焦土に立ち尽くすもの   作:ペンギン隊長

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戦場という場所、前後 別視点


白と黒

 

 

 

 

新しい審神者だという人間(推定)がやってきて数日になる。といっても、初日以来姿を見せていないのだが。

「…やっぱり、少し心配だよね…」

人間は、食事と睡眠を欠いた状態が続けば死んでしまう。相手の人となりを知らないとはいえ、人が死ぬのはいい気分ではない。

「何がだ?」

「小鳥ちゃん、だっけ?新しく来た子。アレ以来一度も姿を見せていないだろう」

「…ああ、そういえば全然顔出さねぇな。ちゃんと生きてっかな、アイツ」

小鳥に提供した西の離れは、居住スペースとしては使えてもそこだけで全てが賄えるようにはなっていないはずだ。当然、共同スペースに出てこねばならないはずなのだが。

「あの子、ちゃんとご飯食べてるのかな…」

「…気になるなら、差し入れでもすればいいんじゃないか?」

「…そうだね。おむすびくらいなら食べてくれるかな」

いそいそとおむすびを用意し始めた光忠を見て、薬研はこっそり溜息をついた。

 

 

 

自分も小鳥と直接話したいという鯰尾を加え、三人で離れに向かう。

「小鳥ちゃん、ちょっといいかい?」

返事はない。寧ろ、人の気配がない。入ってみるが、誰の姿もなかった。そして中は大分様子が変化していた。

「…こりゃ驚いたな」

「西の離れって、こんな建物だっけ…?」

「田舎の方の、農家の小屋、みたいだね」

しかし、何故姿を見せなかったかはわかった。その必要がなかったからだろう。最低限暮らすだけの設備が整えられている。…冷蔵庫の中身は餅と菓子らしきものと飲み物だけだったが。

「…自活能力に乏しいのかな」

「こりゃひでぇな…」

「――意欲がないだけで料理ができないわけじゃない」

「そ、そうなんだ…」

小鳥は何やら怪我を負っているようだった。刀剣で言えば軽傷から中傷といったところか。

「…って、どうしたんだい、その怪我。誰かに襲われたりしたの?」

「誰かって誰だ。それより、お前ら俺に何か用でもあったんじゃないのか?」

小鳥はこてりと首を傾げる。

「手を貸しに来た、というわけでもなさそうだな」

「…あんたまさか、一人で遡行軍と」

「人間、やればできるもんだな」

そう言って肩をすくめ、「私が死んだとでも思ったか?バカめ!そう簡単に死ぬ俺ではないわ!」と言って中指を立てた。随分奇矯な人間らしい。

『…下品ですよ』

「そうか?」

「…随分元気そうだな」

「そうだね…」

「…だが、傷の手当てくらいはしたらどうだ?」

「俺は他人の前で服を脱ぐ趣味はない」

「…その下、裸なのか?」

「一応二枚着ている。寒いし」

「じゃあ手当してやるから脱げよ」

「遠慮する」

「俺が信用…できるわけないか。お互い全然知らない同士だもんな」

「…いや、信用とかじゃなくて俺、家族じゃない他人に顔とか肌とか見せるの嫌なんだよ」

「それは信用できないってことなんじゃないのか」

「さあ。他人を信じるってことは随分前に辞めたからな」

小鳥の表情は読めない。

その時、鯰尾が脇差を一口持ってくる。

「新人さん、この脇差…!」

「ん?その刀がどうかしたのか?」

「こいつ、俺の兄弟刀なんです。降ろしてくれませんか?」

「わかった」

小鳥は脇差を受け取る。一瞬にしてまとう雰囲気が変化する。清浄な、神聖な気配。

見覚えのある刀剣男士が小鳥の前に降り立つ。

「骨喰藤四郎だ。…すまない、記憶があまりないんだ」

「兄弟!」

鯰尾が骨喰に抱きつく。

『この悲しみの地に立つ、新たな刀が来ましたね』

「そのコメントは色々とどうかと思うぜ、俺は。…しかし、骨喰は記憶が怪しいのか。仲間だな」

「あなたも昔の記憶を喪っているのか?」

「知識は問題ないんだが、記憶は酷い時は五分ともたないからな…昔のことなんて殆ど忘却の彼方だ」

小鳥はそう言って肩をすくめた。

「ところで新人さん、足元に血だまりが出来てるみたいだけど…大丈夫なの?」

「え?…うわ、本当だ。…血の染みって落ちにくいんだよな…」

「いや、そこじゃねぇだろ」

薬研は思わずツッコミを入れて溜息をついた。

「光忠、抑えろ」

「ちょっとだけ大人しくしててね、小鳥ちゃん」

「?!」

「刀は俺が預かりますねー」

「…俺も何か手伝った方がいいか?」

「多分どっかに救急箱があるはずだから取ってきてくれるか?」

「わかった」

「あ、俺も手伝うよ」

「これどうやって脱がせりゃいいんだ?」

「このファスナーを下ろせばいいのかな?」

きぐるみを脱がせたところで二人は言葉を喪う。明らかに大きさがおかしいのもあるが、小鳥(本体)はあまりにも華奢で儚げな人間だった。太刀を振るうことさえ難しいように見える。

「(あうあう)」

「…随分、大将とは違うタイプの人間だな」

「短刀の子達よりも幼いくらいの年かと思ったけど…そうでもないのかな?」

ぽろぽろと小鳥の瞳から雫が溢れる。

「え、んな泣くなよ。美人が台無しだぜ」

「何処か痛むのかい?大丈夫?」

「う、うぅ…見せるの、やだって、いったのに」

「「・・・」」

とても、嗜虐心が刺激される。端的に言うと、いじめたい。しかし、酷い絵面である。

「救急箱あったよ。…って」

「主、泣いているのか?」

『(深い溜息)』

「…すげー美人」

「…って、手当てするために脱がしたんだった。怪我してるのは何処だ?」

 

 

小鳥は貧血により失神した。

小鳥の負っている傷は、ぱっくり斬り裂かれた傷が幾つかと打ち身と思われる痣だった。どちらも、刀剣であれば手入れを受ければ一日もかからずに治る程度の傷である。しかし、小鳥は人間だ。手入れでぱっと治すというわけにはいかないだろう。

薬研が手当をしている最中に小鳥は意識を取り戻した。

「…私のことなど、放っておけばいいだろうに」

「あんたが戦ってるの、俺たちの為なんだろ?」

「さてな。俺は与えられたノルマをこなしているだけだ」

小鳥は手で目元を覆う。

「俺には、正しいと教えられたことをすることしかできないからな」

そのセリフには、小鳥の抱える歪みが現れていた。

根深く刻まれた呪いと祝福。いずれに神のものともしれぬそれが小鳥という人間の根幹にまで影響しているのだろう。

「主の代わりに戦うために俺たちがいるのではないのか?」

「こいつらは俺が降ろしたわけじゃないからな」

「彼らにとってあなたは主ではないということか」

「ああ」

言いにくいことをはっきり言う主従だ。

「とにかく、怪我が治るまでは大人しくしているんだよ。ご飯もちゃんと食べなきゃダメだからね」

「…食事なんて最低限カロリーと水分を摂取できれば用が足りるだろ」

相当ダメな部類である。案の定光忠が眉をしかめた。

「そんなことを言ってるから君は細いんだよ。もっとちゃんと食べて肉をつけなきゃダメだよ。不健康だし」

「…元々、僕に胸を張って健康優良児を名乗れた時代はねぇから、今更健康がどうとか言われてもな…」

「小鳥ちゃん」

光忠が溜息をつくと、小鳥はびくりと肩を震わせた。

「君が審神者だというなら、己の体調管理もちゃんとできなきゃダメだよ。審神者は刀剣男士を降ろすだけじゃなくて、指揮もするんだからね」

「…倒れるようなヘマをそうそうするつもりはない」

「倒れることを心配しなくていいようにするのが普通なんだよ」

「なんか、小鳥さんって見た目儚い系美人だけど、中身はすごく男らしいよね…」

「俺が美人?…目ん玉腐ってんのか、芸術品」

小鳥はとても嫌そうな顔をした。

 

 

 

光忠が焼きおにぎりにしたおむすびを小鳥は大人しく食べていた。基本的には素直な人間らしい。

小鳥の収集してきた刀は大半が短刀だったが、幾つか打刀や脇差も混ざっている。その中には、既に本丸にいる者、かつて失った仲間もあった。

「別に、そこに置いておきたくないというなら向こうに持って行って構わない。俺は今のところ江雪以外の刀を振るう予定はないからな」

「…小鳥ちゃんの体格なら脇差の方が扱いやすいと思うけど」

「どうせ、強化外装《きぐるみ》がなきゃ振るえないし、間合いを変えてすぐ適応できる程器用じゃない」

「…そもそも、他の刀も降ろして己で戦わせればいいんじゃないのか?」

「…これ以上状況を複雑にしたくない」

一応、小鳥なりに考えての行動だったらしい。…普通は、彼らとの和解を試みるものだと思うが。

「これからは俺も共に戦場に出る」

「その前にドクターストップならぬ光忠ストップを解除してもらわなきゃならないわけだが」

「聞かないで出てくかと思ったが」

「僕は別に戦闘狂じゃないし、元々、怪我を押して出ようとまでは思っていない」

『ノルマとやらを達成すればすぐ帰っていましたしね。…主力部隊になかなか行き会えないことはありましたが』

「けど、安全なところだけにしておこう、と思っているわけでもないんだろう」

「自分の実力と相手の力は知っておくに越したことはない」

 

 

 

小鳥が刀の分類を理解していないことがわかったので説明した。

「後、今此処にはいないけれど、大太刀と薙刀は複数の敵に一度に攻撃することができるんだ。それから、槍は相手が刀装を装備していてもそれをすり抜けて直接攻撃を本体に届かせることができる」

「刀装?」

「…刀装ってのは、宝珠に"兵士"の力を宿したもので…装備すりゃあ俺たちの力を高めてくれるし、ある程度攻撃を肩代わりしてくれる。完全に破壊されない限り本丸まで戻ってくりゃあ元に戻るしな」

「つまり、刀装があればある程度は安全だと」

「ある程度はね」

 

 

 

「なんか、小鳥さんって、ちょっと変わってるけど、普通にいい人みたいだね」

「…まあ、悪いやつじゃないだろうけどな」

変わっているというより、無知というのが大きい気がする。

「ところで、あの人が主ではないというのなら、お前たちの主は何処にいるんだ?」

「「・・・」」

骨喰の問いに薬研と鯰尾は沈黙する。

「…主さんは…」

「…大将は今、本丸にはいない」

薬研は、苦い顔をした。

「だから、小鳥は此処に派遣されてきた」

「…そうか」

複雑な事情があることを感じ取ってか、骨喰はそれ以上の追求はしなかった。骨喰には、どのような状況になれば本丸に審神者がおらず、別の審神者が派遣されることになるかという知識はない。おそらく、小鳥も知らないのだろう。

 

 

 

 

 




関係改善前に小狐丸に巫女だと知れると供物認識されて神隠しルート
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