審神者と江雪の共通点は「争いを厭っているが、いざ戦いとなれば敵に容赦しない」こと
俺は新人審神者である。
超初心者、右も左もわからない上に、コミュ障の人間不信者っていうぶっちゃけ何かしら指導してくれる人がいないとすぐ死ぬんじゃね、と自分で思う審神者だ。
資質はかなり高いらしいんだが。審神者の資質があるか確かめるための神降ろしの儀式か何かででっかい白髪のお兄さんが出て担当官の人たちが阿鼻叫喚になってたが、それで本当に資質高い感じなんだろうか。すぐ消えちゃったからどんな人か知らないんだけどね。
それでなのか何なのか、僕は一から始めるのではなく、引退した先輩から本丸を引き継ぐことになった。その先輩がどんな人なのか、どんな刀剣がいるのか知らない以上、どうにも判断できないのだが…何か嫌な予感がする。俺が試験の時に下ろした刀(江雪左文字、というらしい)を渡された時に、死ぬなよみたいなこと言われたし。一応、先方には新人が引き継ぐ旨だけは伝えられているらしいが。
…前の人と比べられるんだろうなあ。その人がどんな人であれ。
「…まあ、行くっきゃないか」
一応一通り講習は受けてやるべきこととやり方は学習した。なんとかなるはずだ。…あっちは経験者なわけだし。
初めて入った本丸は、雪景色だった。
こういうものなんだろうか。もう春と言っていい季節のはずだけど…。俺、冬って苦手なんだよな。夏も苦手だけど。体調的には季節の変わり目が一番やばいけど。
とりあえず、防護服《きぐるみ》を冬仕様にしておく。刀は背負った状態にしておく。一応、中で顕現させるように言われたが建物に入ってからにするべきだろ、普通に考えて。
建物に一歩入ったところで、何か獣属性臭のするでっかいお兄さんが立ちはだかる。
「…何者ですか?」
「今日からこの本丸を引き継ぐことになった新人審神者だ。呼び名が必要ならば、"小鳥"とでも」
威圧的に見下ろされた。…歓迎はされないらしい。まあ、基本的に主を失った本丸は解体されるもんらしいからなあ。
「…ついてきなさい」
連れてこられた先には、負傷者が大量にいた。何ぞ。
「審神者だと言うなら、"手入れ"ができるじゃろう?」
「紹介する前にさっさと治せと」
…まあ、審神者がいなくて治療できない状態で放置されてたって言うなら早く治してやりたいんだろうけどさあ。
とりあえず、手近なところにいたやつから順番に手入れしていく。ケモ兄さんは鋭い目で俺を見て…否、見張っている。…なんていうか、人間不信臭がする。コミュ障を人間不信にぶつけるとか、難易度ベリーハードどころか、ルナティックじゃね?もしかして僕積んでるんじゃね?
「…俺は、俺のしてないことで謝るつもりはねぇから」
俺は、人と争うのは嫌いだし、誰かを怪我させるのも怪我するのも怪我させられるのも嫌いだ。多分、審神者にも向いていない。
正直、審神者になったのは理由としては単純。ある人に会うため…会って、ほんの少し話がしたいから、だ。それ以上でもそれ以下でもない。刀剣にも歴史にも修正主義者にも興味はない。ただ、あの人はいずれかの刀の刀剣男士らしいというから、審神者になった。ダメ元で応募したら採用されてしまっただけだ。だから、その望みさえ果たせれば審神者を辞めることになったって別に構わない。
どうせ俺は、他人にとっては居ても居なくても同じ存在だし、長く生きられるとは思っていない。だから、ただ一つ…たった一つの望みさえ叶えば、後は死んだっていい。
「…あなたは、誰、ですか?」
「ただの新人だ」
負傷者を全員手入れした後、大広間のようなところに通された。そして、この本丸の刀剣男士たちの代表のようなものなのだろう、五人程の青年と対峙することになった。多分、負傷者の中にはおらず、かつ此処にもいない刀剣もいる。何となくそんな気がする。
「そっちの白くてでかいのには言ったが、俺は今日からこの本丸に配属された新人審神者だ。呼び名が必要であれば"小鳥"と呼んでくれ。ちなみに、あんたらのことも此処の前の審神者のことも知らないから、必要なことは教えてくれると助かる」
刀剣たちは何も言わず、ただ不信の目で俺を見ている。コミュ障にこの仕打ちはマジでやめてほしい。腹が痛くなってくるから。
「…その背の刀、何?」
「江雪左文字、というらしい。僕が初めて降ろした刀だ」
後の細かいことは知らない。
「で、お前らは"誰"だ?」
殺気立ったのが一人。顔をしかめたのが二人。ケモ兄さんはあからさまに顔を歪めている。そして、反応が薄いのが一人。
「僕がちゃんと知ってる刀剣はへし切長谷部と蜻蛉切くらいなんだよ。まあ、付喪神としての姿を知ってるわけじゃないが」
そして、実物の刀剣を見るのも江雪が初めてだ。当然目の前の五人が誰かなどわからない。聞いてもわからないかもしれないが、名前だけでも知ってるのと知らないのとじゃ大違いだ。…あの人の名も知らないしな。
「…名乗る気もない、ってか?」
「…俺は同田貫正国だ」
一番反応の薄かった刀がそう名乗る。確か、彼は負傷者の中にいたような気がする。同田貫に続くように残りの四人も名乗る。
ケモ兄さんが小狐丸。さっき俺に刀のことを聞いてきたのが大和守安定。顔しかめてたのが和泉守兼定。殺気立ったのは蜂須賀虎徹。
…正直、一発じゃ覚えられない。デバイスにデータ登録しておこう。…覚えてもすぐ忘れるんだろうけど。
「僕は、君を主とは認めない」
蜂須賀が怒り心頭という顔で私を睨みつけて言った。
「元々、んな初対面で認められるもんだとは思ってねーよ」
明らかに気に入らないって視線を向けられてるしな。
「俺は己に課せられた仕事を果たすために此処にいる。…手を貸してくれる気もない、ってことでいいのか?」
返事はない。…文字通り、伝えただけっぽいな。アフターケア…いや、この場合ビフォアケア?はなかったらしいな。せめて引き継ぎの了承くらいはさせとけよ。俺この状態からスタート地点に立てる気すらしねぇぞ。
溜息をついて私は立ち上がる。
「…まあ、手を貸していいって気になったら言ってくれ」
「何処に行くつもりですか」
「仲良くする気のないやつと一緒にいたってどっちも疲れるだけだろ」
というか、俺がストレスで死ぬる。
部屋から出ようとしたところで眼帯のお兄さんと小学校高学年か中学生程度の黒髪の少年と行きあった。眼帯は比較的敵意を感じないので聞く。
「俺は何処を使えばいい」
「留まる気があるのかい?」
「一度審神者になった以上、簡単には辞められねぇからな。辞めるにしても上に申請して受理されなきゃなんねーだろ。お役所仕事でどれだけかかるもんかね」
採用されてから外出制限とかあるって知ったからな。そりゃなかなか人集まらねーよ。
「…ふぅん。とりあえず、西の離れを使えばいいんじゃないかな」
「そうか」
西の離れ、か。馴染みのある響きだ。
「なぁ、あんたの仕事って何だ?」
「"歴史修正主義者"とやらの討伐…お前らのやってた仕事と変わらないはずだが?」
「自分一人でできるとでも?」
「まあ、無理だろうな」
戦う術なんてもの、習ったこともない。
「だが、誰かがやらなきゃならないことだ」
だから俺みたいなのが此処にいるんだろう。
「やれるだけのことはやるさ」
だが、今日はとりあえず拠点を整えることからかな。
西の離れとやらは茶室風の二間だった。囲炉裏はあるが、此処だけで暮らすのは無理だろう。とりあえず、内部の空間情報をデバイスを使って書き換える。まず水回りを用意し、囲炉裏の位置をずらして布団を置けるようにする。
まあ、飯食って十分睡眠が取れればとりあえず死にゃーしない。初めての一人暮らしがこれはハードモードってレベルじゃないが。
「…江雪はどうしよう」
降ろしなおしたとして、あのでっかいにーちゃんと此処で二人で暮らすというのは遠慮したい。かといって、江雪にはあっちにいってもらうってのはどうなんだ?そこはかとなく不安を感じる。
「………悪いが暫く刀のままでいてもらうか」
少なくとも、命の危険がないと言い切れるようになるまでは。守刀というにはでかいが。
「…何か色々考えるの面倒くさくなってきた」
それでも思考を止められないのが俺なのだが。とりあえず、餅を焼いて食おう。
寒い。いや、雪が積もってる以上当たり前なんだが。風邪をひかないことだけ気を付けねーとな。まともに医者にかかるのも難しそうだ。
「♪~」
無音は嫌いだ。何も聞こえないのは…人の気配が感じられないのは、気が狂いそうになる。
「♪~」
…一人は、耐え難い。人間は嫌いだけど。
「♪~」
…簡単に言えば、俺たちの仕事はタイムパトロールみたいなものらしいが、物書き志望の端くれだった身としては、その存在意義に疑問を持たざるをえない。私は多層世界論だし、成功したところで平行世界が一つ増えるだけなのではないだろうかと。まあ、平行世界も無限に分岐していくわけにはいかないだろうし、実際、奴らのテロで細かく現代に影響が出てるらしいのは知っている。全く意味のない行為ではないからこんな仕事が必要になるのだろう。