Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ   作:猿野ただすみ

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MASK

≪リナside≫

「イリヤ、始めるわよ。準備はいい?」

「あ、うん!」

 

クロエに言われ転身したイリヤは、クラスカードを1枚取り出して構える。一方のクロエも、アーチャーのコスチュームに切り換わり、陰陽の双剣、干将と莫耶を投影した。……って、かなり本気の実践形式!?

 

「クラスカード[ランサー]、夢幻召喚(インストール)!」

 

イリヤはランサーを夢幻召喚して、血のように真っ赤な槍、刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)を構える。衣装は…まあ、あの世界で見たクー・フーリンのものに似ているが、お腹周りの露出度が高めだ。イリヤ、よく恥ずかしくないなー。

 

「……イリヤ。あらかじめ断っておくけど今のわたし、手加減できないから」

「……え?」

「リナへの怒り、あんたで発散させてもらうから」

「ええーーッ! とんだとばっちりッ!?」

「……あー。なんかゴメン」

 

なんかここんとこ、内心も含めて謝ってばかりのよーな気がする。

 

「それじゃ…、いくわよ、イリヤ!!」

「わっ、ちょ…」

 

がぎゃん!

 

イリヤの返事も待たずに距離を詰め、振り下ろされた剣はイリヤが振るう槍に弾かれる。しかし当然それでは終わらず、双剣の利点を活かした素早い斬り返しによる連撃が始まった。

もちろんイリヤも、夢幻召喚したランサーの技能を活かし、一撃一撃を上手く捌いていく。

そんな攻防がしばらく続き、やがて二人は大きく距離を取った。

 

「……野生を秘めた精緻な槍さばき。どんな角度から攻めても、間合いに入れないなんて。さすが太陽神の息子であり半神半人のケルト神話の大英雄、クー・フーリンね」

 

どうやらクロエは、クー・フーリンについて詳しく知っていたようだ。これが最近仕入れた知識なのか、はたまたアイリさんに封印される前に詰め込まれた知識なのか、その詳細まではわからんけど。

 

「でも、全力からは、まだほど遠い。宝具はどうしたの?」

 

何だと?

 

「なっ、ちょっとクロ! わかってるでしょ!? このゲイ・ボルクがどんな槍か!」

「ええ、わかってるわ。ミユがバゼットの宝具(フラガ・ラック)から逃れられたのも、その槍の能力によるもの。それは即ち、槍が心臓を貫くという結果を創り上げた後に攻撃を放つ技。故に因果逆転、故に必中」

 

そう。もっとも美遊の時は投擲使用故に、[心臓]が[対象物]に変わってはいたけど。

 

「どう? 試してみたら」

 

……クロエってば、悪い癖が出てるわね。

クロエは生を望みつつも、自身の命を軽く見てるときがある。これがクロエ自身のものなのか、アーチャー(エミヤ・シロウ)の影響なのかは知らないが、後でO・HA・NA・SHIするべき案件だろう。

なんて事を考えていたら、突然クロエがビクリとする。

 

「……クロ?」

「急に悪寒が奔ったんだけど。……まあいいわ」

 

なかなか勘がよろしいようで。

 

「それでイリヤ、どうする?」

「……確かに、インストールした上での宝具の効果は、確認した方がいいと思う」

「それじゃあ…」

「だが、ことわる」

 

露伴先生!?

 

「クロは大事な家族、守るべき人だよ。そんな人に、そんな危険なこと、出来るワケないじゃない!」

「ちょっと、イリヤ!?」

 

を? クロエってば、イリヤのストレートな物言いに頬を赤らめてる。まあ、クロエもどうこう言いつつ、イリヤの事は家族として好きだから、こういうのには結構弱いみたいね。

とはいえ、戦いに関してはストイックな彼女、気持ちの切り替えは早かった。

 

「……フン! これでもそんな事、言ってられるのかしら?」

 

クロエは投影した弓で、矢を引き絞りながら言う。それを見てあたしは止めに…は入らなかった。

あたしは以前、二人のどちらかが窮地に追い込まれるまで手助けはしないと言った。実際、その当時にこの状態にまでなったら、間に割って入っていたかも知れない。だけど今のイリヤなら、危険ではあっても窮地とは呼べないだろう。

それに。イリヤはクロエに、あの様な啖呵を切った。それならその答えは、イリヤ自身が示さなくてはならない。厳しいようだけど、あたしが手助けするわけにはいかないのだ。

クロエは矢を放ち、イリヤは避けながらカードを一枚引き抜いた。クロエが二射目の構えに入る中。

 

上書き夢幻召喚(オーバーライト・インストール)!」

 

イリヤは二枚目を夢幻召喚した。その姿はライダーのもの。以前美遊が夢幻召喚した時と大体同じだが、目を隠すバイザーが右目のみとなっていて、眼帯(アイパッチ)の様である。

ライダーの能力を活かした高速移動と共に鎖を放ち、クロエの胴に巻き付け、先端に付いた杭を床に打ち込み固定し、鎖の一端はイリヤが手にして引っ張りつづけていた。

 

「どう? これで動けないでしょ、クロ!」

「……やるようになったわね、イリヤ。でも、まだよ!!」

 

胴と一緒に鎖に絡め取られた腕、その掌に魔力の淡い光が宿ると共に、鎖はぎしりと軋み。次の瞬間には断ち切られ、クロエの体は自由になる。その手に握られていたのは…約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

「さあイリヤ、本気でいくわよ。死にたくなければ、あなたも本気で来なさい!」

「クロッ!!」

 

剣を脇に構えて突進するクロエ。対するイリヤも駆け出して。

 

キ…………ンッ!

 

高い金属音と共に、クロエの持つ剣の先が斬り落とされていた。イリヤは衣装が変わっており、手にしていたのは、クロエと同じく約束された勝利の剣(エクスカリバー)だった。

……それにしてもイリヤの衣装、黒化のアーサー王とも、美遊の夢幻召喚した姿とも、異空間で見たアーサー王ともまったく違って、もっと少女然とした淡いピンクがかったコスチュームである。あんな衣装を着たアーサー王が存在したのだろーか? 謎だ。

まあ、ともかくも。

 

「勝負あったわね」

「そうね」

 

あたしが告げるとクロエは肯定し、荒い息づかいで膝から崩れ落ち、昇降口の壁にもたれ掛かる。

 

「クロ!?」

「……あーあ。綺麗に折ってくれちゃって。やっぱり今のわたしじゃ、偽物(できそこない)偽物(ハリボテ)しか造れないか」

「それって、黒化セイバーの時ほどの物は投影できないってこと?」

「そういう事ね」

 

あたしの質問を、やはり肯定するクロエ。あの時の3分の2しか魔力が無いからか、もしくはちゃんとした肉体を持っていないからか、はたまたその両方か。

……あ。

 

「……ねえ、クロエ。セイバー戦の時にあなたに言った言葉、イリヤに教えてもいい?」

「「はっ? なんでこのタイミング?」」

 

クロエとイリヤの声が見事にハモる。

 

「いやー、黒化セイバーやらエクスカリバーの投影の話をしてたら、ふとイリヤとの約束を思い出したもんで。で、どうなの?」

「ベ、別にいいけど…」

 

なんかモジモジしながら応えるクロエ。ちょっとかわいーぞ?

 

「イリヤ。あの戦いの時にあたしが言った言葉。それは…。『あなたがあたしの知ってるイリヤじゃないのは気づいてるけど、あなたもイリヤだってこともわかってる。だから一緒に戦わせて』よ。……さすがに、一言一句まで(おんな)じじゃないと思うけど」

「そう。リナはあの時から既に、私の存在に気づいてたのよ。それでいながら、分け隔て無く接してくれた。だから、一応ノーマルなわたしでもハートを射貫かれたってワケ」

「え゛。あれがフラグだったの!?」

 

うーみゅううう。まさかそんな理由だったとは。というか、ノーマルの頭にいつの間にか「一応」が入ってるんですけど。

 

「そっか。わたしじゃなくて、クロにかけた言葉だったから教えてくれなかったんだね。それにきっと、クロにとっては大事な言葉だったんだと思うし」

「ほう。イリヤはどーしてそう思ったの?」

 

優しい顔でクロエを見ながら言ったイリヤに、あたしは尋ねた。

 

「だって、黒化セイバーと戦った時の記憶は思い出したのに、リナのあのセリフだけ思い出せなかったんだよ? だからきっと、あの時のクロはわたしには教えたくなかったんだよ」

 

ふーん。イリヤもなかなかいい推理してるわね。それじゃあもうひとつ。

 

「ふむ。だけどあの時点では、クロエが自身の存在を隠していたかっただけかも知れないわよ?」

 

あたしはイリヤの推測の隙を突く。

 

「え? だってクロだったらむしろ、自分の存在をアピールして、わたしを不安にさせて上手く乗っ取るくらいのこと、やりそうな気がするんだけど?」

「あー、確かに」

『クロさんならやりかねませんねー』

「ちょっとあんた達! わたしの事、なんだと思ってるのよっ!!」

 

あたし達の言い様に、クロエがツッコミを入れる。が、しかし。

 

「あの当時のあんた、イリヤやアイリさん、切嗣さんに復讐する気満々だったじゃない」

「うぐっ!?」

 

あたしのツッコミ返しに、クロエも二の句が継げなかった様だ。彼女は小さくため息を吐く。

 

「ホント、容赦ない…わ……ね………」

「な、ちょっと!?」

 

壁に寄りかかっていたクロエが、どさりと崩れ落ちた。あたしは慌てて駆け寄り、クロエを抱き起こし、てっ!?

突然首許に回された腕と、唇の柔らかい感触! こ、こいつ、またもやあたしの唇をッ!! のわっ! 舌まで入れてっっ!? っこんのアマああああああッ!!!

 

ぐりゅ

 

「ぎゃっ!?」

 

クロエはみっともない悲鳴を上げた。あたしは両拳でクロエのこめかみを挟み込み、思い切りグリグリと圧をかけているのだ。いわゆる、[うめぼし]とか[グリ■の刑]と呼ばれているものである。

あたしは更に、こめかみにグリグリと圧をかけていく。

 

「あああああっ、ゴメン、許してっ! と言うかっ! 魔力切れは本当っ! だからっ!」

 

クロエの謝罪に、ようやくあたしは解放してあげる。

 

「……言っとくけど、これはさっき、自身の命を軽んじた発言をした事に対してのお仕置きも兼ねてるからね?」

「はい…」

 

うむっ、素直でよろしい。

 

「それじゃあイリヤ、後はお願いね」

「うえっ!? ……うう。わたしの尊厳って…」

『「「そんなものは無い」」ですねー』

「ヒドい…」

 

まあ、否定はしないが、今この場でクロエに魔力供給出来るのはイリヤだけなのも事実だ。

いや、お前もいるだろ、というツッコミを受けそうだが、待って欲しい。確かにクロエはあたしから魔力を受け取ることも可能である。しかし、たった今受けたキス(セクハラ)で、彼女は一切、魔力供給しようとはしなかったのである。あたしに恋愛感情を抱いているから、という意見は却下だ。クロエはそんな事で絶好のチャンスを逃したりはしないだろうから。

考えられるのは、あたしとでは魔力供給の効率が極めて悪いから。あたしが()()と繋がっている関係で、接触による魔術行使の一部が阻害されるのだろう。おそらくではあるが、クロエとの魔力供給もそれに引っかかったというわけだ。あたしがカレイドステッキから供給を受ける分には、問題無いんだけどね?

 

「イリヤ、早くぅん♡」

「うう、仕方がない…」

 

ワザと色っぽく誘うクロエに、とうとうイリヤは観念したようだ。せめてもの情け、その間はそっぽを向いててあげるとしよう。

 

 

 

 

 

「リナ、もういいわよ」

 

クロエの合図に振り返ると、ツヤツヤした表情の彼女と、いつぞやの美遊の様に力無く横たわったイリヤの姿。その構図は、完全に事後である。

因みに魔力供給のせいか、イリヤは夢幻召喚どころか変身も解けていた。あ、いや、変身はルビーを30秒以上手放してたからか。

 

「さて。傷心のイリヤはおいといて」

「……傷心とは違う。いや、傷心もしてるけど…」

 

力無く言うイリヤ。こんな状況でも突っ込むとは、なかなか見上げた根性だ。

 

「さっきクロエが、あたしに対して怒っていた、その事について語らないとね」

「!?」

 

身を起こしたイリヤがこちらを振り返る。その表情は、至って真剣だ。

 

「クロエが怒ってた理由はわかってるわ。それは、あたしが弱音を吐いて、あまつさえ涙を流してたこと」

「え、そんな事で?」

 

イリヤが疑問を口にするが、途端にクロエに睨まれた。

 

「……そんな事を、しなかった子がいるでしょう?」

 

それでもクロエは、気持ちを圧し殺しながら言った。

 

「え? ……あ、ミユ」

 

そう。美遊はあたし達の世界で、ひと言だって弱音を吐かなかった。悲しみを湛えた顔は時折見せていたけど、こっちの世界に関わる事で涙を見せたと思われるのだって、恐らく、肥大化したギルガメッシュの中から助け出されたときくらいだろう。

 

「……ミユはわたし達に弱音を吐かなかったのに、リナはわたしとクロに弱音を吐いた。だからクロは怒った?」

「そういう事、でいいんでしょ?」

「ええ、そのとおりよ」

 

やっぱりか。かと言って前世の話や両親との話をしたところで、ただの言い訳に過ぎないのはわかってる。それよりも、あたしとクロエとの、美遊に対する認識の違いを語った方がいいか。

 

「クロエ。あなたが怒るのももっともだわ。確かにあたしは、美遊と違ってみっともない姿を曝したんだから。ただひとつだけ、心の片隅にでも止めておいて欲しい事があるの。

あなたは美遊が、並行世界に跳ばされても淋しさや悲しみを表に出さなかった。そう思ってるんでしょう?」

「そうよ。実際そうだったじゃない」

 

確かに。あたし達から見たのなら、その解釈も間違いではない。だけどあたしは、美遊の強さは弱さの裏返しだと思っている。つまり。

 

「あたしはね、美遊は淋しさや悲しみを表に出さなかったのではなく、淋しさや悲しみを表に()()()()()()んじゃないかと思ってるの」

「……出せなかった?」

 

イリヤが「よくわかりません」といった表情で聞き返す。

 

「そう。美遊がこの世界で、どんな目にあったかはわからない。ただ、完成された聖杯である美遊をエインズワースが捕まえ、美遊のにーちゃんがあたし達の世界に逃がしたことはわかってる。そしてきっと、途轍もなく辛いことや悲しいことがあったことは、想像に難くないわ」

 

そこまで言って二人を見る。今のところ反論はないようだ。それを確認して、あたしは続きを話し始める。

 

「だからあたし達の世界に跳ばされた美遊は、平静を装う仮面を付けた。……うん。ここまでなら、クロエの意見の通りね。でも、あたしの考えでは、美遊はその仮面を外せなくなったんじゃないかと思ってるの。だって仮面を外すってことは、美遊の弱さをさらけ出すってことだもの。友達でも…ううん、友達だからこそ、そんな弱さを見せたくなかった。幻滅されるのではないかと怖がった。あたしはそうじゃないかと思ってるわ」

 

あたしはそう、締め括った。二人はしばらくの間沈黙を守り、やがてクロエが口を開く。

 

「……でもそれって、あくまでも想像でしかないじゃない。それでリナの言動が正当化されるわけじゃ…」

「もちろん、正当化なんて出来ないし、するつもりもないわ。最初に言ったでしょ? クロエが怒るのももっともだ、って。

ただ、あたしが言いたいのは、あなたが見ていた美遊も幻想でしかないかも知れないって事。だからクロエの意見は否定しないけど、その考えを押し付けるのもどうなのかしらね?」

「……」

 

あたしの意見を聞き、クロエは押し黙ってしまった。

 

「あ、でも、クロエ自身がそう思って行動するのは、構わないと思うわよ。それはクロエから見た美遊に倣ってるだけだから」

「……そう、ね。わたしはこれからも、弱音を吐かずに突き進むわ。いつかミユが、わたし達に弱音を吐いてくれる、その時まで!」

 

うむっ、それでヨシ!

 

「……それなら」

「ん? イリヤ?」

「それならわたしも、クロと同じにする。わたしが知ってるミユはきっと、クロが知ってるミユと同じだと思う。だったらわたしも弱音なんて吐けないよ」

 

イリヤ…。

 

「そうよねー。イリヤなんて、弱音を吐いたらそのままウジウジイリヤに突入だもんねー」

『あー、確かに。いじけたイリヤさんは豆腐メンタルですもんねー』

「ちょっと!? わたしの決心に茶々入れないでよっ!?」

 

まったく、この子達は。

でも、これでいい。イリクロの様に、弱音を吐かずに突き進もうが、あたしのように弱音を吐こうが構わない。ただ、下を向かずに、真っ直ぐ前を向くことを忘れなければ、それだけで。

 

「さあ、あんた達。ぐだぐだじゃれ合ってないで、教室に戻るわよ。バゼットさんとギル、ほったらかしなんだから」

「「はーい」」

『まるでオカンですねー』

「せめて保護者って言って」

 

ルビーに突っ込みつつ、あたし達は教室へと戻っていくのだった。




今回のサブタイトル
TVアニメ「爆れつハンター」EDから

ようやく、無印時代の伏線回収しました。【NEXT/2wie】時代に入れ忘れて、【なかがき】で話題に入れましたが、ようやくです。
因みになかがき書いてるときに、何となくこのタイミングにしようとは思ってましたが。と言うか、ここ逃したら、もう入れるとこないし。

次回「「温泉オペラ」冬木交響曲第八番「温泉」より」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!
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