Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
……知らない天井だ。などと、汎用人型決戦兵器が出てくるアニメのセリフが思い浮かぶ。いや、確かに目を覚ましたその瞬間、ここがどこだかわからなかった。けれども、上半身を起こして辺りを見渡したらすぐに、
と。突然、仕切りのカーテンが開く。
「目が覚めましたか」
「バゼットさん!」
いや、驚いた。目覚めたばかりとはいえ、隣りにいることにまったく気づかなかったのだ。さすがに葛木やズーマ程ではないだろうけど、彼女の気配遮断能力もなかなか侮れない。
「精神も肉体も、かなり消耗していたようですね。これがイリヤスフィールならば、精神的未熟さで納得はいきますが」
「それはイリヤに悪いわよ。否定はしないけど」
気を失う前はイリヤも成長したと思ったけど、それはあくまで心構えの問題。戦う者としてはその精神はまだまだ未熟で、気持ちの切り替えは上手く出来ていないんじゃないだろうか。
それにイリヤは逃げ癖があるけど、そうじゃない場合は、逆に何でも
……でも。それは同時にイリヤの美徳だと思っている。だからこそ、自分ひとりで背負い込まず、一緒に
「……リナ?」
「……いいえ、何でもないわ」
黙り込んだあたしが気になったんだろう。あたしも少しもの思いに耽ってしまった様だ。うむ、反省。
それはそれとして、あたしは話を変える。
「それよりも日が暮れてるけど、どんくらい寝てた?」
「大体3時間ほどでしょうか。その間に他の者達から、何があったかはおおよそ聞きました」
そっか。まあ、体がまだ重いし、そんなもんかもしんない。
「それで、他のみんなは…」
そこまで口にして。
がらり
保健室の扉が開く。
「あの、バゼットさん。リナの様子は…ってリナ!」
「よかった。目が覚めたのね」
「おはよ、イリヤ。クロエ。ほんの少し前に起きたとこよ」
入り口から顔を覗かせていた二人に、軽い口調で答える。そして更に。
「まったく、僕たち結構心配したんだよ」
そんなことを言いながら、ギルが顔を出す。
「……ちょっと待て。あたしの意識が途切れる直前、アンタだけあたしの名前を言わなかったじゃない」
「……あ、聞こえてたんだ」
「『あ、聞こえてたんだ』じゃない! あのルビーですら心配してたのに、アンタときたら…」
『ちょっと待ってください。聞き捨てならないですねー。「あの」とはなんですか、「あの」とは』
「ルビーは一度、自分の態度を省みるべきだと思う」
「いや、コイツはその程度で態度を改めないと思うわよ?」
イリクロの会話を聞いて、まったくその通りと思ってしまうが、問題はそのルビーですら心配してたのにって事だ。
「はは…。まあ、リナさんの言うこともわかるけど、リナさんが相当疲弊してたのは気づいてたからね。気を失ったときも、やっぱりって気持ちが強かったんだよ」
「……嘘、ではないみたいね」
「心配してたのも本当だよ? もっとも僕の場合は仲間としてではなく、興味の対象としてだけどね」
ああ。そーいやギルは、[スィーフィード世界]からの憑依転生者であるあたしに興味があったんだっけ。
「……ま、とりあえずは味方してくれるんだから、今はそれでよしとしましょう。それよりリナも目が覚めたことだし、戦略会議を…」
クロエがそこまで言った、その時。
きゅるぐるるう…
あたしのお腹の虫が、盛大に鳴いた。
「……とりあえず、ご飯ぷりーず」
……うう。周りの冷めた空気がイタい。
「……少し早いけどディナーにしようか。出前でいいよね?」
そう言ってギルは、金ピカのケータイを取り出すのだった。
「醤油ラーメン
出前に来た
「さすが早いですね、おじさん。でも、頼んだのは麻婆抜きだったんだけどなー」
ギルがンなこと言うが、「カレーライス、カレー抜き」って言ってるのと同じなんだと思う、言峰にとっては。
なんか、廊下側の入り口の所でイリヤが震えながら見てるけど、まあ、こればっかりは仕方がない。
「税込み5万5千円だ」
……普通(?)の麻婆ラーメンよりも高いだと!?
「そんなもんですか。金貨1枚で足りる?」
いや、明らかにぼったくられてるって。
「……エインズワースの工房に行ってきたよ」
「……丼は校門の前にでも置いておけ」
とか思ったら、ちゃっかり情報のやり取りしてんでやんの。あたしの性能のいい耳は聞き逃しゃしないのだ。
そして立ち去る言峰に、ビクつくイリヤ。ううむ、あの麻婆もあの殺気も、結構なトラウマだったらしい。
「イリヤ。早く食べないと伸びるわよ」
クロエが言うと、イリヤは顔色を変える。
「……ゴメン。わたしいいや。誰か食べ…」
「いいえ、イリヤ。しっかりと食べなさい」
イリヤには最後まで言わせず、あたしは言った。
「え、リナ?」
「アンタ、エインズワースの城に乗り込んで、体力も使ったし魔力も結構消費したはずよ? まあ、魔力はルビーが回復したにしても、それでもやっぱり一度は負担をかけてる分、エネルギー消費はしてるでしょ。だったらしっかりと食べて、その分は回復させるべきよ」
「う…。でも…」
「でももひったくれもないわ。……美遊を、助けるんでしょ?」
「!!」
さすがにイリヤも、今のあたしのセリフでスイッチが入ったようだ。
「ま、安心していいわよ。麻婆はスープにしっかりと溶かし込めば、ふつーの激辛レベルになるから」
「『普通の激辛』ってワード自体が異常な気がするんだけど」
……いやまあ、イリヤのツッコミはもっともだわ。ともかくも、あたし達は普通の激辛ラーメン(笑)を食べて英気を養うのだった。
「さて。食事も済んだところで、今度こそ戦略会議よ」
クロエが教室の黒板の前で言った。あたし達は机を前に席に着いている。いい大人のバゼットさんには非常に窮屈そうではあるが。
因みに眼鏡までかけて先生っぽくしている。まあ、雰囲気作りは大事である。
「まず、状況の整理ね。この世界は私達がいたのとは全く別の…ミユの世界。つまり並行世界って事ね。
おそらく大空洞の周辺、数百メートルの空間ごとこの世界に跳ばされてしまった…と」
「あたしからちょいと訂正」
あたしは手を上げて発言をする。
「推測ではあるけどおそらくは、向こうでのその範囲が元々こちらの世界のものだったんじゃないかしら? 美遊やクラスカードがこちらから向こうへ移動したことを考えると、ね」
「そういえば、向こうでイリヤ達と合流する前、人格破綻者が言ってたわね。誰も入ってない洞窟からミユが出てきた、って」
なんと、そんな会話があったのか。
「確かに、事前に得られた情報と照らし合わせれば、リナの推測は可能性として高いと言えるでしょう」
「……そうね。わたしも異論は無いわ」
バゼットさんとクロエが同意する。イリヤは完全に聞き手に回っているけど。と思ったら、突然口を開いた。
「あの、わたしとリナがこっちに来たときは、周りに誰もいなかったんだけど。……えっと、わたし達は次元の狭間に迷い込んでた時間があるから、参考にはならないかもだけど」
「次元の狭間…って、それはそれで興味あるわね」
……あたしが見た、可能性としての第5次聖杯戦争に、イリヤが見た、並行世界の前世のあたし。確かにどちらも、クロエの興味を引きそうな内容である。
『そちらはもっと落ち着いたときにでも伺うこととしまして。どうやらみなさん、跳ばされてきた時間には数日の誤差があるようです』
「わたしとクロエは2日ほど前に跳ばされてきました。並行世界の移動など、完全に魔法の域。信じ難い状況です」
まあ、バゼットさんの気持ちもわかる。異世界転生者であり、並行世界とも呼べる世界の魔法少女達と会ったことのあるあたしでさえ、その当事者となったらそんな想いを抱いているのだから。
「……まさかミユが並行世界の住人だったとはねぇ」
「彼女からしたら、お姉さん達の方が並行世界の住人だけどね」
クロエの呟きに、机の上に足を放り出したギルが訂正を入れる。
「ギルガメッシュくん! 授業態度が悪いわよ!」
「堅苦しいのは無しだよ、センセ」
クロエが叱り、ギルは軽く受け流す。果たして、仲が良いのか悪いのか。
「……ミユは、敵の工房に囚われてるのね?」
ってクロエ、急にシリアスな話に持ち込んだわね? いや、あたしもよくやるけど。
「お姫様は『完成している聖杯』だからね。エインズワースが手放すわけもない。でも、彼女を聖杯として機能させるには、面倒な手順がいるらしいよ。それがいつ完了するかはわからないけど、そう猶予はないかもね」
……ったく。どこの世界でも、人を物のように。いやむしろ、あたしがいた世界のイリヤが恵まれてたって事か。
「……さしあたってわかってる敵の戦力は三人。アンジェリカが使うカードは[アーチャー]…ギルガメッシュ」
「僕のカードだね」
「……ったく。イリヤ達と再会したら、しれっと仲間になってたのが信じられないんだけど」
「仲間じゃなくて、一時の協力関係。ま、目的が一致してる間は味方側だよ」
「おまいはどこの中間管理魔族だ」
クロエとギルとの会話に、思わず突っ込むあたし。いやだって、マジで何処ぞの謎の神官みたいな事言ってるから、つい。
「まあ、いいわ。次に葛木って呼ばれてた男…」
「葛木宗一郎、よ」
あたしは、垣間見た第5次聖杯戦争で得た知識で補足を入れる。
「……なんで知ってるかは、今は聞かないでおくわ。ともかくも、そいつのカードが[アサシン]。リナはズーマって呼んでたけど、聞いたことない英霊ね」
「……もうひとつ。あの葛木という男、リナの事を『リナ=インバース』と呼んでいましたが、あれは一体…」
バゼットさんが痛いところを突いてくる。さすがにもう、内緒には出来ないわね。
「ホントは、封印指定執行者のあなたには話したくはなかったんだけど。……あたしは並行世界とは全く別の異世界から、記憶を持ったまま転生したのよ。元の世界は…まあ、異世界ファンタジーなトコね。
で、ズーマもその世界の住人で、[
「……並行世界の次は異世界ですか。まったく、わたしの想像の範囲を軽く超えてくる…。しかし、あなたの使う、我々が知りうるどの魔術体系にも属さない魔術も、その説明で納得出来てしまう」
悩ましげに言うバゼットさん。気持ちはわかる。
「ま、バゼットさんの悩みは置いといて。ズーマは魔族…悪魔みたいなモンだけど、それと融合してるからか、結構自我が強いみたいね。だから美遊が呼んだあたしの名前に、カードの自我が反応したんでしょうね」
……ホントに、一体どんな恨みを買ったんだろーか、過去のあたし。
「……ともかく。夢幻召喚した葛木はズーマの自我に引っ張られてるみたいだから、目下の所、あたししか狙ってこないと思う。だから葛木は、あたしが何とかする!」
気は重いけど。
「……わかった。そうなると残りは、ベアトリスが使う[バーサーカー]のカードだけど、これはおそらく…」
『雷神トール、ですね?』
「……透?」
「トール! ミョルニル=トールハンマー! 知らないのっ!?」
ボケた事を言うイリヤに、クロエが突っ込んだ。むゆぅ、イリヤは雷神トールを知らないか。まあ、ケルト神話よりは有名とはいえ、北欧神話はギリシャ神話やそれと融合したローマ神話に比べると、日本での認知度はちょっとばかし低いから、仕方がないとは言えるけど。
「北欧神話最強の神です。主神オーディンをも超える信仰を集める雷神。もし、その力を十全に使えるとしたら、その戦力は人の域を遥かに凌駕する…!」
「その事なんだけど」
バゼットさんの説明に、あたしは口を挟む。
「あたしも北欧神話にそこまで詳しくはないんだけど、ミョルニルってトールしか使ってなかったの? 例えば、ケルト神話に出てくるゲイ・ボルクの持ち主といえばクー・フーリンが有名だけど、元の持ち主はその師、スカサハよ。それと同じで、トール以外にも使い手がいた可能性ってあるんじゃない?」
あたしが言うとみんな…いや、ギル以外がポカンとしていた。まあ、イリヤはワケがわからなくてだと思うけど。
「……その可能性は考えてなかったわね」
「とはいえわたしも、そこまで詳しいわけではありません…」
クロエとバゼットさんはそう答え、自然にみんなの視線はギルに集まる。
「……僕を検索代わりにするのは、やめてくんないかな? 残念だけど
やれやれといった表情で息を吐くギル。嘘は、吐いてはなさそうだ。
「それで? リナさんはどうするつもり?」
「別に。今はどうしようもない、が正直なとこね。それはアンタも同じことじゃない?」
あたしがそう返すと、ギルは再びため息を吐く。
「まあね。現状、ほぼ対抗策はないよ」
彼の返答は、あたしが思ってたとおりだった。……嬉しくはないけど。
「
ばん!
と、バゼットさんがイリヤの目の前の机に手を叩きつける。その下には[セイバー]、[ランサー]、[ライダー]の三枚のカード。
「わたしが保持していたカードですが、当分の間預けます。カードを使いこなせるのはリナかイリヤスフィールですが、リナは自身が保有するカードに特化しているようだ。なら、このカードで現状打破できる可能性が高いのはイリヤスフィール、貴女です」
さすがは優秀な執行者、状況分析が的確だ。確かにあたしは、
だけど他のカードの場合、あたしでは先のギルとの戦いでイリヤが見せた、バーサーカーとアサシンを限定展開して囮にする方法は思いつかなかっただろう。あれはイリヤが、カレイドステッキとカードの特性をしっかりと理解しているからこそ、出来た事だからだ。
「それじゃあイリヤはひと通り、
クロエがカード運用の確認作業を提示するものの。
「……ごめん、クロ。もう少し待って。さっきの麻婆の餡かけ醤油ラーメンがまだ胃にきてて…」
おう。あたしが無理矢理食べさせたとはいえ、さすがにイリヤには連続激辛料理はキツかったか。
…………。
「あたし、ちょっと風に当たってくるわ」
会議が少し停滞したところで、あたしは席を立つ。
「え、リナ?」
「会議再開するときは呼んでね」
イリヤにそう伝えると、あたしは教室を出て行った。
屋上に出たあたしは、金網越しに街を眺める。言峰が言ったとおり人がいないのだろう、深山町の辺りには殆ど灯りが無い。代わりに、夜空には満天の星が輝いている。
「並行世界…か」
あたしは呟く。学校で目覚めてから感じる不調。決して魔力の使いすぎや空腹から来るものではない、別の理由。あたしはその原因を知っている。それは遙か昔、前世において感じたものと同じだったから。
「お父さん…お母さん…」
そう呟いた途端、急に涙が溢れ出してきた。……いけない。あの時以上に心が弱っているみたいだ。多分家を出る前に、両親にあたしの秘密を打ち明けたせいで、余計にナイーブになってるのだろう。
今のあたしは、家に帰れるのかわからないことに、不安を感じているのだ。それはかつて魔族によって、結界の外の世界に跳ばされ、「帰れるのに帰らない」から「帰れるかわからない」状況になったときと同じ。
あの時はガウリイに、「ヘイキか」と聞かれたことで初めて気がついたが、今のあたしはその時の経験があるために、自分で気がつくことが出来た。とはいえ、それで気持ちをどうにか出来るわけではないし、あの頃よりも家に帰りたい気持ちが強い分、余計に堪えられなかったのだ。
「……リナ」
「イリヤ…」
屋上にやって来たイリヤに声をかけられ、涙を拭くこともせずに振り向いた。イリヤの隣にはクロエもいる。という事は、カード運用の確認に来たのだろう。
「リナ、泣いてたの?」
「……まあ、ね。あたしだって、不安になることくらいあるもの」
涙流しといて、しらばっくれてもしょうがない。
「そっか。わたしもさっきまでは不安だったけど、無理矢理ラーメン食べたせいで、それどころじゃなくなっちゃったから」
「おう。なんかスマン」
あたしは素直に謝った。……ん、クロエ?
「どうしたの、クロエ。なんか機嫌、悪そうだけど」
「ええ、悪いわ。あなたが弱音を吐いてるところを見てると、ね」
え? ……ああ、そういう事か。
「クロエの言いたいことはわかったわ。でも、その議論は後回し。今はカード運用のチェックが先。そうでしょ?」
あたしに指摘されたクロエは、小さくため息を吐く。
「そのとおりね。イリヤ、始めるわよ。準備はいい?」
「あ、うん!」
クロエに言われたイリヤは転身して、クラスカードを取り出し身構えるのだった。
今回のサブタイトル
伊東岳彦「宇宙英雄物語」CDアルバム内イメージソングから
※因みに歌は林原めぐみさん。
今回リナがモノローグで語っている前世の話は、【スレイヤーズ】17巻での話です。
次回「MASK」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!