気が付けば朝になっていた。火にあたっている内に眠ってしまっていたらしい。…まあ、火の中に突っ込まなくてよかったよ。そういうの、洒落にならないからな。
適当に食事と、身支度を整え、軍部の方からの伝達メールに目を通す。早々に担当区域の敵を蹴散らせ、とのこと。無茶を言ってくれるもんだ。そういうこと言うなら、せめて出陣できる状況は整えさせておけ。
「…まあ、偵察ぐらいはしておくか」
確か、審神者が戦場に出るための馬も厩にいるという話だったか。馬に乗ってれば逃げるくらいはできるだろ、多分。
厩の奥に一頭だけ雰囲気の違う馬がいた。…いや、大きさ的にはポニー?僕の体躯は小さいから助かるっちゃ助かるんだけど。とりあえず、鞍と鐙だけ付けさせてもらう。そして、乗ろうとしたら首根っこを掴んでぽーい、と馬に背に乗せられた。
「あ、ありがとう…」
賢い馬…否、UMAだな。
「早速だが、連れて行ってくれるか?」
UMAは俺に答えるように一声嘶くとゆっくり歩き出した。
僕は地元以外に土地勘のある場所などない。正直、地歴は苦手だ。嫌いではないのだが。まあ、そういうわけで僕は何処とも知れない土地を馬で駆けていた。まあ馬は道を知っているようだが。
暫く走ったところで、馬が唐突に足を止める。
「…この先にいるのか?」
視覚処理をいじり、遠くまで見えるように補正をかける。
遠くに骨のような…妖怪のようなものが見えた。
「…アレが敵か」
なんだか、拍子抜けした。敵もまた、刀剣だという話だったが…アレなら、敵と味方を取り違えることはあるまい。
敵は一体。手元には刀が一本。
「…何事も実践あるのみ、か」
俺は江雪左文字を抜く。
「いくぞ」
イメージするのは、あの人の踊るような太刀捌き。馬は敵に向かって駆ける。強化外装《きぐるみ》が僕のイメージを読み取って動きを補助する。
一刀のもとに、敵は真っ二つに断ち切れる。
「…流石、名刀だな」
切り捨てた敵は、黒いもやのようなものになって塵も残さず消える。どうやら、尋常の生き物でないのは確からしい。
「単独なら俺でもなんとかなる、か」
まあ、馬がいてこそだろうが。
「暫く、ノルマ達成のお伴を頼む」
とにかく、日に敵の部隊を10、主力部隊を1つは倒さねばならないらしい。ノルマをこなさねば資材の供給が差し止められるとかなんとか。それは多分、困るので、最低限のことはするつもりだ。鍛刀とか遠征とかのノルマもあるらしいがそっちは知らん。
敵短刀なら、二体くらいまでは一薙で断つことができるようだ。まあ、射程範囲内にいれば、だが。
ひたすらに敵を斬っていると、何度か己の躯が己のものでないような感覚に襲われた。かつ、その時は常よりも動きが"しっくりくる"。多分、江雪左文字を振るう上で、それが正しい動き、間合いなのだろう。まあ、あの人は江雪左文字ではないんだしな。当然のことか。
刀は皆同一規格で作られているわけじゃないし…例え、あったとしても時代によって変わったりするだろう。体格によって扱いやすい大きさは違うだろうし。
「残念だが、武道の心得のない俺じゃ、お前を生かしきれないよな」
見よう見まねをしようにも、あまりちゃんと見たこともないからな。ちゃんと降ろして戦ってもらう方が多分いいんだが、あまり本丸の刀剣を刺激したくない。慎重に動くに越したことはないだろう。
『…刀は、抜かれぬのが一番良いのです。抜かれぬように手を尽くすことが、私たちのすべきことではないでしょうか…』
「…お前、そういうスタンスなのか」
難儀な性格してるな、こいつ。
「まあ、例えば、話し合いで解決できるならそれに越したことはないんだろうが、アイツらに関しちゃあ、意思の疎通も難しそうだ」
っていうか、あの敵の剣って人語を解すんだろうか。
『問答無用に斬り捨てているではありませんか』
「俺、痛いの嫌いだし、体張って試したくねーもん。つぅか、そういう余裕とかねぇだろ」
見敵必殺、っつーか。
『・・・』
溜息を吐かれた気がする。いや、自分が大事じゃない人って少数派だと思うよ?
「…人間は、わかりあえない。だから、簡単に争いが起こるし、少しでもわかりあうための努力と歩み寄りをしなければ争わずに共にいることはできないんだ」
『…そう言う割に、あなたは彼らに歩み寄ろうとはしていないようですが』
「ん?…ああ。俺には、こちらに歩み寄る気のないやつと積極的に仲良くしようと挑めるような強固なメンタルはねぇからな。あんな敵意バリバリな内は近付きたくない。どうせ、せっついても逆効果だろ。時間かけねーと」
メンタルケアとか俺の領分じゃねぇんだけどな。本当、そういうのはもっとコミュ力の高いやつに頼めって話だよな。俺のコミュ力なんて底辺突き抜けてマイナス突破してるぞ、多分。