片手に新聞を読む。
「魚人海賊団船長『海峡のジンベイ』魚人初の王下七武海に任命、か。俺だっていつか、そのくらいになってやる」
ダイニングにはジークが新聞をめくる音とカフェオレを飲む音、時折記事の感想を呟く音だけが響いていた。
ジークが新聞を三分の一程読み進める頃に、ドタバタと音がした。
ジークは気にせずに読んでいると、ジークの手から新聞が勢い良くなくなった。
「なっ!?おい、ラーム!!まだ半分も読めてなかったんだぞ!」
「何よ!!?文句でもあんの?あっ!これも頂き!」
ジークの読みかけの新聞を奪ったのは、ジークと瓜二つの顔を持った少女、ラーム。
ジークと対になる金色の長髪と瓜二つの顔は二人が双子である証拠。
ぼさぼさに乱れている髪の毛はベットから飛び起きて来たのだろう。
ラームは新聞を奪うと同時に反対側に座り、更にジークの飲みかけのカフェオレも奪い、グビッと飲み干した。
新聞とカフェオレ、二つの物をラームに取られたジークの怒りは最高潮に達する。
普段の落ち着いているジークはラームだけには全くもって崩れ落ち、感情的になってしまう。
「お前はいつも!そうやって俺の物を取りやがって!!少しは待つ、自分で用意するということを学習しないのか!!?」
「はぁ~!!?新聞ぐらい先に読んだっていいじゃない!ちょっと連載中の『海の戦士ソラ』を読むだけじゃないの!!それにカフェオレを作るのは面倒くさいし!!」
あー言えばこー言う、毎朝のケンカが始まった。
二人はどんどんヒートアップしていき、遂に
「ジーク様、ラーム様、おやめください。新聞はもう一部、飲み物なら二つ用意してありますから」
キッチンからティカが仲裁に出てきた。
しかし、いつもならこれで治まるケンカも今日は治まらないかった。
「いいや、ティカさん!今日という日は我慢の限界だ!」
「いいえ、ティカ!!今日という日はあたしが上だと言う事を解らせてあげないといけなの!!」
全く聞く耳を持たない双子に「実力行使に出るべきか?」と判断しかけたその時、この家の主が現れた。
「わぁあああ~~~~~~~~あああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
その女性は部屋を突っ切り、ティカの横を通り越して、ケンカ中の双子に向かって大ジャンプ。
そのまま、抱き着いた。
しかし、まだ十歳の子供である二人の体では、いくら女性であろうと大人の体を、それも勢いの突いた体を受け止めれるわけもなく。
三人で仲良く、床に転がった。
「ジー君もラーちゃんも、ケンカはメっ。仲良くしないと!」
「お母さん!!だってジークの奴が細かいことで文句言ってくるのよ!!」
「耳元で大声出すな!母さんもどいて、起き上がれない」
三人とも思い思いの言う事言う。
「お嬢様、朝から何をやってるのですか?」
ティカは呆れ声で言うと、お嬢様を引っ張り起こす。
もちろん、ジークとラームにも手を貸す。
派手な登場をして来たこの女性はジークとラームの母親であり、ティカのご主人様である。
親子三人が並ぶと、双子と母親はよく似ており、ぱっと見の違いは髪の毛の色くらいであった。
彼女の名は世界で二人を除いて誰も知らない。
実の子であるジークとラームでさえも知らない。
世間からはこう呼ばれていた『お嬢』
でもその訳は今回の話には必要のない事なので、別の機会に話すとしよう。
ひと騒動があったものの、ようやく朝食にこぎつけることに成功したティカ。
しかし、いつもなら和気あいあいと朝食も今日はぎこちない。
ジークがトーストにバターを塗ろうと手を伸ばすと、同時にラームもバターを取ろうとしていた。
「「うっ!」」
先ほどまでケンカをしていた為、気まずいのか二人共手を引っ込めてしまう。
そんな二人の態度が面白くないと思っているのが母親であるお嬢だ。
「うぬぬぅ~~~」
お嬢は目を閉じて、右へ左へと体を大きく揺らす。
そんなお嬢にティカの注意が飛ぶ。
「お嬢様、行儀が悪いですよ」
「ぬぅ~~~。ちょと待ってティカ!今、物凄い記憶を遡っているから!うぬぬぅ~~~」
ティカの注意をものともせず、お嬢は体を大きく動かし続ける。
ティカはため息を吐くと、自分の朝食をよそって食べ始めた。
メイドがご主人様と食事をする。
本来ならば有り得ない事態なのだが、お嬢はもちろん、ジークとラームもティカの事を家族と見ている。
家事手伝いはするが、基本自由なのだ。
「あっ!!思い出した~~~!!」
突然、お嬢が体を揺らすのを辞め、ピコ!と飛び跳ねる。
ジークとラームはまた何か振り回されるのか?と不安な表情を隠せないでいた。
全てはお嬢のままにとティカがお嬢に尋ねる。
「それで?何を思いついたのですか?」
「バレンタインをしよう!」
「お母さん、ばれんたいんって何!?」
早速興味を持ったラームがいち早く質問した。
「簡単に言えば、チョコを作って食べる日の事」
「えっ!チョコ食べたいわ!!」
チョコが食べれると知って、ラームはわーいわーいと顔を綻ばせる。
既に終わった気になってるラームの代わりに、ティカが待ったをかける。
「お嬢様。それではラーム様の機嫌が直られてもジーク様の方は解決しておりません」
「だいじょ~ぶ!ラーちゃん、実はバレンタインは、女の子が日頃お世話になってる家族や友人に、チョコを作って感謝の気持ちを込めて渡す日の事なのだ」
「そ、そうだったの!?あたしもお母さんとティカに作るわ!!」
「お手伝いさせていただきます」
この家唯一の男であるジークは蚊帳の外。
女性陣三人は既に今日の予定をチョコ作りに充てるようだ。
「母さんの飛び火が来なくて良かった」
ジークはそっと呟いたのだった。
その日の午後三時。
三時のおやつの時間にジークはラームにチョコを渡された。
「た、たまたま作り過ぎちゃったからあげるだけよ!別に日頃の感謝だとか、家族愛だとか・・・そんなんじゃないからね!!」
「あぁ分かってる」
「お、お礼ぐらい言いなさいよ!!」
「はぁ・・・ありがとよ」
お嬢とティカはそのやり取りを見て微笑むのであった。
後日、お嬢からホワイトデーなるものを提案されジークが苦労してお返しを作り、ラームの頬が赤く染まったのは別の話し。