他メンのびぃえるもなくはない
吸血が親愛判定されるのと同じようなもん 経緯が経緯なので前主はネコ。宗三がタチ
有り体に言うなら、迷った。
本丸にいる刀剣の全員と和解したわけではない(どころか顔を合わせてすらいないのもいるくさい)ので、あまり変なところに入り込みたくないのだが、何か気がついたら現在地がわからなくなっていた。
「…いや、そもそも俺は何をしに来てたんだっけ?」
何かしら、やること、やるべきことがあるんじゃなかったっけ。違ったっけ。うーん…。
「――そこにいるのは、どなたですか?」
障子が開いて、白い手が覗く。
「え、あ、えーと…初めまして?」
「…ああ、あなたが噂の小鳥、ですか。…僕は宗三左文字といいます」
「左文字ってことは、江雪と小夜の…」
兄弟、ではないんだっけ?…藤四郎組はお互いを兄弟として扱ってるっぽいけど。不思議だよなあ。
「ええ、同じ流派の刀ですね」
…小夜も江雪もなんかこじらせてる感あるけど、こいつもそうなんだろうか。
「小鳥、と名乗っているそうですが…あなたも籠の鳥、なのですか?」
「(も?)俺は別にそういう意図で名乗ってるわけじゃないが」
まあ、元引きこもりニートだし、否定しきれないかもしれない。
「…細い腕ですね」
「え、お、おう…」
「このような細腕で、本当に刀を振るえるのですか?」
「…向いてないのは知ってるよ」
というか、着ぐるみがなければ無理だし、UMAがいなくてもキツイと思う。
「この手で、江雪を振るっているのですか?」
「え、えっと…?」
ぐい、と手首を引かれた。そのまま宗三の胸元に倒れこむ。
「あなたは、僕より貧弱なんですね」
「…まあ、否定はしないが…」
あの、これ一体どういう状況なんです?僕は一体どう反応すればいいんです?
「戦えぬのであれば、大人しく籠の中で守られていれば良いのではありませんか?」
「できることがあるのなら、それをしないのは僕の流儀に反する。俺は弱いし。戦うのは好きじゃないが、自分の選んだ事の責任ぐらいは自分で取る」
「それはご立派な考えですね」
そこはかとなく、見下されてる気がする。悪意も敵意もなさそうではあるんだけど。
「…そろそろ、離してほしいんだが」
「嫌です、と言ったら?」
「…困る」
そもそもこいつ、何が楽しくて僕を掴んでるんだ。何も面白みなんてないだろうに。完全に力負けしてるしな…。
「そもそも、最初から不用意に僕に近づくべきではなかったんですよ、あなたは」
視界が反転する。床に押し倒されたのだと気付くまで数秒かかった。
「…えっと…?」
「あなたは、とても"美味しそう"ですね」
「お、美味しそう…?」
ちょっと、何を言ってるのかさっぱりわからないが、あの、もしかして俺、捕食されそうになってるんですか。なにそれこわい。
「刀って、ヒトを食べる、のか?」
「…うぶなんですね、あなたは」
「違うのか?」
「僕は、妖刀というわけではありませんからね。…寧ろ、天下人の象徴、といっても良いのですよ?」
すごくどうでもいい。しかし、天下人の象徴ってことは、三英傑の使ってた刀、ってこと、なのかな。…あんまり強そうじゃないけど。
「あなたのようなものが戦場で散るのは、惜しい。戦えるものは幾らでもいるのですから、そちらに任せれば良いでしょう」
「そう簡単に、散る気はねぇよ」
宗三は俺の髪をひと房手に取って、口付けた。
「辛い現実《ゆめ》を忘れたいのであれば、僕が忘れさせてあげます」
「…寧ろ俺は、必要なことまで忘れちまうことの方が困ってるんだが」
…俺は、何でこいつに押し倒されてるんだろう。さっぱりわからない。
「…忘れたいのは、お前なんだろ?」
「…ええ。僕も、あなたも、紛い物の籠の鳥です。ですから、一時でも他のものなど全て忘れてしまいましょう?」
宗三はそう言って、僕の耳を食んだ。
「?!」
「あなたは、主と違って
「おっ、落ち着け、全て忘れて夢中になれることなんて、探せば他にもあるだろ、なんかもっと健全なこととか!」
「人に触れるのも触れられるのも、刀剣《ぼくたち》にとってはとても心地よく喜ばしいことなんです。なら、双方が気持ちヨくなれる方が良いでしょう?」
「理屈はわからないではないけど、僕
「僕は慣れていますから、大丈夫ですよ」
「全然大丈夫じゃないよ?!」
「経験のないことで恐ろしいんですか?気持ちよくなるまでじっくり相手して差し上げますから、安心してください」
「ふっ、ふぇえ…」
全然会話が噛み合ってない。どうしろと。腕力で勝つのはまず無理だぞ。
宗三は俺の頭を押さえて首筋に舌を這わせながら俺の服に手をかける。自由になった腕で防御しようとして、僕は胸元にしまいこんでいた懐剣代わりの短刀のことを思い出す。
「…やめろ」
「その短刀で僕を刺すのですか?…刃が震えていますよ」
「仮にも、味方ということになっている者の血でこいつを汚したくない」
「甘いですよ」
短刀が弾き飛ばされる。
「振るわれない刀など意味がないと、そうは思いませんか?籠の小鳥さん」
「だからって、無闇に振るえばいいわけじゃない」
後、俺は籠の小鳥じゃない。
「あなたからは、我欲も、利己心も、野望も…否、そもそも己の確固たる意思というものが感じられない。抵抗する気がないのなら、大人しく僕に身を任せれば良いでしょうに」
「生憎、己の体力のなさは自覚しているからな。効果がないとわかってることはしない」
というか、詰んだくさい?どうすればいいんだ?…金的か?
「――日も落ちていない内から何をやっているんだ、君は」
…えっと、誰だっけ。顔を合わせたことはあると思うんだけど。
「…散る花の風情というのは、わからないではないけど、手折るのならもう少しやり方を選んだ方がいいんじゃないか?」
「初めてなら、しっかりその身と心に爪痕を残してさしあげたいじゃありませんか」
「趣味が悪いな。…それに、短刀《こども》の前でも続けようというのも趣味が悪い」
青年は短刀を拾って鞘に戻す。
「中の状況を理解できるまで聞き耳をたてていたあなたも十分趣味が悪いと思いますが」
「合意の上なら、邪魔をするのも悪いだろう。俺はそこまで野暮じゃない」
「合意してないけどな…」
そもそも俺は性行為にはさして興味がない。何が楽しくて特になんとも思ってない相手とやらねばならんのか。
「僕の手が届くところにやってきて逃げる素振りも見せなかったのはあなたでしょう」
「近づかないと見えないし、危害を加えようとしてくる感じでもなかったからな」
…あ、思い出した。眼鏡を探そうと思ってたんだった。見えないと余計に迷うんだよなあ。目印になるものが見つけらんないから。
「…君の中では
「俺をそういう対象として見る者がいるとは思わなかった」
「・・・」
溜息をつかれた。解せぬ。
「…まあ、現代においては、衆道の文化は廃れてきていると、主も言っていたが…」
ん?…お、おう。…おう。…なんか、偶に話が噛み合ってないことの原因の一つがわかった気がする。…訂正しないけど。身の危険を感じる。
「いつの時代も、美しいものは愛でられるものだろう」
否定はしないが話の繋がりがわからないのだが。
「僕はいつも、愛でられる側でしたがね」
顎を撫でるな。尻も撫でるな。
「俺は別に愛でられる側じゃないがな」
「「・・・」」
何故揃って溜息をついた。俺何か間違ってるか?
「どうにも、君の無知は度を越えているんじゃないかと思うんだけど」
「ふふ、無垢な子供であれば好きな色に染め上げる楽しみもあるといいますが…その年で
「なんかすごい馬鹿にされてる気がする」
釈然としない。
「歴史は専門じゃないが本なら沢山読んでいるぞ。小説とか生物学とか数学とか民俗学とか哲学とか」
「本を読めば何でもわかるというわけではないだろう」
「百聞は一見に如かず、というからな。実際体験した方が理解できるだろうね、そりゃあ」
僕の場合、経験は割とサクッと忘却してしまうのが困りものなのだが。知識へと昇華できなければ、それまでだ。
「箱入り、ですかね」
「だから、獅子王とそれなりに気が合うのかもな」
「…社会経験に乏しいのは否定しないが」
バイト経験のない元ニートだしな。大学にも行ってないし。一時期幽霊並みに世間との繋がりをなくしてたし。
「ところで宗三、そろそろ小鳥を放してやったらどうだ?」
「…江雪、お前の上の弟なんか怖いんだけど」
『私に兄弟などおりませんが』
「…あ、うん」
『ところで、また眼鏡は見つけられなかったのですか?』
「…あ、忘れてた」
『…あなたの忘れっぽさにも、困ったものですね』
「目の前にないもののこと始終考えてらんねぇもん」
メガネはないと困るが、なくてもある程度はなんとかなる。なくても死にゃあしないし、多分。
『…宗三は、あなたに何をしたのですか?』
「んー…なんか、男同士という前提の元で押し倒された」
『?!』
動揺したのか、江雪が念仏を唱え始めた。江雪がこんな反応するのって初めてのことじゃね?全くもって意味がわからないけど。
暫くして落ち着いたのか、江雪の念仏が止まった。
『…不用意に、近づかないように』
「うんなんかそれ本人にも言われた気がする」
兄弟だから考えが似…いや、兄弟じゃないんだっけ。
『…そもそも何故押し倒されることになったのです』
「俺には何がなんだか…やたらと籠の鳥同士扱いされたけど」
『…ああ、可哀想に』
「江雪はわかるのか?」
『わかりません。ですが…彼は先の主から魔王の手に落ちた後、人に求められはしても、飾り物のようにしか扱われなかったようですから…』
「魔王って、第六天《のぶなが》?…しかしそれで、天下人の刀とか言ってた割に貧弱な感じだったのか」
まあ、それでも俺よりは素の力があるんだが。…いや、そもそも俺が短刀に負けそうなレベルだからなあ。