チョコレートを渡しあう日に、新田美波はアナスタシアにチョコを渡そうと事務所で待っていた。
しかし彼女はファンからのダンボールいっぱいのチョコレートを持っており、それを見て思わず嫉妬してしまう。
渡せずに逃げるように出てしまい、女子寮の部屋に戻って自己嫌悪に陥っていた美波をアナスタシアが訪ねてきて―――。
これはちょっとだけ苦いけど甘い嫉妬のお話。
そちらを読まなくても楽しめますが、
もしこの二人の馴れ初めに興味がわきましたら読んで頂けますと幸いです。
バレンタイン。
言わずと知れた冬の一大イベントである。
本来は聖ウァレンティヌスを起源とする愛の誓いの日、という意味合いの日である
実際に世界的にはそういう意味合いで広まっているのだが
日本では些か異なる色を持っているのは言うまでもない。
そう、チョコレートである。
バレンタインにはチョコレート、という関係がいつ生まれたのか
という疑問は実ははっきりとはしていない。
しかしいずれの説も日本企業がバレンタインデーをきっかけに
チョコレートを売り出そうとしていたという点では大筋は共通している。
現在、日本では恋人へのチョコの他に友チョコ、義理チョコなど幅広いチョコレートが出回っている。
女子同士で渡し合ったり、ということも決して珍しい話ではないのだ。
現に学校などを覗いてみれば女子同士で交換という形でチョコのやり取りが普通に行われている。
そして二月十四日。
その日は新田美波にとっても極めて大事な日であった。
昼の事務所の一室。
普段は他のアイドルや社員などがいるのだが、今日は新田美波を除いて誰もいない。
というか彼女がそう手回ししたのだ。
アナスタシアと二人で大事な話がある。他の人には聞かれたくない。
という旨をプロデューサーに事前に言っていたのだ。
彼は少しだけ怪訝そうな顔をしたが、そういうことならと彼は何も聞かず承諾してくれた。
そして事前にアナスタシアにも来てほしいと電話で伝えてある。
彼女は午前中に仕事が入っていたが昼は空くということだったので
事務所の一室に来るよう頼んだらこれまた快諾してくれた。
さて、これからが勝負だ。
現在の時刻は十一時五十分。
正午くらいに到着するとアナスタシアから連絡があったからあと十分だ。
緊張する。ドキドキと心臓が早鐘を打つ。
大丈夫、大丈夫と内心繰り返す。
手元にはぎゅっと小さな箱が握られている。
青色で星マークがいくつもプリントされた綺麗な紙に包まれた箱。
そう、バレンタインのプレゼントだ。
彼女のために手間ひまかけて作ったガトーショコラ。
昨日空いた時間を使って女子寮で作ったものだ。
去年は時間に余裕があったのでアイドルの皆やプロデューサーにも作ってあげられた。
ところが残念ながら今年は忙しく、せいぜいチョコクッキーくらいしか作れなかった。
それでも昼までに会ってプレゼントした娘達からは十分に喜ばれたのだが。
しかし彼女、アナスタシアへのバレンタインチョコをそれで済ませる訳にはいかない。
去年より更にクオリティを上げてガトーショコラを作った。
去年は円形に作ってそのまま渡したのだが
今年はその上にフルーツを乗せたり砂糖をまぶしたりとかなり気合を入れた。
自分でもこれならお店に出せるかもしれないと自信たっぷりだ。
そして極めつけは一緒に入れたチョコレートのプレートだ。
普段からチョコペンを使う方ではなかった上ロシア語だったため困難を極めたがなんとか上手く出来た。
彼女はチョコのプレートにこう記した。
Я тебя люблю
即ち、愛している、と。
アナスタシアと新田美波は付き合っている。
去年アナスタシアに美波は告白されて、冗談半分で付き合い始めた。
だが彼女はとても積極的で気づいたら絆されており、夏にはロケ先のホテルで一線も超えた。
それからも関係は終わるどころかより親密になり
公言こそしていないものの一緒に遊びに行ったりする回数も増えた。
そして時間がある時は、また共にベッドで愛し合ったりもしていた。
そんなわけで恋人同士なのだから去年以上にバレンタインも気合が入るというものだ。
正直美波自身ですら、好きな人のためならここまで頑張れるのものかと少し驚いたくらいだった。
あと十分。脳内でシュミレーションも済ませた。
手元のチョコに抜かりもない。
あとは彼女が来るのを待つだけだ。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
自分の鼓動が強くなるのが感じられる。頬が赤くなるのでなんとか冷静になろうと試みる。
大丈夫、チョコを渡すだけだ。なんてことはない。
普段からプレゼントなんて渡し合ってるし、今更チョコの一つや二つ―――。
喜んでくれるだろうか。
多分彼女のことだから満面の笑みを浮かべて受け取ってくれることだろう。
そして美味しそうに食べてくれるに違いない。そう考えると思わず頬が緩んでしまった。
「ミナミ、入っていいですか?」
「は、はい!どうぞ!」
コンコン、というノックの音と誰より好きなその声で一気に思考が現実に帰ってきた。
返事をすると少し間の後にドアが開かれる。
案の定入ってきたのはアナスタシアだった。
冬の季節に愛用している白いコートを来ている。相変わらず今日も可愛い。
だが今日の彼女はいつもと異なるところがあった。
両手で大きな茶色い箱………ダンボールを抱えていたのである。それもかなり大きい。
胸の前が完全にダンボールで隠れてしまっているくらいだ。
あれだけ大きいとそれ相応の重みがあるのではなかろうか。
「アーニャちゃん、どうしたのそれ?」
こんなに大きなダンボールを持たせるなんて可哀想だと近寄る。
こちらのほうが歳上なんだから持ってあげなければ。
もっともその思考は美波が彼女に甘すぎるという理由もあるのだが。
近寄ってよく見てみるとダンボールは開けられていた。
中には綺麗な包装紙で包まれた物体がたくさん入っていた。
その中でも多いのはピンク色とか赤色とか。たまに青色も混じっている。
「ファンの皆さんがくれたチョコレートですね。スタッフさんが送られてきたってくれました」
嬉しそうに美波の問いに答えるアーニャ。
バレンタインにチョコが届く、と言うのは女性アイドルでも決して珍しいことではない。
実は新田美波にもチョコは届いていた。朝からプロデューサーに届いていると言われ受け取っている。
市販のものから手作りのものまであって素直に嬉しかった。
それにチョコには大体ファンレターも同封されているので
それを読んで励みになるという意味で喜ばしいものであった。
だが数を比べると、やはり圧倒的にアナスタシアの方が多く貰っていた。
クールで格好良いと評判の彼女は女性ファンも多く、去年から多くのチョコレートが届いていた。
それこそダンボール一箱にぎっちり入るくらい。
やっぱりアーニャちゃんはすごいなぁ、と内心褒めていると。
チクッ
―――あれ?
胸になんだか違和感を感じる。
小さな針で軽く刺されたような痛み、とでも言えば良いのだろうか。
だが美波自身何と言ったらよいかわからなかった。
「すごいねアーニャちゃん!やっぱり女の人にも人気なんだね~!」
などと、旨のもやもやから意識的に、あるいは無意識的に目を逸らし彼女を褒めた。
決して嘘ではない、嘘ではないのだが作り物の笑顔であることもまた否定できなかった。
そんな美波の言葉に気を良くしたのか、彼女はなおいっそうほがらかに笑い口を開いた。
「ダー、アーニャはモテモテですね!」
グサッ
―――――。
言葉が詰まった。思考が完全に真っ白になった。
その花のように明るい笑顔に。
もやもやはより一層強くなる。
胸が苦しい。
さっきが針で刺されたような小さな痛みなら
今度は剣で貫かれたような強い痛み、そして衝撃。
わかってたはずだ。自分にさえチョコレートは送られてきた。
それなら彼女が貰っても何の不思議でもない。
それなのに、それなのに。
自分以外の人から貰ったチョコレートでこんなにも喜んでいる彼女を見て。
それは彼女にとっても良いことのはずなのに。
どうしてそれを悔しいだなんて思ってしまうのか。
「ミナミ?どうかしましたか?」
その一言で意識が戻る美波。急に返事をしなくなったためか心配そうな表情をしている。
「ご、ごめん、なんでもないよ!チョコレート良かったね!」
―――嘘をついてしまった。
だが自分でも認めるわけではなかった。
他の人のチョコレートで喜ばないでほしいなどと。
まして、私のだけで十分でしょう、などと嫉妬してしまったなど。
「ごめんなさい、呼んでおいて何だけど急用思い出しちゃった!」
「ミナミ?」
「本当にごめんね、それじゃあまたね」
そう言って慌ただしく立ち上がる。
不思議そうに見つめるアナスタシアを置いて颯爽と部屋を出てしまった。
―――手に持ったガトーショコラを渡せないままに。
「はぁ………」
新田美波はため息混じりに扉を開いた。
部屋は暗く中はよく見えない。手探りで壁の当たりをまさぐる。
突起している部分を見つけた。特に迷うこともなくそれをカチッと押す。
部屋が明るくなった。自分の、だが少しだけまだ見慣れない自分の部屋が露わになった。
女子寮のこの部屋に引っ越してきてからもう数ヶ月になる。
元は実家に住んでいたのだがアイドルの仕事の都合で女子寮で過ごすことにしたのだ。
家族、特に父親から猛反対を受けたのが懐かしい。
はっきり言って父は親バカなので説得するのには苦心したが事情を話して押し通した。
美波だって父に負けず劣らず頑固者なのだ。
もちろんアイドルの都合だけではなかった。
アナスタシア、彼女もまた女子寮で過ごしているのでできるだけ近くにいたいという願望があった。
ふと壁の時計に目をやる。
もう時刻は夜十時を回っていた。
先程まで仕事に追われていて、ようやく収録から帰ってきたらもうこんな時間だ。
本来は風呂に入って化粧を落として………とやらなくてはならないのだがそんな気力も湧かなかった。
力なく歩いてベッドの前に立つ。
そして力を抜いて倒れ込んだ。
ボフッ、と布団が大きな音を立てる。
とりあえず力が抜けて気持ちが良かった。
確かに仕事もきつかった。だが今の疲労は肉体的というより、精神的なもののほうが大きかった。
「はぁ………」
またため息が漏れてしまう。
美波は軽く自己嫌悪に陥っていた。言うまでもなく昼間の出来事である。
決して暇ではないアナスタシアを事務所に呼び出しておいて
ファンから貰ったチョコレートで喜ぶ彼女に閉口して
あげく用意したチョコレートも渡せず事務所を出てしまったのである。
まったく情けなくて涙が出そうになる。
彼女からすればいい迷惑だっただろう。勝手に嫉妬され勝手に出ていかれたのだ。
一応ガトーショコラは冷蔵庫に入れてある。
事務所を出た後、流石にフルーツが入っているのを放置するのはよくないと戻ってきて入れておいたのだ。
後から気持ちの整理をつけたあともう一回渡しに行こう、と考えていたが全くそんな気になれなかった。
昼からの仕事も全く身が入らず番組のスタッフからも怒られてしまった。
気持ちは落ち込むばかり。
明日なんて顔をして彼女に会えば良いのだろう。
―――嫌われてしまったかもしれない
そんな嫌な思考が浮かんでしまった。
怖くなる。体が震える。嫌だ。耐えられない。
彼女に好かれないなんてそんなの死にたくなる。
自己嫌悪はますます加速していく。現実逃避したくなる。
気がつけば毛布を頭までかぶっていた。
いっそこのまま寝てしまおうか。
―――ああ、私って弱いなぁ
少しだけ涙腺が緩んでしまう。
情けなくて、悲しくて、辛くてどうにかなりそうだった。
そんな時だった。
コンコン、と軽快なノックの音が聞こえてきた。
夜遅いのに、こんな時間に誰だろうか。
鈍った頭では全く見当がつかず黙っていると。
「ミナミ、いませんか?ミナミ」
耳に馴染む、小さくも綺麗な声が聞こえてきた。予想外で思わず飛び起きてしまう。
外で待たせるわけにもいかず急いでドアへと向かう。
ドアノブを回す瞬間躊躇ってしまった。
今の自分に彼女に会う資格があるのかと。
それに、もし怒ってたらどうしようと。
怖くなる、だが今更引き下がることも出来ない。
ゆっくりとドアノブに手を伸ばしひねった。
すると案の定、相変わらず可愛くて綺麗な彼女が部屋の前に立っていた。
「アーニャちゃん」
表情から察するに、どうやら怒りとか、その類の感情を持っているわけでは無さそうだとひとまず安堵する。
「ミナミ、大丈夫ですか?」
彼女は不安そうな顔でそう聞いてきた。
「ミナミ、なんだかお昼、様子が変でした。それからずっと心配でした。具合悪いですか?」
顔を近づけて必死にそう聞いてくる。
「ミナミがいなくなったらアーニャ、嫌です。
お昼もいきなりどこかに行っちゃって寂しかったです。アーニャ、何か嫌われることしましたか?」
心配そう、というよりもう泣きそうな顔で尋ねてくる彼女。
それを見て自然と涙が溢れてきた。
「ミナミ!?やっぱりどこか痛いんですか!?」
より心配してきたが、美波は涙を止めることができなかった。
―――なんていい娘なんだろう
こんな自分を嫌うどころか好きでいてくれて、
夜遅いのに会いに来てくれて、必死に案じてくれている。
本当に自分には勿体無いくらいのいい娘だった。
「ごめんね、ありがとう、アーニャちゃん」
自分でも気づかぬうちに彼女を抱きしめていた。
彼女は拒否することなど当然なく、手を後ろに回して抱きしめ返してくれた。
「大丈夫ですよ、ミナミ。アーニャはずっとそばにいます」
そう言って優しく宥めてくれた。
これ以上心配しなくていいと、抱え込まなくて良いよと言ってくれているようで。
溢れていた涙も少しずつ止まってきた。
落ち込んでいた気持ちも和らいでいく。
その感覚がとても幸せで、とても嬉しかった。
「アーニャちゃん、私ね。貴方がチョコ貰ってるの見て、嫉妬しちゃったんだ」
「嫉妬………ですか?」
いつまでも廊下で話すのも何なので部屋に招いて話をしていた。部屋中央のテーブルを囲って座っている。
彼女が美波の部屋に来るのは初めてではない。
普段から二人で部屋でご飯を食べたり遊んだりしているし、たまには一夜を共にしたりもしている。
言わなくても、言わないほうが良いのかもしれない。
でも美波は知ってほしかった。自分があの時湧いた感情を。そして、謝りたかった。
「あの時本当はチョコ渡したかったの。
でもアーニャちゃんがファンからのチョコレート貰ってすごく嬉しそうだったから………私だけ見てほしいって………その………」
語尾が淀んでしまった。やはりはっきりと言うにはあまりに恥ずかしかった。
ところがそれを見たアナスタシアは微笑を浮かべていた。
「やっぱりミナミは可愛いですね」
「も、もう!からかわないでよアーニャちゃん!」
「そんなことないです。やっぱり可愛いですね?セクシーな衣装ばっかりですけど安心しました」
「そ、それは仕事だから仕方ないって言うか………」
「じゃあ、今度プロデューサーにお願いして可愛い衣装の仕事も貰ってもらいましょう!」
いつもみたいに可愛いと言ってくる彼女。そして一々狼狽えて頬を赤らめる美波。
気がつけば二人ともいつもの調子に戻っていた。
それを内心美波はとても彼女に感謝していた。
彼女のおかげで暗かった気持ちも元に戻ったし、今とても幸せだ。もっとも、可愛い可愛いと連発されるのはちょっと恥ずかしいのだが。
「それに、いつも見てほしいなら心配しなくていいですよ?」
「えっ?」
そう言うと彼女は机に身を乗り出した。驚く美波にぐっと近づく。
そして右手で美波の顎のところに触れた。そのまま持ち上げ顔を肉薄させる。いわゆる顎クイである。
お互いに息がかかる、もう少しだけ近づけばキスしてしまうその距離で
「美波は私だけのものです」
といつも以上に低く響く声で語りかけた。
それだけ言うと手を離しゆっくりと座り直した。
「なんて、どうですか?アーニャが出演するドラマでこういう役が………ミナミ?」
美波は完全に硬直していた。
あうあう、と口を開いたり閉じたりすることしか出来ない。
女子ながら彼女のイケメンっぷり脱帽していたし
こんな事をしてもらえる自分が幸せで仕方なかった。
彼女に惚れる女性ファンの気持ちも容易に想像できるというものだ。
「ミナミ、生きてますか?」
「はっ!?だ、大丈夫!ちょっとびっくりしちゃっただけだから!」
もちろん面と向かってイケメン、というのは流石にやめておく。
そうしないとまた美波は可愛いと延々と言われ続けることになるからだ。
もちろん決して嫌ではないが。
アナスタシアは再び微笑んで続けた。
「心配いりません。アーニャはずっと美波を見てます。
アーニャはミナミの恋人です。ファンの皆さんも大事ですけど
ミナミの事が一番大好きです。他の人に目移りなんて絶対しません」
力強いその言葉に、美波は赤くなりながらも安心した。
「ありがとう、アーニャちゃん」
そして美波も心からそう返す。もう何度目かわからない、そして何度言っても伝えきれない彼女への感謝を。
「そうだ、アーニャ。ミナミに渡すものがあります」
そう言って彼女は持っていたピンク色のバッグをごそごそと漁りだした。
目的のものはすぐに見つかったのかぱっと取り出し机の上に乗せた。
ピンク色のリボンで結ばれた白い箱。文庫本くらいの大きさで包装紙で綺麗に包まれている。
「ミナミ、ハッピーバレンタイン、です!
頑張ってプリャーニキ、ロシアのお菓子作りました。
ママが作ってたの、頑張って真似できたと思います」
そう言って笑顔で渡してくれた。
「ありがとう!アーニャちゃん!嬉しいよ!今食べても良い?」
すぐに食べて感想を伝えたい、とそう思い聞いてみたのだが、彼女は首を横に振った。
「ニェット、できればアーニャが帰ってから食べてほしいですね?」
別にどうしても今すぐ食べたいわけではない。ここは我慢してあとで食べることにしよう。
「あと、ミナミのチョコレートも食べたいです」
「うん、わかった!すぐ持ってくるね」
欲しいと言われたのが何故かとても嬉しくてすぐに冷蔵庫に向かった。
入れておいた箱を取り出して彼女の元へ持っていく。
あとは渡すだけ、と考えていたのだが、面と向かって渡そうとするとやっぱり少し緊張してしまった。
でも勇気を振り絞って口を開く。
「あ、アーニャちゃん!チョコレート、受け取ってもらえますか」
「ダー、喜んで」
そしてぎこちない動きだったがガトーショコラの箱が手渡された。
「ふふっ、ミナミ、緊張しすぎですね。アイドルがそんなことではいけませんよ?」
「もうっ!アーニャちゃん!」
その様子がおかしかったかアナスタシアが笑いだした。
最初は変だったかなと思ったが、見ているうちに釣られて美波も笑ってしまった。
「さて、それじゃそろそろ部屋に帰りますね」
その後もしばらく話し合っていたが
気づいたら日付が変わりそうになっていたのでアーニャは帰る用意を始めた。
名残惜しいが明日も仕事がある。流石に寝ないといけない。
部屋の玄関まで見送りに行く美波。靴を履いてアナスタシアが扉を開こうとする。
だがその直前彼女は動きを止めて振り返った。
「そうだ、一つ大事なことを忘れてました」
「ん?どうしたの?忘れ物?」
アナスタシアはそう言うと、ポケットから一粒のチョコレートを取り出した。
包装からして一粒数百円しそうなお高そうなやつだ。
そしてそれを口に運んだ。
細い指で美しい唇に運ぶ様になんだか色気を感じてしまって恥ずかしくなる。
でも何故今突然食べ始めたのか、そんなことを考えていると。
突然彼女が詰め寄ってきた。
逃げられないよう手を背中に回して抱きしめ、顔を近づけ、
そして僅かな逡巡もなく口づけをした。
―――――!?
あまりに突然のことで硬直してしまう。彼女とのキスは割とし慣れているが
いきなりされてはやはり頬も赤くなるし驚いてしまう。
だがアナスタシアはその隙を逃さず、舌をすっと美波の口の中に滑り込ませた。
そして彼女の唾液で少し湿ったチョコレートを美波の口内へと放り込む。
用が済むとアナスタシアはすっと唇を離した。
「ふふっ、ごちそうさまでした、ミナミ。それではスパコーイナイノーチィ、おやすみなさい」
そう言って頬を若干赤くした彼女は振り返って美波の部屋を出ていった。
一人、真っ赤になってへたり込む美波を置いて。
「卑怯だよ………アーニャちゃん………」
口の中の彼女のチョコレートは、とても、とても、彼女が今まで食べたどんなお菓子よりも甘かった。
こんにちは、ミハイルです。
この度はご閲覧いただきありがとうございました。
バレンタインということでぜひ書きたい!ということで一日で書きました。今PM23:52です。疲れました。お疲れ様でした。ラブライカのバレンタインが書きたかったからしょうがない。
二人は付き合い始めて長く立つわけですが、やはりこれくらい付き合うとちょっと嫉妬心というかヤキモチみたいな感情が生まれてくると思うんです。今回はそれを表現したくて書きました。
いかがでしたでしょうか。楽しんで頂けましたら幸いです。
さて次回の更新は未定です。リクエスト等あればお気軽にお申し付けください。その気になれば書かせて頂きます。
それではまた!!!ダズヴィダーニャ、さようなら!