「主が死んだ」
久方ぶりに表に顔を出した三日月の言葉に、場が騒然となる。冷静なのは江雪と小鳥ぐらいのもので、その言葉を理解できないものも混乱の中にある。
「…三日月、冗談でも言って良いことと悪いことがあるのじゃぞ」
「冗談ではない、事実だ。結局、最期まで名乗らせることができなかったので掴めず仕舞だ」
欲しかったのだがなあ、と三日月が呟く。
「そんな、ことが…」
「お前も気付いていよう?繋がりが完全に途絶えてしまっていることに」
「・・・」
それは、事実だった。覆すことのできない純然たる事実。
「…さて、もう待てども主は帰らぬことが定まってしまったわけだが、お前たちはどうする?」
いっそ朗らかに、よく通る声で月は問いかける。
「主に殉じて、今の己を無に帰すか、小鳥を次の主として存在を保つか。二つに一つだ、よく選べよ」
そう言って小鳥に歩み寄る。
「そなたもそれでよいな?」
「それは、"俺の刀"ではない者と改めて契約を結びなおすか、刀解するかをすれば良いということか」
「流石、情に流されないだけあって話が早い。そういうことだ」
三日月は小鳥の手を取って指先に口付けた。それが、彼の意思表示となった。
「俺は小鳥を主にするぜ」
「そうか」
「なんだよ、少しくらい喜んでくれたっていいじゃんか」
「何故だ?」
「何故って…」
獅子王は言葉に詰まる。小鳥は僅かに首を傾げた。
「獅子王はそうするのだろうと思った。予想通りだ」
「…まあ、俺が一番に小鳥についたからな」
獅子王は少し照れくさそうに笑って、小鳥の手を取る。
「俺の名は獅子王。改めてよろしくな」
「よろしくする」
「あなたを主と呼ぶ気にはまだなれませんが、三日月をあなたの傍に残して、私はいなくなるというのはなかなか不吉な予感がいたしますので」
「そうか」
小狐丸は小鳥の鼻梁に口付けた。それに対する小鳥の反応はない。
「…少しは何か反応してはどうですか」
「何か、とは」
「…あなたにはまだ難しい要求でしたか」
「俺は主を変えるつもりはない。主が冥府へ向かったというなら、俺もそれに続くだけだ」
「そうか」
長谷部を刀解した後、小鳥は江雪に問う。
「人が死んだ後に行く場所と、刀解された刀が向かう場所は同じなのか?」
「…さあ。しかし、おそらく…同じでは、ないのでしょうね」
「そうか」
「もし僕が刀解されたとして、また別の僕があなたの元に侍ることになるのでしょう?」
「そうならないとは言わない」
「それは何となく嫌なので僕も残ることにします。…小鳥のことは嫌いではありませんし」
宗三はそう言って小鳥についばむように口付ける。小鳥が抵抗せずされるがままになっているので、宗三はそのまま押し倒そうとするが渋い顔をした江雪に止められる。
「…宗三左文字」
「…ふふ、冗談ですよ、"兄上"。いくら僕でも、観客《あなた》に見守られながら主を抱く趣味はありません」
「このまま、僕を引き継ぐよりも新しい僕と契約を結びなおす方が君のためだろう。僕と清光に関しては刀解してくれ」
「そうか」
「…惜しんではくれないんだね」
「俺に君たちの選択を左右する権限はない」
「…そう。新しい僕らのことは、大切にしてやってくれよ」
「わかった」
本当にわかっているのかいないかは不明だが、小鳥は平然と頷く。安定はそれに少し安心したような顔をした。
「まだあんたを認めたわけじゃないが、国広を残していく、ってのも心配だからな」
「そうか」
「…何だそのあっさりした返事は」
「何だ、と言われても困るのだが」
「俺があんたの刀になるって言ってるんだぜ?」
「しかし、認めてはいないのだろう」
「…鈍いやつだぜ」
「?」
「…主に、他者の細かい心の機微を読み取るだけの人生経験はありません」
「あるじさまに、ことりのことをしょうかいしたかったです」
「そうか」
「ことりもきっと、あるじさまのことをすきになってくれたはずなんです」
「そうか」
「あるじさまも、きっと…」
今剣はぐっと、泣きそうになるのを堪える。
「いまは、ことりのことをあるじさまとよぶことはできないですけど、それでも、ぼくがことりのそばにいてもいいですか?」
「構わない」
「ありがとう、ことり」
「…三日月、主様の魂を得たとして、その時おぬしはどうするつもりだったのじゃ」
「そんなものは決まっているだろう?」
にこり、と月が笑う。
「小鳥は巫女だ。巫女はその身に他者の魂を降ろすことができる」
「…自分勝手じゃな」
「そちらは絆されたのか?狐。もしそうなっていれば、お前も反対はしなかっただろうに」
「…哀れんでおるだけじゃ」
俗にそれは憑依転生という