後ろの方に別視点
傷が治りきっていないので今日の出陣はお休みである。かといって、何もしないでぼーっとしているのは頭がおかしくなりそうなので、お菓子作りでもすることにした。といっても、プリンとクッキーくらいだが。
「♪~」
作業に不便なのできぐるみは着ていない。寒いのでマントは着ているが。そもそもキッチンが僕の本体に合わせた仕様になっている。きぐるみだと微妙にサイズが合わない。
「♪~」
クッキーは形を考えるのが面倒くさいのでロッククッキーにした。プリンは…湯呑に入れて蒸そう。
クッキーが焼けるのを待つ間にプリンを作る。そういえば、子供の頃、お菓子作りがテーマの児童書のシリーズとかよく読んでたな。確か、わかったさんだったかな?ちゃんと分量とか手順とか載ってたんだよね。それ見て作ったことはないけど。
「♪~」
ケミカルプリンとカスタードプリンって基本的に別物だよね。大元のプディングから見たら名前しか残ってなかったりするんじゃないかな。…いや、そもそもプディングって蒸し料理の総称だからデザートに限らないんだっけか。
「♪~」
「ぷりんってなんですか?いまつくっているものですか?」
「?!」
いつの間にか知らん子が来てて作業台の上を覗き込んでいた。…いや、多分この本丸の刀剣の一人なんだろうが。小さいからおそらく短刀だろう。
「…あー、うん。今作ってるのがプリン。具が入ってないけど甘い茶碗蒸しみたいなおやつ、かな」
「あまいちゃわんむし、ですか…」
「…食べる?」
「いいんですか?」
「まだこれ完成してないからすぐにはあげられないけどね。蒸してから、冷やして食べることが多いけど、熱々で食べてもそれはそれで美味しいね」
まあ、手作りならではの楽しみってやつだ。
「それはたのしみです!」
一度に蒸せるのは…大きさ的に四個…頑張っても五個が限度かな。大きさの違うカップだと出来具合が変わっちゃうから面倒だし。まあ、蒸す方法なら多少長くやっても大丈夫っちゃ大丈夫なんだけど。そういう意味じゃ、ケミカルプリンの方が失敗のリスクが限りなく低いんだけど。
「…ところで、君、誰?」
「ぼくは今剣、よしつねこうのまもりがたなをしていたんですよ。どうだ、すごいでしょう!」
「よしつねこう…ああ、牛若丸で有名な九郎判官か。そりゃすごいな」
鎌倉時代って何年前だっけ。イイクニ作ろう、だから、えーと、1192年?とすると…大体1000年ちょっと前、ってことかな?
「えへへー」
なんだこの可愛い生き物。なでなでしてやりたい。…いや、なでなでは拙いか。
「小鳥さん」
「…えーと、鯰尾、だったか」
「はい、鯰尾藤四郎です。今日は弟たちも来てるんですけど、いいですか?」
何が?
「…。まあ、喧嘩したり暴れたりしないなら」
…何か、プリン食えないフラグ立った気がする。
「僕は、乱藤四郎だよ」
「秋田藤四郎といいます」
「ぼ、僕は、五虎退といいます」
「俺は獅子王。よろしくな!」
「…あまり似てない兄弟だな。いや、うちの弟は二卵性の双子だからか全然似ていないから、兄弟でも似てないパターンがあるのは知っているが」
妹も子供の頃は双子?とか言われることもあったけど今じゃそこまででもないからなぁ。
「主、獅子王は刀派も別の太刀だ」
「おう。藤四郎兄弟には一口だけ太刀がいるらしいけど、俺じゃないし、そもそもうちの本丸には来てないぜ」
「へぇ。ってことは、藤四郎兄弟は兄弟が多いんだな」
此処にいるだけでも四人…いや、五虎退も訂正入らなかったから入るのかな?でもって、薬研も藤四郎っつってたから、少なくとも七人兄弟か。…俺ら姉弟より多いな。
「…しっかし、俺に何か用があって来たのか?」
「用、っていうか…」
「あの、小鳥さんは主君が何時帰ってくるのか、聞いてませんか?」
「…知らん。そもそも、僕はそいつが誰かも今どうしてるかも知らん」
というか、俺は一時的な配属として此処にいるのか?そいつが死ぬか再起不能になったかして戻らないから何も知らされてないんじゃないのか?一時的なもんならそうあらかじめ言うだろ、多分。少なくとも、復帰の目処がつけられない状態なんじゃなかろうか。
「そうですか…」
「なあなあ、何か甘い匂いがするけど、何か作ってるのか?」
「ああ。クッキーとプリンをちょっとな…」
…と、クッキーはそろそろ焼けるところかな?
ちゃんと焼けたっぽいのでオーブンから取り出して皿にざざっとあける。さて、第二陣を焼くか。
「何か甘そうな匂いの…砂岩?だな」
「ちょっとなら食べてもいいが先に手を洗えよ。後、焼きたては熱いから気をつけろよ」
「僕たちも、食べていい?」
「ちゃんと手を洗ってからな。喧嘩はするなよ」
「主が自分で食べるために作っていたのではないのか?」
「まあそうだが、大した手間でもないからな。あまり日持ちするものでもないし、元々暇潰しみたいなものだ」
手作りお菓子の消費目安はまあ、一週間程度だ。ちゃんとラップして冷蔵庫に入れる前提で、生ものを使っていない前提でだが。
それに、今剣にプリンあげるっつっちゃったし、他のはダメ、ってのは変だろう。何が違うわけでもないんだし。
「お前も興味があったら味見していいぞ」
…っと、そろそろプリンが蒸しあがるかな?」
「これがぷりん、ですね!」
「火傷しないように気をつけろよ。ほら、スプーン」
「あ、ずるーい、僕もそれ欲しい!」
「俺も!」
「僕も、食べてみたいなぁ…」
「…僕も、気になる、けど、迷惑ですよねぇ…」
「俺も気になるなー、小鳥さん」
うん、まあ、そうなる気はしてた。
「今できてるのは後三つだからジャンケンしてくれ。残りは今から蒸すから」
骨喰も加えたら、丁度四つ作れば全員行き渡る数か。…余りが出ないから残らないが。
「たしかに、あまくてぐのないちゃわんむし、ってかんじですねー」
喜んでもらえたようでなによりだが大人しく座って食べたらどうかね。
別に餌付けするためにお菓子作ってたわけじゃないんだがなあ。
「ぷりん、おいしいですねぇ…」
「ああ、気に入った」
「これ、俺でも作れるかな…?」
「そもそも君、料理したことあるの?」
「小鳥さんって、料理が上手なんですね」
「ぷりん、またたべたいです」
「僕も、また食べたいなー」
「光忠に頼めば普通に作ってくれるんじゃないか。レシピはぐぐればすぐ出てくるし、混ぜて蒸すだけだし」
蒸し焼きとか冷やし固めるとかパターンもあるが。
「後、俺別に料理上手じゃねぇから」
可もなく不可もなく、の無難な感じだから。大体料理なんてレシピ通りにやれば一応食えるもんはできるもんだからな。そこからアレンジ加えても美味い料理が作れるやつを料理上手って言うんだよ。
小鳥は善人だ。変なやつだけどそれは確かだと思う。だから、どっかの神様に呪われ祝福されているんだろう。
気に入った相手に傍に居て欲しいって思う気持ちは俺にもわかる。俺たちは刀剣だけど、付喪神《かみ》でもあるから、気に入った審神者《にんげん》を最終的に"神隠し"することがないわけじゃない。まあ、色々と面倒な手順を踏まないといけないんだけど。
刀剣男士は式神と同じで、降ろされた時点で審神者と主従の契約を結ぶことになる。基本的には、主に危害を加えることはできない。主が受け入れない限り、"隠す"こともできない。
まあ、小鳥は俺たちの主じゃないから、その気になれば俺たちの意思だけで"隠せる"んだけど。
「なぁ、鯰尾は小鳥のこと、どう思う?」
「え?うーん…"いい人"だよね。ちょっと変わってるけど美人だし、居ても不快じゃない」
「…短刀たちは主は戻ってくるもんだと思ってるみたいだけど、小鳥を寄越したってことは、戻ってこないってことなんじゃないか?」
この本丸で最も強い二口の太刀は、あまり審神者の声に応えない、珍しくて強い刀剣なんだって聞いたことがある。だから、あの二人を刀解するのが惜しくて、この本丸は解体されないんだろう。
「…主さんは、ちょっと疲れてて、休みが必要なだけなんだ」
「あの人がいた時は、寧ろ俺たちがへとへとだったけどな」
主は、元々はやさしくていい人だった、らしい。俺が初めて会った時にはもう、刀剣をこき使うやなやつだったけど。戦いに出してくれるのはいいけど、疲れても怪我してもなかなか休憩させてくれなかったんだよなぁ。まあ、この本丸にいる太刀って、俺を含めて七口だけだからな。何か二口ぐらい折れたけど過去にいたことがある刀もいるらしいけど。
「それは…」
「主にするかはともかく、俺はあの人より小鳥の方がいいな」
どっちも深くは知らないけど、今のところ小鳥の方が思う通りに動かさせてくれそうだし、甘そうだし。俺らのこと大切にしてくれそうだし。
「…それは、獅子王は"変わってしまってから"の主しか知らないからだよ」
「ああ、そうかもな」
古株の刀剣が若干頭おかしい感じなのも、あの人が元はそんな悪い人じゃなかったから、なんだろう。元に戻って欲しい、何らかのきっかけで元に戻ってくれる、そう思ってるんだろう。…そう思ってる間にいなくなっちゃったわけだけど。
「アイツらは嫌な顔するかもしれないけど、俺は小鳥に協力してもいいかな」
「でも、それって主に対する裏切りになるんじゃないか?」
「刀は主をなくせば共に
「主はっ…ちゃんと、戻ってくるはずだよ…」